BMWの店長さんにEVへの心構えを聞いてみた/パワーエックスの高出力充電器を続々設置

BMWやMINIの販売店などにパワーエックスの高出力充電器が続々と設置されています。いち早く導入したBMW ディーラーの店長さんにEV販売の手応えなどをインタビュー。「まずは自分で乗ってみる」ことがEVを正しく理解するための近道と実感できました。

BMWの店長さんにEVへの心構えを聞いてみた/パワーエックスの高出力充電器を続々設置

各地の販売店や神戸の複合施設に超急速充電器設置

BYD『SEAL』で充電&取材に伺いました。

独自の蓄電池型超急速充電器ネットワークを展開する株式会社パワーエックスから「BMW・MINI販売店に超急速EV充電器の導入開始」というニュースが届いたのは今年8月のことでした。最大出力150kWで2口(2台同時充電時は最大120kW×2)を備えた同社の「PowerX Hypercharger(ハイパーチャージャー)」が設置されたのは兵庫県神戸市の「Kobe BMW ハーバー神戸支店」(同じビルに「MINIハーバー神戸」併設)です。

100kW超で充電。大容量EVは充電性能も大切です。

そして先日、11月25日には神戸市内のグルメ複合施設「神戸北野ノスタ」のほか、「BMW宝塚」や「BMW西宮」にも最大150kWのチャージステーションが開設されたというニュースが届きました。リリースによると宝塚と西宮の販売店に設置された充電器は「充電台数:1台」となっているので、蓄電池容量が通常モデルの約半分で179kWh、充電ストールが1口だけの「Hypercharger compact」が設置されたようです。

神戸北野ノスタに設置された充電器。

神戸北野ノスタへのチャージャー設置はGLION(ジーライオン)グループ(本社:神戸市)との協業によって実現したとのこと。GLIONグループはBMWをはじめ、MINI、フェラーリ、マセラティ、ランボルギーニ、ポルシェなど25の輸入車ブランドの正規ディーラー、さらに日産やスズキなどの国産車ディーラーを展開。飲食店などのライフスタイル事業も幅広く手掛けており、今回ステーションが設置された神戸北野ノスタはGLIONグループが運営している施設です。

8月にハイパーチャージャーが設置されたBMW ハーバー神戸支店もGLIONグループが手掛けるディーラーです。今回のリリースでも「パワーエックスとGLIONグループは、GLIONグループが日本全国で運営する輸入車正規販売店への超急速インフラ整備において協業しており、19店舗においてパワーエックスの「Hypercharger」を用いた超急速充電サービスを提供していきます」と言及。パワーエックスがGLIONグループと協力したEV用超急速充電ネットワークが着々と拡大中ということですね。また、GLIONグループの事例を知ってハイパーチャージャーを選ぶ輸入車の販売会社が増えている様子です。

ハーバー神戸支店の店長さんにインタビュー

BMWはすでに多くのEVモデルをラインナップしています。はたして、実際に顧客と向き合い販売する人たちは、EVや急速充電を捉えているのでしょうか。BMW ハーバー神戸支店店長の野崎慎吾さんにお話を伺いました。

Kobe BMW ハーバー神戸支店店長の野崎慎吾さん。

「Kobe BMW ハーバー神戸支店を運営している株式会社モトーレン神戸はGLIONグループです。傘下にはMINIやメルセデス・ベンツ、ポルシェや日産などのディーラーもあって、それぞれ電気自動車を積極的に販売しています。GLIONグループとしてもカーボンニュートラルに注力していて、そのためにもEVシフトは進めるべきだという考えで、社長をはじめとした役員は全員がさまざまなブランドのEVに乗っています」(野崎さん)

ハーバー神戸支店があるのはGLIONグループの本社ビルでもあって、この日も社員用の駐車場には社長のEQE SUVや、役員が乗るBMW i7などが停まっていました。野崎さん自身、早くからBMW i3を営業車として活用し、現在の通勤や営業活動は「i4に乗らせていただいています」とのこと。野崎さんの自宅は神戸市内のマンションで駐車場にEV充電設備はなくi3の頃は「近所の日産ディーラーで充電させてもらってから帰宅することもありました」と、基礎充電の大切さや急速充電の現実も実感しています。

2013年発売当初のi3のバッテリーは22kWhと小さくて一充電で150kmほどしか走れず、発電用のエンジンを搭載したレンジエクステンダーモデルが販売の中心でした。でも、2021年にiX3が出たあたりから「一気にEVモデルが売れるようになった」そうです。

「今ではX1やX2といった車種にもEVのiX1やiX2がラインナップされたことでさらに活性化しています。販売台数としてはやはりエンジンモデルが多いですが、EVモデルがあることを知って選ぶお客様は少なくありません。iX1であれば600万円台、iX2は700万円台で買えるBMWで、コンパクトで乗りやすい。しかも国の補助金が用意されているといったことをしっかりお伝えしていくように心掛けています」(野崎さん)

もともとはスポーツカー好きで、X5などのSUVに乗っていたこともあるという野崎さんですが、電気には電気の良さがあることを実感しています。

「EVには一回乗ったらやめられないという感覚は、BMWの6気筒エンジンと同じだと感じています。6気筒エンジンがEVになっても、EVならではのBMWらしさがあることを知っていただきたい」と野崎さん。ハーバー神戸支店ではYouTubeに公式チャンネルを開設し、iX3で神戸から島根県の出雲大社まで往復642kmを日帰りでドライブする動画を公開するなど、スタッフ自らEVを実際に活用し、広く顧客に紹介する取り組みにも力を入れています。

【検証】コスパ最強EVで642kmの旅!?果たして本当に日帰りで無事に戻ってくることができるのか?-出雲編(YouTubeチャンネル)

動画を見ると、最初にイオンで充電した際に看板表示されていた「急速30分300円」というWAON決済の料金を基準に「2回の充電料金が600円」と説明されています。でも実際にはNCSカード(現在はeMPカード)で認証しているので、急速は「27.5円/分」だから1回30分で825円(月額4180円 ※いずれも税込&現在の価格)、2回で1600円くらいかかってますよ(ガソリン代より安いことは間違いないけど)ってのが気になりました。ただし、このあたりは充電料金の仕組みがややこしすぎる問題でもあり、まずは「使ってみなけりゃわからない」を示唆するひとつの事例ともいえます。

超急速充電器は新たな顧客との接点にも

同店に設置された急速充電器は10~18時の営業時間内(火曜日・第二・第三水曜日は定休日)限定ではあるものの、他ブランドのEVにも開放されています。国の充電インフラ補助金を利用するには「誰でも利用できる」ことが条件になっているのが理由のひとつではありますが、BMWの販売会社としては「他社EVの方に利用いただくのはむしろウェルカムです。今、日本で発売されているEVは比較的高価な車種が多いですから、そうしたオーナーの方々にこの店の充電器を使い、BMWのEVを知っていただくことが有益だと思っています」と、正直な思いを聞かせていただきました。

一方で、充電器開放を前提とした店舗の構造になっていないので柱への接触事故などへの心配があり、利用は営業時間内に限定しているとのこと。24時間利用可能とするのがユーザー本位であるのは承知の上で「運用方法をどうしていくかといった検討を進めていく」のが今後の課題ということでした。

取材に伺った8月のお盆休み(取材から記事化まで時間が経ってしまいました。ごめんなさい)、ハーバー神戸支店のすぐそばに2025年オープン予定の「GLION ARENA KOBE」が建設中でした。周囲は「TOTTEI PARK」が整備されるなど、神戸ウォーターフロントとしてさらに多くの人集まる場所となり、EV充電スポットとしてのニーズが高まることが予想できます。

建設中だった「GLION ARENA KOBE」。

また、三宮駅から2kmと離れていない神戸市中心部なので周辺には大規模な集合住宅も多く、基礎充電代替の充電スポットとしてのポテンシャルもあります。個人的に「ディーラーの急速充電器設置に国の補助金を使うのはそろそろ卒業の時期ではないか」という思いはあるものの、この立地に複数口の高出力器が設置されるのは合理的であると実感できました。

ちなみに「BMW宝塚」や「BMW西宮」に1口器が設置されたのは「導入する各店舗の判断」ということのようです。パワーエックスではいわゆる「0円設置」は行っておらず、充電器価格は蓄電池を搭載していないものよりも高額であり、設置する店舗の費用負担は小さくはありません。また、各店舗の駐車場区画数や配置、既存充電器の有無などの条件によって、2口器ではなく1口器という選択になる場合があることは理解できます。

BMWをはじめとする多くの輸入車ブランドでは最大出力150kWを前提とした高出力急速充電器の複数口設置を全国の販売店に推奨しているとも聞いています。GLIONグループの各店舗をはじめ、全国各地のBMWディーラーがハイパーチャージャーを選んでいるのは、大容量蓄電池を備えたレジリエンス性や、低圧受電で運用できるコストパフォーマンスが評価されているのでしょう。

ともあれ、一定の富裕層を中心的なターゲットとしたビジネスを展開するGLIONグループとEVは相性がいいことを感じます。2012年に発刊した電子書籍『電気自動車で幸せになる』で、私は「幸せに、なれる人からなればいい」つまり「電気自動車は買える人から買えばいい」と書きました。この言葉はまさにGLIONグループが取り組んでいるEV普及とカーボンニュートラル実現に向けたアクションへの賛辞になってるなぁとも感じたりして。

「GLION ARENA KOBE」がオープンしたら、神戸ウォーターフロントをEVで再訪してみたいと思っています。

取材・文/寄本 好則

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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