ヒョンデの新型『IONIQ 5』一番乗り長距離試乗「東京→岡山」約700kmで感じた実力は?

発売されたばかりの新型『IONIQ 5』で東京から岡山まで約700kmを走ってきました。バッテリーの増量で伸びた航続距離の実感や150kW器での急速充電結果とともに、実際に運転してみて感じた印象などをレポートします。

ヒョンデの新型『IONIQ 5』一番乗り長距離試乗「東京→岡山」約700kmで感じた実力は?

発表会場から一番乗りで試乗を開始

2024年11月8日、新型『IONIQ 5』発売やコンパクトEV『インスター』の2025年春の日本発売が正式に発表された「Hyundai Biz. Day」を取材。発表会終了後、会場の Hyundai Customer Experience Center 横浜(CXC横浜)から新型 IONIQ 5を借り出して、岡山まで約700kmの長距離を試乗する機会をいただきました。

別記事で紹介したように「Hyundai Mobility Lounge 岡山」が開設された「Heart Up World」岡山野田本店のグランドオープンの取材に行くために、ヒョンデ・モビリティ・ジャパンが試乗のチャンスを用意してくれたもの。復路は別のメディアの方が試乗することになっていたので片道だけのドライブです。

「Biz. Day」は8日のお昼過ぎに終了。前泊のために兵庫県のホテルルートイン小野を手配してくれたので、そのまま西を目指してスタートできればよかったのですが、この日の午後は江東区で別件発表会の取材予定が入っており、新横浜から江東区潮見駅前まで走り、夕方の取材終了後に前泊地の兵庫県小野市のホテルへの約560kmを駆け抜ける、それなりにハード目な行程となりました。

新型 IONIQ 5はバッテリー容量が72.6kWhから84kWhに約14%増えています。今回ドライブしたのはRWDの「Lounge」グレードで、一充電航続距離は従来モデルの618kmから703km(ともにWLTCモードのカタログ値)へと、約12%増えました。CXC横浜からSOC100%でスタートしたものの、潮見まで戻ったことで残量は95%程度になってしまい「キリが悪いなぁ」と思っていたら……。たまたま取材先近くの駐車場に6kWの普通充電器が4基も並んでいたので取材中に充電。しっかり100%からスタートすることができたのでした。

満充電の100%で表示された航続可能距離は「637km」。カタログスペックの703kmより10%ほど少ないですが、余裕の600km超えは感慨深い。新東名の120km/h区間を含む実際の走行ではさらに走れる距離は減って550〜560km程度になるだろうと推察。と、これはちょうど目指すホテルまでの距離。宿泊予定のホテルルートイン小野にもエネチェンジの6kW充電器が2基設置されています。これは「無充電で走りきってみろというヒョンデからのメッセージか?」などと邪推しつつ17時過ぎに潮見を出発したのでした。

ユーザーの声を聞き届け「より上質」なEVに進化

実際に長距離を走ってみて感じたポイントを列記したいと思います。新型 IONIQ 5 の外観やインテリアなどのデザインは、従来モデルとそれほど大きくは変わっていません。フロントやリアのロアバンパー部分が少し大きくなって存在感を増していますが、オーナーなど相当精通している人じゃないと気が付かないレベルの変化といえるでしょう。

明確な違いのひとつが、リアワイパーが装備されたこと。従来モデルには「空力で雨滴が気にならないようになっている」としてリアワイパーがなかったのですが、ユーザーからの要望は多かったポイントです。

さらに、スマホのワイヤレス充電トレーがセンターコンソールの使いやすい位置に変更されました。これもまた、ユーザーからの要望に応えた進化です。

ちょっとしたことではありますが、実際に乗ってみるとこうした改良によって「より使いやすく上質なEV」に進化していることが実感できました。日本発売からまだ2年ほどしか経っていませんが、ユーザーの声をしっかりと聞き届けて改善していくあたりに、「Biz. Day」でも強調された「販売台数を追い求めるより地道に顧客満足を積み上げていく」というヒョンデの姿勢を感じます。

ACCなど先進運転支援機能の使い心地が格段に向上

以前長距離試乗した従来モデルのIONIQ 5では、ACCやレーンキープアシストなどの先進運転支援機能を使う際、車線の右端に寄りがちだったりする「癖」があって気になっていました。でも、新型ではこの点が大きく進化。ナビ連動となってジャンクションなどの急カーブでは速度を落としてくれたりするのとともに、先進運転支援機能全体の信頼感が大きく向上していることを感じました。

高速道路走行時、ウインカーを軽く倒すと車線変更してくれる自動レーンチェンジの動きもスムーズになった印象です。ウインカーを倒すと3回ほど点滅する間に前後の安全を確認し、10回ほどの点滅でレーンチェンジを完了して自動でウインカーがオフになります。車線変更の動きもスムーズで、今回のドライブ中は高速道路での車線変更の7割くらいは自動レーンチェンジ機能を使った感じです。

従来モデルの試乗から時間が経っているので詳細な比較はできないですが、遮音性も向上しているということで実際に120km/h走行時も「なるほど静かだな」と実感できるレベル。運転支援の安心感向上もあいまって、高速道路のロングドライブが苦にならない、さらに上質なEVに進化しているのを確認することができました。

急速充電は最大141kWの出力を確認

スタート直後の航続可能距離表示はホテルまで無充電走破も十分余裕の数値でした。とはいえ、大容量バッテリーのEVに乗ると、電費よりも快速を求めてしまうのは人の性。新東名の120km/h制限区間を快調に走るうち、静岡ICを過ぎるあたりで「ちょっと届かないなぁ」って感じになってきて。

残量26%、航続可能距離表示129km(ホテルまでは約200km)で湾岸長島PAにピットイン。ABB製の150kW器で30分間の充電を行いました。

充電開始後数分間は出力141kWを維持。6分ほど経過して再確認した際には121kWになっており、ブーストモードが発動する15分までは121kWを維持。15分経過後、81kWに落ちました。

従来モデルでは「405V×200A=81kW」が基本で、ソフトウェアのアップデートによって最初の8分間限定で「405V×250A=約101kW」で充電することができる急速充電性能になっていました。今回確認できた141kWはざっと試算して「405V×350A」となり、150kW器の性能をフルに引き出していることになります。

121kWでも約300Aの電流値なので、新型の急速充電性能は従来モデルに比べて大幅に向上しています。

15分でブーストモードが発動したので、一度充電を止めてもう1口に繋ぎ直そうかと思ったのですが、タイミング良く(悪く?)隣の区画でアウトランダーPHEVが充電を始めたので断念。

2台充電になった途端に、出力は51kWに激減しました。この150kW器は1口使用時最大150kW、2台同時充電時は「90kW×2」になるはずで、アウトランダーの充電出力は16kWしか出ていなかったし、こっちはずっと81kWが続けばよかったのですが……。この出力低下はおそらく充電器側の制御だと思われますが詳細は謎。このあたり、もっとわかりやすくなるといいですね。

ともあれ、150kW器30分間で約43.8kWh、72%まで充電できました。航続可能距離表示も400kmを超え、ホテル到着までは余裕です。

東京ー大阪間のSAPAで150kW器が設置されているのは今のところ、駿河湾沼津SA、浜松SA、湾岸長島PAの3カ所だけ。90kW器の設置場所はかなり増えましたが、90kW器のスペック上の最大電流は「200A」なので、従来モデルの「250A=101kW」や、新型の「350A=141kW」という高出力は望めません。

数年前を思えば贅沢な話ではあるものの、高性能なEV車種が増えるなか、幹線高速道路のSAPAにはある程度の間隔で150kW器が増えることを期待してしまいます。

ホテルでも無事に充電できて岡山到着

宿泊したホテルルートイン小野の駐車場には、EV充電エネチェンジの6kW器が2基設置されていました。ルートインのEV充電器が6kWに更新されているのは以前の記事でもお伝えしました。その際は、従来の3kW2基が6kW1基となるちょっと悩ましい現実もあったのですが、あれから1年ちょっとが過ぎて、ルートインの6kW器を2基に増設する動きが始まっているようです。素晴らしい!

ルートインの充電器は経産省の補助金は使わずに設置されているので、19時〜9時の時間帯は宿泊者専用となります。宿泊するEVオーナーにとってはありがたいことなのですが、EV充電エネチェンジのアプリで空き状況を確認しても、19時以降は自動的に「利用不可」と表示されて空いているのかどうかがわかりません。

午前1時過ぎ、充電区画が空いていることを祈りながら残量31%でホテルに到着すると、無事に1基空いていて充電することができました。

お隣は同じようにCXC横浜から走ってきた別メディアの方が試乗している新型IONIQ 5です。朝の出発時に顔を合わせて少しお話ししたところ、彼が到着したのは23時過ぎで、その時にはPHEVが1台充電していたとのこと。夜遅い時間にも関わらず「充電が終了してちゃんと移動してくれたんですね」と感謝です。

ホテルから岡山の式典会場までまだ120kmほどあったので明朝は8時ごろ出発。7時間足らずだったので満充電にはなりませんでしたが、SOCは73%まで回復していました。宿泊するホテルで普通充電できるのは、本当に心強いです。

時間にあまり余裕はなかったのですが、式典終了後は復路の方が試乗すると聞いていたので、途中、権現湖PAの90kW器でブーストモードが発動するまで15分だけ急速充電。SOCは61%から83%まで復活し。岡山市内の会場到着時は75%でスタッフの方に新型 IONIQ 5をバトンタッチ。突貫試乗を終えたのでした。

端的に結論を言うと、新型 IONIQ 5、従来モデルも良かったけど、さらに魅力的で上質なEVに進化しました。バッテリーの増量はもちろんですが、急速充電性能の向上は大きな魅力。400V/800V規格にマルチで対応するということですから、高速道路SAPAなどに開発中のチャデモ350kW器が設置され、充電するのが楽しみです。

今回は、ルートインの充電器が増設されていることも確認できました。EVとともに充電インフラも進化の途上。日本でもEV普及は着々と進んでいます。

取材・文/寄本 好則

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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