到着時バッテリー残量を設定する絶妙のルール
2022年の11月、首都圏や関西圏でアウディ正規ディーラーを展開するアウディジャパン販売株式会社が開催したロングツーリングイベント、『Audi e-tron Cannonball Tour』を同行取材してきました。EVsmartブログでの取材レポートだけでなく、アウディジャパン販売公式サイトのレポート執筆の依頼を受けての参加でもあり。1月5日にレポートページが公開されました。
アウディジャパン販売では、電気自動車(Audi e-tron)の日本導入に伴って、幅広いオーナーや購入検討をしている方々にEVの醍醐味を知っていただくために、趣向を凝らしたツーリングイベントを開催しています。今回のAudi e-tron Cannonball Tourは、Audi e-tronを体感できるツーリングイベントとして5回目にして、最長の距離を駆け抜けるラグジュアリーなツアーとなりました。
参加者は静岡市の日本平ホテルに集合。翌朝、富山市のリバーリトリート雅樂倶というホテルを目指して走ります。復路は富山から静岡へ。往復で800km近いコースを一気に走るチャレンジです。
ルートと、ルールはこんな感じです。
Audi e-tron Cannonball Tour/走行ルート
往路(約400km)Audi RS e-tron GT
日本平ホテル(静岡県)~清里(山梨県)~白馬村(長野県)~リバーリトリート雅樂倶(富山県)
復路(約350km)Audi e-tron Sportback
リバーリトリート雅樂倶~新穂高ロープウェイ(岐阜県)~道の駅 富士川(静岡県)~日本平ホテル
Cannonball Challenge/ルール
往路、復路それぞれ定められた到着制限時間までにゴールすること。
到着時の残充電量基準値を定め、充電量が基準値より多い場合は1%につき5分を減算。少ない場合は1%につき5分を加算する。
<残充電量基準値>
往路/リバーリトリート雅樂倶到着時=35%
復路/日本平ホテル到着時=15%
参加者のみなさん(そしてEVsmart取材チームも)が日替わりでドライブしたAudi RS e-tron GTの航続距離は534km、Audi e-tron Sportbackは423km(ともにWLTCモード)です。ツアーのルートは往路が約400km、復路が約350kmなので、満充電で出発すれば経路充電はなしでもそれぞれゴールすることは可能です。でも、それではEVの急速充電を体験することができません。
そこで、担当者が考え出したのが「到着時の残充電量基準値を定める」というルールです。残量基準値をクリアするためには、1〜2回の急速充電を行う必要があります。参加者にはルート上にある出力40kW以上の急速充電器を案内するマップが配布され、充電プランも参加者自ら考えるチャレンジです。
経路充電はEVにとってネガティブなことなのか?
イベントのオープニングとなる日本平ホテルのディナー会場では、イベント主催者のアウディジャパン販売株式会社の営業責任者である遠藤昭久ダイレクターが挨拶して、「アウディは2025年に最後のエンジン車を発表し、それ以降はEV専門メーカーとなる」ことや、アウディが「バッテリー材料の採掘から車両アッセンブリーに至るまでの工程を、2050年までに全面的にカーボンニュートラルとすることを目標にしている」など、EVシフトと脱炭素に向けて意欲的なAudiの取り組みを説明しました。
さらに、マーケティング部門の責任者である海老原育博さんが走行ルートやルール、電費(エンジン車における燃費)を良くするためのドライビングテクニックについて解説。今回のルートやCannonball Challengeのルールも、海老原さん自身がe-tronで実際に試走して策定したということでした。
往路の400kmはバッテリー容量93.4kWhのAudi RS e-tron GTで「35%」。350kmの復路は95kWhのAudi e-tron Sportbackで「15%」という基準の設定は絶妙です。
残量基準値を定めるルールとしたことには「参加者のみなさんに、ご自身での急速充電を体験していただきたかった」(海老原さん)という狙いがあります。EVの急速充電は給油に比べて長い時間が必要だし、残量が50%以下に減っていると、今回のような大容量バッテリー搭載EVの場合、出力50kWの急速充電器で30分充電しても80%以上にまで回復することはできません。
一方で、急速充電器が設置されているSAPAでコーヒーブレイクを兼ねて30分間充電したり、トイレ休憩ついでに15分程度の充電を行うのが、スムーズなドライブを行う上でそんなにネガティブなことでもないと気付くことができます。急速充電は「EVの欠点」ではなく「エンジン車との違い」に過ぎません。
なにはともあれ、EVの本当の魅力や使い勝手は、自分で長距離を走り、実際に急速充電器を使ってみなければわからない、ということです。ツアーのルートやルールの設定、そしてオープニングディナーでのお話しを聞き、海老原さんや遠藤さんといった、アウディのEVを実際に販売していくキーパーソンが、EVを深く理解されていることがわかりました。
アウディとポルシェ、さらにフォルクスワーゲンを含むフォルクスワーゲングループでは、日本国内でも独自の急速充電ネットワークであるPremium Charging Alliance(プレミアム チャージング アライアンス=PCA)の構築を進めていくことを発表しています。EVを作るメーカー、そして販売会社のみなさんがEVをしっかりと理解しているからこその動きなのだと実感しました。
高速道路SAPAの充電インフラは脆弱
今回の同行取材は、EVsmartチームは動画担当のテスカスさんと私の2名で参加。ほかに2チームの参加者のみなさんと一緒に同じルート&日程で走りました。「Cannonball Challenge」という競技の設定なので、優勝者には賞品も用意されていました。EVsmartチームはもちろん賞典外であるものの、急速充電器も参加者のみなさんに優先して使っていただきつつ、最後の急速充電量と残りの走行距離を計算して、初日は残量基準値の35%にほぼぴったりでゴールしてみせるという「EVメディアの意地」を発揮したのですが……。
初日に走行した「静岡〜清里〜白馬〜富山」のルート上で、出力40kW以上の急速充電器が設置されている場所はあまりにも限られています。具体的には、Aチームが諏訪湖SAで充電するから、Bチームはその先の梓川SAで充電。私たちのチームは、参加者チームが初充電する様子を取材しながら、Bチームが充電を終えるのを待って梓川SAで最初の充電を行うことになりました。
その先も、めぼしい充電スポットとしては大町市内の日産ディーラーと、北陸自動車道の有磯海SAや、ゴール間近の富山市内で日産ディーラーへ行くかという選択肢しかないのが現状です。
たった3台のEVが同時に同じルートを走っただけでいわばプチ充電渋滞状態に陥ってしまうのですから、とくに高速道路SAPAへの急速充電器複数台設置が火急の課題であることがわかります。
また、最大出力90kWの高出力器が設置されていたら、今回の大容量EVでも30分の充電で30kWh以上、200km以上走れる電力を回復できるのですが、残念ながら今回のルート上の適切な場所に90kW器は設置されていませんでした。
いろんな記事で何度も繰り返していることですが、高速道路SAPAに出力90kW以上の高出力急速充電器を複数台設置を進めていくのは、日本のEV普及にとって待ったなしの重要な課題です。
それはともかく、快適で豪華な旅でした
それにしても、アウディが誇る2台の高級EVを日替わりでドライブした感想は「気持ちいい!」を満喫できました。残量基準値のゲームは楽しかったし、運転支援機能も盤石で疲れは少なく。高速道路のクルージングはもちろんのこと、清里から小淵沢インターへ向かって高原のワインディングロードとして名高い八ヶ岳高原ラインを走る時間の気持ちよさは抜群でした。
宿泊した静岡市の日本平ホテルと富山市のリバーリトリート雅樂倶は、ともに素晴らしい宿で夕食は抜群に美味しかったし、EV用充電設備が設置されていました。日本各地に、EVに優しい素敵な宿がもっともっと増えるといいなと思います。
とにかく、アウディの高級EVは、ゴージャスな旅、そして豊かな人生にとって最高のパートナーであることを美味しく楽しく実感できる旅となったのでした。
旅の様子の詳細は、ぜひアウディジャパン販売公式サイトのレポートをご覧ください。
【レポートページ】
Audi e-tron Cannonball Tour Report
取材・文/寄本 好則
今後の高級EV普及の鍵を握っているのは、やはり充電インフラだと思います。テスカスさんや寄本さんの様にEVを熟知されている方は、長距離走行での経路充電を無難に使いこなす事が出来ます。しかし今までガソリン車しか使ってこられなかった方は、残量が50%以下に減っていると、出力50kWの急速充電器で30分充電しても80%以上にまで回復することは出来ないという事実に、(本音では・・・)驚愕されたのではないでしょうか?従ってこの様なツーリングイベントは、高級EV購入を検討されているユーザーの方にとっては大変有益と思います。私は高速道路SAPAに出力90kW以上の高出力急速充電器を複数台設置されない限り、欧米のような大容量のバッテリーを搭載したEV普及は国内では難しいと考えています。
eMPが大黒PAに設置した6間口充電器の設置工事が始まったようですので、そちらの取材をしていただけると大変嬉しく思います。(浜松SA上り、上里SA上りなど。)