テスラが大型トラック『セミ』用のメガチャージャー充電網をテキサスからカリフォルニアまでつなぐ、かもしれない

世界各国、もちろん日本でも自社スーパーチャージャー網の拡充を進めるテスラが、アメリカで大型EVトラック『Tesla Semi』用の超高出力充電網メガチャージャー整備を進める、かも知れないというニュースです。アメリカのメディア『CleanTechnica』からの全文翻訳に訳者の考察を加えてお伝えします。

テスラが大型トラック『セミ』用のメガチャージャー充電網をテキサスからカリフォルニアまでつなぐ、かもしれない

【元記事】 Tesla To Build Semi Megacharging Stations From Texas To California — Maybe
By Guest Contributor on 『Clean Technica

出力750kWのメガチャージャー網を整備?

昨年、テスラはカリフォルニア州モデストにあるペプシコの物流拠点で納車イベントを行い、バッテリー式大型電動トラック「セミ」を世間に披露しました。今後、セミの行動範囲を広げていくために、テスラはテキサスからカリフォルニアまでをつなぐと予想される9箇所のメガチャージャーステーションを建設するため、米国政府に資金援助の申請を行いました。

ニュースは最近ブルームバーグが報じたもので、テキサスからカリフォルニアまでのルートに9箇所のセミ充電ステーションを建設すべく、テスラが政府に1億ドルの資金援助を要請したとのこと。このルートはテキサスの南の州境からカリフォルニアの北部まで伸び、場所によっては最大で8基もの「メガチャージャー」と呼ばれる、最大出力750kWの充電器が設置されます。

これは民間企業初の大型EV充電網の建設計画です。商用トラックはアメリカの物流の大きな役割を担っていますが、乗用車と比較して商用車は温室効果ガスの削減ペースが遅く、テスラセミが市場に初めて導入される16輪トレーラーとなります。

また、ブルームバーグによると、テスラの幹部がテキサスの当局者とも充電網の建設計画について協議をしたとされ、このルートは2021年に可決された超党派のインフラ法に基づき、連邦政府補助金の支給対象になり得ると記事の中で強調されていました。さらに、テスラは州当局者に対して、6月にテスラが提出した資金援助の申請書でもそうしたように、米政府に対して建設計画を支持する内容のレターを送付するよう要請しました。

米運輸省連邦道路局の関係者によると、同局は補助金の申請書を「現在審査中」です。また、申請が承認されるかは今年後半に発表される予定とのこと。ブルームバーグの記事では、テスラに補助金が交付されなかった場合、このプロジェクトを継続するかはまだわからないと付け加えています。

テスラはセミの生産開始までに何度も計画の遅延や保留に直面しており、イーロン・マスクは最近、量産開始は来年になる見込みだと述べました。セミの生産計画が何年も遅れた理由について、イーロン・マスクはパナソニックと共同開発している、セミの「公称航続距離500マイル(800km)」を達成できるバッテリーの製造が困難だったと述べています。

セミの初めてのプロトタイプは2017年に公開されましたが、初めての納車はペプシコに15台のセミを引き渡す形で、昨年12月にやっと行われました。テスラは規制当局への提出書類の中で、セミはまだ「パイロット生産」のフェーズにあると記載しています。

今年初め、テスラは36億ドルを投じてネバダ州のギガファクトリーを拡張する計画も発表しています。この投資の一部には、同社初となるセミの量産設備を作るための工場拡張が含まれています。

EVANNEXより記事を引用。

【訳者追記】設置計画を考察してみた

記事内ではルートが「テキサスの南の州境からカリフォルニア北部」という曖昧な表現になっていましたが、仮にテキサス側をヒューストン、カリフォルニアをストックトンとすると(どちらもトラックの一大物流拠点がある街)、全行程で3000kmあります。

出典:Gooleマップ

9箇所の充電ステーションがもしも均等に配置されるなら、メガチャージャー間の距離は300km(186マイル)になります。

ペプシコに納車されたセミの実際のデータを開示している『RUN ON LESS by NACFE』というサイトがあるのですが、300kmごとに充電器があるとどのような運用になるのか一緒に想像してみましょう。以下のグラフはDay 2の3号車の勤務実績です。左側の縦軸がバッテリー残量(%)、右側の縦軸が走行距離(マイル)、横軸が時間となっています。

出典:RUN ON LESS by NACFE

注目するのは15時に97%で出発して、翌0:30まで660kmを走行していることです。また、1時から4時まで約40%バッテリーを消費していますが、11:30から充電を開始して30分後に64%(46%増)になっていることから、4時間ごとに30分休憩を取れば電欠することなくずっと走行できることも重要です(厚労省の連続運転時間の定義は4時間ごとに30分の休憩)。

以下の車速グラフをみると巡航速度は105km/hですが、市街地走行も含まれており、ストップアンドゴーの多い、電費の悪い状況だと分かります。ずっと高速道路ならもっと電費が伸びたでしょう。

出典:RUN ON LESS by NACFE

このウェブサイトでは車両の使われ方(走行、充電、待機等)や1日の総走行距離(長いと1300km以上)など、ダッシュボード上で様々な情報が閲覧できるため、フリートオペレーターの皆様はぜひ自社の利用実態に即しているか照らし合わせてみてください。全員に今すぐ経済合理性があるとは思いませんが、日本でも高速道路のSAPAにメガチャージャーができれば半数以上の企業がセミに乗り換えたほうがお得だという結論に達するのではないかと思っています。日本でもセミの活躍に期待ですね。

翻訳・解説/池田 篤史

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 世界的(米国も含め)に、2040年に商用トラックを全てゼロエミッションにする動きがあります。
    https://globaldrivetozero.org/2021/11/09/landmark-commitment-at-cop26-countries-subnational-governments-vehicle-manufacturers-and-fleets-target-100-zero-emission-new-truck-and-bus-sales-by-2040-10-nov-2021/
    残念ながら日本政府はこの活動には参加していないのですが、高出力充電インフラ(〜750kw)を含め、日本でもゼロエミッショントラック導入を真剣に考えていく必要があると思います。

    1. 日本の場合、4時間ごとに30分以上の休憩ではなく、4時間以内に一回10分以上で合計30分以上の休憩です
      一度に30分休憩の会社もありますが、運行スケジュール考えながら10分休憩✕3回の会社も少なくありません

      まあ来年からは2024年問題に対応する為に、一回5分以上の休憩、に規制緩和されるそうなので一度に30分停車するトラックは激減すると思いますね

  2. セミの性能は素晴らしいですが、現在のボンネットタイプ(アメリカで使われているキャビンの前方に張り出したボンネットがあるタイプ)では荷台を接続した時、全長が長すぎて日本の道路を法的に走れません。(運行毎に道路使用許可申請をすれば幹線道路に限り走行できるがとても日常的な業務には使えない)
    あと幅と高さも日本の法令上の最大値をオーバーしているので運行毎に許可が必要で幹線道路に限られます。
    また日本の道路も法令で定められたトレーラーの全長に合わせて設計されているので、物理的にも現在のセミでは貨物を牽引すると長すぎて満足に日本の道路を走ることができません。
    テスラには是非欧州や日本向けのキャブオーバータイプの開発をなるべく早期にお願いしたいですね。

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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