「充電インフラ整備促進に向けた指針」の方向性を歓迎
ENECHANGEの原点は、私が在籍したケンブリッジの研究機関「ケンブリッジ・エナジーデータ・ラボ」で、「エネルギーデータの活用によるエネルギーの未来」を世界最先端の研究者とともに語り明かした日々にあります。
目標は世界の「エネルギー革命」を推進すること。脱炭素社会実現のために、エネルギー市場の自由化、スマートメーター・IoT・AI技術によるデジタル化、再生エネルギーの基幹電源化、EV(電気自動車)や蓄電池の普及によるスマートグリッドの推進といった「変革」が不可欠であり、エネルギーテックカンパニーのENECHANGEがEV充電事業を手掛けたのは、そのためのステップのひとつです。
私は今、生活の拠点をロンドンに置き、電気自動車をマイカーとして活用しています。2015年ごろ、当時住んでいたアパート近くの路上に、街灯の電源を活用したユビトリシティ(ubitricity)の普通充電スポットがあったのが、EVを買ってみようと思うきっかけになりました。
最初はBMWのi3。その後、いろんなEVを試せるリースサービスを利用するなどして何台かEVを乗り継いできました。今ではもうEVが「当然の選択」になっています。自らひとりのEVユーザーとして、日本のEV充電インフラ構築に貢献したい。その思いが「EV充電エネチェンジ」を事業として取り組むモチベーションとなっています。
2023年10月、経済産業省の「充電インフラ整備促進に向けた指針」が正式に発表されました。ここで詳細を語ることは割愛しますが「設置目標数を15万基から30万口へ倍増」「充電器全体の総出力を現在の39万kWから10倍に相当する約400万kW」を確保するといった方針は、EVユーザーのひとりとして、また「EV充電エネチェンジ」を展開する企業のトップとして歓迎します。
とはいえ「利便性が高く持続可能な充電インフラ社会を構築」していくには、さらに見直しを進め、改善すべき点もあると考えています。この連載では、私が思い描く「EV充電へのビジョン」について、毎回、ひとつのテーマを挙げて考察と提言を行っていきたいと思っています。
【参考】
充電インフラ整備促進に向けた指針を策定しました(経済産業省)
総出力約400万kWは世界基準からも妥当な目標
連載のスタートにあたり、私が思い抱く「EV充電へのビジョン」を総論的に提示するためにも、指針で示された口数と総出力についての考えを示しておきます。
国が掲げる「2035年電動車100%」の達成に向け、2030年の時点でEVとPHEVの新車販売シェアを「20~30%」とする目標が示されています。その目標に準拠して、ENECHANGEでは2030年のEVとPHEVの新車販売シェアを約25%と仮定し、日本全体のEVとPHEVの保有台数が約385万台になると試算しています。
385万台に対して約400万kWの総出力と30万口という充電器数は欧州主要国の最新目標と比較してもほぼ同等で、国際的な比較においても妥当な水準であると考えられます。
ただし、経産省の指針では充電インフラ整備目標に対するEV・PHEVの想定台数が明記されていません。スムーズにより利便性の高い充電インフラ構築を実現していくためにも、EV・PHEVの想定台数を明記した上で、今後の新車販売の動向などを注視して適宜目標数などの見直しが可能となる制度としていくことをENECHANGEとして関係各所に提言しているところです。
充電種別ごとの目標数の考え方
EV充電には、その利用形態によって「経路充電(急速充電)」「目的地充電(おもに普通充電)」「基礎充電(普通充電)」という種別があるのは、EVsmartブログ読者のみなさんはすでに承知のこととして。
経産省指針では、充電種別ごとに2030年までの設置目標口数が明示されました。
●経路充電(おもに公共用急速充電器)/3万口
●目的地充電(おもに公共用普通充電器)/10~15万口
●集合住宅等における基礎充電(おもにコンセントや普通充電器)/10~20万口
それぞれが目標とする口数などについて、私の基本的な考え方を示しておきます。
経路充電(おもに公共用急速充電器)
施設のカテゴリーと「急速充電の必要性」について整理してみました。
2022年度予算(補正予算を含む)による補助金では、どんな施設カテゴリーでも補助金で急速充電器が設置可能な制度になっていましたが、当初予算を使い切っての「予備分」では、募集対象が高速道路SAPAや道の駅などに限定されました。予備分の制度が原則として賢明な方針であると支持します。
2030年に3万口という目標数は、本当に急速充電器が必要な高速道路SAPAや道の駅などが全国で合計2000カ所程度であり、1カ所に2~6口程度の複数口設置を進めたとしても十分な数であると思います。
今後、補助金を有効に活用して適切な急速充電器整備を進めていくためには、経路充電としてのニーズを満たす、普通充電では代替不可能な施設を優先して設置(補助金適用)を進めていくべきであると考えます。自動車ディーラーを含む事業所駐車場など、例外的に急速充電器の設置を認めるケースを設定するのであれば、条件を明示する必要があるでしょう。
目的地充電(おもに公共用普通充電器)
目的地充電の目標数は「10~15万口」です。ENECHANGEで試算した目的地充電が適した施設数は全国で約22万施設ありました。
22万施設に2口ずつ設置すると44万口が必要になりますが、EV普及に応じて段階的に整備を進めていくのですから、2030年までの目標として10~15万口は妥当な規模と考えることができます。
一方で、稼働率などを勘案して、よりEVユーザーのニーズが高い施設への設置や追加設置を重点的に進めることが、限られた補助金予算を効率よく活用して充電インフラ整備を進めるために必要です。新設時に稼働率を予測するのは困難な面もありますが、より稼働率が高い設備を増やし「利便性が高く持続可能な充電インフラ社会の構築を目指す」ことは、ENECHANGEをはじめとする充電サービス事業者が忘れてはいけない視点だと考えています。
そのために、補助金で「追加設置する場合には稼働実績の条件を設定する」ことが必要でしょう。さらに「EV充電専用区画を確保」してEVユーザーの利便を高めることや、現状の制度では補助率が低い「リプレイスを促進」することが重要なポイントになってくると思っています。
集合住宅等における基礎充電(おもにコンセントや普通充電器)
経産省の充電インフラ補助金が対象としているのは、おもに既設集合住宅の基礎充電設備です。先に示した2030年のEV・PHEV保有台数が約385万台とすると、半数としても約193万器の基礎充電設備が必要となりますが、新築集合住宅や諸外国に比べて保有比率が高い戸建て住宅が多いので、既設集合住宅で「10〜20万口」とする目標は段階として妥当なレベルです。
その上で、既設集合住宅への設置についても「利便性が高く持続可能な充電インフラ」とする視点が不可欠です。EVの保有台数予測グラフで示したように、EV・PHEV保有台数比率は2030年でも8%程度であると予測できますから、2030年の段階でも集合住宅駐車場区画の90%程度にはエンジン車が停まっていることになり、エンジン車が占有している駐車区画に設置しても「使われない充電設備」になってしまうのです。限りある補助金で、そのような無駄はできるだけ排除しなければいけません。
今年度の「予備分」の制度では既設集合住宅の募集対象が以下のように規定されました。
●ケーブル付き充電器/収容台数の10%以下、かつ10口以下
●コンセント/収容台数以下、かつ20口以下
使われない充電器を増やさない制限を設けたことは評価します。とはいえコンセントタイプの「収容台数以下、かつ20口以下」を条件とした場合、収容台数が20台(設置口数20口)以下の集合住宅には懸念される「使われない充電設備」が増えてしまうことが想定できます。
新車販売動向を注視しつつ臨機応変な制度設定をしていくことは前提として、次年度以降の補助金制度でも既設集合住宅の設置口数割合に制限を設けるとともに、コンセントについてもケーブル付き充電器と同様に設置比率に制限を設けて「収容台数の10%以下、かつ20口以下」とすることを提言します。
また、補助金募集の条件として「EV専用車室とする」ことや、目的地充電と同様に「追加設置には一定以上の「稼働率」を満たす条件を付加することも有効でしょう。
補助金を有効活用して持続可能なサービスへ
ENECHANGEをはじめとする充電サービス事業者は、今はまだEV普及の進展を確信しつつ先行投資を行っている段階であり、経産省の充電インフラ補助金がなければ事業として成立させるのは困難であるのが現状です。自立した持続可能な充電サービスを確立していくためには、限りある補助金を適切かつ有効に活用するためのビジョンに見合った設置を実践していくことが重要だと考えています。
EVユーザーのみなさん、私たちと一緒に「利便性が高く持続可能な充電インフラ社会」を構築していきましょう。
提言者/城口 洋平(ENECHANGE株式会社代表取締役CEO)
BEVの急速充電は筋が悪い。
一晩コンセントから充電すれば足りる小容量バッテリーを搭載した軽EVとPHEVにターゲットを絞って住宅やホテル、事業所への大量のコンセント設置を第一とし、補助的に大規模集客施設に急速充電器を設置する方が効率が良いのではないか。
新車購入時の補助金もバッテリー容量に上限を設けた方がよい。
EVが海外も含めて急速に普及しないのは、その変化がドラスティックでないからです。これは「電話」と比較すると分かりやすいです。
電話は携帯電話の誕生で、固定電話しかなかった時代から無線で誰もがいつでもどこでも通話できる世界を可能にしました。携帯電話は新しい市場を創造したのです。また、スマートフォンは携帯電話にPC技術を取り込むことで、通信の機能を大幅に向上させました。
一方、車はその大衆化で個人の自由な移動をかなり以前に達成しています。しかし、その後は大きな進展はありません。今、EVがめざしているのは、ガソリン車並の機能、コスト、インフラであり、それがガソリン車と同等に達しても車全体から見ると大きな変化ではありません。せいぜい、車市場という既存のパイの奪い合いにしかなりません。いくらEVが普及しても、EVを選ぶかカソリン車を選ぶかは個人の好みでしかないのです。
充電インフラについても、充電器の口数の数合わせの先にどういう世界があるのでしょうか。それが見えないのが、EV乗りを含め多くの人の疑問だと思います。
seijima さま、コメントありがとうございます。
EVsmartブログ編集長として、また個人的な思いとして、ICEからEVになることで最もドラスティックな変化はエネルギーシフトだと思っています。したがって、発電の再エネ化とともに進展していくことがとても大切なこと、だとも。
その上で、モビリティのあり方、自動車の使い方、ライフスタイルの変革という点でも、EVならではの世界が広がっていくことを期待しています。
あくまでも「エンジン車を選ぶ」というのも個人のライフスタイルなので、それはそれで批判するものではありません。でも、エネルギーシフトへの必然によって、世界中でエンジン車は淘汰されていくんだろうな、と。
自動運転の進展も、モビリティ変革のひとつでしょう。とはいえ、個人的には「シンプル」「スムーズ」といったEVの特性が、新たな何かをもたらしてくれるはず、と期待(さまざまなEV試乗などの際にも注視)しています。
今後も、ユニークなEVの登場にワクワクしたいと思っています。
集合住宅はコンセントを基本とすれば
コンセントそのものは一万円とかで取り替えられるものだし
どうせ配線工事するなら全区画に配線したほうが投資として効率的
配線は長期的に使えるものだから無駄にはならない
全区画は大げさとしても数台の普通充電器を予約してとか充電し終わったら移動させてなんて共有でやるのは面倒くさいよ
haladd さま、コメントありがとうございます。
>集合住宅(基礎充電)はコンセントが基本。
同感です。
合理的な電気料金負担の仕組みが見つかり、全区画配線や必要十分なコンセント設置へのコンセンサスが広がるといいですね。
その上で、既築集合住宅の現状としてはユアスタンドをはじめとする集合住宅の基礎充電に注力する充電サービサーの果たせる役割が大きいのだとも思っています。
EVsmartブログとしては、全国各地、ユニークな事例があればどしどしご紹介していきたい、と思います。
良いこと言ってるように見えるけど結局は補助金頼りで利益取ってるのは一緒じゃなきゃ0円プランなんてできやしない。せれでも補助金前から設置事業やってるとか、補助金なくなってからも同じペースで設置できるならこういう提言してもいいけど、どうせできないでしょ?
通りすがりのEV乗り さま、コメントありがとうございます。
EV普及に先行した充電インフラ拡充に補助金は不可欠であり、だからこそ充電サービサーには公正な視点に立ったビジョンが必要、というのが、EVsmartブログでこの連載を始めた意図でもあります。
私自身EVユーザーとして、補助金が有効に活用されることを願っています。
夜間充電については、各家庭のエアコン室外機配線工事程度の費用で利用者、もしくは集合住宅オーナーが直ぐ対応出来ることだから別枠で良い
問題は長距離(200km程度以上)移動時の経路急速充電環境だけですよね。
つまり、十数年前の方針通り、SAPA、公共施設、道の駅を網羅し、自動車販売店、GS、コンビニ、宿泊施設の順でしょ