ニチコンが新型トライブリッド蓄電システム発表/自宅太陽光の電気を直流のままEVへ充電

ニチコンが太陽光の電気をより効率的に生活や電気自動車の充電に利用することができる「トライブリッド蓄電システム」の新型『T5/T6シリーズ』を発表しました。V2HでEV充電時の最大出力は9.9kW。発表会のレポートです。

ニチコンが新型トライブリッド蓄電システム発表/自宅太陽光の電気を直流のままEVへ充電

高性能化で社会的要請の高まりに応じる

電気自動車(EV)ユーザーにとっては高速道路の急速充電器などでおなじみのニチコンは、2025年2月13日に東京都内で行った発表会で、新型トライブリッド蓄電システム『ESS-T5/T6シリーズ』を今年(2025年)秋に発売することを発表しました。2026年3月までの初年度に2万台の販売を目指します。
※冒頭写真は新型トライブリッド蓄電システムと森克彦社長。

トライブリッドは、太陽光発電からの電力を貯めたり放出したりする時に、一般的な蓄電池を使うだけでなく、電気自動車(EV)も利用することでより柔軟に再エネを利用することができるシステムです。

また蓄電池、EVへの充放電を直流のまま行うので、交流/直流変換の損失がなく効率が高いのも大きな特徴です。初代トライブリッドの発売開始は2018年(関連記事)で、今回の新型は第3世代になります。

政府は2024年12月に発表した第7次エネルギー基本計画の原案で、2040年までに再生可能エネルギーの利用比率を40〜50%程度にする目標を掲げています。

そんな中、電気代の値上がりが大きいこと、売電価格が低下傾向にあること、またEVシフトは今後も加速するほか災害リスクへの懸念の高まりなどから、ニチコンは蓄電池のニーズが拡大すると予測。蓄電池だけでなく、EVが搭載している電池をどれだけ活用できるかが重要なポイントになると考えています。

新型トライブリッドは、こうしたニーズを拾い上げることができるよう、蓄電池の大容量化、パワコンの大出力化などを実現したそうです。

EVと蓄電池を組み合わせて電気の「家産家消」を目指す

新型トライブリッドのシステム構成は以下のようになっています。

トライブリッドESS-T5/T6シリーズ 概要と希望小売価格(税抜)

●トライブリッドパワコン「ES-T5」 連系出力5.9kW/最大発電電力8.8kW 150万円
●トライブリッドパワコン「ES-T6」 連系出力9.9kW/最大発電電力11kW 180万円
●蓄電池ユニット(屋内)「ES-BSM」 7.4kWh 190万円
●蓄電池ユニット(屋外)「ES-CSM」 7.4kWh 200万円
●V2Hスタンド/V2Hポッド「ES-PL1」 充電電力6kW未満(拡張時最大9.9kW)/放電電力5.9kW 190万円

なお蓄電池は屋内、屋外ともに、同容量、同価格の増設用ユニットがあります。増設ユニットを使用することで、蓄電容量は最大14.9kWhになります。

トライブリッドは、太陽光発電および系統電力から蓄電池/EVへの充電、蓄電池/EVから家庭への電力供給、太陽光と蓄電池、系統電力からEVへの充電というように、太陽光発電、蓄電池、EVの3つを組み合わせた運用ができるのが特徴です。

蓄電池とEVを利用することで、太陽光発電による電力を系統から独立した形で、家庭内で使い切ることができる時間が増えます。ニチコンはこれを「家産家消(かさんかしょう)」と呼んでいます。「家産家消」にすることで、売電価格の低下によるデメリットを避け、100%再エネに近づけることができるわけです。

なお新型トライブリッドの発表会では、実際にESS-T5/T6シリーズのシステムを動かして、会場の照明、音響、プロジェクターの電力をすべて賄ったそうです。完全自立型の電力で発表会というのは、意義深い試みだと思います。

進化はパワコンの出力向上と充電機能の多様化

新たに発表されたESS-T5/T6シリーズと従来品との違いは、蓄電池とEVへの同時充電が可能になったこと、パワコンの出力が大きくなったこと、系統電力を使わずに最大9.9kWの出力でEVを充電できることなどです。

まず太陽光で発電した電力で充電する時に、従来は蓄電池かEVのどちらかしか充電ができなかったのですが、新型トライブリッドのESS-T5/T6シリーズでは蓄電池とEVを同時に充電できるようになりました。従来は「太陽光発電システム⇒EVまたは蓄電池」だったのが、「太陽光発電システム⇒EV+蓄電池」が可能になりました。

またパワコンの最大入力電力も従来の8.8kWから11kWに上がったため、発電量の多い太陽光発電への対応範囲が広がっています。

2つめの違いはパワコンの出力向上です。

昼間に貯めておいた電気は蓄電池やEVから家庭用に放電します。この時のパワコンの連系出力が、従来は最大5.9kWだったのに対し、新型トライブリッドのES-T6では最大9.9kWになりました。ニチコンの戸成秀道・NECST事業本部エネルギーソリューショングループ蓄電システムビジネスユニット長は、「住宅用としては業界最大級の高出力」と説明しました。

3つめは、EVに最大電力で充電する時でも、系統電力を使わずに充電ができるようになったことです。

トライブリッドは、太陽光で発電した電気をそのままEVに充電したり、蓄電池の電気と合わせて充電したりすることができるのが特徴です。これにより再エネ100%の電気でEVを走らせることができます。ただし、充電時の出力が最大の9.9kWになった時には系統電力から不足分を補う必要がありました。

これに対して新型トライブリッドのES-T6は高出力をいかし、系統電力を使用しなくても最大電力で充電する設定ができるようになりました。再エネ100%の利用幅が広がることになります。

この他、まだ仕様の詳細は出ていないのですが、V2H用システムの筐体サイズがとてもコンパクトになったようです。従来品は高さが約1.2mあったのですが、新型では従来比6割くらいの高さになっているように見えました。

豪邸ならともかく、家の外にモノを置くなら小さい方がいいのは自明です。見た目のスマートさも大事なので、コンパクト化は大きな進化に思えます。

低価格化はもっとがんばってほしい

ニチコンは、2018年からこれまでにトライブリッドを約5万台、販売したそうです。新型の販売目標は今年秋の発売開始から来年3月までで2万台ということなので、かなり高い目標と言えます。

さて、ここで気になるのは、やっぱり価格です。

屋外設置の大容量蓄電池と高出力のパワコンを組み合わせた場合、トライブリッド蓄電システムは本体価格だけで580万円になります。蓄電池を2つにして容量を14.9kWhに拡張するとさらに200万円かかります。設置するにはもちろん工事費が加わります。高級EVが1台買える価格です。

一方、14.9kWhとほぼ同程度の容量(13.5kWh)を持つテスラの家庭用蓄電池『パワーウォール』の価格は、詳細未公表ながら2024年10月に取り扱いを始めたヤマダ電機のグループ会社のヤマダホームズが、設置工事費込みで約210万円(税込)とアナウンスしています。蓄電池本体価格のkWh単価を考えると(推計なので明示しませんがどう考えても倍以上)、消費者感覚としては愕然とするほどの違いです。

パワーウォールは日本の安全規格のJET認証を取っていないので補助金が出ませんが、仮にニチコンのトライブリッドに補助金が出たとしても価格差は歴然です。テスラのシステムでも、ウォールコネクターという充電器(約8万円〜)を付ければEV充電も可能。トライブリッドのように高度な連携は想定されていないとしても、ここまで価格差が大きいとどうしても比べてしまいます。

価格が高くなった理由について、ニチコンは発表会の質疑応答で「開発コストに加えて、昨今のさまざまな要因による価格上昇」と回答しました。それでも、もう少しなんとかならないものでしょうか。

トライブリッドの販売ルートは、住宅メーカーや商社などなので、例えば新築の住宅に設置する場合などは希望小売価格のままではないと考えられます。希望小売価格はあくまでも希望なので、何割かは安くなるでしょう。補助金も出ます。それでもパワーウォールとは差があります。

EVの周辺機器については、急速充電器もそうですが、どうも高価格なものが多いのが気になります。量産効果が出るほど数が出ていないということかもしれませんが「もう少しがんばってほしいなあ」というのが長年の思いです。

トライブリッドの蓄電池にどんなセルが使われているのかは公表されていませんが、例えばリン酸鉄系(LFP)になったらどのくらい安くなるのだろうかと思います。

内情が見えていないので、あくまでも外からの見た目でしかありませんが、システムの存在価値、利用価値が高いのは間違いないので、コストが下がりさえすれば日本のEV普及やVPP実現を巡る状況に影響を与えることができるのではないかと思ったりするのでした。

とにもかくにも、ニチコンのがんばりに期待したいと思います。

取材・文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)5件

  1.  いつも楽しい情報をご提供いただきありがとうございます。 前モデルのV2Hを導入、冬のピークを迎えて電力自給が見えてきましたので記します。 ドライブ中心にBEVを利用、稼働率を上げるためにV2Hからスタートして、先日蓄電池の注文書に判子を押したところです。
     8.76kWのパネルで約11,900kWh/年発電、消費電力の約9,000kWh/年は、BEVの経路充電を含みます。 この3月末での電力自給の着地予測は71%で、再エネ消化率は72%、BEVに限った自給率は57%で走行時排出量は32g/kmの見込みです。 値は自家消費していない2カ月分を含みます点、ご容赦願います。
     “家でも外でもオール電化”、“再エネで走る”をコンセプトに構築、再エネを活用しやすい点がメリットと感じています。 蓄電池への追加投資も含めて、再エネの活用、走行コスト削減の価値と、停電などのライフライン停止への備えを評価して、私の場合は“あり”でした。 CHAdeMOユーザの特権、私が住む地域は温暖な気候と日照にも恵まれていることを付け加えます。
     新モデルの同時に充電できる機能の効力が楽しみです。 シリーズ強化と販売目標の情報、ありがとうございました。

  2. 残念ながら補助金前提商品にしか見えない。テスラのパワーウォールのように実力で勝負して欲しいです。
    また、新しくなって充放電効率は向上しているのかも気になるところですが、非公表なんですよね。
    特にV2Hは効率が悪く充放電したら40%位消えちゃうと聞いてます。
    V2Hは車両側も電源が入っている必要があるので、そこの部分は仕方ないのかも知れませんが、それならばせめて太陽光で発電した電力をそのまま使うのと蓄電池に溜めて使うのではどのくらい効率に差が有るのか程度は公表して欲しいと思います。

    1. ポタ電(ポータブル電源)マニアの電気技師(電気管理技術者)ですー!
      ソーラーパネルと電気自動車蓄電池は直流電源、方や配電線は交流電源…これ重要でっせ!?(試験に出ます)。
      概ね交流⇔直流変換効率は80%、直流⇔直流の電圧変換効率は90%…従来のV2Hは0.8*0.8=0.64[64%]になるが、新型V2Hは直流同士の電圧変換やから効率0.9[90%]になるんやないですか!?
      ※電気工事士や電気主任技術者の試験に出る内容ですー。

      そして住宅ソーラーの発電電圧はDC250~400V、BEVの蓄電池電圧はDC360Vが一般的。ただソーラーパネル発電とBEVへの供給が一致してないと効率悪いんでそこを吸収すべく蓄電池が要るんです。容量は多い方が安心ですが7kWh程度あれば十分とみた。

      こういうのは電気を生業としているプロやエキスパートに聞くんが一番やないですか!?以上軽EV乗り電気技師の見解でっせ。

  3. >EVへの充放電を直流のまま行う

    ここをもう少し詳しく伝えてほしいです。これが新型のキモだと思うので。

    1. 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン♪eKクロスEV乗り電気技師ですー。

      ※EVへの充放電を直流のまま行う
      それ直流同士の電圧変換(DCDCコンバータ)やと思います。一時大量普及したソーラー発電でもパワーコンディショナーへの供給電圧を調整すべくDCDCコンバータを接続する場合があったんでピンときた。
      住宅ソーラー発電システムはパネルの接続枚数で電圧が大きく変わるためパワーコンディショナーも対策で電圧を調整すべく電圧変換器つーかDCDCコンバータを内蔵し、DCACインバータの動作に最適な電圧へ変換してると思われます。
      要はそれを電気自動車の充電へも応用してるだけやないですか!?

      原理的には簡単かもしれまへんが、いざ制御するとなると回路設計やファームウェア作成など手間かかるんで人件費もろとも価格高騰するー思います。まだ卒FIT元年の2019年なら売れたんかもしれまへんが、あれから6年経ってハイブリッドインバータ+蓄電池が先行普及した今は拡販も厳しいんやないですか!?
      ※そのハイブリッドインバータ+据置蓄電池+ポータブル電源で宅内電力融通してる電気管理技術者ですー。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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