NEV隆盛の自動車業界を支える中国の意思を実感
22回目となる広州モーターショー(広州国際汽車博覧会)が2024年11月15日〜24日、広東省広州市で開催されました。毎年4月に開催される上海や北京(毎年交互に開催)に比べると規模は小さいものの、広東省近辺を本拠地とする自動車メーカーは多く、各々の新車種ワールドプレミアは毎回注目の的です。
今回の広州モーターショーには自動車メーカーだけでなく、自動車メディアや部品サプライヤー、物流企業、金融企業など約200以上の企業が出展しました。最近の中国ではシャオミがEVに進出するなどもともと自動車関連ではなかった企業以外の進出も目立ってきている状況で、まさに「中国全体」で自動車業界を支え、内需と外需の両方を推し進めていこうという意図が見えてきます。
日本の自動車メーカー・ブランドではトヨタやレクサス、日産、インフィニティ、ホンダ、そしてマツダがブースを構えました。
トヨタは中国で、第一汽車との「一汽トヨタ」、そして広州汽車との「広汽トヨタ」という2つの合弁会社を設けています。これは昨今の電動化の潮流によって設立されたパートナーシップではなく、2000年代初頭からずっと続いているものです。中国では輸入車に対して関税15%を課税しており、その回避のために多くの自動車メーカーは中国国内で生産します。2022年までその生産には中国現地の自動車メーカーとの合弁設立が不可欠であったため、レクサスなど高級ブランドを除くほとんどの自動車メーカーは、国籍問わず中国メーカーと合弁企業を組んでいます。
この特殊な業界事情はモーターショーの展示形態にも現れています。中国以外のモーターショーでは基本的にひとつのメーカーはひとつのブースですが、合弁企業を複数設立しているトヨタやホンダ、フォルクスワーゲンといったメーカーは、それぞれの合弁企業でひとつのブースを持っています。これはそれぞれの合弁企業で担当する車種や客層が異なるためもありますが、今回の広州モーターショーでは「広州汽車(GAC)」系列企業を同じ展示ホールに集め、企業自体の一体感を演出する狙いもありました。そのため、本家・広州汽車が展開する「アイオン(埃安)」や「トランプチ(傳祺)」ブランドと同じ空間に、「広汽トヨタ」や「広汽ホンダ」が並んだ形になっていました。
発売間近の『bZ3X』〜衝撃の価格公開!
広汽トヨタブースでは、2025年初頭に発売を予定する中国向けBEV『bZ3X』の詳細が明らかとなりました。車種自体は2024年4月の北京モーターショー2024で初公開されたものであり、今回の発表では具体的な機能や、10~15万元(約214.9~322.3万円)という価格の公開がありました。
日本メーカーの開発するBEVであることを考えると、この販売価格はかなり衝撃的であると感じました。現在、トヨタが販売している中国向けBEV「bZ3」はメーカー希望小売価格が16.98~19.98万元(約351.1~413.1万円)、ディーラーでの実際の乗り出し価格は大幅値引きをして販売されるため、12万元(約250万円)前後からとなります。中国の地場メーカーが続々と10万元(約205万円)台前半で購入できるPHEVやBEVをリリースしている状況を鑑みると、ここまで安くしないと中国メーカーに対して勝負できないということかもしれません。
広汽トヨタはbZ3Xの最も重要な特徴として、トヨタ自身が長年大切にしてきた安全性への考えをアピールしました。普段クルマを運転する人からすれば安全性が大事だという感覚は当たり前かもしれませんが、一方で急進的にクルマを手に入れられるようになった中国の消費者の間では、安全性に対する価値観がいまひとつ育っていないようにも思えます。「安全性」や「乗り心地」、「購入後のサポート」よりも「画面越しの映え」や「車内エンターテインメントの充実さ」を重視する傾向にあり、そこが日本や欧州メーカーがこれまで培ってきた設計思想との相違を起こし、中国メーカーに対してシェアを奪われている原因ともいえます。
ですが、このような傾向を理由に安全性よりも「映え」を重視する方針に自動車メーカーが転換することも無責任と言えます。トヨタが安全性と信頼性を軸に評価されているのは中国市場でも変わりませんし、実際に中国の各自動車メディアがbZ3Xを取り上げる際も「バッテリーの安全性」「ひと家族が安心して長距離を移動できる信頼性」といったワードを頻繁に目にします。トヨタとしても、これまで得てきた消費者の信頼を裏切らず、なおかつ中国の「新しい消費者」にウケるクルマ作りをしていかなければならないことでしょう。
bZ3Xの内外装はそこまで奇抜なものではなく、比較的シンプルで保守的な設計に留めています。ルーフ先端にはLiDARユニットを1基搭載し、中国の自動運転ベンチャー「momenta」と共同開発した「L2++」レベルの運転支援機能に対応します。目的地をナビで設定することで一般・高速道路にてクルマが自分で発進や停止、右左折、車線変更、合流での流出入を行なう「NOA(Navigation on Autopilot)」を主たる機能としてアピールしています。
bZ3X以外にも、広汽トヨタは広州モーターショー2023でお披露目した純電動セダン「bZ FlexCabin Concept」の正式名称を「bZ7」と発表し、2025年の広州モーターショーにて量産モデルの公開を予定していることも明らかとしました。
日本メーカーで唯一、新型BEVを発表した日産
今回出展した日本メーカーの中で唯一、新たなBEV車種を発表したのが日産です。ここ最近は低迷する業績で良い噂を聞かない日産ですが、純電動セダン「N7」のお披露目にはかなり力が入っている印象を受けました。
N7は今年4月に開催された「北京モーターショー2024」で発表された「エポック コンセプト」の市販モデルで、ボディサイズは全長4930 mm x 全幅1895 mm x 全高1487 mm、ホイールベース 2915 mmとなります。海外向けミドルサイズセダン「アルティマ」に近いサイズ感となっており、その後継かつ純電動モデルとして中国市場における日産の業績回復を担うことを期待したいです。
N7の開発自体は日産独自、もしくは合弁パートナーの東風汽車と共同で進められたかは明らかとなっていません。奇しくも東風汽車が販売するEREV/BEVの「eπ 007」とホイールベースは同一ですが、これをベースに開発したのかどうかは憶測の域を出ません。
ホンダは東風汽車との「東風ホンダ」、広州汽車との「広汽ホンダ」ともに新たなモデルの発表はなく、今年の北京モーターショー2024ですでに発表済みの「イェ(火へんに華)」シリーズのBEVを展示するにとどまりました。広汽ホンダでは「イェ P7」、東風ホンダでは姉妹車の「イェ S7」という純電動SUVを2024年の終わりから2025年初頭にかけて発売予定です。また、2025年には純電動5ドアクーペ「イェGT コンセプト」の市販モデルも投入されます。
マツダは長安汽車と共同で開発した純電動セダン「EZ-6」を中国で発売したばかりですが、評判は上々なようです。長安汽車の「ディーパル(深藍)」ブランドが販売する「SL03」をベースとしているために「単なるSL03の焼き増し」とも揶揄されましたが、EZ-6の内外装デザインや走りを評価する声は少なからず聞かれます。
中国向けBEVを中国のメーカーと共同で開発する流れはトヨタによるBYDとのパートナーシップが先駆け的存在でしたが、いまやアウディやフォルクスワーゲンといった欧州メーカーでも当たり前となっています。中国の消費者がクルマに求める要素は中国国外の感覚ではなかなか理解しづらいこともあり、事情や需要をしっかりと把握できている中国メーカーの協力を仰ぐことは、中国市場にて生き残る上で重要な戦略と言えるでしょう。
中国で開催される次なる国際モーターショーとしては、2025年4月の上海モーターショーが控えています。トヨタの「bZ」シリーズや、ホンダ「イェ」シリーズの新車種、そしてマツダが長安汽車との共同開発モデル第2弾として投入を予告している電動SUVのお披露目が期待されます。
取材・文/加藤 ヒロト