フィアットの新型EV『600e』試乗レポート/優しさと心地よさが印象的

9月10日に発売されたばかりのフィアット『600e(セイチェントイー)』に公道で試乗する機会を得た。速さやスポーティさが光るBEVが多い中で、600eの走りからは優しさと心地よさを感じた。

フィアットの新型EV『600e』試乗レポート/優しさと心地よさが印象的

見た目よりもゆとりある室内空間

簡単に600eのスペックをおさらいしておくと、全長4200mm、全幅1780mm、全高1595mmのボディに、54.06kWhのバッテリーと115kW/156ps、270Nmのモーターを搭載、一充電走行距離493km(WLTCモード、EPA換算値は394km)のBセグメントのコンパクトSUVと位置付けられる電気自動車だ。

600eを写真で見るとガラスの天地方向が薄く、室内が狭いのではと思ってしまうが、実は思いのほかゆったりとした空間が広がっている。特に驚きだったのが後席で、もっとボディサイズが大きな車種でも、ルーフに頭がついてしまうことがある筆者が、背もたれに腰をつけるきちんとした姿勢をとっても、まだ頭上には3.5cmの余裕が残されていた。このゆとりの空間であれば、多くの人がストレスを感じずに移動できるだろう。

FIATのモノグラム柄のシート。前席は水色の差し色もある。内装色はこのアイボリーのみ。

ただし、600には日本にも来年春頃の導入を予定しているマイルドハイブリッド版もある。つまりBEV専用設計ではないので、後席に3人乗った時に真ん中に陣取った人は、フロアから約14cm盛り上がったセンタートンネルにより足の置き場に困るだろう。

「Bセグメントの中で最大」と謳われる360Lの荷室は、筆者実測値で最大幅が117cm、最小幅が100cm、奥行きは69cm。このサイズであれば、機内持ち込み可能サイズのスーツケース(53 x 34 x 20cm)を5個並べて載せられそうだ。

6:4の分割可倒式リヤシートを倒せば、後席背もたれ前端までの奥行きは約128cmになる。3人でゴルフに行く場合は後席の片側を倒せば、人数分のゴルフバッグも問題なく搭載できるだろう。

加速感などに「優しさ」と「心地よさ」を感じる走り

いよいよ公道に繰り出す。走り出してすぐに優しい乗り心地であることに気づいた。段差やマンホールを「タタン」と最小限の揺れで走り抜け、路面のうねりはふわっとバウンドしていなしてくれる。重いバッテリーの搭載により足を固め、そのデメリットを活かすため(隠すため?)にスポーティなハンドリングが与えられているのではと思うBEVが多い中で、この優しい乗り心地は600eの最大のセリングポイントではないかと思った。

シフト操作ボタンの手前は大きな物入れ(通常はフタがある)になっている。その手前は左側にパーキングブレーキ、右側にドライブモード選択のスイッチがある。

シフト操作はボタン式を採用している。通常走行のDと回生が強くなるBを同じボタンですぐに切り替えられる。こういったシステムの場合、Bにすると極端に強い回生ブレーキが働くモデルもあるが、600eは言葉にすると「じんわり」といった具合。アクセルオフにするとブレーキペダルをわずかに踏んでいるような減速感だった。

上からエアコン吹き出し口に挟まれているセンターディスプレイのホームボタンやハザードスイッチ、中段にオーディオとエアコン関係、下段にシフト操作関連と多くの物理スイッチを残している600e。

この制御方法であれば常にBレンジでも良いなと思ったが、普段パドルでもっとアクティブに減速度を調整したり、先行車に合わせて自動で回生ブレーキが調整されたりするクルマに乗っている人はもの足りなく感じるかもしれない。

なお、DでもBレンジでもクリープはある。ワンペダルモードはないので、停止する際はブレーキペダルを踏む必要がある。

ドライブモードはノーマル、エコ、スポーツの3種類から選択可能。スポーツを選ぶとひと呼吸おいて、同じアクセル開度でもグンっと車体を一瞬加速させ右足の動きにより俊敏に反応するようになる。エコはパワーを絞りすぎていないのが好印象で、途端に「かったるい」動きになることはなかった。

短時間の試乗ではあったが600eからは以上のような性格を感じ取れた。もし私がオーナーになったら、エコモード+Bレンジで、回生によるエネルギー回収を行いつつ、より長く航続距離を確保するドライブパターンにするのではと考えた。

ブランド初搭載の機能がなかなか便利

発表会のレポート記事でも紹介したフィアットブランドとして初搭載の機能も試してみた。まずはACC使用時に走行している車線の任意の位置を維持する「レーンポジションアシスト機能」。車線の右寄りでACC走行を開始すると、確かに右側をキープしてくれた。高速道路によっては第一走行車線の左白線付近にやたらと段差が多い箇所があったりするので、そういった場面を避けるのには最適だ。

もう一つはキーを所持してリアバンパー下に足を入れるとトランクゲートが開く「ハンズフリーパワーリフトゲート」。これは他社でも採用しているモデルが多い機能。ただ足の動かし方が悪かったのか、反応しないこともあったので、何かコツがあるのかもしれない。

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ステランティスグループ内の個性豊かなEV選択肢

今回のフィアット600eの発売(納車は11月からを予定)に引き続き、間も無くジープブランドで『アベンジャー』がデビューする。そして来年になってしまうが、アルファロメオからは名称変更が話題になった『ジュニア』も登場する予定。いずれもステランティスのe-CMPプラットフォームをベースとしたBEVモデルだ。

この3モデルの急速充電性能は最大50kWということなので、最近のライバルに引けをとっていることは間違いないし、急速充電を繰り返す長距離移動ではストレスを感じることがあるだろう。しかし自宅で基礎充電ができて、普段の移動範囲は片道200km圏内がほとんど、それを超えるような遠出は年に数回というユーザーなら、出先での急速充電性能はそこまで重視しなくても実用的に問題はないとも言える。

ジュニアは600eのZK02(115kW/156ps、270Nm)とは異なるM4 +という型式のモーターを搭載。出力も600eのほぼ倍である207kW/280ps(トルクは345Nm)を発揮する。より活発な走りを楽しみたい方に、またはBEVを待っていたアルフィスタにうってつけのモデルだ。

アベンジャーはジープ伝統の7スリットグリルをはじめとした「無骨な」SUVテイストのデザインを纏っている。これまでBEVにはなかったこのルックスで指名買いする人もいそうだ。

ステランティスグループでは、e-CMPプラットフォームを採用したBEVとして、2021年に『DS 3 CROSSBACK E-TENSE』、プジョー『e-208』、『e-2008』。2022年にはシトロエン『Ë-C4 ELECTRIC』、600eと同じフィアットブランドから小型EV用に新開発されたプラットフォームの『500e』を日本発売。今回の600eと、それに続くジープ『アベンジャー』、アルファロメオ『ジュニア』が登場すると、ブランドや個性も多様な8車種のEVがラインナップされることになる。

フィアット
600e
La Prima
全長(mm)4200
全幅(mm)1780
全高(mm)1595
ホイールベース(mm)2560
トレッド(前、mm)1535
トレッド(後、mm)1525
車両重量(kg)1580
前軸重(kg)870
後軸重(kg)710
前後重量配分55:45
乗車定員(人)5
最小回転半径(m)5.3
車両型式ZAA-FH1FI
プラットフォームe-CMP
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)126
一充電走行距離(WLTC、km)493
EPA換算推計値(km)394
モーター数1
モーター型式ZK02
モーター種類交流同期電動機
フロントモーター出力(kW/ps)115/156
フロントモータートルク(Nm)270
バッテリー総電力量(kWh)54.06
急速充電性能(kW)50
普通充電性能(kW)6
駆動方式FWD(前輪駆動)
フロントサスペンションマクファーソンストラット(スタビライザー付)
リアサスペンショントーションビーム
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキディスク
タイヤサイズ(前後)215/55R18
タイヤメーカー・銘柄GOODYEAR EfficientGrip Performance 2
荷室容量(L)360
フランク(L)なし
車両本体価格 (万円、A)585
CEV補助金 (万円、B)65
実質価格(万円、A - B)520

取材・文/烏山 大輔

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					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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