ファーウェイのイーアクスルが日本初展示
パシフィコ横浜(横浜市)で開催された『人とくるまのテクノロジー展2022』には、いくつか日本初の展示がありました。そのひとつが、HUAWEI(ファーウェイ)のドライブトレインなどEV関連の製品です。
ファーウェイがEVのドライブトレインの分野に進出することが明確になったのは、昨年(2021年)4月開催の上海モーターショーでした。ここで発表された上海汽車集団のブランドのひとつで電気自動車(EV)を手がけるARCFOXのSUV『αS HI』(阿尔法S 全新HI版)や、重慶金康賽力斯汽車(セレス)『SF5』の駆動系をファーウェイが手がけていたのです。
その後もファーウェイは2021年12月に『AITO M5』を発表するなど積極的にEV関連事業への進出をアピールしてきました。ただ、現時点で価格を確認できるのは『αS HI』と『M5』で、『SF5』は販売中なのかどうか不明です。
『人とくるまのテクノロジー展』で聞いたファーウェイの担当者の話では、半導体不足やロックダウンの影響などで計画に遅れが出ていて、今後の見通しを立てるのが困難になっているようです。販売中の車も市場ですぐに入手できる状態ではないそうです。
今回の『人とくるまのテクノロジー展』で展示されていたのは、『αS HI』などに搭載されている、モーターとインバーター、トランスアクスルを統合したイーアクスル『3 in 1 ePowertrain』と、さらにDCDCコンバーター、OBC(車載充電器)、分配器まで統合した『X in 1 ePowertrain』です。後者は「X」となっているように、今後も統合できるものはどんどん一体化していくようです。いずれも日本での実物の展示は初めてです。
ファーウェイのイーアクスルは、出力は120~270kW、電圧は200~750Vで、0-100km/h加速は3.5秒となっています。OTAにも対応しています。
なお『X in 1 ePowertrain』もすでに搭載している車があるそうですが、どこのメーカーかは公表していないそうです。
中国国内にテストコースも作った
ファーウェイは、この10年ほど自動運転のリサーチを続けてきたほか、動力関係の研究開発も進めていたそうです。それらを2019年に統合し、自動車の事業部を立ち上げて窓口を一本化しました。事業規模については、2021年9月に開発者が5000人、研究開発費は10億ドルを超えたことが報じられました。
ファーウェイは中国国内に車両のテストコースも作ったそうです。担当者によれば、北のハルピンで寒冷地のテスト、西の新疆で砂漠地帯のテストなど、気候の違いを利用して多様なテストができるコースを設置しているそうです。確かに中国なら温度も湿度もバリーションが豊富です。
ただし、ファーウェイとしては車そのものを作るつもりはなく、あくまでも部品の供給にとどめる計画です。ほんとのところは、中国以外の自動車メーカーにも出していきたいそうですが、なかなかハードルは高いと感じているようです。
イーアクスルは大手部品メーカーが力を入れていて、市場は広がっています。日本で注目されているのは日本電産のイーアクスルですが、トヨタ『bZ4X』も、駆動系はアイシン45%、デンソー45%、トヨタ10%出資の合弁会社「ブルーイーネクサス」のイーアクスルを搭載しています。
こうした中で自動車関連事業では後発のファーウェイがどこまで販路を広げるのか、今後の動きに注目です。
ボッシュがバッテリー監視技術を日本初公開
人混みを縫うようにして会場を歩いていると、少し広めのコマをとっているボッシュのブースの片隅に目がとまりました。モニターに『Bettery in the cloud』(バッテリー・イン・ザ・クラウド)と出ていたのです。
不勉強ながら、筆者は『バッテリー・イン・ザ・クラウド』のことを認知していませんでした。でも名前が気になって展示物のQRコードを読み込んだりしていたら、担当の方が丁寧に説明をしてくれました。
『バッテリー・イン・ザ・クラウド』は、バッテリーの状態を常時監視、評価することで、バッテリーを長寿命化したり、電池リユースの促進、電池のサブスクサービスなどを進める狙いがあるそうです。
バッテリー状態の監視、評価はこれからEV市場が拡大する中で、中古市場を左右する重要なポイントなのは間違いありません。でも現状では各社の対応はバラバラで、車のSOC表示を信じるか、ある程度の距離を実際に走ってみるしか確認の方法がありません。
これに対して『バッテリー・イン・ザ・クラウド』では、バッテリーのクローンをクラウド上に置き、実車の使用状態をクローンバッテリーに反映して見える化します。
監視する情報は温度や充放電状況、運転方法などです。これらのデータを収集しビッグデータとして活用するほか、クローンバッテリーを使った物理計算やシミュレーションを併用し、最適な充放電管理や運転方法を実車側に提案したりします。
現在はドイツ電気技術者協会(VDE)と共同でテストプロジェクトを進めていて、技術の検証や標準化を図っている最中だそうです。
素晴らしい取り組みじゃないですか!
後で調べてみると、サービス名称や内容が発表されたのは2020年2月。もう2年も前です。さらに2022年4月1日には、テストプロジェクトが中国でも始まるという発表がありました。中国ではボッシュ、三菱商事、北京汽車の合弁会社「Blue Park Smart Energy Technology」(BPSE)がプロジェクトを動かします。
バッテリーの状態を見える化しないことには、安心して中古のEVを買えません。EVの価値はバッテリーが握っていると言っていいのに、そのバッテリーの善し悪しが不明では売り物になりません。1日も早く『バッテリー・イン・ザ・クラウド』サービスが本格的に始まるといいです。その時には日本も、ガラパゴスにならないように参加できるといいなあと思います。
48V小型モーターや『ID.3』の冷却機構も
さらにプラプラと会場内を歩いていると、見たことのある愛嬌のある車が目につきました。シトロエン『アミ』です。フランス国内なら14歳、欧州の多くの国では16歳から乗ることができる超小型車カテゴリーのEVです。
でもよく見ると、『48Vライトeシティーカー』という表示があります。最高速度も100km/hとなっています。免許なしで乗ることができる性能ではありません。
なんのことだろうと思ったら、展示車両は、『アミ』の動力系をヴァレオが入れ替えた実験車両でした。初めての発表は2022年1月開催のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)だったそうです。
ヴァレオは、実物の『アミ』にもモーターを提供しています。シトロエン『アミ』のモーターは、48Vシステムの車のスタータージェネレーターをそのまま転用しています。
ヴァレオではこのモーターのポテンシャルがどのくらいあるかをテストするために、『アミ』を使ってメーカーなどに対するデモンストレーションをしているそうです。展示されていた『48V eAccess』というデモ機は、最高出力13.5kW、定格出力9kWになっていました。実際のシトロエン『アミ』では最高出力6kW、最高速度45km/hに制限しています。スタータージェネレーターってけっこうなパワーがあるんですね。制御によってはいろいろ使えそうです。
『ID.3』のバッテリー冷却システム
ヴァレオのブースには他に、フォルクスワーゲン『ID.3』の冷却システムが展示されていました。バッテリー底面の金属板にクーラントの流路を作り、もう1枚の金属板をろう付けでフタにしています。金属板は1枚板なので、ろう付けの時に歪まないように温度管理するのがポイントだそうです。
またクーラントの流路は、入口からの距離で流れ方が違ってくるので、できるだけ同じような流量にするために所々で流路の幅を絞ったりして調整しています。これは管理が大変そうです。また、現在の冷却はバッテリー底面だけですが、欲を言えば上部も冷やしたいものです。
そのことを担当の方に聞くと、同意しつつも、バッテリー上部は接点があること、また万が一クーラントが漏れた場合に短絡の恐れがあることから、上部の冷却は難しいという回答でした。
トヨタブースの『bZ4X』のカットモデルでも冷却系が確認できたので、同じことを聞いてみました。戻ってきた回答は同じでした。バッテリーを上下ではさむ冷却は、クーラント漏えいのリスクを考えると難しいようです。なおテスラはバッテリーの底面ではなく側面を冷やしています。設計上の考え方の違いが見えますね。
ヴァレオでは『ID.3』だけでなく、かなりの数のEVに同じような冷却システムを提供しています。今のところ、バッテリー冷却技術ではトップ企業のひとつだそうです。
以上、『人とくるまのテクノロジー展』を駆け足で見てきました。個人的にはバッテリーの冷却がとても気になるので、ヴァレオブースで『ID.3』の冷却系の実物を間近に見ることができたのはよかったです。思っていた以上にEVに関する主要な技術の展示があったのも収穫でした。
今年はコロナ明けでリアルなモーターショーがいくつか再開します。9月にはデトロイトオートショー、10月には従来のパリショーに代わるパリ・オートモーティブウィーク2022も開催されます。EVに前向きな両国のモーターショーは、今まで以上にEV関連の展示が増えそうです。できれば現地で、見てみたいですね。
(取材・文/木野 龍逸)