ロサンゼルスオートショー2024現地レポート/サイバーキャブやアイオニック9に注目

117年の歴史を持つ「LAオートショー」が今年も開催されました。今回はテスラが出展してサイバートラックやサイバーキャブを展示。ヒョンデ『IONIQ 9』がワールドプレミア。日本メーカーの動向などとともにレポートします。

ロサンゼルスオートショー2024現地レポート/サイバーキャブやアイオニック9に注目

珍しくテスラがショー出展の内容は?

2024年11月21日〜12月1日まで「ロサンゼルスオートショー(LAオートショー)」が開催されました。規模や歴史はニューヨークオートショー(NYIAS)ほどではないものの、環境への配慮と自動車新技術への注目度が高いカリフォルニアで開催されるということもあり、各メーカーがBEVやPHEVの新車をこぞって発表する場でもあります。

LAオートショーは2021年から取材に訪れていますが、2024年は例年と比べて新車のワールドプレミアが全体的に少なかった印象を受けました。毎年大きなブースを出展していたベトナムの自動車メーカー「ヴィンファスト」がホール間の通路にあるわずかなスペースに移動したり、逆にLAオートショーではこれまで見たことなかった「テスラ」のブースがホール内に存在したりと、これまでとは違う感覚を味わいました。

日本導入は難しそうなテスラのサイバートラック。

テスラは既存の自動車メーカーとは違う戦略を立てているので、個人的にはモーターショーに出展するイメージがあまりありませんでした。ですが、今回のLAオートショーでは北米で販売中の小型ピックアップトラック「サイバートラック」に加え、2024年10月にお披露目したばかりの「サイバーキャブ」を展示。サイバートラックは2022年頃から実車(市販モデルではなく、コンセプトカーで一回り大きい)をピーターセン自動車博物館や、ArtCenter College of Designのイベントなどで見ていましたし、発売後のLAやラスベガスでも何台か野生の個体を各地で目撃していましたので、サイバーキャブの方が新鮮味のある展示でした。

現時点で公開されているサイバーキャブはまだ荒削りなモックアップという印象が強かったですが、それでも遠くから見ても「これまでとは違う異質なもの」と認識できるぐらいに存在感のあるクルマです。つや消しゴールドをまとったボディやバタフライドア、そして謎のディスクで覆われたホイールなど、どの要素も近未来の乗り物という雰囲気を醸し出しています。インテリアは発表時にも話題になった通り、ハンドルやペダル類といった運転装置が存在しておらず、完全自動運転のタクシーとして設計されています。

今回、筆者がLA市内で体験した完全無人タクシー「WAYMO」(後日レポート予定)のようなLiDARなどのぱっと見でも目立つセンサーは搭載されていないので、外観は非常にすっきりしています。

シートの形状は既存のテスラ車と比べてホールド性が悪そうな印象を抱きました。もしかしたらタクシーとしてのシート清掃のしやすさを考慮して、平面的なシートにしているのかもしれません。

なおサイバーキャブは二人乗りです。「タクシーなのに2人乗り? じゃあ、お客さんは1人しか乗れないの?」と思ってしまいそうですが、サイバーキャブはドライバー不要、運転装置さえついていない無人タクシーなので本来、運転席がある場所にも乗客が乗ることになります。つまり、乗客は2名まで乗れることになります。「ほとんどのタクシーは乗客が1〜2名」という利用実態を踏まえて2名乗車+広い荷物スペースを確保した仕様にしたようです。

サイバーキャブは2026年の終わりまでに量産を始めると言われており、3万ドル(日本円で約450万円)という驚異的な低価格での販売も発表しています。しかし、2代目ロードスターの発売が度々延期されているように、サイバーキャブの実現も遠のく可能性があります。

また、ハンドルやペダルのない構造がNHTSA(運輸省国家道路交通安全局)の定める「FMVSS(連邦自動車安全基準)」に抵触するとも言われており、ここでもサイバーキャブにタクシーで使用する「自動車」としての認可が下りるのか? 議論の的になりそうです。テスラのトップを務めるイーロン・マスクCEOはアメリカの次期大統領ドナルド・トランプ氏に急接近しており、テスラを優遇する規制撤廃などの可能性もあります。

ヒョンデ『アイオニック9』ワールドプレミア

今回のLAオートショーでもっとも注目を集めていたのが、韓国の自動車メーカー「ヒョンデ」の『IONIQ 9(アイオニック9)』です。アイオニック9は2021年のLAオートショーで発表された「セブン・コンセプト」の市販モデルという位置付けで、車格を表す数字が「7」から「9」へと改められました。

7コンセプト(LAオートショー2021)

コンセプト時代にあった観音開きドアはさすがに実現されませんでしたが、それでも3列シート(6座/7座)を持つ大型ボディとカムテールはそのまま継承されており、おおむねコンセプトモデル通りという印象です。ピクセル構成の灯火類はアイオニック5やアイオニック6と同じなものの、全体的なデザインの印象は既存のアイオニック車種とは異なる雰囲気をまとっており、良い意味でデザインの作り分けがなされていると感じました。

会場ではアイオニック9の展示だけでなく、設置された小さなコースでの同乗体験も提供されていたので、実際に乗ってみました。用意された試乗車はすべて最上級グレードの「Caligraphy」で、内装はアイオニック5とベースを共有しつつも、素材の質感や意匠などはより上級な印象を受けました。

キャビンのデザインは温かみのある曲線や落ち着いた色調などが融合して、心地よい「ラウンジのような雰囲気」を提供しています。1列目と2列目の両方にリラクゼーションシートが用意されており、ダイナミックタッチマッサージなどのボディケアシステムを備えていることにも注目です。ホール内での同乗ですのでおとなしめに運転するのかと思いきや、コーナー出口で強めにアクセルを踏んだり、直線で力強く加速したりと、意外とアグレッシブな同乗体験になったのが驚きでした。

アイオニック9は既存のアイオニック車種でお馴染みの「E-GMP」プラットフォームを採用しており、容量110.3 kWhの駆動用バッテリーによりWLTP基準値で620 kmの走行距離を誇ります。

グレードは主に3つ、出力214hpの 「Long-Range RWD」、308hpの「Long-Range AWD」、そして430hpの 「Performance AWD」 となります。Performance AWDでは0-100 km/h加速が5.2秒とのことで、このクラスのSUVとしては驚異的な加速力です。

車両重量は2500 kg前後と非常に重いものの、前後2つのモーターが繰り出す出力428 hpのおかげで出だしの鈍重感はありません。ただ、SUVであるために重心は高くコーナリング時の急ハンドルではどうしてもロールが過剰になる傾向があります。全長5060 mm x 全幅1980 mm x 全高1790 mm、ホイールベース3130 mmが提供する余裕ある大空間と相まって、7人フル乗車かつ荷物満載での遠出もなんなくこなしてくれる1台であると感じました。

日本メーカーはアキュラが唯一新型車を出展

ほかに出展していた日本メーカーや米国メーカーはどこも新車の発表がなく、これも今回のLAオートショーに抱いた寂しさの要因でした。例えばスバルは国立公園を模したアウトドア演出のブースで北米向けの新車を発表することがここ数年の恒例でしたが、今年はメインステージに発売済みのフォレスターを展示するにとどまりました。

日産は今回新車の発表がなかったものの、2024年に入って発表された「アルマーダ」「ムラーノ」といったSUV車種を初公開、ブースは多くの来場者で賑わいました。日産同様、トヨタも発表したばかりのオフロードSUV「4ランナー」新型モデルを公開しました。また、日産アリアの試乗コースも設置されており、試乗の順番待ちをする人の列ができていました。

日本メーカーの中で唯一、新たなBEVを展示したのがホンダのプレミアムブランド「アキュラ」です。アキュラのブースでは2024年8月に発表した「パフォーマンスEVコンセプト」の実車が初めて一般公開されました。

パフォーマンスEVコンセプトはクーペSUVのスタイリングが特徴的なBEVで、吊り目ヘッドライトやハンマーヘッド形状のフロントマスクといった要素は今後のアキュラ車種の方向性を予期させるデザインです。プラットフォームもホンダが自社で開発した新たなBEVプラットフォームを採用しており、市販モデルはオハイオ州のメアリーズビル工場にて2025年末から生産開始予定とのこと。

カリフォルニア州ではZEV(BEV、PHEV、FCEV)の販売割合を2035年までに100%とする「Advanced Clean Cars II(ACC II)」基準を設けており、その施行は2025年に各メーカーが発売予定の「2026年モデル」から適用されます。この時期が差し迫っているものの、アメリカの自動車メディアでは特に大きな話題となっておらず、LAオートショーでもそれを意識している印象は受けませんでした。

出展している各メーカーの担当者に聞いてみても「これまでと変わらずZEVの販売を推し進めていく」ぐらいの所感でした。アメリカ政治の行方次第ではこのような政策が一瞬でボツになることもあり得るため、ZEV化への準備や期待は多くの人が思っているほど高くないのかもしれないと、筆者は感じました。

各メーカーのロードマップはどこも「2025年」という年をマイルストーンと位置付けている印象ですので、来年のLAオートショーではより多彩な新発表が見られることを期待したいです。それと同時に、刻一刻と状況が変わるアメリカの政治に振り回される国内外メーカーの苦労は計り知れないものだと、2024年の大統領選直後に開催されたLAオートショーで感じました。

取材・文/加藤 ヒロト

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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