フォルクスワーゲンCEOが語った「EV普及の進展」&日本車の未来を考えてみた

アメリカのブロガーによるフォルクスワーゲンブランドのトーマス・シェーファーCEOへのEV普及進展に関するインタビューのXポストに遭遇。翻訳の承認をいただけました。日本のEV普及についての考察とともに紹介します。

フォルクスワーゲンCEOが語った「EV普及の進展」&日本車の未来を考えてみた

※冒頭写真はトーマス・シェーファーCEO。

EV普及の進展を考えるためのヒントがいろいろ

2024年の初夏、Xのタイムラインで Alexさん(@alex_avoigt)というブロガー&ユーチューバーが、フォルクスワーゲンブランドのCEOであるThomas Schäfer(トーマス・シェーファー)氏への興味深いインタビューを紹介する長文ポストを発見しました。

普及価格帯EVや自動運転への見解などが紹介されていて、日本におけるEV普及を考える上でも重要なヒントや示唆を含んだ内容だと感じて、さっそくポストの翻訳記事化をオファー。数カ月の時を経て、承諾の返事をいただけました。少し時間が経ってしまいましたが、状況はそんなに変わっていません。日本におけるEV普及の課題への考察とともに紹介します。まずは、インタビューの翻訳から。

Xのポストをキャプチャーして引用。

トーマス・シェーファーCEOへのインタビュー

Q/EVが一般人にも手が届く価格になるのはいつでしょう?

シェーファー氏(以下、敬称略) 問題は、EVの価値創造においてバッテリーのコストがまだ非常に高く、車両の約4割を占めていることです。そのため、これまでコンパクトEVの生産は経済的に現実的ではありませんでした。(後略)

Q/世界的に今重要な中国市場において、御社は競合に遅れを取っています。何かを見過ごしていたのでしょうか?

シェーファー そうは思いません。当社は中国にヨーロッパ市場向けの設計や価格帯の車を導入し、いくつかの場面において少し顧客の期待とは異なる結果になってしまっただけです。

Q/つまり、たんに車が高すぎたのですね。

シェーファー この12ヵ月間、私たちは車の価格や魅力についてかなり努力してきました。中国市場は競争が激しく、プレーヤーも多いです。そんな中、VW ID.3はセグメント内の厳しい状況から抜け出し、2023年、そして2024年5月に中国市場のベストセラーモデルになりました。これは当社がもっと上を目指せることを示しています。(後略)

Q/いつかヨーロッパでEVが大規模に普及するようになれば、遅かれ早かれ中国から安い車が市場に大量に投入されるのでしょうか?

シェーファー その心配はないと私は思います。中国の競合は尊敬に値します。したがって、彼らがいずれヨーロッパに進出してくるのは明らかでしたが、それを長期的に持続するとなると話は違います。彼らはエンジン車でヨーロッパ進出に失敗し、今度はEVで挑戦しています。しかし、本当にヨーロッパで成功したいのであれば、ヨーロッパで車を生産しなければいけません。中国から中国価格でヨーロッパに車を送り込むだけではうまくいかないのです。そしてカーブランドを立ち上げるには、少なくとも4つか5つの車種が必要ですし、サービスやメンテナンスのためのディーラーや整備網を構築する必要もあります。当然、ヨーロッパの安全規制やEU 27カ国の個別の規制にも準拠しなくてはなりません。我々と同じ土俵に上がるためには、まず相当の能力を身に着けなくてはならないと思います。

Q/ヨーロッパの政治家は中国から車を輸入しづらくなるよう働きかけるべきでしょうか?

シェーファー 参入障壁を作るのは得策ではありません。自由で公正な取引にすべきです。だから私たちが努力してヨーロッパで売れる高性能かつ安価な製品を作らなくてはならないのです。ライバルと切磋琢磨することは、最終的にはお客様のメリットになります。さらに、コンパクトカーの生産には約10~11時間の労働力が必要ですが、今や中国との賃金格差はほとんどなく、ヨーロッパに車を持ってくる輸送コストでその差すら消えてしまうこともあります。

Q/VWは先日、1台あたりの利益を増やしたと発表しました。大衆の手が届くEVでそんなことが実現できるのでしょうか?

シェーファー 安全で、内装の質が高く、エントリーモデルとして妥当な航続距離があって、なおかつ価格は2万ユーロ前後というのが人気車種の条件です。この一年、こうした条件を満たすクルマづくりに邁進してきましたが、ビジネスとして成り立つためには大量に生産・販売をしなくてはなりません。(後略)

Q/自動運転についてはいかがでしょうか?

シェーファー 簡単に言うと、2種類の形態があると思います。ひとつは完全自動のドライバーを必要としない自動運転。これは主に商用車での利用になるでしょう。この技術は非常に安定しており問題なく作動しますが、まだ非常に高価です。当社もハンブルクやミュンヘン、テキサス州オースティンで完全自動運転のタクシーの試験を行っており、これがとても良くできているのです。ただ、この技術は自家用車ではあまり利用されないと予想しています。

Q/乗用車の自動運転は進展しないということでしょうか?

シェーファー 今後数年は自家用車でも運転支援機能が改善することは間違いないでしょう。例えば高速道路や渋滞ではハンドルから手を離しても良い「ハンズオフ運転」が普及するでしょう。でも、自転車や歩行者がいる都市部での複雑な運転状況では、自家用車で自動運転が使える可能性は低いでしょう。駐車場も問題になるかも知れません。つまり、外部のシステムが車両を駐車してくれるか、もしくは車両自体が自律的に駐車スペースを探しに行く事ができなくてはならないのです。

―自動運転は、私がシェーファー氏の意見に同意できないポイントのひとつです。これについては私のニュースレター内で詳しく説明します。
(翻訳ここまで)

アレックスさんのニュースレターは、こちらのウェブサービスで配信(有料)されています。

日本に当てはめて考えてみた

まず、広く一般人たちにも手が出しやすい価格帯のEVがいつ登場するのかについて。すでに日産サクラやBYDドルフィンなど、補助金が適用される方にとっては条件次第でガソリン車以下の値段に到達しています。ドルフィンを例に取ると、消費税込みでメーカー希望小売価格が363万円。これに国と東京都の補助金が80万円、さらにBYDから40万円、オートバックス系BYD店(東雲BYDなど)は50万円、自宅にソーラーパネルが設置されていれば30万円の補助金が得られ、全部当てはまる人は135万円で車が購入できることになります。同格のホンダ フィットの乗り出し価格が189~258万円なので、EVだから高いということはもうありません。

BYD ドルフィン

「補助金が大量に出ているからじゃないか」という反論はごもっともですが、数年前は補助金が出ることに加えてEVのメンテナンスコストが安いことから総保有コストでガソリン車より安いと言われていました。今や補助金だけでガソリン車より安くなりましたし、今後は補助金抜きでEVのほうが安くなる時代が来るでしょう。逆にガソリンへの補助金はいずれ廃止されるでしょうし、そのうちガソリン車は金持ちの道楽と言われる時代が来るでしょう。

でもやっぱり国産EVに乗りたいし、軽自動車はライフスタイルに合わないという方もいます。最近は「EVの成長鈍化」というニュースも見かけますが、私の推測では各社がテスラやBYDなどトップブランドと比肩するモデルを出すために力を貯めている時期なのだと思います。したがって、国産の安心を買いたい方はあと2~3年待つことで、もしかしたら300万円台程度で高い競争力のあるモデルを手に入れられるようになるのかも知れません。

キーワードは「軽量化」と「高効率」

現在のEV開発のトレンドを見ると、「軽量化」と「高効率」というキーワードが浮かび上がってきます。電費を良くすれば少ないバッテリーで同じ航続距離が確保でき、バッテリーが少ないと車が軽くなるからさらに航続距離が伸び、しかもコストも低減するのです。充電インフラも着実に増えており、電欠に対する不安は解消されつつあります。そのため、日本メーカーの将来は、第2世代EVでどれだけ新興輸入車ブランドに対抗できるかにかかっています。

ホンダN-VAN e: 。来年にはN-ONEのEVモデルも登場予定。

次に、関税等で障壁を作るべきかという議論ですが、私もシェーファー氏と同じく不要だと思います。相手国で報復措置を取られると日本車が売りにくくなるのも当然ですが、そもそも多くの日本人は昔から付き合いのあるディーラーの営業さんを頼りにしているため、輸入車ブランドが受け入れられにくいです。ドイツ御三家のように受け入れられているブランドは価格帯もプレミアムです。普及価格帯における日本メーカーの優位性はガソリン車時代と同じで変わらないと思います。

最後に自動運転について、日本は規制大国だと思われがちですが、実は自動運転に関しては世界でも優遇されている市場です。トヨタ肝いりのウーブンシティなどは積極的に自動運転の技術開発に協力する姿勢をみせています。問題は、日系メーカーでソフトウェアに強いところがないことで、個人的にはスバルのアイサイトがイスラエルのモービルアイ製に変わったように、各社の自動運転もテスラやWaymo、NIOなどの供給を受けるのではないかと予想しています。

今後の中華EVメーカーの台頭を考えると、日本メーカーが注力すべきポイントは「外国でも売れる軽量高電費EVを作ること」、「自動運転は早々に諦めて勝ち馬のシステムを供給してもらうこと」、そして「安全や信頼性といった長年培ってきたイメージを今後も維持すること」だと考えます。

翻訳・文/池田 篤史

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 今BEVを推している人は、引っ込みがつかなくなった人かな?まだまだ先の話と言うことが証明されたというのに未練のタラタラ。

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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