PHEVの実質的なバッテリー容量は19.7kWh
日本仕様の新型パサートには2リットルのディーゼルICE(TDI)、1.5リットルの48Vマイルドハイブリッド(eTSI)、そして1.5リットルのPHEV(eハイブリッド)が設定されます。eハイブリッドのシステムは110kW/250Nmのエンジンに85kW/330Nmのモーターを組み合わせたもので、バッテリーは総電圧352V、総容量25.7kWhのリチウムイオンを運転席の真下に搭載。EV走行に使用可能な実質的な容量は19.7kWhで、WLTCモードでのEV走行可能距離は142kmとなっています。
ボディ全幅は20mm拡幅の1850mm、全長は130mmも伸ばされて4915mmとなりました。ホイールベースも従来モデルよりも50mm長くなりました。ワゴン専用車ということで、ラゲッジルームの作り込みもよく、定員乗車時で従来より40リットル拡大の690リットルを確保、センタートンネル付き6対4分割のリヤシートをすべて倒したフルラゲッジでは従来比140リットルアップの1920リットルの容量を確保しています。また電動トノカバーやラゲッジフロアでの荷物固定、DC12V、AC100V(1500W)のアクセサリー電源を標準装備するなど機能も充実しています。
EV走行の限界SOCを自在に設定可能
走り出しはいたってスムーズ。バッテリー容量が80%以上のときは自動でEV走行からスタートするシステムとなっています。バッテリー容量が少ない際もモニター画面の設定でEVを選んでやればEV走行をします。バッテリー残量何%までEV走行するか? をモニター内で設定できるようになっているほか、メーター内に残容量の%(SOC)表示があるのも好印象です。
ハイブリッド走行を選んでもモーターアシストはあるのでスムーズさは同様です。同じエンジンを使うマイルドハイブリッドのeTSIは4気筒のうち2気筒を停止させ燃費向上を図りますが、eハイブリッドに気筒休止は採用されません。
DCC Proの足回りが秀逸な印象
アクセルを踏み込んでいった際のフィーリングもスムーズそのもの。EV状態ならこの加速感は当たり前ですが、エンジンが介入しているハイブリッドモードでもそれは同じです。このスムーズな加速感に貢献しているのはパワートレインだけではありません。試乗車のRラインに標準、エレガンスにオプションとなるアダプティブシャシーコントロールのDCC Proの効果が大きく効いています。
従来のDCCではショックアブソーバーの減衰力の伸び側/縮み側の両方の1つのバルブ制御で行っていました。これでもかなり効果のあるものだったのですが、今回のDCC Proでは伸び側/縮み側それぞれの減衰力制御を専用のバルブで行う2バルブ方式としています。この制御により生まれた正確なボディ制御は、加減速時のフラット乗り心地に大きく関与しています。
アクセルを踏んで加速する際も、逆に緩めて減速する場合でもクルマの姿勢はフラットを保ったままで実に快適です。もともとが減衰力をアップしたスポーツサスペンションなので荒れた路面ではやや突き上げ感がありましたが、そうした路面を走ることは少ないでしょうし、路面が荒れていることを明確に知ることも大切です。コーナリングに関しても十分なダンピングがあり、適度にロール感を抑えてくれるので安心感が高まっています。
センターモニター内のファンクションで回生量の強弱が調整できるので、試乗は「強」で行いました。このほうがアクセルを戻した際の減速度が高いので運転しやすい印象です。BEVや一部のPHEVの最強回生ほどは強くなく、適度な印象でした。とはいえ、モニターで回生調整よりはパドルなど手元で回生量が調整できたほうがうれしく、より効率的に回生させながらのドライブが可能になるでしょう。
静粛性を含めた快適性はかなり高いものでした。若干タイヤノイズを感じる場面もありましたが、セダンのように荷室と室内が隔離されていないステーションワゴンとしてはかなり高いレベルだといえるでしょう。
急速充電は非対応。普通充電は最大8kWに対応
パサートのPHEVは欧州車らしく急速充電には対応していません。欧州仕様はコンボ式なので急速充電にも対応するとのことですが、日本で急速充電に対応しようとするとCHAdeMO用の充電口やシステムを追加する必要があり、パッケージング的にもコスト的にも壁があります。急速充電には対応せずとも、PHEVはバッテリー容量が少ないので少し長めに駐車する時間を活用すれば、普通充電でも十分に実用的です。
普通充電性能は最大何kWなのか? が試乗会の現場では不明だったため、同じVWグループであるアウディの8kW充電器を探して接続してみました。探し当てたのは箱根の仙石原にある「箱根カントリー倶楽部」です。駐車場に着いてビックリしたのは普通充電器の数。トヨタ自動織機1基(3kW)、アウディとポルシェのデスティネーションチャージャー(最大8kW)が各2基で、合計5基の普通充電器が並び、充電用のEV優先区画が10車室も用意されていました。
私たちが到着した際は、すでにラウンドを終えて多くの方が帰路についている時間だったので、1台のボルボが充電しているだけでしたが、5口用意されている充電器が一杯になってしまうのは珍しくないとのこと。「とくにPHEVが多い」印象であると、対応していただいた総務部課長の内藤さんがおっしゃっていました。
箱根カントリークラブのEV用充電器は、いわゆる「公共用」ではなく、ゴルフ場でプレイするゲスト専用です。また、ゴルフ場の利用客以外でもフォルクスワーゲングループのプレミアムチャージングアライアンス(PCA)会員は利用可能。ゴルフ場のフロントで鍵を借りて、充電ケーブルを取り出すシステムになっていました。
EVやPHEVの普通充電性能は日本国内の場合、「最大3kW/最大6kW/最大8kW」対応があります。6kWには対応しているはずと予測しましたが、8kWに対応しているのかが謎でした。
アウディの8kW器で実際に充電を試したところパサートの車内に表示された出力は7.4kWでした。8kWではなく7.4kWだった理由は究明していないものの、パサートは普通充電8kWに対応しているということは確認できました。一般家庭で最大8kWの充電器を設置するのは契約容量の関係で難しいケースもありますが、ゴルフ場や宿泊施設などの「目的地」や職場などに8kW充電器があれば、かなり使いやすい状況だと言えるでしょう。バッテリー容量は25.7kWhなので8kW機ならば3時間プラスαでゼロからフル充電まで可能です。
パサートのPHEVであるeハイブリッドはエレガンスグレードで655.9万円、試乗したRラインで679.4万円です。国の補助金であるCEV補助金は55万円。令和7年度分の補助金額などはまだ発表されていないようですが、令和6年度実績で東京都の場合だと個人で給電機能なしPHEVは35万円、フォルクスワーゲンは実績上乗せで10万円なので計100万円の補助が受けられます。EVに向かって一歩踏み出そうと考えている方にとってPHEVは最初の一歩になりやすいモデル。補助を考えるとかなりお得感がある1台となるでしょう。
取材・文/諸星 陽一