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N-VAN e: でオフグリッド走行にチャレンジ/オーナーであるホンダカーズ埼玉西の社員とEV談義

N-VAN e: でオフグリッド走行にチャレンジ/オーナーであるホンダカーズ埼玉西の社員とEV談義

都内で初開催された「ホンダEV合同ミーティング」に参加した時にお見かけしたのが、キャンパーにカスタムされたN-VAN e:でした。親子3人が寝られる車内空間に加えて、太陽光発電パネルを搭載しているのがチャームポイント。後日、オーナーから話を聞くことができました。

目次

ソーラーパネル搭載「N-VAN e:」のオーナーは販社スタッフ

オーナーの鯨岡さんと愛車のN-VAN e: 。

アルプスアルパインが主催した「ホンダEV合同ミーティング」については、先日の記事でお伝えしました。会場に集まったHonda eとN-VAN e:の中で、とりわけ目立っていたのが、タープを広げてキャンプサイトを生み出していたグレーの1台。当日は立ち話をしただけでしたが、オーナーの鯨岡さん(埼玉県在住)に、改めて時間をいただけることになりました。
※冒頭写真はタープなどを展開した鯨岡さんのN-VAN e: 。

イベント当日には知らなかったのですが、鯨岡さんはホンダの正規ディーラーである株式会社ホンダカーズ埼玉西の社員(サービス担当)でした。取材は埼玉県狭山市にある本社にお邪魔させてもらうことに。上司の方々も時間をとってくださって、ホンダEVの販売状況などについてインタビューさせてもらいました。まずは、鯨岡さんのカスタムN-VAN e:について紹介します。

居心地の良さそうな車内は、夫婦と子供1人で快適に移動をして泊まれるようにカスタムされています。目立っているのは助手席と後部座席に設置されたLEDディスプレー。動画のセレクトやオーディオの音量調整などは、すべて運転席から音声で操作できます。移動するリビングルームといったところですね。

3人での車中泊というと、バンタイプとはいえ軽四で実現するのは難しいところ。二段式にすることで必要なスペースを確保しています。右側の後部座席には棚のようなものが設けられていて、これが上部ベッドの後ろ半分です。

寝る時には、後部に収納してあるベッドの前半分を運転席の上にセットします。助手席を倒すと、左側にも大人が寝られるフラットなスペースができて、まだ小さいお子さんは運転席の後ろ、右の後部座席とラゲッジスペースで足りるのだとか。

キャンプ場では、サイドからリアにかけて270度広がるタープが活躍します。ルーフキャリアに積んだまま展開すると、車の周囲に日差しと雨を避けられるスペースが出来上がり。リアゲートには着替えなどもできるように目隠しタープもセット。なかなか快適そうです。

太陽光発電&ポタ電でオフグリッド走行に挑戦

ここまでのキャンピング仕様は、内燃車のN-VANでも設定可能。実際、既存のN-VAN用グッズも活用しています。ホンダ学園出身で、電装系が得意という鯨岡さんが手がけた、EVならではのカスタムは、オフグリッド走行への挑戦です。

天井のキャリアに、自転車と一緒に積まれているのは出力170Wのソーラーパネル。車内に置かれた2つのポータブル電源(メイン680Wh+サブ260Wh)を充電できるようになっています。

電源の収まり具合がいい感じ。メインは運転席と助手席のすき間にすっぽり。サブは運転席の下に収まっていて見えません。軽規格で車内空間が限られているので、デッドスペースに収まるものを探したそうです。

「条件がいいときは、ポータブル電源に数時間で500~700Whぐらい充電できます。貯めた電気を100V×5A=500Wで駆動用バッテリーに充電できるようにしています」(鯨岡さん)

N-VAN e: の車体システムは、停車中でなければ駆動用バッテリーに充電できない設定です。鯨岡さんはポータブル電源から100V用J1772規格の充電ケーブルをフロントの普通充電口近くまで引いて、ボンネットを開ければつないで充電できるようにしてあります。パススルー機能というのがあって、太陽光パネルが発電中なら、ポータブル電源からの電気にプラスするかたちで充電できるそうです。

約2時間のソーラー充電で8km弱の走行が可能

「メインのポータブル電源が空になるまでN-VAN e: を充電して、また次を貯めている間にサブ電源も使います。約1kWhの電気を作って使ってというサイクルですね」

この車載ソーラーシステムで2時間ぐらい充電すると「だいたい8km弱」走れるそうです。ソーラーカーレースに出場する競技車両のように、市販車も太陽光だけで走り回れたら……というのは、EV乗りなら一度は夢想したことがあるはず。長い距離ではありませんが、しっかり実現しちゃってます。

駆動用バッテリー容量が29.6kWhと控えめで、遠出をするにはあまり向いていないN-VAN e: なのですが、「近場で乗るなら、ソーラーパネルを使うことで、すごくメリットが出てきます」と鯨岡さんは言います。N-VAN e: を通勤にも使っていますが、自宅と会社とは往復で20km前後。こまめに充電することで、かなりの電力を車載ソーラーで賄えるそうです。

ちなみにトヨタ・プリウスPHVの一部グレードにメーカーオプションとなっている天井設置のソーラーシステムは180W。トヨタは「1年間でEV走行1,200km分に相当する電力」を得られるとPRしています。手作りでほぼ同等のものを作ってしまったということですね。

大きいソーラーパネルを使えば充電量は増えますが、ルーフに荷物が積めなくなるし、パネルと対応させてポータブル電源を大きくすると車内空間が狭くなります。いろいろ考慮した結果、このサイズに落ち着いたのだとか。

付け加えると、鯨岡さんの場合、自宅の屋根にもソーラーパネルが設置されていてEV充電設備もあるので、N-VAN e:の月間走行距離が500kmぐらいまでは、実質ゼロ円で運用できるそうです。そもそもオフグリッド走行に興味を持ったのも、自宅のソーラーパネルがきっかけでした。

「電気が余って売電していたんです。だったら車をEVにして充電したらいいんじゃないか、と。そして、車にもソーラーパネルがあったら、会社で仕事をしている時も、遊びに出かけている時も、ずっと充電できて効率がいいんじゃないか、と思いつきました」

家族でアウトドアを楽しみたいので、車中泊ができるオフグリッド・キャンパーを構想。N-VAN e:が発表されてすぐに必要なものを探し始めて、納車直後にカスタムが完成したそうです。

「EVは、IH調理器を使ったり、お湯を沸かしたりすることも簡単にできます。エアコンを使うのにアイドリングも必要ない。本当にキャンプや車中泊に向いていると思います。購入前に不安だったのは航続可能距離でした。でも、乗ってみたらEVの利点を知らなかっただけ、とわかりました。わざわざ燃料を入れに行かなくても、寝ているとき、買い物をしているとき、食事をしているときに充電できる。N-VAN e: は、自分の生活にぴったりだと思っています」

100V電源があるキャンプサイトを有効活用

EVキャンプでのノウハウも教えてもらいました。鯨岡さんはゴールデンウイークに家族旅行で600~700km走ったそうですが、充電はほぼ無料で済んだそうです。それは電源サイトのあるキャンプ場を選んだから。

「N-VAN e:は100Vで充電できるので、家庭用コンセントにつなぎっぱなしにしちゃいます。エアコンやIH調理器を使うので、かなり電力も消費しますが、それでも10時間ぐらいはキャンプ場にいるじゃないですか。出発する時にはかなり充電されています」

EV用充電スタンドのあるキャンプ場は限られていますが、100Vの家庭用コンセントを備えた電源サイトは一般的です。ただし、キャンプ場ごとに利用できる電源の容量は要確認。鯨岡さんは「EVを充電してもいいですか」と確かめているそうです。

独創的な車載ソーラーパネルと充電システムは、「いずれ製品化していけたら」とも語ってくれました。トヨタ・プリウスPHVは、走行中にも補機バッテリーの充電ができるようになっているそうですが「一歩進めて、走りながら駆動用バッテリーに充電するシステムは、ぜひホンダから出してほしいと思います」とのことでした。

戦略担当顧問の小畑さんは「Honda e」ユーザー

写真左から、笹川さん、鯨岡さん、小畑さん。

せっかく本社にお邪魔したので、ホンダカーズ埼玉西のEV販売状況や今後の見通しについてもインタビューしました。質問に答えてくれたのは、戦略担当顧問の小畑勝弘さん、取締役第一事業部長の笹川武さん、取締役社長室長の成田浩一さんです。

同社は、もうすぐ創立50周年を迎えるホンダディーラーで、名前の通り埼玉県西部が営業エリア。所沢市、狭山市、入間市、飯能市などに新車5拠点、中古車3拠点を展開しています。2006年以前はベルノ店だったこともあって、スポーツ志向のお客さんが多いとのこと。また免許不要の近距離モビリティ(電動車椅子規格)である「WHILL」の普及にも積極的に取り組んでいて、昨年度は全国3位(9店舗以下の部)となったそうです。

EVの販売実績は、これまでHonda eが約10台、N-VAN e:は約20台で、先行予約の始まったN-ONE e:については、取材時点ではまだエントリーはないとのことでした。

「ホンダ初の市販EVだったHonda eは、コンパクトスポーツとしてセカンドカーに使われているというイメージがありますね。実際にNSXに乗っているお客さまに買っていただいたりもしました」

そんな分析をしてくれた小畑さん、じつは自らもEVユーザー。社用車のHonda eを仕事での移動や通勤に使っています。

小畑さんと Honda e。

「実際に乗ってみると、街乗りにはすごく便利で、これ以上の車はない。排ガスは出ないし、スタンドに行かなくてもいい。中近距離はEVがいい、と断言できます。セカンドカーとしての魅力は十分だと思います」

と、EVの長所を挙げつつ「1台使いでは厳しいこともある」とも。長距離の旅行などでは、もう1台持っているCR-Vハイブリッドを選んでしまう、と正直なところも話してくれました。ホンダは国内ではまだ大容量バッテリーのEVを販売していません。Honda 0シリーズなどの今後の動向に注目したいですね。

小畑さんは「メーカーでも販社でも役員クラスの方にはぜひEVに乗ってもらいたい」ともアピールしていました。「乗ってみてはじめて実感としてわかることがある。どうすれば使いやすくなるか、どんなシステムがよりメリットを生むか、どう普及させていけばいいか、使いながら考えていくのが一番です」とのこと。おっしゃる通りだと思います。

新車のHonda e があと1台納車可能!

N-VAN e: については、ホンダカーズ埼玉西ではいまのところ法人需要が中心のようです。地方自治体や企業向けの営業では、災害時などに電源供給ができる「走る蓄電池」としてのメリットをアピール。複数の自治体で入札を取っているそうです。「これからもそういう形のものは増えていくと感じています。企業にもSDGsの取り組みとしてEVに対するニーズがあります。一般ユーザーへの販売にどうつなげていくかはこれからの課題ですね」と話してくれたのは笹川さん。

ただ車を売るだけではなく、EVを家庭用蓄電池として活用するV2H(Vehicle to Home)などビジネスとしての広がりにも期待しているそうです。「エネルギーマネジメントのことまで話ができるような営業スタッフ、EVのエキスパートを各拠点に一人は欲しいと思っています。早急にレベルを上げていかなくてはならないと感じています」(成田さん)

オフグリッドN-VAN e: は会社としての取り組みではなく、一社員の個人的なチャレンジなのですが、EVの新しい楽しみ方を提示する好例であるのは間違いありません。「EVは乗るだけじゃなくて、こういう面白い使い方がありますよ、というのはPRしていきたいですね」と鯨岡さんは話していました。そのうちに、ソーラーパネル充電がディーラーオプションになる日も近いかも……なんて想像してしまいました。

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ところで、ホンダカーズ埼玉西では、昨年1月に生産終了したHonda e(ホワイト)が1台、まだ納車可能だそうです。もう販社在庫しか残ってない新車のHonda e、探していた方は問い合わせてみてください。

取材・文/篠原 知存

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この記事を書いた人

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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