ボルボ最小のSUVで電気自動車(EV)の『EX30』に、待望のAWD(全輪駆動)モデル、『EX30 Cross Country Ultra Twin Motor Performance』が加わりました。発表に先立って行われたメディア向け試乗会で確認できた特徴をお伝えします。
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EX30のラインナップを拡大
2025年8月21日、ボルボ・カー・ジャパンはコンパクトSUVタイプの電気自動車(EV)『EX30』のラインナップに、AWD(全輪駆動)の『EX30 Cross Country Ultra Twin Motor Performance』を追加し、発売しました。
同時にEX30のラインナップを拡充し、LFP(リン酸鉄)バッテリーを搭載したエントリーモデル『Plus Single』の479万円から、最上級グレードになる『Cross Country』の649万円まで、駆動方式やバッテリー搭載量の違いによる全5種類のグレードが揃いました。
海外ではすでにEX30のAWDモデルが市場に出ていましたが、2月に新モデルの『Cross Country』が追加されたタイミングで、日本にもお待ちかねのAWDモデルが入ってきたことになります。
四輪駆動信仰が根強い日本でEVの選択肢が増えるのは、EV普及にとって大きな意味を持つのではないでしょうか。
ラインナップの全体像や拡充の狙いは別記事で紹介するとして、ここでは最上級の新型AWDグレード、『EX30 Cross Country Ultra Twin Motor Performance』について紹介します。
競合するのはテスラ、MINIなどか
『EX30 Cross Country』(クロスカントリー)は2025年2月に発表されたニューモデルです。トリムは『Ultra Twin Motor Performance』一択です。
【EX30 Cross Country Ultra Twin Motor Performance】
●モーター最高出力:前:115kW 後:200kW システム最大:315kW
●最大トルク前:200Nm 後:343Nm システム最大:543Nm
●バッテリー容量:64.9kWh(ネット) 69kWh(グロス)
●一充電走行距離(WLTC):500km
●価格:649万円
●CEV補助金:36万円
価格帯は、テスラ『モデルY』やBMW『MINI ACEMAN』の上位モデルと同じくらいです。ボルボ・カー・ジャパンは、このあたりを競合車種と想定しているようです。
CEV補助金はモデルYやMINI ACEMANより少ない36万円です。少し話が逸れますが、なぜ36万円になったのかは、わかりません。メーカーにも、わかりやすい説明はないそうです。税金が原資の補助金なのに不透明感満載なのは、どうしたことでしょうか。
閑話休題。バッテリー容量はグロスで69kWh、ネットで64.9kWhです。充電時に最適な温度になるよう、クーラントによる温度調節機能を搭載しています。

キャップに「DC」と「AC」の表示が追加されていました。DC=急速充電(CHAdeMO)、AC=普通充電(J1772 Type1)です。
急速充電の受け入れ可能電力は150kWです。技術資料によればバッテリーの総電圧は最高で469.45Vなので、350Aが流れれば上限いっぱいの150kWが出るかもしれません。このあたりは、改めて長距離試乗で確認したいところです。
つや消しブラックを多く使ったエクステリア
クロスカントリーは名前の通り、EX30のラインナップのひとつですが、見た目でわかるオリジナルからの変更点がいくつかあります。
すぐわかるのは、フロントグリル、リアゲートのデザインです。ノーマルのEX30ではボディーと同色でしたが、クロスカントリーは一部がマットブラックになりました。あわせてホイールもブラックになったことで、全体にキリッと締まったというか、名前にふさわしいワイルドな印象を受けます。
フロントグリルのパネルにはスウェーデンの北部の国立公園の等高線を模した模様がデザインされており、スウェーデン最高峰というケプネカイセ山の座標が記されています。ちょっとしたディテイルにもこだわり満載といったところでしょうか。
見た目ではわからない部分では、サスペンションが専用のものになりました。ノーマル(RWDモデル)に比べて柔らかくセッティングされているそうです。またタイヤサイズは20インチから19インチに変更されました。扁平率はノーマルの45が、クロスカントリーでは50になっています。
タイヤについては、18インチホイールとオールテレインタイヤを組み合わせたオプションもあります。
サスペンションとタイヤサイズの変更で、クロスカントリーはノーマルに比べて最低地上高が20mm高くなりました。全高は1565mmで、15mmアップにとどまっていますが、都市部の立体駐車場で上限になっていることが多い1550mmは少しだけオーバーしました。
フロントモーターは適時に接続
クロスカントリーは、前後に各1個のモーターを搭載したAWDです。モーターの最高出力は、前が115kW、後ろが200kWで、システム最高出力は315kWです。最大トルクは前200Nm、後343Nm、システム最大トルクは543Nmとパワフルです。
走行中は、2個のモーターのうち後輪を中心に使います。前輪の駆動モーターはクラッチでつないだり、切ったりを手動で選択できます。ドライブモードの選択肢は、「レンジ」、「標準」、「パフォーマンス」の3種類です。

ドライブモードの切り替えはディスプレイ表示のショートカットでワンタッチでアクセス可能。
「パフォーマンス」にするとクラッチが常時つながった状態でフルタイム四駆のようになります。「レンジ」と「標準」では後輪駆動になるので、航続可能距離はかなり伸びそうです。
後輪用モーターを制御するインバーターにはSiC(シリコンカーバイド)半導体を使用。3%の効率向上で航続可能距離の延伸にも寄与しています。またボルボ・カー・ジャパンの説明によれば、ノイズの低減にもつながっているそうです。
ただ前輪モーターのインバーターはSiC半導体を使っていないので、常時四輪駆動にしていると少し音が聞こえるかもしれないとのことでした。
と言ってもEX30はもともと静かなので、実感できるかどうかは人によるのでしょう。正直、今回の試乗会では大きな違いを感じることはできませんでした。
ワンペダルモードで回生の強弱調節が可能に
ということで、21日の正式発表に先立って行われたメディア向け試乗会でクロスカントリーに乗ってみました。コースは東京の南青山からお台場までの往復約20km程度です。
機能的にノーマルのEX30からの変更点としてわかりやすいのは、ワンペダルモードが3段階になったことです。これまでは回生の強弱が微妙に違うだけだったのですが、回生強、回生弱と、回生なしのコースティングが選択できるようになりました。
試してみると、確かに違いがはっきりしています。回生強が、いわゆるワンペダル操作の感覚です。弱にするとアクセルオフで自然に減速していく感じです。
前方の車を追尾して減速するわけではありませんが、減速Gは自然な感じで好感が持てました。またワンペダルドライブにしなくても、減速が続いて最後は停止します。ただ停止時に、少しカックンブレーキになるのが気になりました。
自分でブレーキを踏んで停止する際にも、気をつけないとカックンブレーキになることがあります。今後の改善に期待したいと思います。ノーマルEX30も、低速でのモーター制御がOTAで改善されたので、クロスカントリーもすぐに良くなるのではないかと思います。
新しく追加された回生なしのモードにすると、コースティングしているように感じられます。ただ、アクセルをポンと離すと、わずかに「トン」というショックが感じられます。不快なものではないのですが、やや不思議な挙動です。
ボルボ・カー・ジャパンの技術担当者によれば、アクセルをそっと離すとこの挙動は出ないとのことでした。理由がわからない仕様なので、これも今後のOTAで改善されるかもしれません。
なお3段階の回生調節機能は、ノーマルのEX30でも今年春に搭載されたようです。最新のマニュアルに機能の記載がありました。こういう機能進化が比較的スムーズにできるのは、EVならではだと思います。
自然な走行感覚には満足
前述した、ドライブモードを「パフォーマンス」にするとフロントモーターがクラッチでつながり、「標準」「レンジ」では接続が切れて後輪駆動になることの違いは、都内の好天の中を少し走っただけではあまり実感できませんでした。
今回の試乗では、セレクターは「レンジ」にしていました。「標準」だと少しレスポンスが良すぎて前後Gが強くなってしまうことがあるのは、EVではよくあることです。
なお「標準」と「パフォーマンス」では、出力の出方に大きな差はないように感じました。また後輪駆動と四輪駆動の違いを実感するには、雪や雨の中などで少しスピードを上げて走らないとですね。それはまた別の機会にしたいと思います。
またボルボ・カー・ジャパンによれば、「パフォーマンス」で常時四輪駆動にした場合は、後輪駆動の状態よりも中間加速が大幅に速くなります。この違いも、都内の一般道の速度域では実感できなかったので、長距離試乗の機会があれば確認したいところです。
SOH表示は続けてほしい
新たに追加された機能で「お」と思ったのは、アップルのiPhoneにあるような、バッテリーのSOH(State of Health)表示があったことです。
SOH表示については、何を基準に算出するかなどについて自動車業界でも議論があり、統一見解は出ていません。でも、まず表示させてみるという姿勢は、車の状態の透明性を確保する上で重要なことだと思います。
ただボルボ・カー・ジャパンの技術担当者は、この表示を続けるかどうかはわからないと話しました。他の車種に広げるかどうかもわからないようです。このあたりは、判断が難しい部分があるようです。
ともあれ表示があるのは歓迎したいので、現時点の限定ですが、クロスカントリーにSOH表示があることは特記事項として残したいと思います。
というわけで、そもそも元のノーマルEX30がいい車なので「とても魅力的な全輪駆動のBEV」というのが結論です。充電性能や後輪駆動と四輪駆動の挙動の違いなど、確認できていない点はありますが、それもネガティブな問題にはならないと思います。
とにもかくにも今は、EVの四輪駆動の選択肢が増えた事を歓迎したいと思うのです。
取材・文/木野 龍逸
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