BYD『ATTO3』試乗レポート/お買い得プライスのEVで日本市場に食い込めるか?

2月初旬に開催されたJAIAのメディア向け試乗会には、各社の最新電気自動車が集結しました。BYDの日本進出第一弾車種となる『ATTO3』は、はたして日本で売れるのか? モータージャーナリストの諸星陽一氏がレポートします。

BYD『ATTO3』試乗レポート/お買い得プライスのEVで日本市場に食い込めるか?

ボンネットを開けただけで驚いた2つのこと

中国の自動車メーカー、BYDがJAIA(日本自動車輸入組合)の試乗会に初参加、『ATTO3(アットスリー)』を試乗車として用意した。

JAIAは正規輸入を行う企業の組合だ。正規輸入というのは海外のメーカーから直接仕入れることで、現地のディーラーなどから購入し輸入したものは並行輸入と呼ばれる。正規輸入されたものと並行輸入されたもので、仕様が同じ製品も多数あるが、クルマの場合は自動車メーカーが仕向地に合わせた仕様にするので、正規輸入車と並行輸入車では仕様が異なることがほとんどとなる。並行輸入車でも日本の公道を走らせるためには、保安基準に適合させる必要があり、輸入業者は適合させてから販売しているが、メーカー保証などは正規輸入車でないと受けられないこともあり、一般的に正規輸入車のほうが安心だと言われている。EVの場合はCHAdeMOとの適合性などの問題もあり、正規輸入車でないと日本で走らせるのが難しい状況といえるだろう。

BYDは1995年に中国・深センでバッテリーメーカーとして創業した。2003年に中国国営の自動車メーカーを買収し、自動車事業を開始。2015年には中国メーカーとして初めて、日本に電気自動車(バス)を納入する。2023年からは乗用EVも積極投入していく予定で、ATTO3はその最初のモデルである。

ボディサイズは全長×全幅×全高が4455×1875×1615(mm)、ホイールベースが2720mmとなっている。トヨタRAV4より少し短く、少し低く、幅はほぼ同一。ボディのカタチとしてはSUVだが、車高が低いのでクロスオーバーSUVといったほうがしっくりくるだろう。

搭載されるモーターは交流同期タイプで150kW(204馬力)/310Nm(31.6kgm)。バッテリーはリチウムイオンで、58.56kWhの容量を持つ。

まず、ボンネットを開けると2つのことにビックリする。ひとつは中身がスカスカなこと。ATTO3はEV専用のプラットフォームを使っているとのことなので、ここにエンジンとミッションが搭載される必要はない。にも関わらず、エンジンもミッションも積めるであろうスペースがあり、そこにモーターやインバーターなどがちょこんと置かれている。かなり低い位置に配置されていて、重心もかなり下げられている印象だ。システムが小さいのはクルマ作りにとってはいいことであり、こんなに小さくできるのは、BYDの技術力が高いことの証明でもある。

そしてもうひとつのビックリは、ボンネットそものの重さである。ボンネットは単なるフタで剛性は必要ないのだから、こんなに重い必要はないはず。せっかくモーターを小さく、重心を下げているのにこれはかなり残念な印象であった。

走りの印象は「いたって普通」

試乗を前にコクピットドリルを受ける。助手席に乗った担当者がセンターモニターの下側の真ん中を触り「ここをタッチすると」と言った瞬間。モニターが90度クルッとまわって縦型に変化。リトラクタブルヘッドライトやガルウイング好きの私は、ちょっとにやけてしまった。モニターが縦位置だと、地図をヘッドアップで使うときにより先まで経路が確認できるので便利だが、そのためには現在位置を下のほうに表示しないと非効率的。試乗時に触った限りではその設定はできなかった。

走りそのものはいたって普通。EVスゴいだろ的な爆発的加速はない。最初走り出したときはインバーター作動音のような、“ウィーン”といった音が気になったが、しばらくすると消える。信号で停止し走り出すとまた音が聞こえる。気にかけているとこれはどうやら車両接近警報装置が発している警告音で、30km/hを境に消えた。国産車でも多くの車種がこうした警告音を採用しているが、ここまで盛大に車内に音が入ってくるモデルは少ないと思う。まあ「警告音が出ているぞ」と知らせることもある意味大切だろう。

乗り心地も普通というレベルだ。若干、細かい上下動を感じるが、それ以外は快適といってもいいレベルに仕上げられている。コーナリングや車線変更といったハンドリングに関してもとくに不満はない。バッテリーを床下に配置し重心が低くなる。そのバッテリーを衝突時の衝撃から守るために強固なフロア構造が必要になる。この2つの条件をクリアしなくてはならないEVは、そもそもその成り立ちからある程度のハンドリングが約束されているといえる。

インテリアの装備やデザインをチェックすると、さまざまな要素が盛り込まれていることに気付く。冒頭に紹介したモニターが回転する機構は、後付けのスマホホルダーやタブレットホルダーでは多く見られた。丸型のエアコン吹き出し口やゴムバンド式のドアポケットなどはなんとなくフランス車っぽい雰囲気。ドアノブにスピーカーが組み合わされるのはちょっと新しいが、なぜそれが必要なのか? ということがわからない。もっともこうした装備については、100年を超えるクルマの歴史のなかですでに出尽くしているようなもの。あとは、どうアレンジし、どこまで採用するか? なのだが、そのへんのさじ加減がまだこなれていない印象を受けた。

今後の販売に注目したい

ATTO3は家電機器に電源を供給できるV2Lや、住宅に給電できるV2Hにも対応している。昨年、富士山麓で行われた「GO OUT CAMP」というイベントでは、ATTO3がV2Lをデモンストレーションしており、筆者も確認している。日本で売るための条件をいろいろと揃えてきたところはかなり戦略的である。

価格も440万円とかなりリーズナブル。東京都ならば国の補助金と都の補助金で実質310万円となる。これはかなりお買い得プライスである。

しかし成り立ちや性能、設定価格だけで売れないのがクルマである。1990年代後半に貿易摩擦解消のため、トヨタが販売したGMのキャバリエは150万円~200万円というリーズナブルなセダン&クーペだったが、それでも販売は超がつく不調で、トヨタは購入資金100万円プレゼントというキャンペーンを行ったが、それでも売れなかった。数万円のAndroid端末と20万円を超えるiPhone端末での機能差はさほど大きくはないし、上まわる機能を使いこなしている人は少ないが、日本では圧倒的にiPhoneが人気だ。クルマという工業製品は、機能と価格を割り算して買われるものではない(とくに日本では)。EVで日本進出を狙うBYDをはじめとした中国勢、ヒョンデなどの韓国勢がどこまで食い込んでいくか? この答えはまだ不透明だと言わざるを得ない。

取材・文/諸星 陽一

この記事のコメント(新着順)5件

    1. 軽貨物様の身内に BYD社の製造工場(中国)にお勤めの方がいらっしゃるようでしたら 心配ですよね

      製造時に六価クロムの影響を受ける可能性はあると思います
      もしかしたら整備する人にも影響が出る可能性があるのかもしれません それと廃車時に適正な処理が必要になるかと思われます
      しかし 出来上がった製品(今回はバス)は 運転する人・乗客には全く影響が無いようです

      軽貨物様は何歳代の方でしょうか? 私は50歳代になります
      幼少期は断熱材にアスベストを使った建物で生活し 校舎で授業を受け そして外でケガをすれば赤チンを塗って治した世代です 町工場では平気で六価クロムを使っていたと思います 三菱ふそうでも数年前まで使っていた可能性があるそうです
      有害物質は その時代や地域によっては禁止までされていないのです もちろん使ってはいけないし 使ってもらいたくないです
      それよりも 自動車の排気ガスのほうがもっと問題だと思います

      軽貨物様は電動自動車を運転したことがありますか?
      私はレンタカーやカーシェアのみですが LEAF MIRAI HONDA-e SAKURA 運転してみました
      もし 自宅に駐車場があって金銭的に余裕があったら絶対にEVを買いたいと思います その時はNISSANかな

      パワーがない は全くの間違え
      アジケがない だったらフツーの車に乗れば良い
      すべての車をEVになんて思ってはいません

      私も中国企業がEVバスのトップシェアであることが悔しいですが 日本のバスメーカーが電動化を「サボって」いたことが大きな原因だと思います
      現状 EVバスを簡単に購入するにはBYDしかないようです

      乗客は変速ショックがなく静かな車内で 運転士は力強く走るバスで交通の流れにスムースに バス通り沿線の住民は騒音・排ガスから解放され 導入されるのを心待ちにしていた人も居たかと

      今回の事で導入を見合わせるバス会社がでているそうです とても残念に思います

    2. EVイイヨ様コメントありがとうございます。
      私は60代前半で電気自動車歴はミニキャブMiEVバンには6年17万キロ、
      ミニキャブMiEVトラックは中古ですが4年、所有中です。
      軽貨物自営業者なのでこの2年で出揃う軽バンEV重ねる中から1台導入する予定です。
      仕事では残念ながらガソリン車なのにEVeryという名前のバンに乗っています。

      ご心配いただきありがとうございます。
      さいわいなことに身内や知り合いに健康面を心配することはありません。
      私も赤チン世代ですよ。

      電気バスはEVモータースジャパンさんに注目してます。
      軽バンでは佐川が採用予定の奴が200km走れるそうなので条件があえば追加で、と思っています。

  1. ATTO 3については、「ちょっと触ってみた」、「ちょっと走ってみた」を超えるレポートがまだ見られませんが、近いうちにテスカスさんが長距離でEVとしての実用性を評価してくれるものと期待しています。

    ついでに、V2Hの作動に問題がないかどうかも試していただけると、とても参考になるのですが。

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この記事の著者


					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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