アウディの高級EV『Audi SQ6 e-tron』で東京=兵庫長距離試乗レポートの番外編。但馬地方の郷里に滞在中、先日「44円/kWh」を標準料金にすると発表したテンフィールズファクトリーの急速充電器「フラッシュ」で充電してみました。持続可能な急速充電サービスとしてどうなのか。実際に利用して感じた【○】と【×】を挙げてみます。
兵庫県豊岡市にフラッシュの充電スポットができていた
夏恒例、さまざまな市販EVでの「東京=兵庫」往復レポート。今年は8月8日〜11日まで、アウディの『Audi SQ6 e-tron』で走ってきました。無充電で走破した「往路編」、そして無計画でも快適に駆け抜けた「復路編」はすでに公開済みなので、ぜひ併せてご一読ください。
さて、東京から無充電で到着した郷里の兵庫県但馬地方。実家から最寄りの「道の駅ようか但馬蔵」の急速充電器(出力50kW)でひとまず電欠のピンチを抜け出して実家にゴールしました。実家には2021年に設置したEV用200Vコンセントがあるのですが、寝ている間充電しようかとラゲッジスペースを見ると、車載の充電ケーブルが見当たりません。まあ、SQ6 e-tron の大容量(100kWh)バッテリーを、出力3kWのコンセントで12時間充電しても「3×12=36kWh」、つまり40%も入らないし。「近場で高出力の急速充電器があればなぁ」と、EV充電エネチェンジのアプリで検索してみたのでした。
(車両返却時に確認したら、車載充電ケーブルはちゃんとフランクに入ってました。くぅ、まだまだ修業が足りないですね……)
過疎化が深刻な我が郷里。実はあまり期待せずに検索したのですが、なんと、但馬の中核都市である豊岡市に「180kW」の充電スポットが表示されました。個別情報をみると、「認証システムなし」となっています。EV充電エネチェンジのアプリでは、e-Mobility PowerやエコQ電、パワーエックスといった主要な充電サービス事業者の認証であれば表示されます。これは、先だって「44円/kWh」を標準料金にすることを発表した「FLASH(フラッシュ)」の充電器に違いない。と、コメント欄を確認すると、案の定、赤と黄色が鮮やかなフラッシュ急速充電器の写真が投稿されていました。
「フラッシュが「44円/kWh」を標準料金にすることを発表〜格安急速充電価格の理由とは?」(2025年8月5日)という記事でお伝えしたように、私は個人的に高出力急速充電サービスで「44円/kWh」という設定料金は持続可能ではない、つまり採算がとれない、要するに「数年後には廃墟になってしまうのではないか」と心配しています。
フラッシュの充電サービスに感じた【○】と【×】
懸念する最大のポイントは「44円/kWh では高圧受電の高額な基本料金が回収できない」ことですが、ほかにもいくつか、フラッシュの充電サービスについて感じていることがあります。
テンフィールズファクトリーでは、急速充電サービスであるフラッシュの事業展開にあたり、「充電スピードが遅い」「月額課金の会員制」「時間課金の不明瞭な課金設定」という課題解決を掲げ、実際に「高電圧対応の最大240kW出力器」「会員登録やアプリなど不要の決済方法」「従量課金や充電後放置へのペナルティ課金」「NACS(テスラ)規格のケーブル併設」などをいち早く実現してきています。
チャレンジしてるサービスの内容やスピード感は素晴らしい。でも、ちょっと気になることがある。というわけで、実際にSQ6 e-tron という充電性能が優れた高級EVで利用してみた手順に沿って、フラッシュの充電サービスに関する【○】と【×】を考えてみたいと思います。
【○】空白地帯を埋めてくれる高出力の充電オアシス

左から、90kW以上、44kW以上、それ以下を含む出力でフィルタリングした兵庫県北部の急速充電器マップ。
まずは【○】から。兵庫県北部の但馬地方は、紛うことなき過疎地帯。EV用充電器の数は多くありません。まして、90kW以上の高出力器は、ごらんのようにこの豊岡のフラッシュだけ。テスラのスーパーチャージャーも神戸あたりにはありますが、いわゆる日本海側は空白地帯。鳥取まで行かなきゃありません。そんなエリアに、NACS規格のケーブルを備えた高出力器のフラッシュが設置されたのは歓迎すべき出来事です。
【○】城崎温泉などにアクセスする自動車道出口から便利な立地

北近畿豊岡道の出口ICにて。
フラッシュが設置された「軽市場」という自動車販売店は、現状で北近畿豊岡自動車道の終点である豊岡出石ICから約2kmという便利な場所にあります。観光客が多い城崎温泉や出石の城下町、山陰海岸といったスポットへのルートでもあり、京阪神エリアなどからEVでやってくる観光客にとっては便利な経路充電スポットとして活用できます。
【○】道路の向かいにファミリーマート
私が訪れた8月9日の夕方、フラッシュが設置されている「軽市場」はお盆休みか営業時間外でした。でも、道路を隔てた向かいにファミリーマートがあって、買い物ついでにトイレをお借りすることができました。一般道の急速充電スポットでコンビニが利用できるのは、ほんとに助かります。
【×】設置されているのが1基だけ
設置されているのは最大出力180kWのフラッシュが1基だけ。CHAdeMO規格とNACS規格、2本のケーブルを備えていますが、同時に充電することは不可。つまり、先客がいたら充電待ちをすることになります。フラッシュの急速充電器にはe-Mobility Powerなどが設置する公共用急速充電器のような「1回30分ルール」がなく、長時間の充電待ちになってしまうリスクがあります。今後、EV普及が進めば進むほど、急速充電スポットの複数口設置はとても重要なポイントになってくるはずです。
【×】ケーブルが太くて硬くて重い
最大出力180kWを公言するフラッシュ急速充電器のケーブルは、とても太くて硬くて重いです。今回の充電時、一度ケーブルを繋いで充電を開始しようとしましたがエラーになってしまいました。コネクター部から「カチカチ」と音が聞こえたので、もしかするとと気がついて丁寧に(かなり力を込めて)ケーブルのテンションを緩めて再接続すると無事に充電できたのですが……。1基しかない充電器でエラーが出てしまうのは焦ります。
【○】30分制限はなく90%まで充電できる
フラッシュの充電器には「1回30分」ルールがありません。充電量の上限は「90%」となっていますが、時間制限はなし。今回、SOC(バッテリー残量)25%〜90%まで一気に充電しました。所要時間は66分、充電電力量は充電器表示で70.8kWh。充電料金は3,115円という結果でした。とくに大容量EVの場合、30分制限に縛られることなく必要な電力をしっかり充電できるのは便利です。
【×】出力が不安定?
SQ6 e-tron の急速充電性能は最大135kWです。25%程度から充電開始直後、すぐに130kWを超える出力が表示されて喜んでいたら、数秒程度で45kW程度に出力ダウン。その後も、数秒〜十数秒程度の130kWレベル、あとは40〜48kWになることを繰り返しました。充電結果としても66分で70.8kWhなので、平均出力としては64kW程度だった計算になります。出力の変動が車両側からの要求とは考えにくいので、充電器側でなんらかの制御をしているのでしょう。最大180kWが明示されていれば期待してしまうので、制御があるのならその内容を明らかにしてくれるといいのにな、と感じます。
【○】クレジットカードで簡単決済
フラッシュの充電器は、クレジットカードやQRコードでの決済に対応しています。事前の会員登録や、専用アプリのインストールなどは不要。充電が終了したら、充電器の決済端末を操作するだけで簡単に決済が完了します。
【○】充電完了後の放置にペナルティ課金
充電が終了すると、液晶画面では3分間のカウントダウンがスタート。3分を超えて放置すると1分あたり100円のペナルティ課金が発生します。充電が終わったら速やかにクルマを移動して充電区画を空けるのはEVユーザーとして当然のマナーですが、具体的なペナルティ課金によってマナー遵守を徹底するのは合理的な方法だと思います。
【?】44円/kWhで本当にサービスを維持していけるのか
フラッシュの充電サービスの【○】と【×】を評価する上で、やはりもっとも重要なポイントになるのが「44円/kWh」という安価な料金で、本当にサービスを維持していけるのかということです。
EVユーザーとしては安く充電できるのはありがたいことなので歓迎する声が多く聞こえてきます。でも、前述の記事で指摘したように、① 現状でも1日10台以上、5年後には1日30台以上の利用が前提となっていること。② 高圧受電のデマンド基本料金だけでも、44円/kWh の充電料金では回収できない。という2点において、普通に考えて「無理ですよね」という大きな疑問が残ります。
いえ、本当に採算が取れて、サービスを維持・拡大していけるなら素晴らしいことではあるのですが。2015年前後あたりに、利用頻度や採算をあまり考慮することなく設置された急速充電器が「数年後、メンテナンスもろくにされないまま朽ち果てていった姿はもう見たくない」というのが、ひとりのEVユーザーである私の切実な思いです。
テンフィールズファクトリーから、より具体的な根拠とともに「大丈夫!」というお話しを聞くことができたら、改めて記事として紹介したいと思います。
ともあれ、今のところフラッシュでは「44円/kWh」というおトクな料金、しかも従量課金で充電できるのはありがたいことです。多くのEVが利用することで、少しでも持続可能性が高まるのであれば、どしどし使ってあげたいと思いつつ。
日本の充電インフラが、健全に発展していくことを願っています。
取材・文/寄本 好則
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