アウディの電気自動車『e-tron』で北海道のサステナブルツアーに参加してきた

2024年9月、アウディジャパンが開催した「Audi Sustainable Future Tour Hokkaido」に参加してきました。稚内から旭川までをアウディの電気自動車『e-tron』に乗り、日本最大級の蓄電施設や風力発電所を訪問。再エネの専門機関や研究者の方々にも話を聞いたレポートです。

アウディの電気自動車『e-tron』で北海道のサステナブルツアーに参加してきた

世界最大級の蓄電施設「北豊富変電所」

「Audi Sustainable Future Tour」は、アウディジャパンが主催。日本各地の再生可能エネルギー活用地域をe-tronで訪問し、地産地消やサステナブルな取り組みの現場を見るとともに行政担当者や事業者、学生たちと対話の場を提供するメディアツアーです。

今回訪問するのは北海道。スタート地点となった稚内空港に到着してすぐに向かったのは、世界最大級の蓄電池設備を持つ北豊富変電所です。蓄電容量は720MWhで、これは今回私が運転したアウディQ4 e-tron(バッテリー容量は82kWh)約8,800台分に相当します。

北海道北部は強い風が吹くため、風力発電の適地となっています。しかし、送電網の容量不足や蓄電設備がなかったため、再生可能エネルギーの導入が制限されていた地域でもあります。この施設は、風力発電による電力を蓄電し、系統への送電を安定化するために重要な役割を果たしています。この設備が2023年4月から操業開始したことにより、127本の風車が新たに設置可能となり、北海道での再エネ導入が大きく前進しました。

今回は特別に蓄電池が設置されているエリアを見学させていただきました。残念ながら内部の撮影は禁止されていたので、蓄電池が並んでいる様子は紹介できませんが、規模の大きさに圧倒されました。内部はいくつかのエリアに分割されており、万が一火災が発生した場合でも延焼が防げるようになっています。蓄電池が保管されているエリアはエアコンを用いた空冷方式で冷却され、約80%付近の充電率(SoC)を保つように管理されています。

風車からの電力は地下ケーブルを通じてこの蓄電池に充電され、ここから北海道電力に送るための送電線は約78kmに及びます。

この施設を運営している北海道北部風力送電株式会社 代表取締役の住吉亨さんから「再生可能エネルギーをさらに増やすためには、北海道内の電力需要を高めることが必要であり、その一つの解決策として電気自動車(EV)の普及が挙げられます。これ以上再エネを増やしても北海道内の電力需要が少ないため、発電した電力を十分に活用できない現状があります。EVが増えれば再生可能エネルギーのさらなる導入が可能になり、地域のエネルギー自給率向上にもつながります」と説明がありました。

電気自動車の普及が再生可能エネルギーの新規導入と密接に結びついていることを知り、あらためて電気自動車が果たす役割は大きいのだなぁと強く実感しました。

オトンルイ風力発電所で風力発電の進化を知る

オトンルイ風力発電所では、高さ約74メートルの風車28基が3.1kmにわたり一直線に連なる壮大な景観を目の当たりにしました。

稚内がこんなにも風が強い地域とは知らず、ビュービューと風が吹く中、発電所を運営する幌延風力発電株式会社の方々に話を聞きました。代表取締役の古本氏から「オトンルイ風力発電所は、風力発電のパイオニアとも言える存在であり、2004年の設立以来、累計約1,000TWhの電気を供給しています。火力発電所と比べてCO2排出量削減効果が年間700,000トン。それだけではなく幌延町の観光資源としても貢献しており、多くの人がこの街に訪れています。」と解説がありました。確かに周囲に何もない中、悠然と立ち並ぶ風車は圧巻。ここで電気自動車のオフ会をやってみたら面白いかもしれません。

建設から20年が経ったここの風車は1基あたりの出力が750kW。当時の最先端技術を用いて建設されましたが、最近は風車が大型化し、1基あたり4,200kW級が主流となっています。古本氏は「750kWの風車28基を、4,200kWの風車5基に置き換える計画があります。大きな風車を少数設置する方がコスト効率が高く、メンテナンスの負担も軽減されます」と説明。2027年3月で稼働を停止し撤去される予定なので、訪れてみたい方はそれまでに是非。

未来共創ミーティングで北海道の持続可能性を語りあう

旭川で一泊したのち、2日目は旧国鉄工場をリノベーションした「CoCoDe旭川」で、持続可能な未来について話し合う「未来共創ミーティング」が開催されました。企業、専門家、学生、メディアなどの参加者が一堂に会し、北海道の再生可能エネルギーのポテンシャルや課題について活発な議論が交わされました。

ミーティングでは、北海道グリーンファンド理事長の鈴木亨氏、北星学園大学経済学部の藤井康平氏とそのゼミ生たち、アウディジャパン代表取締役社長マティアス・シェーパース氏がプレゼンテーションを行いました。

鈴木亨氏は「北海道は陸上・洋上合わせて日本一の再生可能エネルギーのポテンシャルを持っています。しかし、電力消費量が少ないため、発電した電力が余ってしまう状況です」と指摘。「需要と供給のバランスだけでなく、送電線そのものの容量が少ないことも課題です。送電網の増強や本州との連系強化が必要です」と述べ、再生可能エネルギーの有効活用に向けたインフラ整備の重要性を強調しました。

藤井康平氏は小型風力発電の現状について触れ、「小型風力発電は地産地消のメリットがありますが、環境アセスメントが不要なため、道外の資本が多数参入しました。その結果、地域経済への利益還元がなく、経済が道外へ流出しています。FIT(固定価格買取制度)終了後の設備処分も法律で定められておらず、地元の税金で賄わなければならない可能性があります」と懸念を示しました。

さらに、「オーストリアでは森林バイオマスや水力発電を活用し、『地域からのエネルギーを地域のために』というスローガンで成功しています。北海道も同様に、地域資源を活用して地元のためのエネルギーシステムを構築すべきです」と提言。

マティアス・シェーパース氏は「日本の再生可能エネルギーのポテンシャルは非常に高いです。現在、日本のエネルギーの22%が再生可能エネルギーですが、そのうち風力は1%に過ぎません。アウディは2025年までにすべての車をカーボンニュートラルで生産することを目指しています。企業として地域と共に持続可能な未来を創る責任があります」と語りました。

北海道の再生可能エネルギーと地域活性化を考える〜若者たちが描く未来

個人的に一番胸を打たれたのは学生たちの取り組みでした。

彼らは海上のゴミを自動で回収する装置「シービン」の研究を行い、地域の子どもたちに環境教育を行っています。また、札幌市の服の廃棄量が多いことに着目し、回収した生地で布花を作る活動や、再生可能エネルギーのみで栽培したコーヒー豆で町おこしを構想するなど、地元の資源を活用し、地域住民として”オフライン”の活動を通じて北海道を良くしていくことに情熱を注いでいます。

一方で、私は動画や記事などのオンラインコンテンツを通じて情報を発信しています。顔も名前も知らない多くの人々に情報を届ける中で、時折その手応えを感じにくいなと思うことも。学生たちの直接的で地域密着型の活動を目の当たりにし、私ももっとオフラインでの関わりを増やし、地域の人々と直接対話することの大切さを強く感じました。

「EVに対して率直にどのような印象を持ってますか?」という問いに、彼らがまだEVに対して不安や疑問を抱いていることが分かりました。「乗りたい車はガソリン車が多い」「EVは雪道での走行性能、航続距離、ブレーキ性能に不安がある」「充電ステーションを見かけないので、普及が進んでいない印象がある」といった率直な意見を共有してくれました。

このような声を聞き、私はEVにあまり興味が無い方々に対して、正しい情報や最新の知見を直接伝えていくことの重要性を強く感じました。寒冷地でもEVは問題なく利用できること、動く蓄電池として地域のエネルギー活用に貢献できること、実は充電器って街中にたくさんあるし、家で充電できることの快適性など。このような情報はオンラインで発信するだけでは、EVに興味が無い層にはそもそも届かないんです。

学生たちの率直な意見に触れ、直接的な対話や教育を通じて、疑問に答えて理解を深めてもらうことが必要だと痛感しました。そのような活動を通じて、持続可能な未来への道筋を共に考え、歩んでいけるのではないかと思います。

ミーティングを通じて、地域の未来を真剣に考える若者たちの熱意に触れ、再生可能エネルギーの導入やEVの普及には、人と人とのつながりや直接的なコミュニケーションが不可欠であると実感しました。これからは、地域に根ざした活動も取り入れながら持続可能な社会の実現に貢献していきたいと強く思ったのでした。

取材・文/畑本 貴彦

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この記事の著者


					畑本貴彦

畑本貴彦

1986年生まれ。福岡県出身。テスラモデル3注文を機にテスラに関する情報を集めだすも、日本語での情報が少ないことに気づき、2019年からテスラ専門ブログ・フォーラム「テスカス」を立ち上げる。

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