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世界一のEV先進国ノルウェー訪問【前編】ノルウェーEV協会から学ぶ100%電動化への道のり

世界一のEV先進国ノルウェー訪問【前編】ノルウェーEV協会から学ぶ100%電動化への道のり

テスラやポルシェの「中の人」として活躍した経歴をもち、モデル3のオーナーでもあるコンサルタントの前田謙一郎氏が世界屈指のEV先進国であるノルウェーを訪問。ノルウェーEV協会でのインタビューなど、2回に分けたレポートをお届けします。

目次

オスローの街と電気自動車

ノルウェーEV協会(Norwegian Electric Vehicle Association)にて

7月下旬から家族の里帰りでフィンランドに滞在し、2泊3日でノルウェーの首都オスローを訪れた。新車販売の9割以上が電気自動車というオスローの街並みは、静かでクリーンな印象が強く、何より道路を走る車のほとんどがBEVであった。

街中を散策する中で、現地の車状況を肌で感じることができ、さらにノルウェーEV協会(Norsk elbilforening)でインタビューをする機会を得た。非常に貴重な体験で、ノルウェーが世界屈指のEV先進国へと発展した理由を深く理解できた。今回の記事ではこの訪問とEV協会の役割、ノルウェーのEV大国たる理由について紹介したい。続編記事ではインタビューを通して電動化が進んだ理由や売れ筋モデル、ノルウェーの充電状況について深掘りする。

フィンランドのヘルシンキからオスローに到着後、すぐに気づいたのは、ガソリン車の少なさだ。街を走る大半がBEVで、バスも電動化が進んでいる。路上には急速充電スタンド、また伝統的なヨーロッパのアパートの前にも自宅充電ボックスが設置されている。これはノルウェーの日常風景そのものだ。BEVが多いため車の騒音が少なく静かだし、排気ガスが少ない街はとても空気がクリーンだ。これは昨年、中国の上海を訪問した時に感じた静けさと似ている。

EV普及率が世界トップであることは、データが証明している。最新の2025年7月時点、ノルウェーの新車販売シェアにおいてBEVはなんと97.2%を超えており、これは他国を圧倒するレベルだ。PHEV含むハイブリッドは1.7%、ガソリン車は0.3%となっており、内燃機関車はほとんど販売・登録されていない。そして現在ではノルウェーの乗用車全体において30%を超える割合がBEVとなっている。

ノルウェーの燃料別乗用車登録台数

燃料2025年7月の登録台数2025年7月のシェア2024年7月のシェア2025年YTDのシェア2024年同期間のシェア
ガソリン250.3%0.7%0.4%1.0%
ディーゼル860.9%2.5%1.3%2.7%
ハイブリッド全体1611.7%4.8%4.3%10.7%
ゼロエミッション9,29197.2%91.9%94.1%85.6%

※OFVノルウェー道路連盟のデータから作成

テスラのモデルYはその中でも一番売れているモデルで、街中を多く走っているので当たり前になってしまう。フォルクスワーゲンのIDシリーズやアウディ、シュコダなどのヨーロッパ車も多いが、中国ブランドの勢いもある。NIOやXpengそしてZeekrも走っているし、北欧で人気のPolestarも今は中国資本のブランドだ。いずれにせよ、街中ではポルシェタイカン、ジャガーi-Pace、IDシリーズ、BMW i3など多彩なEVが走行しており、モデルの多様さはノルウェーのEV市場の成熟を表していると思う。

オスロ市内ではNIOを多く見かけた

そしてこのノルウェーがEV大国に進化した背景や政策を理解するために、オスロ市内にあるノルウェーEV協会を訪問した。インタビューでは、アドバイザーのLars Godbolt氏(ラーズ・ゴッドボルト氏)から、協会の役割をはじめノルウェーの政策や市場データ、そして売れ筋モデルから充電状況までを聞くことができた。現在のノルウェーの状況は政府の90年代からの長期戦略の成果と言えるし、日本の電動化にも参考となる多くのインサイトがあったミーティングであった。

ノルウェーEV協会とその役割

ノルウェーEV協会のオフィスにあったモデルSの模型(EV協会のステッカーが貼られている)

ノルウェーEV協会(Norsk elbilforening /Norwegian Electric Vehicle Association)は、EV普及を推進する非営利NGOだ。1995年設立以来、EVが珍しかった時代から活動を続けている。現在、会員数は12万人を超え、EVドライバーが中心で、50人の従業員と13の地域支部を持つ。これは世界最大級のEVコミュニティだろう。協会の運営費は会員のメンバーシップ費から成り立っている。協会の目標は明確で、そのミッションは「交通や輸送をできるだけ早く電動化する」ことだ。そして協会の役割は多岐に渡り、政策提言、情報提供、イベント開催などを通じてEVを広めている。

たとえば、ノルディックEVサミット(Nordic EV Summit)は毎年開催される北欧最大のEVイベントで、業界関係者や政策担当者が集まり、テクノロジーと政策を議論するノルウェーEV協会の影響力の象徴となっている。2025年のイベントでは、基調講演や全体セッション、製品・技術のローンチがあり、国際的な気候変動対策、EVのグローバルサプライチェーン、自動車メーカーの戦略なども発表されている。登壇者にはノルウェー政府のEV政策担当者、IEAのエネルギー技術政策ヘッド、フォルクスワーゲンのセールス・マーケティング責任者、ノルウェー道路管理局のディレクターなど政府関係者やメーカー幹部など多くのキーパーソンが集まる。

EVサミット2025の模様

また、会員向けには、充電マップ、保険特典、EV購入ガイドを提供し、ウェブサイトのブログなどでEVの利点や最新ニュースを解説、初心者ガイドを提供する。13ある地域支部でも、地元キャンペーンを実施するなど、草の根でEV普及を進めているそうだ。協会は政府との橋渡し役で、ユーザーの声を政策に反映させ、政策提言では、インセンティブ継続を求め、EVシフトを加速させる政治力を持つ。このようにノルウェーの電動化の成功は協会の貢献が非常に大きくとても重要な役割を担ってきた。

ノルウェーがEV先進国となった背景

高速のパーキングエリアに数多く設置された急速充電器(ノルウェーEV協会資料より)

ノルウェーがEV大国たる理由は、政府の長期戦略と社会的要因の融合が大きな背景にある。1990年代からのEV優遇で、購入時の25%ものVAT(日本の消費税にあたる)が免除、高額な登録税も免除もしくは低減される。また、無料駐車、バスレーン利用、高速道路料金の割引(内燃機関車比70%以下)もある。これらによってEVの購買・所有コストは内燃機関車よりも安くなり、経済的メリットは多くのノルウェー人にとって魅力となっている。Lars氏いわく「ノルウェーも環境や気候変動に対する意識は高いが、実際の消費者購買行動において、この経済的メリットとEVの利便性は購入理由のほとんどを占める」とのことだ。

もちろん、ノルウェーのエネルギー発電、特に電力生成の構成は、再生可能エネルギーがほぼ100%を占める先進的な状況であり、EVへの移行を後押ししている。主要なソースは水力発電で、全体の約88から90%を占めている。水力発電の強みは、柔軟性が高く、変動する需要や他の再生可能エネルギーの補完が可能になっている。また、国内に大規模な自動車製造産業が存在しないため、既存産業からのロビー活動の影響も少なく、EV推進がスムーズに進んだという構造的な利点もあると教えられた。

ノルウェーのEV政策パッケージ(ノルウェーEV協会資料)

つまり、上記スライドにあるように、ノルウェーがEV大国になり得た理由には購入およびユーザー向けインセンティブの需要側の政策、EUの厳格なCO2排出基準による供給側政策、そして、急速充電ネットワークのインフラ整備にあり、これは包括的な政策パッケージの成果であるとされている。

この話を聞いて、まさに、EUの環境規制、自国の政策、人々の環境意識の高さ、全てがうまく連動したベストプラクティスだと感じた。ノルウェーは石油輸出国として得た富を活用し、化石燃料依存からの脱却を国家目標として掲げてきた。電動化を進めたノルウェーでは1990年から2023年にかけて、乗用車のCO2排出量は約30%減少、そして今年には100%のBEV販売目標を達成しようとしている。

新車乗用車は100%ゼロエミッションへ

ノルウェーの2025年新車販売における、100% BEV目標は、2017年に議会で決定された国家目標で、「2025年に販売されるすべての新車乗用車およびライトバンはゼロエミッション車両とする」という内容だ。

スペインのSEATのEVブランドCUPRAも見かけた

この目標はほぼ達成されており、年初から7月までの新車販売累計シェアではEV(BEV + PHEV)が96.1%で、そのうちBEVが93.7%を占め、内燃機関車のシェアはわずか3.9%に縮小している。前述したように7月単月では97.2%に達し、過去最高を記録した。5月から6月にも同様の高シェアを維持しており、年末予測ではBEVシェアが98%に達すると見込まれている。

今回のEV協会の説明を受けて、いち早く電動化、再エネに本腰を入れることは日本において喫緊の課題であると痛感した。ノルウェーからは環境に対する意識の高さを強く感じるし、それは日常生活においても静かでクリーン、そしてより快適な環境の実現に直結する。今回の記事で少しでも多くの人にノルウェーのような先進的な国があることを知ってもらえるきっかけになればと思う。

続編記事では、ノルウェーの人気モデル、充電インフラの状況などについて深掘りしたい。

真冬のEVの使い方や誤解を解く啓蒙活動もEV協会の仕事だ(ノルウェーEV協会資料より)

取材・文/前田 謙一郎Youtube / X.com

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この記事を書いた人

テスラ、ポルシェなど外資系自動車メーカーで執行役員などを経験後、2023年Undertones Consulting株式会社を設立。自動車会社を中心に電動化やブランディングのコンサルティングを行いながら、世界の自動車業界動向、EVやAI、マーケティング等に関してメディア登壇や講演、執筆を行う。上智大学経済学部を卒業、オランダの現地企業でインターン、ベルギーで富士通とトヨタの合弁会社である富士通テンに入社。2008年に帰国後、複数の自動車会社に勤務。2016年からテスラでシニア・マーケティングマネージャー、2020年よりポルシェ・ジャパン マーケティング&CRM部 執行役員。テスラではModel 3の国内立ち上げ、ポルシェではEVタイカンの日本導入やMLB大谷翔平選手とのアンバサダー契約を結ぶなど、日本の自動車業界において電動化やマーケティングで実績を残す。

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