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価格が高い? 充電インフラが脆弱? それでもEVが売れている現実/2025年上半期「インドネシア・マレーシア・タイ」EV販売レポート

価格が高い? 充電インフラが脆弱? それでもEVが売れている現実/2025年上半期「インドネシア・マレーシア・タイ」EV販売レポート

2025年上半期における東南アジアのEV普及動向が、すでに日本をはるかに上回る普及速度を見せています。人気車種の動向を含めて主要マーケットであるインドネシア、マレーシア、タイの状況をレポートします。

目次

インドネシアでは新車販売のEVシェアが10%を突破

まずはインドネシア市場について確認します。2025年6月のBEV販売台数は6257台と、前年同月比+64.2%の急成長を実現しました。2025年上半期累計でも3.6万台強のBEVが販売され、前年比2.7倍という急成長です。

卸売販売全体に占めるBEV販売シェア率の変遷を見てみると、6月単体のシェア率は11.9%と、前年同月に記録した5.6%と比較しても倍以上のシェア率上昇を記録しています。つまりインドネシアで売れた乗用車やピックアップトラックの総数の内、約8台に1台がBEVだったことになります。

次にインドネシアでどのようなEVが人気なのかを確認していきましょう。2025年上半期における人気BEVランキングトップ20では、BYD M6がトップにランクインしています。M6は2024年8月から卸売がスタートして急速に販売拡大しています。M6は6人乗りのミニバンで、インドネシアでは核家族化が進む中においても複数世代が同居しているという家族構成からミニバンの需要が非常に大きいのです。

さらにミニバン需要の高さを示すのが、Denza D9が2位にランクインしている点でしょう。Denza D9はBYDの高級ミニバンであり、6月単体は1768台と、インドネシアで最も売れたBEVでもあります。インドネシア市場におけるミニバン需要の高さ、そして富裕層がショーファーカーとしてD9を求めていると思われます。

ちなみにD9の直接の競合となるトヨタアルファードの卸売台数は、6月単体で兄弟車となるヴェルファイアも含めて83台でした。アルファードはトヨタの数あるモデルの中でも収益性が非常に高い車種ですが、中国市場だけでなく東南アジアでも販売減少の兆候が見て取れます。

また3位はBYDシーライオン7で、やはり富裕層を中心としてEV需要が急増している状況を示しています。一方で、BYDの大衆モデルであるドルフィンなどの車種は思ったほど販売が伸びていません。やはりトヨタなどが発売する安価なガソリン車に、コスト競争力で対抗できる安価なEVの存在がさらなるEV普及において鍵になるということでしょう。

そして、インドネシア市場のEVシフトに対して注意すべきなのが日本メーカー勢です。2025年上半期における自動車ブランドごとの卸売台数ランキングを見てみると、トップからトヨタ、ダイハツ、ホンダ、三菱、スズキと続くものの、6位にBYD、10位にChery、11位にWulingと中国勢が販売シェアを伸ばしています。とくにBYDはDenzaを合計するとスズキの背中が見え始めています。

インドネシアではすでにBYDはAtto 1(中国市場:シーガル)の発売をスタートしています。秋から納車が始まってどれほどの販売台数を記録するのか。さらに2026年中に稼働する現地工場が稼働した段階でどれほど生産コストを引き下げることができるのかに注目したいと思います。

マレーシアでもEVのシェアが急速な成長局面へ

続いてマレーシア市場です。6月単体のBEV登録台数は3276台と史上2番目の登録台数を達成し、前年同月比+70.2%の大幅成長を実現しました。

また新車登録台数全体に占めるBEVシェア率の変遷を確認すると、6月単体で5.54%という史上最高水準のBEVシェア率を達成。マレーシアで登録された乗用車の20台に1台以上がBEVというようなイメージです。

次にマレーシア国内でどのようなEVが人気であるのか確認します。2025年上半期におけるBEV販売ランキングトップ30を見てみると、トップはプロトンe.MAS 7、その後はBYDシーライオン7、BYD Atto 3、テスラモデルY、BYD M6、テスラモデル3、BYDシール、Denza D9、Zeekr 009、Xpeng G6と続きます。

まずトップのe.MAS 7はジーリーのGalaxy E5のリバッジモデルです。プロトンというマレーシア国産自動車メーカーは、現在49.9%の株式をジーリーが保有しており、ジーリーのEVテクノロジーを流用して初のEVを投入してきた格好です。プロトンは同じく現地メーカーのプロドゥアに次いで自動車販売シェア2番手であり、人気の国産メーカーがEVをラインナップすることで販売台数が急拡大しているのです。

さらに、マレーシアで急速に販売シェアを高めているのがDenza D9、Zeekr 009、Xpeng X9という高級ミニバンEVの存在です。先ほどのインドネシアと同じく、富裕層がどれだけアルファードから中国製高級ミニバンEVに流れていくのかに注目です。

また、BEVに絞った人気ブランドランキングを見てみると、BYDが複数モデルを展開することでe.MAS 7のみをラインナップするプロトンをリードしている状況です。その後は新型モデルYの大規模納車がスタートしたテスラ、さらにBMW、Xpeng、Denza、Zeekrと、主に中国勢の販売シェア拡大が続いています。

さらに2025年上半期で売れたブランド別ランキングトップ10を見てみると、プロドゥアが圧倒してトップを維持しています。プロドゥアはダイハツが41%、三井物産が10%の株式を保有しており、特にエンジン製造部門についてはダイハツが子会社化していることもあり、ダイハツのテクノロジーが数多く採用されています。

また、その後にはプロトン、トヨタ、ホンダがランクインしており、日本メーカーのシェアも高いです。5位と7位に食い込んだCheryとBYDという中国勢が今後数年で日本メーカーとどこまでシェア拡大できているのかに注目です。

タイのEVシェアは24.79%に到達

最後にタイ市場です。まず6月単体のBEVの登録台数は前年同月比2倍以上となる約1.35万台と、史上最高水準の販売台数を達成しました。実はタイ市場では2024年シーズンにEVシフトが減速しており、2024年下半期はEV販売台数で前年割れが続いていました。ところが2025年に突入してからは再度EVシフトが拡大し、新車登録全体に占めるBEVのシェア率は6月単体で24.79%に到達。これはタイで登録された乗用車の4台に1台がBEVというイメージです。2024年6月が10.18%、2023年6月が9%だったことを踏まえると急激な普及速度です。

また、BEVとともにPHEVとハイブリッド車の登録台数とマーケットシェア率を見てみると、これまではハイブリッド車の普及率が優っていたものの、最新データではBEVがハイブリッド車のシェア越えを達成している状況です。

ハイブリッド車のシェア率は前年同月比で低下傾向にあります。BEVの人気が高まるにつれて、ハイブリッド車のシェア拡大が減速し始めている可能性が考えられそうです。

グローバルサウスなど世界の新興国でもEVシフトが進展中

ちなみにこのグラフは、日本市場と比較したタイやマレーシア、インドネシアという主要東南アジア各国、およびブラジルやオーストラリア、トルコなどのグローバルサウスを含めた主要な自動車マーケットのBEVシェア率の変遷を比較したものです。

2025年6月単体のBEVシェア率は、以下のような状況です。

●日本:1.68%
●ブラジル:2.89%
●マレーシア:5.54%
●オーストラリア:10.33%
●インドネシア:11.90%
●トルコ:21.78%
●タイ:24.79%

この通りBEVシフトで停滞する日本を横目に、どの国もBEV販売シェア拡大が進展していることがわかります。

タイでもBYDのEV車種が人気

次にタイでどのようなEVが人気であるのかを確認していきましょう。2025年上半期のBEV販売ランキングトップ30を確認すると、トップから BYDドルフィン、シーライオン7、MG4、Atto 3、Ora Good Cat、Aion Vと、トップ11のうちBYDが5車種を席巻しています。

ちなみにシーライオン7の販売台数はモデルYの3倍に達しています。特にタイは中国と自由貿易協定を結んでおり、関税面における条件はBYDもテスラも同じであることを踏まえると、やはりタイ国内ではテスラよりも安価に発売できているBYDが選ばれていると言えそうです。

さらに注目したいのが8位にランクインしたDenza D9、さらにZeekr 009やXpeng X9という高級ミニバンEVの人気ぶりでしょう。マレーシアやインドネシア市場と全く同様に、タイでも高級ミニバンEVが富裕層に人気を博しています。

また、自動車ブランド別のBEV登録台数ランキングを見てみると、グラフ中に黄色で示した中国メーカー勢でタイ市場におけるBEV販売を支配していることがわかります。

ガソリン車を全て含めた自動車登録台数ランキングトップ30では、トヨタハイラックスRevo、イスズD-Maxというピックアップトラックが上位を席巻しています。タイだけでなく東南アジアやオセアニア、中南米を含めて、ピックアップトラックの需要が高く、トヨタや三菱が高いシェアを誇っています。さらに3位にはトヨタのコンパクトセダンであるヤリスATIVがランクイン。その後もトヨタヤリスクロス、ホンダHR-V、ホンダシティハッチバック、トヨタカローラクロスなど、日本勢のコンパクトカーが席巻しています。

この日本メーカーの牙城に食い込み始めているのがBYDです。カローラクロスに次ぐ8位にランクインしたのがPHEVのシーライオン6です。3月から本格的に登録がスタートして急速に販売台数を伸ばしており、2025年全体ではカローラクロスを抜いて、C-SUVセグメントトップクラスの販売台数となる見通しです。BYDはこれまでBEVだけをラインナップしていたものの、さらにPHEVを投入することで日本のガソリン車のシェアを切り崩しにかかっています。

BYDは8月中に最新のシール5を投入。シーライオン6に続く2車種目のPHEVとして販売台数に注目が集まっています。

いずれにしても東南アジアの中でも自動車マーケットが大きい3カ国では、例外なく急速にEVシフトが進んでいる状況です。ただし、その実態はEVシフトというよりも中国製EVシフトであり、さらにPHEVも投入することで日本メーカーの牙城を脅かす存在になってきています。

ちなみに中国メーカー最大手のBYDは、最安モデルAtto 1(シーガル)をタイではまだ本格的に発売していません。タイやインドネシアで現地生産される予定のAtto 1がどれほどのコスト競争力を実現してくるのか。さらに加速していくであろう東南アジアを含めた新興国のEV普及動向からますます目が離せません。

取材・文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル

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この記事を書いた人

免許を取得してから初めて運転&所有したクルマが電気自動車のEVネイティブ。

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