VWグループの超急速充電ネットワークPCAの利便性を『RS e-tron GT』で比較レポート

フォルクスワーゲングループでは「フォルクスワーゲン」「アウディ」「ポルシェ」のEVオーナー限定で利用できる超急速充電ネットワーク「PCA」を拡充しています。使い勝手はどうなのか。EVネイティブさんが、アウディ『RS e-tron GT』でレポートします。

VWグループの超急速充電ネットワークPCAの利便性を『RS e-tron GT』で比較レポート

グループ各社のEV専用の高出力充電ネットワーク

今回は、フォルクスワーゲングループが急ピッチで日本全国に設置を進める超急速充電ネットワーク「PREMIUM CHARGING ALLIANCE(PCA)」について、充電性能の高いアウディ RS e-tron GTを使って確認します。PCAに設置されている3つの充電性能を有する急速充電器でそれぞれ充電。それぞれの充電器の特徴や使い勝手をレポートします。

PCAについて簡単に紹介しておきましょう。PCAはフォルクスワーゲンとアウディ、ポルシェというグループ内のブランドが参画する超急速充電ネットワークであり、2024年2月末時点で、日本全国337箇所、349基の急速充電器が稼働しています。

PCAには、以下のような特長があります。

●グループ3社のEV限定なので、充電器の混雑が現状緩和されている
●充電時間に制限がなく、充電したい分を最後まで充電できる
●アプリ認証による充電操作で、あらかじめ紐づけてあるクレジットカードへ充電料金を自動的に課金
●専用アプリ上からリアルタイムな充電器の満空情報を把握可能。
●一部を除き、基本的には24時間365日利用可能。
●最大150kWのチャデモ急速充電が可能。

料金については、都度会員プランと月額会員プランの2種類が存在しています。都度会員プランは基本料金・登録料金が無料。月額会員プランの場合は登録料金2000円に加えて、月額1800円の基本料金が別途かかります。

充電の都度料金は、月額会員プランのほうが安くなります。また、充電器の最大出力によって料金設定が異なります。

PCA料金表

料金(税込)月額会員プラン都度会員プラン
基本料金1,800円無料
充電料金急速充電(150kW)
75円/分
急速充電(150kW)
200円/分
急速充電(90kW)
45円/分
急速充電(90kW)
120円/分
登録料金2,000円不要

そして、このPCAのスペックについて1点知っておくべきことというのが、PCAの急速充電器と一口に言っても、充電器の最高出力というスペック、複数EVの同時充電の可否など複数タイプの充電器が存在している点です。

そこで2023年の冬、私はアウディのフラグシップとなるRS e-tron GTを使用して、PCAの急速充電ネットワークに加盟している、フォルクスワーゲン、アウディ、そしてポルシェディーラーにおいて、3種類の急速充電器でそれぞれ充電を行いました。それぞれの充電器の特徴や、実際にかかった充電時間などについてまとめます。

フォルクスワーゲンの90kW1口器で充電

今回使用したフォルクスワーゲンディーラーの急速充電器は、90kW級の1ストールしか搭載されていない充電器です。よって、EV一台しか充電することができないため、充電待ちに遭遇する可能性が出てきます(前述した通り、PCAのアプリ上からリアルタイムの満空情報を取得可能なので、事前にアプリを確認すれば充電待ちは回避可能です)。

ところがそれ以上に問題と感じるのが、PCAは最大150kWと謳いながらも、90kW級であるという点です。実はフォルクスワーゲンディーラーに設置されている充電器は基本的に90kW級であり、後述するアウディやポルシェの最大150kW級と比較しても充電性能が劣ります。

実際に、今回のRS e-tron GTの充電にかかった時間は49分。93.4kWhの大容量バッテリーを搭載するRS e-tron GTとしては充電器のスペック不足感が否めません。

また、住友製の充電コネクターと空冷ケーブルが重く、地面を引きずるようなかたちになり、非常に取り回しが悪いことが気になりました。

アウディでは最大150kWの2口器を確認

次に向かったのがアウディディーラーに設置されているウルトラチャージャーです。これは180kW級の急速充電器で2本のストールが設置されており、2台同時充電が可能です。具体的には、1台のみ充電する場合は最大150kWを発揮可能。2台同時の場合は、それぞれに最大90kW、合計最大180kWが割り振られるスペックです。

この180kW級アウディウルトラチャージャーについて特筆するべきは主に2点。第一に、1台あたり最大150kWを発揮可能なものの、空冷式の充電ケーブルを採用していることによって、ブーストモードを採用しているという点です。

これは、最大150kWを流せるのは最初の15分間だけであり、それ以降は充電ケーブルの温度上昇抑制などのために、最大でも90kWに制限されるという仕様です。すると150kW級とは言われているものの、実質的には150kWは一定時間しか流せないということになります。

また、フォルクスワーゲンの90kW級(200A仕様)と同じ住友製の充電コネクターとケーブルを使用しており、その上充電ケーブルを引きずらないと充電器を差し込むことができないため、その重さも相まって、率直に取り回しが悪いと感じました。おそらく女性や車椅子ユーザー、身体障害者の方などが操作に手間取ることは間違いありません。

裏技的に、充電をスタートして15分間が経過して充電出力が70kW台(つまり200A、ブーストモードが終了)に低下した段階で、いったん充電セッションを終了し、再度同じ充電ストールを使用して充電セッションをスタートさせると、なんと130kW台(つまり350A、ブーストモードが作動状態)を許容することができました(ケーブルの発熱リスクを軽減するためには、再スタート時は別ストールを使うのがいいかも知れません)

よって、先を急ぐユーザーの場合、ブーストモードが解除される15分で一旦充電セッションを停止。再度接続して充電セッションを再始動すれば、またブーストモードが働いて最大の充電性能を発揮可能となり、充電時間をかなり短縮することができます。

15分経過後にブーストモードが解除され77kWにまで低下。
ブースト解除後に充電停止。その後充電をリスタートすると125kWと、ブーストモードが再適用されました。

ポルシェでは150kWの1口タイプ〜ブーストなし

最後はポルシェディーラーに設置されているポルシェターボチャージャーです。もともとタイカンの発売に合わせて全国で整備が進められていた際は、2台同時充電が可能となるようにデュアルガン方式を採用していたものの、現在は片方の充電ストールを使用不可として運用。1台しか充電することはできません。

そのかわり、ポルシェターボチャージャーの最大の特徴が、液冷式の充電ケーブルを導入しているという点です。これによって、ブーストモードを採用せずに、150kW級の充電出力を時間制限することなく流し続けることが可能となります。

さらに、吊り下げ式を採用し、充電ケーブルを地面に引きずらなくても取り回すことが可能な構造のため、同じく150kW級を発揮可能なアウディウルトラチャージャーと比較しても、その取り回しの良さが印象的でした。

ここで気づいたのが、その取り回しの良さの決定的要因です。というのも、液冷式の充電ケーブルは、内部に液冷の管が通っていることもあって固さを感じるものの、充電コネクター部分が非常に軽いです。これはいわゆる50kW級(最大125A)の急速充電器で一般的に採用されている充電コネクター部分と同じであるよう見え、実際に同じようなサイズ感、軽さを実現しています。

液冷式ケーブルの採用が、高出力急速充電器の問題の全てを解決するという論調もありますが、実は充電ケーブルの取り回しを大きく改善することには寄与しないと感じます。充電ケーブルの取り回しの良さを決定づけるのは、ケーブルそのものだけではなく、そのケーブルを吊り下げ、地面に引きずらなくて済むようなケーブルマネージメント。そして実際にEV側の充電ポートに差し込む際の、充電コネクター部分の小型化、軽量化という点であることを実感しました。
その意味において、今回のポルシェターボチャージャーについては、地面を引きずらなくて済むようなケーブルマネージメント、充電コネクターの軽量化(この実現のために液冷ケーブルの採用が必須なのかは不明)という両方を実現しており、これが取り回しの良さにつながっているわけです。

水冷ケーブルに変更されたポルシェターボチャージャーは現状1口運用。複数EVの同時充電はできなくなったのは残念であるものの、やはり150kW連続充電と取り回しの良さを両立しているという意味で、現状最も優れたチャデモ急速充電器であると言えるでしょう。

そして、このポルシェターボチャージャーを使用した際の、RS e-tron GTの充電にかかった時間は31.5分。流石に30分切りとはなりませんでしたが、前述したフォルクスワーゲンの90kW級と比較しても、充電時間が大幅に短縮しています。93.4kWhの大容量バッテリーを搭載するRS e-tron GTとしても、ある程度実用的な充電時間を実現できていると感じました。

「30分で300km」が充電性能の分水嶺に

このグラフは、私自身が過去に実施したEVセダンの充電性能を比較したものです。一番左がRS e-tron GTの充電性能を示しており、充電残量10-80%の充電時間を確認すると、やはり90kW級と150kWでは充電時間に大きな差がついていることが見て取れます。

そして、個人的に充電性能の良し悪しを分ける分水嶺的な指標と考えているのが、「充電時間30分で回復航続距離300km」というポイントです。

私自身が実施している航続距離テストの結果をベースにすると、今回のRS e-tron GTについては、150kW器30分間の充電で315km分の航続距離を回復可能となります。さらに最新型テスラモデルSについては、スーパーチャージャーV3(最大250kW)による30分の充電で383km分の航続距離を回復可能。

同じテスラであっても、モデルSで最大120kW級のV2スーパーチャージャーを使用すると、30分で291km分の航続距離しか回復できず、やや充電時間にストレスを感じた経験があります(※外気温平均1℃での独自の航続距離テストから算出しているため、e-tron GTと同じ19℃での航続距離テストを行えば、さらに30分間で回復できる航続距離は増加する見込みです)。よって、一般EVユーザーにとっては、長距離走行の際、30分で300km分の航続距離を回復できるのかが、充電に対するストレスを感じるかどうかの分水嶺を示す指標となると感じるわけです。その意味で、やはり90kW級急速充電器はRS e-tron GTにとってスペック不足であると結論づけることができます。

次世代急速充電器に期待したいこと

今回の一連の充電検証を通して、急速充電器に対して改めて感じたことを挙げておきたいと思います。

充電時間制限がないのは充電体験を飛躍的に向上させる

PCAの大きな魅力は、1回30分といった充電時間制限が存在しない点です。何度も指摘され続けている通り、30分間という時間は、食事休憩するには短く、かといって車内で待機するには長すぎます。特に高速道路上など、複数基設置されている充電ステーションについては、原則充電時間制限は撤廃すべきです。また従量課金と時間課金のハイブリッド課金システムを導入することで、充電残量90%以降などの充電をEVユーザー自身に回避させることも有効でしょう。

90kW級はスペック不足感あり

今回のアウディRS e-tron GTは93.4kWh。BMW iX、メルセデスEQSも100kWhオーバー。国産車についても日産アリアは91kWh。やはり90kWh級以上の大容量バッテリーを搭載するEVについては、90kW級では「30分300km」を実現することができません。

今後さらに大容量バッテリー搭載EVが増えてくることからも、主要な充電ステーションには、基本的に150kW級をベースに設置計画を立てることがマストでしょう。

EQSで90kW級充電器を使用すると、SOC10-80%で61分の充電時間を要します。

充電ケーブルの取り回しを決定づけるのは液冷ケーブルではない

前述した通り、充電ケーブルの取り回しを決定づけるのは、あくまでも充電ケーブルを地面に引きずらせないケーブルマネージメント。そしてEVの充電ポートに差し込む際の充電コネクター部分の小型化、軽量化という観点であり、必ずしも液冷式ケーブルを採用する必要はないのではないかということです。

よって、個人的に気になっているのが、e-Mobility Powerが2024年度から導入することを発表した「赤いマルチ」(最大150kW ※ブーストモード)です。というのも、この赤いマルチは空冷ケーブルを採用する見込みであるものの、すでに設置されている「青いマルチ」(最大90kW ※ブーストモード)と同様に、地面に引きずらないケーブルマネージメントを採用予定。他方でコネクター部分は90kW級と同じサイズ感、同じ重量感であることから、果たしてどれほどの操作性を実現できているのかに注目したいところです。

もちろん、eMPが直近で発表した次世代超急速充電器(最大350kW)についても全く同様です。こちらも空冷ケーブルを採用するものの、ケーブルマネージメント、および小型化・軽量化された充電コネクターを採用予定であることから、赤いマルチと比較してもさらなる取り回しの良さに期待しています。

いずれにしても、ブーストモードという注釈はあるにしても、150kW級であれば日本国内では実用的なスペックであると感じます。ところが問題は、やはり誰でも扱いやすい充電器の取り回しという点であり、超急速充電器において今後さらに重要視されてくる部分であると思います。

はたして、空冷ケーブルを採用するeMPの新型急速充電器が、液冷ケーブルを採用するなどして取り回しの良さを実現するポルシェターボチャージャーと比較して、どれほどの操作性を実現できているのか。今後のチャデモ急速充電器の利便性を考える上で、非常に注目するべきポイントになることは間違いありません。

取材・文/髙橋 優EVネイティブ ※YouTubeチャンネル)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. アウディの充電器の部分の写真ですが、ブーストモード適用されているとされる写真が1枚目(制限かかった状態?)と同じになっています。修正は可能ですか?。

  2. EV教の教祖安川尊師があれだけEVを推していたのに
    現状は惨憺たる有り様ですね・・・
    BEVの不便さは結局HEVの優秀さのキャンペーンにしかならなかったのが残念です(大勝利)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です