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「第46回バンコク国際モーターショー2025」レポート/販売台数はBYDがトヨタからトップを奪取

「第46回バンコク国際モーターショー2025」レポート/販売台数はBYDがトヨタからトップを奪取

タイで開催された「第46回バンコク国際モーターショー2025」をモータージャーナリストの諸星陽一氏が現地レポート。「その場で商談」が特徴のイベントで、長年販売台数トップを守ってきたトヨタでしたが、今年はBYDが首位の座に輝きました。

目次

会期中の販売台数トップはBYDの9819台

日本では年度替わりの3月末から4月上旬にかけて、タイでバンコク国際モーターショーが開催されました。今年の開催期間は3月24日にプレスデイ、翌25日がVIPデイ、26日から一般開催となり4月6日に幕を閉じました。

バンコク国際モーターショーは日本や欧米のモーターショーと異なり、購入(予約や契約)できることが大きな特徴。各自動車メーカーはバンコク国際モーターショーに照準を合わせて、特別金利や値引き、用品やガソリンチケットの付帯などさまざまなプロモーションを仕掛けてきます。

モーターショー期間中に事務局長のジャトロン・コモリミス氏にお話をお聞きした時点では、今年の販売台数も昨年同様の5万台前後と予想されていたのですが、会期終了後に発表されたリリースによれば総販売台数は44.8%増しの7万7379台という、とてつもない記録となりました。タイ国内での2024年の自動車販売台数は57万2675台なので、昨年の販売台数の14%弱を約2週間で売ってしまったことになります。

このうち「xEV」と呼ばれるBEVおよびPHEVやHEVなどの電動化自動車の割合は65%以上、車型としてはSUVが多くなっています。もっとも販売台数が多かったブランドはBYDで9819台、ついでトヨタの9615台、GACの7018台、ディーパルの6067台、ホンダの5948台と上位5ブランド中3ブランドが中国系という結果でした。長年トップの座を守ってきたトヨタが首位の座をBYDに明け渡したことになります。

中国メーカーの熾烈な販売競争

中国系の台頭は目を見張るものがありますが、今年は昨年とちょっと違った傾向が見られました。昨年は多くの中国系ブランドがスーパースポーツモデルの展示に力を入れましたが、今年はそうしたモデルはほとんどなく、SUVやトラックなど実際に購入される機種を展示。より販売に注力した傾向が見られました。

前出のジャトロン氏によれば、中国系メーカー間では値引きやプロモーション競争が熾烈になっているとのこと。中国車はモーターショー期間以外で20万バーツ(1バーツ=約4円換算で約80万円)から30万バーツ(120万円)程度のダンピングが行われることもしばしば。この大幅なダンピングは、消費者に「もう少し待てばさらに下がるのではという気持ちを芽生えさせ、買い控えにつながっていて、結果として販売台数が落ち込む原因にもなっている」とのことです。

もちろんモーターショーでのプロモーションも中国勢は日本勢とは比べものにならないほど大きいものでした。

BYDはモーターショーに合わせてドルフィンを11万バーツ(約47.2万円)、シーライオン7を15万バーツ(約72.9万円)ディスカウント。GWMはHAVAL H6を対象に1年間最上位の保険および家庭用充電器を無料で提供 (プラグインハイブリッドモデルの場合)したうえで、車載インターネットパッケージによるインターネット経由の無料車両監視、テレマティックサービス、5年または10万キロ以内の車内インターネット、走行距離に応じた3年間のメンテナンス料無料(消耗部品を除く)5年間の24時間緊急アシスタンスサービス、(ロードサイドアシスタンス)の無料提供、ハイブリッドバッテリー品質保証8年間(走行距離無制限)など盛りだくさんな特典を用意していました。

どこよりもすごいプロモーションを行っているなと感じたのが吉祥汽車です。吉祥汽車は中国のレガシーキャリアである吉祥航空の子会社です。吉祥汽車が投入したJY AIRという小型のEVセダンは75.9万バーツ(約325.5万円)という比較的リーズナブルな価格帯のクルマですが、このJY AIRを購入したユーザーには吉祥航空のゴールド会員資格が3年間与えられます。吉祥汽車はスターアライアンスとパートナーシップを結んでいるので、ANAの上級会員資格を得られるようなものです。さらに吉祥航空の4席分のチケットが3年間無料、路線無制限で付帯するという、大出血サービスでした。

BYDのデモンストレーションが圧巻

デモンストレーションの壮大さも中国勢の勢いを感じさせるものでした。規模感などで群を抜いていたのがBYDです。BYDはモーターショー会場に隣接する別の棟を貸し切り、そこにプールとデモ走行のコースを作りました。考えてみてください、日本でたとえるなら、幕張メッセの1つの棟を貸し切ってプールとジムカーナコースを造ったということです。

2023年のジャパン モビリティ ショーでBYD U8がタンクターン(その場360度ターン)を披露したのはまだ記憶に新しいところですが、バンコク国際モーターショーでは緊急水上走行というワザを披露しました。プールに向かってU8が進入するとそのまま浮上、ゆっくりではありますが舵も効かせて水上を走行(航行)します。途中で関係者(たぶんBYDの偉い人)がサンルーフから身体を出して観客にアピールするパフォーマンスまでありました。緊急水上走行は30分間可能だということで、たびたび水害に見舞われるタイでは大きなアピールポイントになったことでしょう。緊急水上走行終了後は、ジムカーナコースでのデモンストレーション走行が行われました。この走行ではタンクターンも披露されました。

日本勢はこのまま押し出されてしまうのか?

一方、日本勢に目を向けると印象に残ったEV系はホンダのE:N1とマツダの6e程度。マツダ6eは左ハンドルだったので、中国仕様をそのまま展示したのでしょう。全体として中国勢の勢いが強く、日本勢は押され気味という印象を受けたのが2025年のバンコク国際モーターショーでした。では、日本車はこのまま押されて終わりなのか? というと一概にそうではないと考えます。

台数の順位でこそトヨタはBYDに負けましたがその差は200台程度。値引きなどのプロモーション効果が大きいBYDに比べれば、利益率は高いはずです。また、タイでのBEV人気が停滞気味で、しばらくはPHEVに人気が集まりそうだということ。PHEVとなるとICE技術が必要ですから、EV専業でスタートした中国企業は苦戦を強いられることも想定できます。とはいえ、そうしたなか水平対向エンジンを使ったPHEVを出してきたBYDはやはり気になる存在であることは間違いないのですが……。

そうそうひとつ重要な事項を伝え忘れていましたが、ベトナムのコングロマリットグループ傘下のEVメーカーであるビンファストは今年はバンコク国際モーターショーに出展していませんでした。昨年はかなり広い展示面積と展示台数で、関係者を驚愕させましたが、国外戦略の拠点をフィリピンに移したということで、タイでの活動はかなり縮小したようです。

東南アジアの自動車市場は、しばらく混沌とした状況が続きそうです。その動向を教えてくれるバンコク国際モーターショーは、ますます目が離せない存在になってきたと感じます。

取材・文/諸星 陽一

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この記事を書いた人

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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