モータージャーナリストの国沢光宏さんが、自ら所有する軽バンEVの「N-VAN e:」を別荘がある八丈島で使うソーラーカーに改造。メディア関係者に呼びかけて試乗イベントを開催しました。カーライフエッセイスト、吉田由美さんのレポートです。
カーボンニュートラルに向けて手作りソーラーカーに挑戦
ひと足お先に夏休み~ではなく、ちょっと変わった試乗会に行ってきました。舞台は、なんと八丈島。東京から飛行機で約40分。東京都とは思えないほど自然が豊かな南の島。ジリジリと照りつける太陽、どこまでも広がる水平線。想像しただけでワクワクが止まりません。
今回、メインの目的は、モータージャーナリストの国沢光宏さんが所有する軽バンEV、ホンダ「N-VAN e:」の試乗です。しかし、ただのN-VAN e:ではありません。国沢さんが自らの手でソーラーカーにカスタムした、その名も「電吉(でんきち)」です。

八丈島を電吉で快走!
N-VAN e: をソーラーカーに改造してしまった理由は、国沢さんいわく「世界が目指す2050年カーボンニュートラルの目標は変わりません。2035年以降はEVの時代になると思いますが、問題は電気。太陽光発電の可能性を再考しました」とのこと。
国沢さんはかなり前からいろいろな島を巡ったそうですが、八丈島に魅了され、この地に拠点(別荘)を作り、毎月のようにここに足を運んでいるそう。その中で、島に降り注ぐ太陽光の恵みを使わない手は無いと考えるのはごく自然なことだったのかもしれません。
なにしろ、八丈島にはガソリンスタンドがほとんどありません。しかもガソリン代もお高め、ときたら理想はソーラーカーですよね。
と言いつつ八丈島は、実は年間を通して都心よりも雨が多いのだそう。……しかし、それでも作ってしまうのが国沢さん! さすがです。
約5kWhのポタ電を経由してN-VAN e:に普通充電
屋根にソーラーパネルを付けたクルマというと、5代目トヨタ プリウスPHEVやbZ4Xに28万円ほどでオプション設定が可能。しかし、一日充電しても最大で6.1kmほどしかモーター走行はできないとのこと。また、走行中は12ボルトの補器バッテリーへの充電となり走行用のバッテリーには充電されないため、「ソーラー付きカー」という感じかな。
国沢さんの「電吉」は、ご自分の愛車である N-VAN e: の屋根に取り付けたソーラーパネルで作られた電気をポータブルバッテリー(いわゆるポタ電)に貯め、そこから駆動用バッテリーに充電する仕組み。取り付けなどは国沢さん自らがDIYで作ったそう。
ソーラーパネルは市販のもので、長さ2278mm、幅1134mmと、N-VAN e:の屋根より少し小さいくらい。出力は約545W、パネルの重さが約28㎏+フレームが数kgという感じ。
太陽光発電の電気を蓄えるのは、5.12kWhのポータブルリチウムイオン蓄電池。ソーラーパネルで作った直流電力をいったん直流のまま蓄電池に貯めて、組み込んだインバーターで交流(AC)に変換。普通充電口からN-VAN e:に充電します。DC→ACの変換効率は約80%。晴れていれば約5kWhが1日で満充電になるそうです。
もちろん外部からの普通充電も可能です。ちなみに、ポータブルバッテリーは車内のボルト穴を活用して固定されていました。
八丈島で国沢さんが実測したN-VAN e: の電費は約7km/kWhほど。1日に蓄えられる約5kWhの電気で、実走可能距離は約30km。年間600Wh発電したとすると、約4200km走行が可能ですが、変換効率80%やそのほかのロスを考えると「2500kmくらい」と見込んでいるそうです。
改造などに掛かった費用は30万円ほど。N-VAN e: の価格は264万円。東京都の補助金を利用して220万円ほどで購入したそう。ホンダセンシング(安全運転支援システム)付きで、車内はコンテナのイメージで仕上げられていました。
手作りならではのギシギシ音はご愛敬?
もちろん私も試乗しました。「電吉」に乗り込んだ瞬間に感じる軽バンらしい広さと、動きだした瞬間に感じるEVらしい静かな走り……かと思いきや、ソーラーパネルの取り付け部からのゴトゴト音やギシギシというきしみ音、ゆすられ感が気になりました。このあたりは手作りソーラーカーならではのご愛敬と納得しておきます。
なにより、八丈島には電気のモビリティがぴったり。ほかの人が「電吉」に試乗している間は、普通のN-VAN e: やホンダのEVバイク「EM1 e:」でのエコランなどを楽しみました。島には坂道が多く、普通のN-VAN e: はもちろん、電吉の「アクセルを踏むとスッと加速する」トルク感が気持ちいいことを実感。
国沢さんによると、さらなる課題は「ソーラーパネルの取り付け部分の素材が鉄なので錆びるのと、音、ゆすられ感。ポタ電の電気を走りながらはクルマに充電できないこと」だそう。
八丈島での試乗を体験して、手作りソーラーカーの電吉は「個人発電モビリティ」というまったく新しいジャンルの先駆けと実感。燃料代ゼロ、排出ガスゼロ。そしてなにより、どこまでも充電ステーションになる自給自足の強さ。災害時には移動式の電源車としても活躍できそう。

晴天の八丈島で、SUPも楽しんじゃいました!
「電吉」という国沢さんが提案した愛あるソーラーカーを、どこかの自動車メーカーがさらに進化させて商品化する日が来ることを願っています。
取材・文/吉田 由美
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