マツダ『MX-30 Rotary-EV』試乗レポート〜ロータリーエンジンの火は消さない

根強いファンが多いロータリーエンジンを搭載したプラグインハイブリッド車(PHEV)であるマツダ『MX-30 Rotary-EV』にモータージャーナリストの諸星陽一氏が試乗。「Rotary-EV」の印象をレポートします。

マツダ『MX-30 Rotary-EV』試乗レポート〜ロータリーエンジンの火は消さない

プラグインハイブリッドという選択肢

2019年の東京モーターショーでワールドプレミアしたMX-30。日本市場では2020年からマイルドハイブリッドモデルを市場投入、2021年にピュアEVを追加。そして2023年、ロータリーエンジンを使ったプラグインハイブリッドモデルを設定した。今回は、このロータリーエンジンを使ったプラグインハイブリッドモデル「MX-30 Rotary-EV」に試乗したインプレッションをお届けする。

すでにEVモデルが存在しているのに、プラグインハイブリッドを作った理由はなんだろう? ロータリーエンジンを使って外部充電可能なシリーズハイブリッドとして、EVでは足りない部分を補うためか? いやいや、そうではない。試乗会での説明などを聞いていると、MX-30はこのロータリーエンジンを搭載するプラグインハイブリッドモデルが本来目指した姿であり、その派生としてマイルドハイブリッドやEVが存在していると考えるのが正しいという印象を受けた。

ピュアEVで満足できる人もいれば、ピュアEVでは自分が求める性能が手に入らない人もいる。そうしたときにプラグインハイブリッドというのは現状では使いやすいシステムだといえる。そして、ロータリーエンジンを使うという部分もじつにマツダらしいユニークな発想である。

ロータリーエンジンを次世代へ繋げるために

ロータリーエンジンは燃費が悪いというイメージがあるかも知れないが、一定回転で運転する際の燃費は悪くないとされている。MX-30に搭載されるロータリーエンジンはレギュラーガソリン仕様であるが、ロータリーエンジンはさまざまな燃料で運転しやすい特性がある。かつては水素を燃料としたエンジンも開発されており、水素を燃料とすれば走行中に二酸化炭素を排出しないパワーユニットが実現可能である。

またロータリーエンジンはレシプロエンジンのように弁動機構を持たない単純な構造であるため、正確な設計と製造を行うことで耐久性を上げ、コストを落とすことが可能。そしてレシプロエンジンに比べてコンパクトになる。

EVモデルではスカスカだったエンジンルームが見違えるようになっていた。

なによりもマツダにとってロータリーエンジンは会社生命をかけて開発したエンジン。世界で唯一実用化に成功したマツダは、なんとしてもロータリーエンジンを次世代につなげたい。代替燃料が実用化されたときに、「使うエンジンがありません」では話にならないわけで、今はガソリンを使っているが、ロータリーの火を消さないのは大切なことだ。

MX-30 Rotary-EVは、走行モードをEV、ノーマル、チャージの3種に切り替えられる。基本はノーマルモードなので、まずはそれで走る。バッテリーが充電されている場合、ノーマルモードはEVでスタートする。その走りはEVそのもの。じつにスムーズで静かで快適だ。

ステアリングのパドルスイッチを操作すると回生ブレーキの効きが調整できるが、MX-30の場合は単に回生ブレーキを調整するのではなく、4段階のサブモードを備えるような方法。回生量の段階によって加速力も変化させる。回生が強いときは加速力が弱くなる。回生ブレーキも加速も強いと、走りがギクシャクする傾向になる。

ドライバーはそうした走りをスポーティと感じるが、同乗者には加減速が強く感じられ、クルマ酔いの原因にもなる。ワンペダルドライブも同じで、ドライバーは快適だ、同乗者は不快になることもあり、そうしたことへの配慮である。

ノーマルモードだと45%あたりを境としてエンジンが始動し充電が始まる。試乗中もそのあたりでエンジンが始動した(はずだ)。じつはエンジンが始動した瞬間は気付かなかった。首都高速を走行していたので、走行ノイズによってエンジンの始動を感じなかったのだろう。速度が落ちたところでメーター内に表示されるロータリーエンジンのアイコンで、エンジン始動に気付いた。

エンジンノイズは「ブブブブーン」というような音であまりロータリーっぽくない。クルマを止めてエンジンを空ぶかしした際の音は、まるで削岩機のような音という印象(マツダはかつて削岩機を製造していた)。

それもそのはずで、通常のロータリーエンジンは2ローター、つまり2つのローターが同軸上で回っているのだが、このロータリーエンジンは1ローターである。2ローターや3ローター(市販車としてはかつて発売されたユーノス・コスモしか存在しない)のように、それぞれが振動やノイズを打ち消すということがないので、こうした音になる。MX-30のロータリーエンジンはあくまでも発電&充電専用でその出力が駆動力として使われることもなければ、加速時にエンジン回転を上げて高い電力を求めるものでもない。生み出す電力はいったん充電されるという使われ方である。

ほぼEVで53kmを走行して電費は5.7km/kWh

エンジンが始動した後、少しノーマルモードを試してからEVモードに戻し、基本はEV中心で試乗した。走行開始時のバッテリー残量は69%、オドメーターは2465km。走行終了時バッテリー残量は17%で2518kmの表示。MX-30のバッテリー容量は17.8kWhなので、52%使用なら約9.3kWh分。ほとんどEVモードにして53kmを走行したので、電費は約5.7km/kWhとなる。EV走行可能距離も100km強となるので、カタログデータの107km(WLTC)とさほど大きな乖離はない。

MX-30 Rotary-EVは普通充電とCHAdeMOの急速充電が可能。PHEVに急速充電が必要か否かを問えば不要という意見が多い。私もPHEVが急速充電していることにより、EVが充電待ちをするような状況はいいとは思えない。また、頻繁に急速充電することはバッテリーの劣化につながるので、急速充電はピュアEVでも推奨されない。

しかし、CHAdeMOが装備されないとV2Hが使えない。外部給電機能が付くことで増額がある補助金のことも考えればCHAdeMOは付いているべき装備。あとは、とくに高速道路SAPAのさらなる充電インフラ拡充を待ちながら、「MX-30 Rotary-EVは最大でも出力40kW程度の充電性能なので、できるだけ50kW以下の急速充電器を利用する」といった理解や、BEVへの配慮を広げていくといった、ソフト面で解決すべき部分ということになるのだろう。

取材・文/諸星 陽一

この記事のコメント(新着順)4件

  1. ほぼEVで53kmを走行して電費は5.1km/kWh
    見出しはこうなったまま、校正とか言う言葉御存じですか?

    1. yukibon さま、ご指摘ありがとうございます。

      筆者にも確認し、記事の数値を修正しました。
      公開前、検算していませんでした。留意します。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

執筆した記事