アウディの高級EV『Audi SQ6 e-tron』で東京=兵庫往復レポート。往路編では約600kmの無充電走破で感じたことをお伝えしましたが、復路は「無計画でも快適」な高級EVならではのロングドライブを体感。アウディが独自に展開する高出力充電ネットワークを活用して思い付いた「期待」を紹介します。
SOC80%から充電計画は「とくになし」でスタート
アウディが誇るquattro(クアトロ=4WD)のハイパフォーマンスEV『Audi SQ6 e-tron』で、夏恒例の「東京=兵庫」片道約600kmの往復ドライブをしてきました。搭載されているバッテリー容量は100kWh(ネット容量は94.9kWh)ですから、日産サクラと比較するとザッと5台分。私のマイカーであるヒョンデKONAカジュアル(48.6kWh)の約2倍です。
「電気自動車は航続距離が短い」などとよく言われますが、バッテリーをたくさん積めば長距離を走れるのは当然のこと。サクラのようにバッテリーが小さなEVでロングドライブする際は経路充電の場所をあらかじめ計画しておくのがスムーズな旅のポイントになりますが、SQ6 e-tron のような高級EVの場合、「バッテリーが減ってきたら充電するか」くらいの、いわば無計画でこと足ります。
さて、往路では100%でスタートして兵庫北部但馬地方の郷里までの約600kmを無充電走破することに成功しました(関連記事)。でも、復路は経路充電について「何も考えない」ことがひとつのミッションです。郷里滞在中に何度か近場の急速充電器を利用(別途、番外編でレポート予定)して、8月11日の復路出発時のSOCは80%。航続可能距離は437kmと表示されていました。
今回、兵庫を出発する前に決めていたのは「せっかくだから開設されて間もない『Audi charging station 厚木』(2025年5月にオープン)で充電してみよう」ということだけ。これは、アウディが独自に展開する高出力急速充電ネットワークの使い心地を実際に体感してみたいという好奇心です。あとは、まったくノープラン。
とはいえ、郷里から400km程度以内の高速道路ルート上には、最大出力150kWの急速充電スポットだけでも、新名神土山SA、伊勢湾岸道湾岸長島PA、新東名浜松SAなどいくつもの選択肢があります。e-Mobility PowerとNEXCO各社が急ピッチで高出力複数口設置の充電スポット拡充を進めてくれていることで、充電する場所に多くの選択肢を得られるようになったことが航続距離が長い(大きなバッテリーを搭載している)高級EVのメリットであることが実感できます。
夕食ついでに土山SAで30分間充電
東京から新幹線&山陰線で来てくれた妻とともに墓参りを済ませ、実家を出発したのが15時頃。往路では80〜90km/hに設定していたACCも、復路では巡航速度を上げ、適度に追い越し車線も使いながら走ります。
18時前、約230kmをひた走り、新名神土山SAにピットイン。150kWの急速充電器が空いていたので、充電&休憩がてら夕食をいただきました。スエヒロダイニングの近江牛ステーキ、美味しかったです。
土山SA到着時のSOCは35%。湾岸長島や浜松まで粘って充電すれば「そのまま余裕で東京まで走れるなぁ」とは思いましたが、ステーキの夕食を優先しました。充電開始直後に確認した出力は118kW。30分間で83%まで、充電器の表示で約48kWhを充電することができ、航続可能距離表示は432km。三軒茶屋の自宅までの距離は約390kmなので、巡航速度を抑えて走ればもう充電なしでOKかな、という感じではあります。
でも、Audi charging station 厚木 での充電は取材ネタとして決めていたし、新東名の120km/h制限に従って走ると電費は落ちるはず。というわけで、何も考えず厚木を目指して走ることにします。
土山では、レストランでステーキ食べつつ30分間の充電でした。急いで食べて、レストランに妻を残してクルマに戻ると、ちょうど充電終了のタイミング。充電器の目の前に空いていた駐車区画に移動して妻の戻りを待ちました。高出力複数口の充電器が増えて便利さが向上するほどに、公共用急速充電器の「1回30分」縛りは必要ないのではないかという思いを痛感します。
ちなみに、この時点での復路の電費はメーター表示で5.3km/kWhでした。30分間の急速充電で「5.3×48=254km」走行分の電力を補給できたことになります。ざっくりと「200kmほど走ったら充電&休憩」と考えると、EVでの長距離ドライブにおける経路充電が時間的なロスとはいえないことが理解できると思います。
Audi charging station 厚木での充電は無料でOK
19時前に土山SAを出発し、新東名掛川PAでトイレ休憩。120km/h制限区間は120km/hで快走して約350km。22時過ぎにAudi charging station 厚木に到着しました。Audi charging station 厚木は東名高速の伊勢原ジャンクションから新東名に入り、厚木南ICを下りてすぐ、アウディ厚木(フォルクスワーゲンの店舗と併設)の敷地内にあります。
SQ6 e-tron のカーナビには推奨充電スポットを自動で経由地設定してくれる機能があります。途中、浜松SAやら駿河湾沼津SAやら、推奨充電スポットをスルーする度に次の推奨スポットを自動で検索して表示してくれるのがなかなかにスピーディ。大容量バッテリーの余裕と併せて、EVに不慣れなオーナーさんでも経路充電への不安を感じることなく遠出できるであろうことが実感できました。
少し停車してカーナビでルート設定をしようかと思っていたら、御殿場を過ぎたあたりで次の推奨スポットに自動でAudi charging station 厚木が表示されたのも、「さすがアウディ、たいしたものだ」と感じたポイントです。
Audi charging station 厚木に設置されているのはパワーエックスの最大150kW器です。ほぼナビの予測通りSOC11%で到着し、30分で54%まで。パワーエックスアプリの履歴によると、約41kWh充電できました。
自宅に帰着したのは23時過ぎ。SOCは45%だったので、厚木からの消費電力は約9%。あのまま無充電でもなんとか完走できた計算にはなります。
兵庫から東京までの所要時間は、30分×2回の充電を入れて約8時間強って感じです。「途中の充電は無計画&電費のことも考慮しない運転」で、何の文句も不安もない、快適なEVドライブを堪能することができたのでした。
いろんな記事で繰り返しお伝えしているように、個人的には「マイカーに大容量バッテリーは必要ない」と思っているし、SQ6 e-tron のような高級車をマイカーにする経済力もないですが。なんとなればエンジン車を運用するのと同じような感覚のまま、EVならではの快適なドライブを楽しめるのが、高級EVの実力なのだということを改めて実感した次第です。
Audi charging hub 芝公園ではラウンジを利用してみた

Audi charging hub 芝公園の隣にはイワタニの水素ステーション。ちょっと先には公道上の急速充電器(パーキングメーター区画)が設置されていて、ちょっとしたZEVパラダイスになっています。
取材用にお借りした広報車。お盆休みがあって、返却は8月18日になりました。「できるだけ60%以上で返却を」とオーダーされていたので、自宅の200Vコンセントで充電しようかとも思ったのですが、せっかくの機会なので、充電時間を快適に過ごせる「e-tron Lounge」がある「Audi charging hub 芝公園」で充電してみることにしました。
10時の返却予定にあわせて、9時過ぎに現地到着。SOC40%から30分で約40kWh、79%まで充電することができました。
「e-tron Lounge」が利用できるのはアウディのEVオーナー限定です。今回、私も事前にお借りするアウディの車両でアプリ登録を済ませておいたので、SMSでQRコードへのリンクが届きました。ラウンジ入り口の認証器にスマホに表示されたQRコードをかざすと入室することができます。
この日も暑い朝でしたが、ラウンジ内はいい感じに冷房が効いていて、トイレや自動販売機もあります。ソファの座り心地も快適です。
名門ブランドで連携してパワーエックスの高出力充電ネットワークを
冷房が効いたラウンジで充電完了を待つ間「こういうプレミアム感のある充電体験ってのもいいよなぁ」とくつろぎつつ、思い付いたことがあります。アウディはパワーエックスと連携して、「Audi charging hub 紀尾井町」、「Audi charging hub 芝公園」、「Audi charging station 厚木」を展開しています。また、メルセデス・ベンツもパワーエックスと連携し、千葉県で「Mercedes-Benz Charging Hub千葉公園」を開設。BMWでも多くのディーラーにパワーエックスの充電器が設置されています。さらに、パワーエックスでも独自ネットワークの拡充を進めており、今年6月には従量課金制の超急速充電器が高速道路上に設置される日本初の事例として、千葉県の「ハイウェイオアシス富楽里」に急速充電器を設置しました。
【関連記事】
BMWの店長さんにEVへの心構えを聞いてみた/パワーエックスの高出力充電器を続々設置(2024年12月3日)
パワーエックスが高速道路上で初めての従量課金制超急速充電器を開設/ハイウェイオアシス富楽里(2025年6月1日)
「メルセデス・ベンツ・チャージング・ハブ」第1号拠点オープン/従量課金ですべてのEVユーザーが利用可能(2025年7月8日)
ひとつひとつのトピックはEVユーザーとして歓迎すべき「いい話」です。とはいえ、経路充電スポットは繋がってこそ価値があります。高速道路上のSAPAへの設置はハードルが高いと思いますが、アウディ(VWグループ)、メルセデス・ベンツ、BMWというドイツ御三家がパワーエックスをハブとして連携し、全国高速道路網のIC近くに、たとえば200km程度の間隔でチャデモ規格の「高出力急速充電ネットワーク」を構築してくれたら、とても魅力的だと思い付いたのでした。
SAPA上への設置はハードル高いでしょうけど、テスラのスーパーチャージャー同様に、「一度ICを下りてすぐ」の場所でOKだと思います。各社のディーラーでICに近いスポットは、結構あるのではないかと思うのですが、どうでしょう。もし実現すれば、e-Mobility Power とはまた別に、高出力&従量課金のチャデモ規格高出力急速充電ネットワークが出現することになります。御三家各社としても、それぞれが全国を網羅するネットワークを構築するより、力を合わせて合理的なひとつのネットワークを作っていくのは、悪い話ではない気がします。
いや、マジで、実現すると素敵です。
取材・文/寄本 好則
コメント