日産サクラ公道試乗レポート〜航続距離の実感は必要十分【諸星 陽一】

期待の軽EV、三菱eKクロスEVと日産サクラの公道試乗記をお届けするシリーズ企画。今回は、モータージャーナリスト・諸星陽一氏によるサクラのレポート。約52kmの試乗で実感した航続距離への評価とは?

日産サクラ公道試乗レポート〜航続距離の実感は必要十分【諸星 陽一】

サクラの実用航続距離は初代リーフをしのぐ?

2011年8月。私は初代のリーフに乗って鈴鹿サーキットに向かっていた。EVのこともよくわかっていない時代、とにかく充電器のあるサービスエリアで充電すればどうにかなるだろう……というような気持ちで出発したのだった。詳細については記憶が薄れているが、おそらくエンジン車での移動時間の2倍程度の時間が掛かったと記憶している。

とにかく電欠が怖くて早め早めの充電を心がけた結果だった。今、考えてみれば、充電量が減ってから充電したほうが多くの電気を入れられるので、SAをひとつ飛ばしで移動して充電したほうが効率がよかったのだろうけど、1つ飛ばしたときにそのSAの充電器が壊れていたらどうしよう? ほかのEVが充電してたらどうしよう? ということばかり考えていたから、なんとも無駄な充電方法を採っていたことになる。とはいえ、無事に鈴鹿サーキットには到着し、取材をして、何事もなくふたたび東京まで帰ってきたのだから、初代リーフは十分な実用性を示してくれたわけだ。

試乗会場に展示されていたバッテリーパック。クーラントによる液冷システムを備えている。

さて、そんなリーフはどんなスペックだったのだろう? と調べ直してみると、搭載されたバッテリーは24kWhで航続距離は200kmとなっている。今回試乗したサクラの航続距離が180kmだから、初代リーフと大差ないのだな……と思い、さらにデータをしっかりと見てみると、初代リーフの200kmはJC08モード、サクラの180kmはWLTCモードだ。この2つの走行モードを正確に換算して横並びにすることはできないが、現行リーフの航続距離が手がかりとなった。

現行リーフの60kWhバッテリー搭載車の航続距離はWLTCモードで450km、JC08モードでは550kmで、JC08モードはWLTCモードよりも20%強走行距離が伸びる。サクラのWLTCモード180kmを20%増やすと216kmとなりリーフをしのぐ。なんだ、初代リーフよりも走るってことは、こりゃあかなり実用性が高いぞ、とあらためてサクラの性能に感心したのである。

そもそも航続距離を伸ばそうとしてバッテリーを大きくすると、車両重量が重くなり航続距離増大に悪影響を及ぼす。年に1、2回、冠婚葬祭で親戚が乗ることがあるからミニバンが必要ということで、毎日の通勤にミニバンで無駄な重量を運んでいるのパターンを見ると、とてももったいなく感じる。これと一緒で必要以上のバッテリーを積んでいるEVは無駄な電池を運んでいることになる。普段使い中心で考えるならサクラの20kWhはじつにいいところを突いているのだ。

現行リーフe+のバッテリー容量はサクラの3倍となる60kWhだが、WLTCモードでの航続距離は450kmでサクラの180kmの3倍ではない。答は簡単で、リーフe+のほうが大きくそして重いからにほかならない。重く、大きなことは無駄になり得る要素なのだ。もちろん、その大きさが必要、航続距離が必要というユーザーは存在するので、大きいこと、重いこと(これはやむをえずだが)が一概に悪いとはいえない。

今回試乗では27%(5.4kWh)で52kmを走行

さて、リアルなサクラはどうなのだろう? WLTCモードがどこまで信用できるか(実用値に近い結果を示してくれるのか)? は疑問の残るところだ。

今回の試乗では99%の充電量でクルマを渡された。駐車場内で撮影を行っている間に96%までダウンしての公道試乗スタートとなったが、一般道と高速道路を合わせて52kmを走った後のバッテリー残量は69%。つまり20kWhの27%である5.4kWhで52kmを走れたので、約9.6km /kWhという優れた電費を示してくれた。単純計算すると満充電から完全放電までで192km程度走れることになり、WLTC180kmはだてじゃないという印象だった。なにしろ大人の男が2人乗り(御堀氏と2人で試乗会に参加)、エアコンはかけっぱなしでこの数値が出ているのだ。

ドライブフィールはじつに良好。モーターの最高出力は47kWでこれは軽自動車の出力についての自主規制の上限値だ。おもしろいことに最高出力については自主規制があるが、トルク値に自主規制はなくサクラのモーターはデイズのエンジンの約2倍となる195Nmとなっている。これだけのトルクを持ったモーターなら当然のように力強い発進は可能だし、60km/h程度からの追い越し加速も十分。一般道でも高速道路でも大きな不足を感じることはない。とくにスポーツモードを選んだときは、爽快な加速感を味わえる。

シフトやエアコン、e-Pedalなどの操作スイッチは中央のパネルに集中されている。

一点、やはり回生量の調整ができるパドルスイッチが欲しいと感じた。装備を単純化してコストを抑えるのが軽自動車の常であり、日産ではアリアにも回生の強度を変えるパドルスイッチは採用していない。たしかに、走行レンジをDからBに変更する、またはワンペダル機能である「e-Pedal Step」を作動させることで回生量を増やせるが、パドルで回生量の増減とコースティング走行をチョイスできるほうが、意のままに操る軽EVの走りの魅力がさらに引き立つのではないかと思う。

ワンペダルで完全にストップさせるか否かには賛否両論があるが、これは設定で選べるようにすればいいだろう。スイッチでの切り替えではなく、車両設定のメニューのひとつとして選べるようにすれば、自分の好きなほうで運転できる。スイッチのオンオフではワンペダルで止まると思ったが、実際は止まらなかったという事態が起きる可能性がある。家族が運転するときに設定を変えた……ということもあるだろうが、そうしたことを言ったら切りがない。

サクラは家庭での普通充電を基本とした使い方が適切だと考える。もちろん、勤務地で普通充電ができればさらに安心である。

そして、いざとなれば急速充電を行いながらの長距離ドライブを行う性能も備えている。2011年に私が鈴鹿サーキットに向かった時代とは異なり、急速充電器の設置も増えた。20kWhという小さなバッテリーであっても、EVsmartのような検索ツールを活用して充電の計画を立て、時間に余裕をもって走ればいい。

充電口のフタにもデザインが施されているあたりに、日産がサクラ開発に注いだ熱意が感じられる。上が普通充電、下が急速充電の差し込み口となる。

ただし、とくに高速道路SAPAへの急速充電器複数台設置が進んでいないのは問題だ。サクラ、そして兄弟車である三菱eKクロスEVも受注は好調。日産アリア、ヒョンデ IONIQ 5、トヨタ bZ4X、スバル ソルテラなど、選択肢が急速に拡大しているだけに、今年から来年に掛けて、日本の道を走るBEVの数は飛躍的に増えることになる。全国の高速道路会社、そして日本の充電インフラをネットワークする e-Mobility Powerには、高速道路SAPAへの急速充電器複数台設置を急いで欲しい。

(取材・文/諸星 陽一)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. カリフォルニア州エネルギー委員会がEV充電インフラに関する年次レポートをまとめているので、そのリンクを添付します。
    https://www.energy.ca.gov/programs-and-topics/programs/electric-vehicle-charging-infrastructure-assessment-ab-2127
    2030年にカリフォルニア州で500〜800万台のEVを走らすのに、120万基のEV充電器が必要になってくるそうです。
    これから日本でもEVが増えていくので、高速道路SAPAでの急速充電器の整備は急務ですね!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

執筆した記事