テスラ新型モデルSで1850km弾丸遠征【前編】最新フラッシュで250kW超の充電出力を確認

テスラのフラグシップセダン新型『モデルS AWD』を使用して、1泊2日の超弾丸遠征。首都圏から出雲大社、香川への1850kmを走りました。テスラの最新セダンがどれほどのEV性能を実現しているのか。さらに急速充電器「FLASH」最新モデルによる充電の結果も含めてレポートします。

テスラ新型モデルSで1850km弾丸遠征【前編】最新フラッシュで250kW超の充電出力を確認

座間市〜出雲大社〜高松市〜長野市を走破

私自身、すでにモデルSは2019年モデルの100Dと2023年モデルのAWDを2回検証済みです。ただし、後者は冬場に検証を行ったため、はたして夏シーズンでどれほどの長距離走破性能を実現できているのか、そして中国地方の充電インフラの実態を体感するために、これまでの遠征史上最も遠方の中国地方や四国地方にまで足を伸ばしました。

前半のレポートでは、途中立ち寄った急速充電器FLASH(フラッシュ)の最新世代機種である「MARK.5」の実力が注目のトピックになります。

走行ルートは座間市(神奈川県)をスタートして新東名自動車道経由でフラッシュマーク5が設置された愛知県一宮市へ。その後、東名自動車道/中国自動車道経由で鳥取市街へ抜けて目的地の出雲大社(島根県)で折り返し。中国山地を越えて瀬戸大橋経由で高松市街(香川県)を経由して、検証用車両返却場所である長野市街へノンストップで戻るというルートです。観光も含めておおむね50時間ほどで走破する計算です。

モデルS AWDのバッテリー容量は、テスラから正式なアナウンスはないものの100kWh。一充電航続距離はWLTPモードで634km。デュアルモーターのAWDで、0-100km/h加速は3.2秒。最高時速は250km/hというスペックです。

【区間①】座間市→一宮市(FLASH MARK.5:240kW級急速充電器)
●走行距離:343km
●消費電力量:81%→4.2%
●平均電費:196Wh/km(5.1km/kWh)
●外気温:21℃〜25℃

早速今回の長距離検証の重要テーマでもあったFLASHの最新世代MARK.5の急速充電器に到着しました。まずこの区間では雨が降っていたという点、そしてSOC10%以下に減らすために飛ばし気味で走行したため電費が悪化しています。それでも、SOC80%で関東を出発して愛知・一宮市街に余裕をもって到着できるのは、モデルSの長距離走破性能の高さをイメージできると思います。

液冷ケーブル採用で最大240kW出力を実現

FLASHについて説明しておきましょう。すでに私自身、EVsmartブログ上でもモデル3ハイランドを使用してFLASHの利便性をレポートしたことがあります。その際に使用したFLASHはMARK.2というチャデモ規格とNACS規格の両方の充電プラグを備えた第二世代でした。そして現在FLASHは第五世代までアップグレードされており、一宮に設置された第五世代のMARK.5では液冷式の充電ケーブルを採用することによって、最大出力240kWを発揮可能となっています。

具体的なスペックは、チャデモ規格の場合が最大で「400A×750V」 、NACS規格では最大「600A×1000V」と公表されています。現状では規制緩和待ちで最大450Vに出力制限して運用中ですが、車両側の受け入れ可能な電流次第で240kW以上を発揮可能な実力を持ち合わせています。

FLASHの世代別スペック一覧。MARK.2以降はNACS規格も併設するデュアルガン仕様に。外観からは世代をほぼ判別不能な点は厄介なところ?(データ出典/テンフィールズファクトリー)

実際に充電をスタートすると、SOC10%を超えた段階で、充電器側に255kWという、日本国内の公共の急速充電器では見たこともないような高出力が表示されました。

ただし、OBD経由で車両情報を取得可能なScan My Teslaのアプリ上では238kW程度という数値が表示されていました。Scan My Teslaに表示される充電出力の数値は、実際にバッテリーに充電されている出力であり、その一方でFLASHのディスプレイ上で表示されているのは、あくまでも充電器側が流している電力です。したがってその差分が充電器側や充電ケーブルの冷却のためのロスだったり、車両側のバッテリー冷却や空調システムや電装系の作動分のための電力となります。

ちなみにテスラが展開しているスーパーチャージャーの場合は、車両側のバッテリーに充電されている電力が最大250kWとなっています。この場合も、実際に充電器側が流している電力は250kW以上ということになります。

そして重要な部分は、従量課金を採用するFLASHでは、充電器側が流した電力量に対して課金されるという点でしょう。つまり充電ロスなどを含めた電力量に対して課金されるため、実際に車両側に充電された電力量よりも、最大1割程度多くの電力量に対して充電料金を支払うことになります。

なぜ車両側に充電された電力量よりも多くの充電料金を支払わなければならないのか、というクレームに発展する可能性もあり、この点は従量課金を採用する充電サービス事業者側の事前アナウンスとともに、我々EVユーザーサイドも理解しておく必要がありそうです。

SOC10%を超えた段階で255kWという充電出力に到達。「600A×約425V(アプリで確認した車両側の電圧)」が発揮されている計算になります。よって240kWという公称出力よりも高出力を発揮可能な冗長性が備わっていることも確認できました。

従量課金を採用するFLASHではSOC90%で充電セッションが強制的に終了します。SOC87%分の充電料金は約6000円という結果です。この充電料金を高額とみるか安いとみるかは人によるでしょうが、個人的には、会員登録が必要ないという点、および250kW超の超急速充電ができるという点で、極めてコストパフォーマンスの高い急速充電器であると感じます。

ちなみに、現在テンフィールズファクトリーは66円/kWhのキャンペーン中。通常は88円/kWhなので、今回の充電セッションでは約8000円となります。モデルSを購入したオーナーへの特典である「3年間のスーパーチャージャー無料」期間が終了した際、スーパーチャージャーよりもやや割高というような単価設定ということになります。

スーパーチャージャーV3に匹敵する充電性能を確認

ここでFLASHを使用した場合とテスラ・スーパーチャージャーV3を使用した場合の充電セッションを比較しましょう。

まずSOC10%から80%までの充電時間はともに29分間と、FLASH MARK.5はスーパーチャージャーV3と全く同等の充電性能を達成したことになります。私自身が実施した航続距離テスト(GPS速度100km/hで高速道路を往復巡行)で611kmという結果が出ているため、30分間の充電時間で、実用航続距離にして442km分を回復可能な計算となります。

これは過去に検証を実施した競合のプレミアムEVセダンであるメルセデスEQEやEQS、アウディRS e-tron GTなどと比較しても、頭ひとつ抜けた充電性能です。いずれにしても、このレベルの急速充電をスーパーチャージャーV3以外で達成できるとイメージしてみると、公共急速充電器を利用する場合はチャデモアダプターを使用して最大50kW(125A)で充電するしかなかったテスラユーザーにとってはかなりの朗報と言えそうです。

また、今後「400A×750V」を発揮可能としているチャデモ規格でも充電テストを行う予定ですが、テスラユーザーだけではなく、特に高い充電性能を有するチャデモEVユーザーにも朗報となり得るでしょう。

他方で、今回検証に使用した新型モデルSは、新車購入の際に3年間のスーパーチャージャー無料特典が付与されるので、あくまでもFLASHは緊急的な使用用途とはなりそうです。ちなみに充電ロスは約13.0%と概算でき、スーパーチャージャーと比較するとややロスが多いように見えますが、これは充電器によって計量方法が異なるため、一概にスーパーチャージャーの方が高効率と結論づけることはできません。

使って感じたFLASH MARK.5の「強み」と「弱み」

FLASH MARK.5を使用した際に感じた、現状のFLASHの強み・弱み、および改善点をまとめておきます。

【強み】
○ 1回30分の時間制限がない。
○ 24時間365日利用可能。
○ 従量課金なので、ユーザー・設置者双方の充電料金に対する納得度が高い。
○ デュアルガン仕様なので、日本国内で発売されている多くのEVがアダプターなどを介さずに充電可能。
○ 会員登録の必要なし。クレジットカード・QRコード決済で簡単に決済。
○ 充電終了後3分以内に決済しないと超過料金発生。充電放置問題を解決。
◎ スーパーチャージャーV3と同等の超急速充電(NACS規格の場合600Aを発揮)が可能。
◎ ブーストモードなどがないので、最大600Aを持続可能。
◎ 一宮の充電スポットは木曽川一宮インターから2km強程度とテスラスーパーチャージャーと同じような距離感。しかも一本道なので比較的インターの近隣という感覚であり経路充電として利用可能。

※○はFLASH全世代共通の高評価部分。◎は一宮のMARK.5での高評価部分です。

【弱み】
△ 充電プラグ・ケーブルが重く、太く、硬いため、取り回しが悪い。
→充電ケーブルマネージメントの採用が必要?
△ 一宮の充電スポットは駐車場の敷地に設置されているため、アメニティ利用不可。コンビニなども遠い。
→今後は商業施設やコンビニ、ゆくゆくはサービスエリアなどへの設置に期待
△ 一宮の充電スポットは1台の急速充電器しか設置されていないので、充電待ちのリスクがある。
→利用率の高いと見込まれる経路充電スポットのみに対して複数器設置が理想的
△ 600Aを流している間は充電器からの騒音が激しく、夜間帯の利用だと近隣からの苦情などが気になる。
△ 夜間だと充電器の視認性が悪く、充電器を見つけるのに苦労する場合も。
× 2020年10月以前に生産されたテスラ車はプロトコルが異なるためネイティブにFLASHを利用することができない(アダプター経由なら充電可能※最大50kW)。

さあ、一気に出雲大社へ!

【区間②】一宮市街→鳥取スーパーチャージャー(250kW級急速充電器)
●走行距離:338km
●消費電力量:71%→3%
●平均電費:177Wh/km(5.65km/kWh)
●外気温:33℃〜37℃

一宮で仮眠などしてから一気に走り、山陰地方に入りました。そしてテスラ最大の強みというのが、鳥取市街にもV3スーパーチャージャーが設置されている点です。しかも4台設置されているので充電待ちのリスクはほとんど心配する必要がありません。ことに山陰地方とあって行楽シーズン以外は利用率はさほど高くないはずです。これが、数年後の最大利用率に合わせてインフラ整備を進めているテスラ最大の強みであり、急速充電ネットワークがEV性能の一部であると呼べる理由でもあります。

夕食は牛骨ラーメンをいただきました。日曜の夕方にもかかわらず、鳥取駅周辺の飲食店は閑散。事前に調べておいた目当ての店もことごとく閉店していました。地方創生を掲げる石破新総理のお膝元ということもあり、今後の鳥取県の動向も注目されます。

【区間③】鳥取市街→道の駅大社ご縁広場
●走行距離:112km
●消費電力量:98%→72.5%
●平均電費:149Wh/km(6.71km/kWh)
●外気温:29℃〜30℃

ついに島根県の出雲大社に到着しました。前半戦の走行距離は852kmと、すでに一回分の1000kmチャレンジに迫る長距離を走破していますが、充電回数は一回30〜40分程度の充電を2回のみ。もちろんSOC70%以上で到着しているため、さらに300km以上の航続距離を残しているという点を考慮に入れると、やはりモデルSの長距離走破性能の高さが実感できます。

ただし、後半のレポートで詳細に説明する予定ですが、この出雲大社近辺にはテスラ・スーパーチャージャーが存在しません。新型モデルSはチャデモアダプターを使用して公共の急速充電器を利用することができないので、鳥取に戻るか、それとも岡山・広島の瀬戸内海に出るか、もしくは一泊して目的地充電を行うかという選択を迫られることになります。

次の目的地である香川県までどのように走破できるのか。後半戦では、テスラだけではなくチャデモ規格も含めて、中国地方の充電インフラの普及動向を中心にレポートしていきたいと思います。

取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル

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