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元「中の人」が感じた「テスラ愛」の大切さ/TOCJ全国ミーティングで実感したEV普及の原動力とは?

元「中の人」が感じた「テスラ愛」の大切さ/TOCJ全国ミーティングで実感したEV普及の原動力とは?

テスラやポルシェの「中の人」として活躍した経歴をもち、モデル3のオーナーでもある前田謙一郎氏が、パシフィコ横浜で開催された「2025 TOCJ 全国ミーティング」に参加。インポーターの中枢でEV普及に取り組んできた視点から、この盛大な「オフ会」の意義と、日本のEV普及にとって大切なことへの気付きをレポートします。

目次

テスラ車オーナーとして初めて参加した全国ミーティング

6月29日、パシフィコ横浜で開催された「2025 TOCJ(テスラ オーナーズクラブ・ジャパン)全国ミーティング」に、ユーザーとして初めて参加した(編集部注:前田氏がテスラ在籍当時、まだ全国ミーティングは開催されていなかった)。

今回のイベントは1,500名を超えるテスラオーナーとファンが全国から集結する大規模なもの。日本のテスラコミュニティの拡大とその魅力、そしてテスラ社自身にとって欠かせないオーナーコミュニティの役割を肌で感じる機会となった。他EVメーカーも出展し、TOCJの活動が今後の日本におけるEV普及にも大きく寄与するだろうと確信した一日だった。

今回は元テスラの視点を踏まえ、TOCJイベントとテスラにおけるコミュニティの重要な役割について紹介しながら、今後の日本のEV普及について考えたい。

拡大する日本のテスラ コミュニティ

テスラオーナーズクラブジャパン(TOCJ:Tesla Owners Club Japan)は、テスラ本社によって公認された日本で唯一のテスラオーナーズクラブで、2018年に発足した組織(現在は一般社団法人。入会金は会費などはない)である。

テスラの理念である「持続可能なエネルギー社会の実現」に貢献し、テスラの電気自動車の機能を深く理解し、楽しいテスラライフを満喫すること、会員間の交流や相互扶助を促進することを目的としている。

TOCJのウェブサイトによると2018年の8月に発足し、同年11月15日に名古屋のショールームにて発足式が行われた。私も当時テスラに在籍していたが、他イベントと重なり名古屋での発足式に参加できなかったことは今でも覚えている。

じゃんけん大会からトークショーまで様々なコンテンツがあったセンターステージ。このセッションでモデレーターを務める池田篤史氏はEVsmartブログの執筆者でもある。

当日のオーナーミーティングの模様については、こちらの記事にレポートされている。パシフィコ横浜で多くのオーナーとその家族などが参加し、テスラ・ジャパンを始め、多くの協賛企業を集めて大規模に行われていた。私自身も子供達を連れて初の参加となった。今回は今までの全国ミーティングでも最多となる総勢1,500人以上が参加したとのこと。広いホールの会場中央にはステージが設置され、トークショーやじゃんけん大会などが開催されており、非常に盛り上がっていた。

屋外でオーナーの車が一堂に集う場面はなかったが、参加していた人からは従来の車のオーナーズクラブとはまた異なった、たくさんのテスラ愛とコミュニティ感を感じることができる魅力的なイベントであった。

様々な協賛企業が会場を盛り上げていた。

テスラにとってユーザーのコミュニティは重要な役割がある

従来の自動車メーカーにもオーナーズクラブは存在するが、多くの場合、特定のモデルに特化したニッチなファンクラブ的な色彩が強い。一方、テスラのオーナーズクラブは、それとは一線を画す独自の意義をもつと思う。もちろん、テスラ社自身にとっても極めて重要な存在だ。なぜなら、テスラは伝統的な広告手法をほとんど用いず、ファンベースのコミュニティをマーケティングの主要チャネルとして活用しているからだ。

テスラの社員は、革新的な製品と地球規模のミッション(持続可能なエネルギーの世界の移行)に魅了されて入社するが、オーナーたちも同様の価値観を共有しているはずだ。この共通のミッションが、テスラの急成長を支えてきた原動力だ。SNSやインターネット上で、オーナーたちが自発的に口コミを広め、製品の魅力や会社のビジョン、イーロン・マスクCEOの取り組みをサポートし続けている。

Tesla Owners Silicon Valleyは最も影響力のあるオーナークラブのひとつ。YouTubeチャンネルで公開されているイーロン・マスクへのインタビュー動画は、1時間を超える長編にも関わらず60万回近く視聴されている。

Elon Musk on the Early Days of Tesla: Interview Part 1(YouTube)

さらに、UGC(User Generated Content:ユーザーが作るコンテンツ)の役割も無視できない。オーナーたちが作成する動画やレビューは、オーガニックに拡散され、テスラのミッションを世界中に届けている。これは、ユーザーが単なる顧客ではなく、テスラの優れた製品と地球を変える使命を本気で信じている証拠だ。このような熱狂的なコミュニティこそ、テスラの独自性を象徴し、持続的な成長を可能にしていると言える。

たとえば、先日のテスラのロボタクシーのテスト運行開始は、コミュニティの力を示す好例だ。6月22日、テキサス州オースティンで招待制のロボタクシーサービスを開始。初期には約14人のオーナーや投資家のインフルエンサーが体験し、その興奮と詳細をSNSで一斉に拡散した。アプリのダウンロードからタクシーの試乗の様子まで、ライブ配信や投稿で共有。彼らは従来のブランドが行う広告やタイアップ案件ではなく、純粋な情熱で製品を広める。このコミュニティ主導の拡散が、テスラのマーケティングの真髄だと感じる。

テスラ・コミュニティの活動は世界中に広がっている。テスラオーナーズ・シリコンバレー会長のジョン・ストリンガー(John Stringer)氏は、イーロン・マスクへのインタビューやローンチイベントに参加し、Xで情報発信を続けている。ヨーロッパでは、昨年末にテスラオーナーズクラブ・フィンランドがエスポーでテスラ902台を集め、世界最大のライトショーを実施。今年2月には、ベルギーとオランダのクラブが1,150台を集結させ再びライトショーを成功させた。アジアでも「Tesla Takeover Asia」イベントが開催され、グローバルな盛り上がりは明らかだ。

過去、私が関わった2019年の初代モデル3立ち上げでは、TOCJ発足メンバーの安川洋さん(アユダンテ株式会社代表取締役、現在はTOCJ代表理事)やテスラ初期からのユーザーであった夏野剛さん(KADOKAWA取締役)を招き、メディア向けトークショーを実施し、ユーザーやコミュニティとの関わりを大切にしてきた(関連記事)。このように、ユーザーコミュニティはテスラのブランド形成の活動において不可欠な要素だ。
https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/20191002-mr-natsuno-talk-event-with-tesla/
2024 MEGA TESLA LIGHT SHOW || 902 TESLA FINLAND(YouTube)
テスラ・オーナーズクラブフィンランド主催のライトショー

コミュニティ・マーケティングの重要さ

コミュニティの重要性はテスラに限らない。テスラ・ジャパンを退職後に在籍したポルシェでも、コミュニティ・マーケティングのアプローチは大きな柱だった。

伝統あるブランドだけに、ポルシェクラブ・ジャパンとポルシェ356クラブ・ジャパンなどの歴史的な公認クラブが存在する。クラブイベントではポルシェが直接サポートし、共同で盛り上げ活動を展開してきた。

さらに、オーナーの輪を広げるため、クラブ非所属オーナーも含むミートアップイベントなども開催。富士スピードウェイや京都の仁和寺を貸し切って、分散していたファン層を団結させた。こうした強固なコミュニティは、長年の伝統と優れたプロダクトが育んだ結果であり、同時に、ユーザーがブランドを形作ってきたのも事実だ。このようにポルシェやテスラも歴史や特徴は違えど、革新性のあるプロダクトは必ずユーザーに愛され、そのコミュニティがブランドをさらに強くすると言える。

京都仁和寺でのポルシェオーナーイベントなどを紹介するプレスリリース

日本でのテスラ、そしてEVのさらなる普及に向けて

最後に、TOCJ代表理事の安川さんに今後の抱負についてコメントをいただいたので紹介しておきたい。

【安川さんのコメント】
テスラ・オーナーズ・クラブ・ジャパン(TOCJ)は、2013年にその前身が誕生し、2018年に正式に発足した日本最大のテスラ愛好家コミュニティです。現在、会員数は2,000名を超え、テスラの革新的な技術やデザインを愛するだけでなく、テスラの核心的なミッション –持続可能なエネルギー社会の実現– を共有する仲間が集まっています。この共通の目的が、私たちを単なる自動車ファンクラブではなく、強い絆で結ばれたチームとして進化させてきました。

先日開催された全国ミーティングは、国内外で注目される大規模イベントとなりました。プログラムの企画から実行まで、すべて会員の自主的な取り組みによって実現し、世界的にも類を見ない成功を収めました。このような素晴らしい成果は、ボランティアとして尽力してくださった皆様、そして各リーダーの方々の献身的な努力なしには成し得なかったものです。この場をお借りして、心より感謝申し上げます。

こうしたイベントを通じて、TOCJはテスラオーナー同士のつながりを深め、EVの魅力を広く発信する機会を創出しています。今後、日本における電気自動車の普及は加速していくでしょう。テスラはすでに市場で確固たる地位を築きつつあり、自動運転技術の進化により、従来の自動車とは全く異なる新しいモビリティ体験が広がります。しかし、それに伴い新たな課題も生じるはずです。これからは、EVオーナーが少数派からマジョリティへと移行する時代。TOCJとして、私たちは単にテスラの新オーナーを迎え入れるだけでなく、他のメーカーのEVユーザーも含めたすべての方々をサポートします。情報交換やイベントの開催を通じて、EVライフをより楽しくするお手伝いをしていきたいと考えています。

今回のTOCJ全国ミーティングで明らかになったのは、日本でもテスラやEVコミュニティが着実に拡大中ということだ。テスラだけでなく、BYDやヒョンデのブースも出展しており日本においてEVの盛り上がりは今後も進んでいくように思う。

日本は新しい技術や外部の変化を受け入れるのが苦手で、EVに対する拒否感も未だ根強いが、今後、このようなオーナーによるコミュニティ活動がさらに拡大すれば拡散力は跳ね上がり、テスラやEVの魅力を広く伝播できるはずだ。

もしこの記事を読んで、TOCJに興味を持った方、またはテスラオーナーでなくとも、自分が所有するEV車種の集まりやクラブに参加してみると同じ趣味や熱意を持った新しい仲間が増えて楽しいと思う。私自身もテスラやポルシェ時代にお会いしたオーナーの皆さんとは今でもお付き合いをさせていただいているし、そのようなオーナーの日々の活動や発信はEVの普及の原動力になるだろう。

文/前田 謙一郎Youtube / Spotify

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この記事を書いた人

テスラ、ポルシェなど外資系自動車メーカーで執行役員などを経験後、2023年Undertones Consulting株式会社を設立。自動車会社を中心に電動化やブランディングのコンサルティングを行いながら、世界の自動車業界動向、EVやAI、マーケティング等に関してメディア登壇や講演、執筆を行う。上智大学経済学部を卒業、オランダの現地企業でインターン、ベルギーで富士通とトヨタの合弁会社である富士通テンに入社。2008年に帰国後、複数の自動車会社に勤務。2016年からテスラでシニア・マーケティングマネージャー、2020年よりポルシェ・ジャパン マーケティング&CRM部 執行役員。テスラではModel 3の国内立ち上げ、ポルシェではEVタイカンの日本導入やMLB大谷翔平選手とのアンバサダー契約を結ぶなど、日本の自動車業界において電動化やマーケティングで実績を残す。

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