アパテックが小型格安EV「大熊カー」を日本発売へ/福島県大熊町に工場建設を計画

中国で大ヒットした『宏光 MINIEV』を日本導入? という話題で注目されたアパテックモーターズが、福島県内のイベントに小型EV3台を出展。小型EVの日本導入実現に向けて進んでいることともに、大熊町に工場建設計画があることを明らかにしました。今後の動きに要注目です。

アパテックが小型格安EV「大熊カー」を日本発売へ/福島県大熊町に工場建設を計画

『大熊Car』にはすでに1200台以上の予約注文も!

2023年3月12日、福島県大熊町にある「大熊インキュベーションセンター」で「みんなで作ろうおおくま学園祭 2023」というイベントが開催されました。イベントは3・11東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故の影響がいまだ色濃く残る大熊町で、未来に向けた復興や地域創生の取り組みなどを紹介するものです。

昨年11月、EVsmartブログのインタビューで「福島に中国メーカーを誘致したい」とのビジョンを語った「アパテックモーターズ」(孫峰代表取締役社長)も企画の一つとして中国製小型EVを3台出展し、来場者の注目を集めました。

東京都品川区に本拠地を置く「アパテックモーターズ」は電気自動車関連のマーケティング会社です。電気自動車の企画開発やリース、販売だけでなく、充電ステーションの整備やバッテリーリサイクル事業を手掛けており、2022年10月には『宏光 MINIEV』を手掛けた「上汽通用五菱」から市場調査の依頼を受けていることも日本経済新聞社による報道で明らかとなりました。

イベントで配布された『大熊Car』のカタログ。

今回のイベントでアパテックモーターズは上汽通用五菱製の『Air ev』『KiWi EV』、そしてアパテックモーターズがOEM供給を受ける『大熊 Car(OHKUMA)』と、計3台の小型EVを展示しました。その中でも『大熊 Car』は「月額9800円」という驚きの低価格でリース販売を予定しています。3月から予約注文はスタートしているということで、問い合わせも多く、B to Bを中心にすでに1200台(!)ほどの予約が入っているということです。

さらに驚くべきはこの車を日本国内で製造するという計画です。テストコースを備えた生産(組立)工場はすでに福島県大熊町にて建設準備段階に入っており、被災地の復興を小型EVの製造を通して手助けしたいとの考えです。『大熊 Car』は当初は中国からの輸入となりますが、工場が稼働し生産販売体制が整えば日本製へと切り替えていく方針です。

宏光 MINIEVより上級グレードのAir evとKiWi EV

『Air ev』

また、『Air ev』は「五菱」ブランド、そして『KiWi EV』は「宝駿」ブランドからすでに中国で販売されている電気自動車です。日本でもデビュー当時「45万円EV」として話題になった『宏光 MINIEV』と同じ上汽通用五菱が手掛けており、3車種とも使用するプラットフォームが同じであるといわれています。

『Air ev』は2022年6月にインドネシアでお披露目となりました。インドネシアではノックダウン方式(部品のキットを輸入して組み立てる方式)で生産されており、同年11月にバリ島で開催されたG20サミットではオフィシャルカーとして活躍しました。当日展示されたのも中国で製造・販売されている個体ではなく、インドネシア製の右ハンドル仕様でした。1635 mm(全長2599 mm)と2010 mm(全長2974 mm)という2種類のホイールベースを用意しているのも特的です。前者は2人乗り、後者は4人乗りと作り分けられているので、購買層は自分に合ったモデルを購入することが可能となります。

価格は3万2800元(日本円換算:約62万3000円)の『宏光 MINIEV』よりも高く、2人乗りモデルが6万7800元(約128万3000円)、4人乗りモデルが7万6800元(約145万2000円)となります。内外装の質や乗り心地も『Air ev』の方が格段に上で、「五菱」ブランドにおけるフラッグシップEVに位置付けられています。

『KiWi EV』

一方、『KiWi EV』は「宝駿」(BAOJUN)ブランドで展開されている小型EVで、2段構えのような独特なデザインが目を引きます。このモデル、実は『宏光 MINIEV』よりも歴史が長く、2020年1月に『宝駿 E300』としてローンチ、2021年8月のマイナーチェンジで現在の名前へと変更されました。『KiWi EV』も決して格安EVというわけではなく、中国本国では8万7800元(約170万4000円)〜で販売されている上汽通用五菱の最上級車種となります。

国内一般初公開の3車種に乗ってみた感想は?

今回は特別に用意されたコースの中で試乗させていただくことができました。中国製小型EVを試乗できる滅多にない機会ということもあり、短時間ではありますが3車種を乗り比べた印象をお伝えしたいと思います。

最初に試乗したのが『Air ev』です。外観は独特な雰囲気をまとっていますが、フロントがストンと落とされていることに加えてダッシュボードが薄いので前方視界の確保は容易でした。実際にアクセルを踏んでそのスムーズな加速に驚かされながら場内を一周しましたが、車体の軽さと重心の高さから多少の不安定さは感じるものの、キビキビとした動きに合わせたサスペンションのセッティングは上々の出来でした。例えるなら「軽自動車以上、日産 サクラ以下」という形で、段差を乗り越える際の突き上げなどにも不快感は覚えませんでした。

一方で、後方視界が良くないことは気になりました。これは『Air ev』のみならず、『KiWi EV』にも言える点でしたが、Cピラーが分厚く設計されている影響で、後退の際にはかなりを不安を感じます。備え付けのリアビューカメラもどこか頼りなく、駐車時などは窓から身を乗り出し、直接後方を目視で確認するべきと思いました。

また、『KiWi EV』では前方視界も厳しい点の一つです。確かに外装デザインは奇抜で面白みがありますが、そのせいで車体の位置感覚が掴みづらく、またダッシュボードもかなり幅広く取られているため、運転しやすい車とは言えませんでした。

とはいえ、メーターやインフォテインメントの類はハンドル奥のディスプレイ1つに集約されており、コンパクトな車体に合った必要最低限なUIは操作が容易です。操作系統もすべて物理ボタンなので、運転手のことを考えて作られていると感じました。広々としたキャビンは身長187cmの筆者が座っても窮屈さをそこまで感じさせず、シートも腰に優しい上質な設計でフィット感も座り心地も素晴らしく、全体的に満足度の高い居住空間でした。

最後に、アパテックモーターズが販売する『大熊 Car』です。この車だけは他の2車種と異なるメーカーが設計・製造しているので、まったく別のモノと理解する必要があります。

作りは非常にベーシックで、必要最低限のものだけが備えられているといってよいでしょう。コストダウンのためにサイドブレーキが手動式にしてあるだけでなく、最近のEVには珍しく、始動方式は物理キーをキーシリンダーに挿して回す方式なのは、かえってユニークなポイントになるかもしれません。サスペンションのセッティングは段差を乗り越える際の挙動からも分かるようにかなり硬く、値段相応の乗り心地を感じさせます。

一方で装備面はなかなかの充実ぶりです。電動パワステにパワーウィンドウ、リモコンキー、タイヤ空気圧センサーだけでなく、安全面で重要となる前後3点式シートベルトや前席エアバッグ、低速時衝突回避警報、ABS、そしてチャイルドシートを固定するための後席用ISOFIXも装備(2席分)しています。とはいえ、ドアの開閉具合や充電口の開けにくさは否めず、またリアゲートにはドアハンドルがついていないため、車内からではないと開けられないという短所もあります。

アパテックモーターズはユーザーからのフィードバックを受けて改善していく方針を示しており、ここからさらにブラッシュアップされることが期待されます。なお、日本仕様では軽自動車規格に収まるよう、金型レベルからの改修や適合を予定しているとのことでした。

アパテックモーターズでは、『大熊 Car』を「LCC(低価格競争戦略)モデル」と位置付けています。2024年をメドに福島県大熊町に新設する工場で生産が行われる予定であり、日本で生産されたモデルは「メイドインジャパン」の小型EVとして東南アジアにも輸出される予定です。

取材・文/加藤 ヒロト

この記事のコメント(新着順)4件

  1. 小型格安EV
    日本人は、とても難しいから(泣)
    これからの販売は、とても不安かな?

    拘らず何でも買うならば?我が田舎町の、ベンチャー企業の小型EVが、売れるはずだか!
    売れてない(泣)

    やはり、サクラとか?
    ekクロスEV等のマトモな軽自動車かな?(汗)

    テスラ車程の先進性も、無いし!(泣)

  2. 電池の寿命がアッという間だったら、62万円、ドブに捨てる事になると思うと大金ですね。

  3. 同じ日本人である首都圏の人たちが俺たちは福島原発の電気を使うだけで事故は関係ないと責任逃れをして見捨てた福島に、中国人が手を差し伸べてくれるとはなんたる皮肉。 恥ずかしくないのかな。
     

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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