2025年7月11日〜12日の2日間、長野県白馬村で恒例のジャパンEVラリーが開催されました。筆者は同乗試乗のインストラクターとして参加して、もちろん電気自動車のBMW iX1で東京=白馬間を往復しました。急速充電スポットで感じたことなどを含めたレポートをお届けします。
※この記事はAIによるポッドキャストでもお楽しみいただけます!
コンパクトSUVとしての使い勝手は?
BMW iX1は全長×全幅×全高が4500×1835×1620(mm)で、BMWとしては比較的コンパクトなサイズです。国産車で同じくらいのサイズのクルマはないかと検索してみるとカローラクロスが4490×1825×1620(mm)なので、ほぼ同サイズ。もはや世界中のクルマが大きくなっている以上、全幅1800mmを超えてもコンパクトと呼ばざるを得ないのかもしれません。
BMWジャパンの広報車両(メーカーやインポーターが取材用に用意している貸出車両)は本社が入っている汐留のビルから借り出します。このビルはコンラッド東京と駐車場を共用しているので、駐車マスの広さや導線の広さも十分に確保されていて、ボディサイズは気になりませんが、後日駐車した慶應義塾大学病院の駐車マスでは、ボディが大きいと感じました。日本の実情として「やっぱり大きい」印象は否めません。
クルマを借りだした当日は自宅近くの駐車場に保管し、翌朝白馬に向けて出発しました。今回の往路は中央自動車道経由です。まずは中野区から首都高へ永福インターで流入。そのまま中央道に入り長野方面へと走ります。中央道の三鷹料金所を越え、比較的順調なペースで進みました。
最高出力150kW、最大トルク250NmのスペックはコンパクトEVとしては標準的な値であり、普通のペースで高速道路を巡航し、遅いクルマを追い越してという走り方ではなんの不満もありません。ステアリングコラム左側には「BOOST」と印字されたレバーがあり、このレバーを引くと10秒間だけパワーを最大に引き出す設定となっていて、より強い加速と鋭いアクセルレスポンスを楽しめます。
とはいえ基本的にはACCをオンにしてあとはクルマ任せの走り方です。ACCは車間距離を維持しながら車線を維持するタイプです。ほとんどのクルマは車間距離の調整がステアリングスイッチでできるようになっているものですが、iX1にはそのスイッチがドライブセレクターの近くに移動されていました。
実は、これに気付いたのは、クルマを返却する直前。最近のクルマは運転前のコクピットドリル(操作説明)が重要だと痛感しました。コクピットドリルに関連するマヌケな話をもうひとつ。ワンペダルモードのスイッチはないかと見回していると、やはりドライブセレクターの近くにそれらしきスイッチを発見。押してみると、フロアボックスのリッドが開きました……。
先進運転支援の制御は「さすがBMW」と実感
ACCをはじめとする先進運転支援の制御は「さすがBMW」という印象で、速度維持やステアリングアシストなども安定感抜群です。ウインカーを軽く操作することで車線変更もクルマまかせで行えるのですが、この制御がとても上手でした。
車線変更したい側を走行している他車の位置によって加速して入るか? 減速して入るか? を自動で判断します。この判断が、筆者が普段行っている車線変更時の判断とぴったりシンクロするのです。たとえば、多くのドライバーが車線変更時には加速してとなりのクルマの前に入りたがりますが、タイミングを計って並走車の後に入るほうがスムーズに車線変更できることがあります。iX1の車線変更はこの加速するか? 減速するか? を上手に判断してスムーズにそしてスマートに車線変更します。
長野BMW本社の150kW器でお試し急速充電
高速道路を走り続けても新しい発見はなさそうなので、甲府南インターにて一般道で移動します。計算上は白馬まで充電せずとも問題なく到着できるバッテリー容量ですが、長野BMW本社に設置されている最大150kW出力の急速充電器を体験してみることにしました。iX1の受け入れ電力130kWなので、期待大です。
一般道でもACCを入れておくとかなりイージーに走れます。先行車が止まれば、適度な車間距離を持って停車しますし、走り出せば自動的に発進します。ただし、当たり前ですが赤信号で先頭で停車するときはドライバーが操作する必要があるので、気を抜くことはできません。
長野BMW本社には14時50分ごろに到着。前日の移動を含めてここまでの走行距離が302km(うち高速道路が127km)でバッテリー残量は29%。iX1の総電力量は66.5kWhなので47.2kWhを消費。平均電費は6.4km/kWhで、上り勾配が基調となる行程を考えればさほど悪くはないでしょう。
さて、いよいよ充電です。期待どおりの150kWが駐車場の入り口近くに設置されています。iX1をフロントから駐車スペースに入れ、充電機の台座に引っ掛からないようにそっとドアを開けると、なんとドアが当たらないように台座がカットされていました。その断面から設置後にカットしたものだと思いますが、こうした心遣いはとてもうれしく「拍手を贈りたい」と感じました。
ただし、課題として気になったのがケーブルの重さです。150kW機ともなると充電プラグ部分だけを持って充電口まで運ぶのはけっこう大変で、プラグを右手、ケーブルを左手というように持つことになります。とくに非力な方だと作業は大変で、ケーブルを持った側の手には黒く汚れてしまいます。EVの魅力の1つとして「ガソリンスタンドの給油機を触らないでいい」と言われることがありますが、重く手が汚れる充電ケーブルではこの理屈に沿いません。最近は吊り下げ型のケーブルもあって、そうしたタイプだとあまり力はいりませんので、大出力充電器を設置する際にはそうした部分の気づかいも大切になってくるでしょう。
充電を開始するとどんどん数値が上がっていき、10分経過後で110kWまで上がりました。このペースで充電していくとさすがにどんどん入っていく印象ですが、充電量が80%を超えると一気に数値は下がり10kWあたりをうろちょろするようになりました。30分を経過したところでSOCは87%に回復。38.6kWhを充電しました。
ホテルの6kW器で満充電にして試乗車として活躍

ホテルで6kW普通充電できたので、翌朝は100%で出発!
その後、一般道を使い白馬村のジャンプ競技場近くにある「山のホテル」に投宿。設置されていた出力6kWの普通充電器を使えたので翌朝にはしっかり100%に回復し、BMW iX1は無事に試乗車として活躍しました。
山のホテルから試乗会のスタート地点となるエイブル白馬五竜駐車場までの往復、白馬村内(一部、大町市を含む)約14kmの試乗コースを11回こなした走行距離は167kmで、そこで使った電力量は26.6kWhです。スタートとゴールは同じ場所なので、勾配差はゼロです。上りでの電力消費が多く、下りでの回生が少ないとは思われますが、それでも電費は6.2km/kWhとなりました。
復路の碓氷バイパスで回生ブレーキによる電力量回復を体感
帰京日は日曜日となったこともあり、高速道路の上り線は渋滞が多く、長野県白馬村から埼玉県の本庄児玉までは一般道で移動しました。一般道移動ではワインディングロードもありましたが、iX1のハンドリングは良好で、ハイペースでのコーナリングも安定感があり満足のいくものでした。
行程には碓氷バイパスも含まれ、長野県側から群馬県側を走っています。以前、レクサスUX300eで碓氷峠の旧道を走った際には、下りで速度が上がらず回生によるエネルギー吸収がほとんどできなかったのですが、碓氷バイパスを使うとエネルギー回生も良好。上りでSOC10%程度を消費しましたが、下りではそれを超える12%を回生できています。おそらく下りは距離が長いので回生量が多いのでしょうが、とにかく、これはうれしい限りです。
iX1にはパドルシフトによる回生量調整がないので、ドライブセレクターを操作して大きく減速したいときはBレンジを選ぶようにして走りました。この効果はしっかりあるように感じましたが、ワンハンドドライブになってしまうのでやはりパドルスイッチによる回生調整があったほうがいいでしょう。
高速道路上でのハンズフリー機能にホッと一息
本庄児玉インターから関越自動車道に乗りましたが、渋滞はまだ収まっておらず、ノロノロ運転状態です。とはいえ、ACCがあるのでおまかせで走ればいいだろうとスイッチをオン。ACCが作動した瞬間、ステアリングスポークの表示が緑色に点灯しました。この点灯は、ハンズフリー走行が可能であるという合図です。事前情報としてiX1にこの機能があることは知っていましたが、今回の試乗ではここまで条件が揃わずに作動していなかったのです。
ハンズフリードライブは、ドライバーが何かを操作する必要はなく、ACC作動時に高速道路上である、速度が60km/h以下である、先行車が存在する、などいくつかの条件が揃うとクルマ側がハンズフリー走行可能と判断して、ステアリングスポークに緑のライン状ランプを点灯させドライバーに知らせます。ハンズフリーになったからといって何ができるわけではありませんが、長距離を走ってきた後だと手を下げられるだけでもホッと一息つけます。この機能はあくまでステアリングから手を離すことを可能にしているだけで自動運転ではないので、ドライバーの視線が監視されていて前方から視線をずらすとすぐに警告されます。
本庄児玉インターから練馬インターまで関越自動車道のみのバッテリー消費は14%で10.6kWh。走行距離は72kmだったので、電費は6.8km/kWhです。一般的に高速道路では電費は落ちると言われますが、なかなかの好電費だと言えます。
5ナンバーサイズのマイカーに乗る私としては車幅の広さに違和感がありますが、それ以外はとても使いやすく、また性能も高いEVだと評価できます。
今回試乗したiX1の車両本体価格は664万円(価格は税込)で、そこにボディ色や各種パッケージオプション(テクノロジーパッケージ、ハイラインパッケージ、ステアリングホイール・ヒーティングなど)を加えると、合計で721.9万円になります。
取材・文/諸星 陽一
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