ホンダが日本国内で正式に発売した原付二種(125㏄クラス相当)の電動スクーター「CUV e:」の試乗会を開催しました。ポータブルな交換式バッテリー2個を使って実用的な一充電走行距離をもったEVバイク。フォトジャーナリスト青山義明氏のレポートです。
※この記事はAIによるポッドキャストでもお楽しみいただけます!
交換式バッテリーを2個使用
ホンダの原付二種(125㏄クラス相当)の電動スクーター3車種目となる「CUV e: (シーユーヴィ イー)」が日本国内でも販売開始となった。このモデルは2024年10月にインドネシアで発表され、2025年3月のモーターサイクルショーで国内初お披露目された世界戦略車である。そして6月20日(金)、正式に発売された。
【関連記事】
ホンダのEVスクーター『CUV e:』世界初公開/開発担当者が自らポチる期待の出来映え!(2025年4月8日)
https://blog.evsmart.net/e-bike/honda-ev-scooter-cuv-e-world-premiere/
この二人乗りが可能な電動スクーターの動力用電源は、ポータブルな交換式バッテリーである「Honda Mobile Power Pack e:」である。これを2個使用し、一充電あたりの航続距離は60km/h定地走行テスト値で57kmとなる。
ホンダの電動原付2種モデルといえば、2018年に登場した「PCX Electric(現在は販売終了)」、そして現行モデルである「ベンリィe: II」と、これまでに2車種が登場しているが、CUV e: も含め構造自体は変わらず、Mobile Power Pack e:をシート下に2個収納し、サイドホイールモーターの2段階のリダクション(減速ギヤ)を経由して後輪を駆動させている。
大型液晶パネルによるインターフェースが特徴的
従来モデルと比べて、CUV e: のメーターパネルは非常に特徴的なものとなっている。メーターパネル周辺は完全にフラットなスペースとなっており、その中に7.0インチTFTフルカラー液晶メーターがインストールされている。
この画面には速度やナビゲーションのマップや速度、バッテリー残量などの情報が表示され、画面外には各種警告灯類が配置されている。メーターの表示内容は画面上ではなく左ハンドル側に設置されるマルチセレクションスイッチで操作できるようになっている。電動車両らしく、ナビゲーションではバッテリー残量に応じ、ルート検索でバッテリー交換ステーションを中継するルートの探索も可能だ。
車両にはジャイロとGPSを搭載しており、自車位置を計測し、メーターに表示される時刻は、車両が受信するGPSによって自動補正ができる。さらに手持ちのスマートフォンを連携させることで、スマホで検索したナビゲーションの目的地をそのまま車両側に送ったり、バイクを介してヘッドセットでのハンズフリー通話や音楽再生の利用が可能となる独自のコネクテッド機能「Honda RoadSync Duo」を採用。もちろん、ソフトウェアのアップデートにも対応すると説明された。
今回試乗会に参加し、実際に走行をする機会を得た。CUV e: には「STANDARDモード」、「SPORTモード」、「ECONモード」という3つのライディングモード、そして「リバース(後進)モード」が用意されており、ハンドルにあるスイッチで選択可能。125㏄クラスの二輪として使うことを考えると「ECON」はあまり現実的な選択ではないと感じる部分もあり、実用的には「STANDARD」だけでも十分といえる。またこのモードの切り替えがわかりやすい(ただしモードの切り替えは、スイッチによる選択だけでなく一度アクセルを全閉にする必要がある)ことも特長と感じた。
座面もフロアも広めなので、大きなリュックを背負っていたりしてもライディングポジションの自由度は高い。また荷台がフラットで荷物の搭載もそれなりにこなしてくれそうだ。
フロントにはディスクブレーキを装備し、さらに前・後輪に適切な割合で制動力を配分するコンビブレーキ(前・後輪連動ブレーキ)を採用しているので、荒天下での走行でも安心といえるだろう。
バッテリーの「所有かシェアリングか」が悩みどころ
今回の試乗会では、Mobile Power Pack e: の交換サービスを展開するGachaco(ガチャコ)のステーションを巡るルートが推奨コースとして設定されていた。これまでのPCXやベンリィe: の試乗会ではガチャコのサービスの存在についての説明はあっても、実際の利用を勧めることはなかった。そんなこともあって、今回は推奨ルートにあるバッテリー交換ステーションで実際に交換を試みた。
ガチャコは、2022年4月に設立されたENEOSホールディングスと、ホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハ発動機の国産2輪メーカー4社の共同出資による合弁会社で、電動バイク向けバッテリーのシェアリングサービスを展開。電動バイク用の共通仕様バッテリー(今回使用しているMobile Power Pack e:)の交換インフラの拡充を進めている。
ガチャコが運用している「バッテリー交換ステーション」は、EVバイクにおける充電時間問題や航続距離制限を解決するサービスといえる。バッテリー交換ステーションには、12個分のスロットがあり、あらかじめ10個のバッテリーが収納されている。空きスロットに残量が減ったバッテリーパックを差し込むと、自動的に充電が開始されることになる。
このステーションに電動バイクで乗り付けて、契約者が持つICタグを使って本人確認をしたのち、使用したバッテリーを空きスロットに入れて、ステーションが提示した満充電バッテリーを抜き出して自車に装着すればよい。
実際に試してみると、手順は簡単。ICタグをかざし、空いてるスロットに使用済みのバッテリーを差し込み、青い色が点灯しているスロットのバッテリーを抜き出してバイクに装着するだけ。ステーション自体が大きなもののように見えたが、街中で見ると少し大きな自動販売機といった具合で、違和感がないどころか注意して見てみないと気が付かなかったりするほどだった。
ちなみにこのガチャコのサービス、契約としては2つのプランが用意されている。ステーションだけを利用する「ステーション利用プラン(使用電力量課金)」と、自宅には充電器を用意しておきつつステーションを使う「充電器付ステーション利用プラン(交換回数課金)」。前者は使用済みのバッテリーをステーションに戻した際にその使用分を計算し、使用電力量(99円/kWh)で課金される(バッテリーの容量は1.3kWhほどなので2個分をしっかり使っても200円ほど)。
後者は交換した回数(110円/回)で課金される(自宅での充電の電気代はもちろん自分持ちとなる。バッテリーの劣化を防ぐためか月に1回ステーションでのバッテリーの交換が必須となるがこの月一回の交換については料金が無料となる)。また、いずれもバッテリー利用料(常に手元にあるバッテリー分、月額2530円/本)がかかることになる。
国の補助金を活用すれば16万5,200円〜
気になるCUV e:の価格は、52万8000円というプライスタグが付いている。この価格にはバッテリー2個と充電器2個が含まれている。しかし、最初からガチャコを利用することを前提で車両単体だけを購入するとなると価格は20万200円、なんと62%オフとなるのだ。
さらに国のCEV補助金を活用すれば実質的な価格はもっと下がる(バッテリー&充電器付きで49万3000円、車両単体では16万5,200円)。さらに東京都でも補助金が用意されているので、都民であればさらに購入のハードルは下がる。購入を検討する場合、住んでいる自治体の補助金制度は要確認である。
ガチャコのステーション利用プランで見てみると、最初の貸与バッテリーが2本で5060円/月、年間6万720円となり、5年強でバッテリー購入とバッテリーレスの負担額がトントンとなる計算だ。ただ5年乗り続けるとなるとバッテリーの劣化もそれなりに進行する。常に同じバッテリーを使い続けるよりもバッテリーシェアのほうが劣化が少ないというデータもあるので、CUV e:を頻繁に乗るのであればガチャコ契約のほうがお得な印象だ。
ただ、現在ステーションは東京に46基、大阪北摂エリアに7基設置されているだけ(2025年6月8日時点)。ステーションの設置数も設置場所もじわじわと広がってきてはいるとはいいつつ、まだ首都圏で見ても、神奈川、千葉などに設置はなく、埼玉にも2カ所だけ。東京以外の設置が進んでいないのが現状だ。
どっちが先かという「花とミツバチ」や「ニワトリとタマゴ」のたとえではないが、もう少し自治体への参加誘致などを推進し、ガチャコのステーションが充実してくれることを望む。箱根を超えることができるようになれば、販売台数の増加はもちろん、各メーカーからビジネスユースだけでなくホビーとしてのEVバイク車種ラインナップ拡大も期待できると思う。
取材・文/青山 義明
コメント