※記事中画像はライブ配信動画から引用。
ユーザーのニーズの変化を正確に察知
視聴したのは、Facebookでライブ配信された発表動画です。冒頭にチーフサイエンティストのWu Kai(呉凱)氏がステージに現れ、EVバッテリーのテクノロジーが人々や社会に与える影響について語ります。テクノロジーとは社会を前進させるための手段であり、そのためには常に革新を起こし続けなくてはならない(0から1を作る)。そしてテクノロジーは広く大衆に行き渡らなくてはならない(1から10にする)。発表会では繰り返しこのテーマが強調されます。
エベレット・ロジャースの「イノベーション普及学」によると、EVのような新しい製品は市場シェアが16%を超えると、新しい物好きの変人だけでなく一般大衆も買い始めるのですが、まさに昨年、中国のNEV(新エネルギー車)市場シェアがこの16%という閾値を超え、25%に達したのです。EVの正しい知識が広まったことで、航続距離を心配する声は大幅に減り、より優れた充電性能や安全性などEVに本当に必要な性能が求められるようになっています。
「神行」は世界初の4C急速充電LFPバッテリー
次に登壇したのは乗用車事業部CTO(最高技術責任者)のGao Huan(高煥)氏です。CATLが2019年からほぼ毎年のように革新的な電池技術を生み出してきたことから説明し、先程Wu氏が述べていた消費者のニーズの変遷に合わせた製品開発を行っていることを強調します。
新たなバッテリーの名称は「ShenXing」(神行)。そこに込められた思いは2つ。ひとつが「誰もが速いと感じること」そして「誰でも手の届く価格であること」。
ShenXingとは、漢字を見ればなんとなく想像は付きますが、中国の古い言葉で「神のように速く旅をする」を意味し、誰もがその恩恵を受けられるように、という願いが込められています。
ShenXingの最大の特長は「世界初の4C急速充電LFPバッテリー」であることです。「Cレート」というのは充電および放電のスピードを示す単位で、電池の容量を1時間で完全に充電または放電できる電流の大きさが「1C」となります。つまり、容量50kWhのバッテリーに出力50kWで充電するのが「1C」で、「4C」であれば200kWの高出力で充電できることを意味しています(バッテリー容量が大きければ充電可能な出力も上がります)。
LFP(リン酸鉄)バッテリーは一般的に急速「放」電できても急速「充」電は不得意で、1C~1.5Cを超えて充電するとバッテリーの負極側に金属リチウムが析出し、バッテリーを劣化または破壊してしまいます。それを4Cまで高めたのは驚異的と言えます。
CATLでは負極のグラファイトを複数の層に分け、表面に近いところを多孔質に、奥は高密度にすることでリチウムイオンの出入りをしやすくしています。負極にリチウムイオンが入りやすいということは、より急速に充電ができるということです。
これにより、安価なLFPバッテリーでも超急速充電を行い、20~80%までを10分で充電し、400kmを走行できるとのことです。ただし、この400kmは中国のCLTC基準(中国独自のモード)での計算と思われ、実際は走り方にもよりますが350kmも行けば御の字だと思います。とはいえ、350kmは東京から仙台、または東京から名古屋まで届く距離なので、これが10分の充電でカバーできるならほぼガソリン車と変わらない運用と言えるのではないでしょうか。参考までに日本国内で現在最速の充電性能を誇るテスラ車をV3スーパーチャージャーで充電した場合でも15分で275kmです。
LFPバッテリーは外気温が低いと性能が落ちますが、ShenXingはマイナス10度でも0~80%まで充電するのに30分しかかかりません。「30分もかかるじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、従来のLFPバッテリーを搭載した最新のテスラ車でさえ昇温するまでは極端に低い出力に制限され、満充電に2時間かかるケースもありえます。
他にも正極材や電解液、セパレーターなどが改良されたことでバッテリーの発熱が抑えられ、熱暴走が起きにくいため、ただ急速充放電ができるだけでなく安全性と寿命もしっかりと確保しているとのこと。さらにCATLでは先進の製造技術と品質管理体制で不良率をPPB級(10億個に1個の不良)に抑えており、日本が得意とする「製品の信頼性」もお株を奪う勢いです。
充電性能の高さは、EVに搭載するバッテリー容量を抑えても(つまり低価格のEVでも)実用性が高いモビリティになることを意味しています。ShenXingは高性能大衆モデルのEVに貢献することでしょう。実際にプロダクトが発売されないと詳細な評価はできませんが、日本市場にも広い支持を集める大衆的EVが登場することに期待したいところです。
ShenXingバッテリーは年末までに量産体制にこぎつける予定で、2024年第1四半期にはShenXingを搭載したEVが販売されるだろうとのことです。そのために生産の上流と下流工程と一致協力した開発を進めていくようです。
イベントの締めくくりには清華大学の教授や中国科学技術協会乗務副理事、長安汽車やGAC、Zeekerといったメーカーまで、産官学の各方面からお祝いのメッセージが届いており、国を上げてEV普及に向けた高性能大衆モデルを作ろうとする気概が十分に伝わってきました。
文/池田 篤史
官民挙げて個体電池を、なんて言ってる間に技術が進んでいるんでるってことでしょう。ある意味中国も官民挙げてですが。官民挙げて液晶パネルやって大失敗してるのに、懲りません。困りものです。多数のメーカーと役人が集まって、結局誰も推進力にならず、失敗しても責任も曖昧。学習しないで巨額の税金がまた……。
競争あるところに発展あり、そして良いものありですね。
切磋琢磨して競い合う空気がなければ、良いものは産まれないのですよね。
日本のように、力のあるメーカーの顔色を見て、政府や役所の顔色を見て、必死に空気読んで忖度に精を出すようなメーカーばかりでは、良いものが出てくるのは遅くなるんでしょうね。自由競争という言葉を忘れていませんか。