BMWの電気自動車『i5』で「東京=名古屋」長距離試乗〜運転支援機能の快適さに脱帽

BMWは2023年7月、新型『5シリーズ』に電気自動車(EV)の『i5 eDrive40』『i5 M60 xDrive』をラインアップし、第4四半期に納車を開始しました。EVsmartブログではまだ i5 の長距離試乗をしていなかったので、さっそく『i5 M60 xDrive』をお借りして電費や急速充電などをチェックしてみました。

BMWの電気自動車『i5』で「東京=名古屋」長距離試乗〜運転支援機能の快適さに脱帽

7年ぶりのフルモデルチェンジでEVを追加

BMWは2023年7月に、7年ぶりにプレミアムセダンの『5シリーズ』をフルモデルチェンジしました。それに合わせラインアップに電気自動車(EV)2モデルを追加しています。

ひとつはRWDの『i5 eDrive40』、もうひとつは2モーターでAWDの『i5 M60 xDrive』です。おおまかなスペックは以下の通りです。

●BMW『i5 eDrive40』
最高出力 250kW
最大トルク 400Nm
0-100km加速 6秒(欧州仕様)
バッテリー容量 83.9kWh
一充電走行可能距離 477~582km(欧州仕様)
車両価格(税込) 998万円

●BMW『i5 M60 xDrive』
最高出力(前/後) 192kW/250kW
最大トルク(前/後) 365Nm/430Nm
0-100km加速 3.8秒(欧州仕様)
バッテリー容量 83.9kWh
一充電走行可能距離 455~516km(欧州仕様)
車両価格(税込) 1548万円

ぱっと見でおわかりになると思いますが、パワーとトルクがとんでもない数字です。日本でこのスペックをフルに使う場面があるとは思えないくらいですが、プレミアムクラスになるとこうしたハイスペックになるのが標準的になっているように感じます。

同じく価格も庶民にとってはビビるしかないレベルですが、5シリーズの『M』はエンジン車でも900万円弱、新型のAWDディーゼル車『523d xDrive M Sport』は918万円なので、EVになったことによる価格アップとしては、これもまた標準的なものと言えるかも知れません。

名古屋日帰り取材でバッテリーを使い切ってみる

今回、BMWから借りることができたのは、値段も動力性能も超ハイスペックな『i5 M60 xDrive』です。本来は航続距離が長いRWDで試乗をしたかったのですが、残念ながらまだ広報車としての用意がないため、AWDになりました。

試乗は、名古屋大学で行われる『シトロエン Ami』の分解大会(関連記事)の取材を兼ねての名古屋往復と、日帰りでの千葉往復です。名古屋往復では、行き帰りに150kWの急速充電を試すことができました。

なにしろバッテリー容量が80kWhを超えています。英国仕様なのでテストモードがWLTPですが、それでも一充電当たりの航続距離は最高で500kmを超えます。EVsmartブログが独自に使っている係数で米EPAの数値にしても400km以上です。ちょっとやそっと走ったくらいでは、継ぎ足し充電の必要がないと思われました。

そんなわけで、少し肌寒さが増してきた12月中旬の早朝6時、まずは東京都杉並区の自宅から名古屋を目指してスタートしました。目標は、バッテリーを使い切ってみることです。

底力はすごいけど一般道はエコモードで十分

走り出してすぐ感じるのは、まずは車の大きさです。5mを超える全長と1900mmの全幅は、東京都内では少し窮屈に感じてしまいます。一方で、乗り心地は超ラクちんです。しっかりと地面をつかんでいる感じがしっかりと実感できます。

ドライブモードは、センターコンソールの「MY MODES」のボタンで切り替えます。種類はスポーツ、エフィシェント、パーソナル(個人設定)の3つです。いつものことですが、個人的にはスポーツモードにすると加減速のGがきつくなってしまうため、今回もエフィシェント、いわゆるエコモードにしていました。

なおステアリングホイールの左奥には「BOOST」と表示があるパドルスイッチがあります。これをポコンと手前に引くと、約10秒間、フルパワーで加速します。高速道路に入ったときに一度だけ試してみましたが、加速力にビックリでした。トータルで700馬力以上あるし、トルクは2000万円以上するポルシェ『911 カレラGTS』並にあるので、当たり前ですが。

一方のエフィシェントモードは、アクセルの踏み出しではそれほどのパワー感はありませんが、奥まで踏み込めばきちんと、というか非常に強いトルクで加速します。一般道での使い勝手は断然、エフィシェントモードが良好だと思います。

ドライブスイッチのセレクタは「D」と「B」で、「B」にするとワンペダル操作になります。一方の「D」でエフィセントモードにしていると、アクセルオフでコースティングになります。

今回のi5は、ACCを使っていなくても前の車を感知して自動で減速するので、「D」でコースティングの割合が増えてもブレーキを踏む頻度はそれほど増えません。これは運転していてラクでした。ここまで積極的にコースティングを使うマネジメントは初めての経験で、ちょっと新鮮な印象を持ちました。

高性能なACCに脱帽しつつ浜松SAへ

高速道路に入ったらすぐ、ACCをオンにして制限速度で巡航してみました。車線認識は、言うことありません。車線のほぼ真ん中、不安にならない位置を保って前の車を追従していきます。

追従している時の減速Gが強すぎることもありません。前が開いたときの加速はパワーが有り余っているためか少しGがきつく感じられたものの、基本的には不安もストレスもほとんど感じませんでした。渋滞の中では、停止→再スタートもします。

東名高速道路では途中、大雨になってワイパーがフル稼働しても前が見えにくいこともあったのですが、道を見失ってフラフラすることはなく、ACCがきちんと機能していたと思います。

なおi5は、回生ブレーキを自分でコントロールするパドルシフトはついていません。煩わしい操作、運転モードの種類はできるだけ減らし、ドライバーの負担を軽減する考え方なのでしょうか。この辺はメーカーによって考え方違っていて興味深いところです。

ACCで制限速度巡航なら平均電費は5km/kWhに

ACCでのんびり走り、9時過ぎに新東名の浜松SAに到着。スタート時のSOCは92%だったのが、31%になっていました。走行距離は230km程度なので、バッファを考えない総電力量から電費を計算すると、1kWhあたり約4.5kmになります。

2360kgという車重と、AWDが影響しているのか、あまり良いとは言えない電費ですが、この数値は復路で大幅に改善しました。

先に名古屋往復の電費結果をお伝えすると、トータルの走行距離が682km、バッテリー容量から単純計算した消費電力量は133.75kWh、平均電費は5.09km/kWhでした。

往路では環状八号線が事故で渋滞していたことや、気温が少し低めだったのがマイナス要因だった可能性があります。

ただ、復路でも夜は寒かったのでエアコン設定はずっと23度でした。そうしてみると、極端な渋滞さえなければ、巨体に似合わずそこそこの電費は維持できそうに思います。

往路・復路ともに浜松SAの150kWを体験してみた

さて、浜松SAには最大出力150kWの急速充電器があるのですが、何を勘違いしたのか、筆者はその隣に並んでいる90kW器につないで充電したのでした。途中で気がついて150kW器に変更したのですが、そのせいで浜松では30分+αの充電時間になりました。

まず、吊り下げ式のケーブルが扱いやすいニチコン90kW器で充電したところ、初動で80kW、数分後に82kWまで受入出力があがりました。ここで150kW器の存在に気がついたので、すぐにチェンジです。

ABBの150kW器では、早い段階で充電器に147kWの表示が出ました。無条件に嬉しくなります。なお、i5は車両にも充電出力の表示が出るため、出力の変化を確認しやすいのは助かります。

名古屋復路での150kW器充電時。SOCは30%以上ですが、この時点で143kW出ています。

復路では、今度は最初から150kW器で充電したところ、30分でSOC31%から76%まで戻りました。単純計算で、約38kWhが入ったことになります。平均出力は76kWといったところでしょうか。

本来は、150kWのパワーが継続すれば30分でフル充電できるくらいの電力量が入るはずなのですが、市販EVの多くはバッテリー保護のためなどの目的で充電出力を適宜制御しています。

この点について、EVsmartブログでは以前、150kW器で実際に入る電力量はどのくらいかを検証したことがあります。今回のi5の充電を見ると、検証に使用した『iX3』の数値とおおむね合致していることがわかります。

【関連記事】
新電元150kW器で最新EV3車種の充電性能検証テスト(2022年5月18日)

ところで、往路の浜松SAでは77%まできたところで充電が自動的に停止しました。車両側で急速充電時の上限SOCを設定できるようになっていて、80%にしていたのですが、そのちょっと手前で止まった感じです。充電時の電圧の関係で、設定条件の少し手前で止まったのかもしれませんが、詳細は確認中です。

搭載ナビのSOC予想もなかなかの精度

名古屋日帰りの翌日、今度は別件取材を兼ねて千葉のいすみ市まで往復してみました。経路は東京から首都高速の山手トンネルを経てアクアラインで千葉に入り、そのまま九十九里浜側に抜けるルートです。

平日昼間でしたがたいした渋滞もなく、快晴の中を気持ちよく走ることができました。もちろん走行モードはエフィシェントです。

足早に結果をお伝えすると、東京~千葉往復は、走行距離237kmで消費電力量が47kWh、平均電費は5.04km/kWhでした。名古屋の往復とあまり変わりません。

さて、最後のチェックになってしまいましたが、千葉の往復では搭載されているカーナビでルート設定をした時のSOC予測を確認することができました。

確認できたのは復路の走行距離約120kmで、カーナビの予測では到着時にSOC17%の表示でした。実際に到着した時には21%だったので、上下数%の範囲に収まっていました。カーナビのSOC予測より少し余裕をもって走れば、それほど危機的な状況には陥らないように思います。

都内の充電環境が厳しくなっていることを実感

話は変わりますが、今回、大容量バッテリーのi5を試乗したことで、改めて感じたことがありました。東京都内で急速充電器を利用するのが、もしかすると徐々に窮屈な状況になっているのではないかなということです。

千葉から戻った際、都内の経路上で充電をしようと思い、EV充電エネチェンジアプリで90kW以上の充電器を探したら、数カ所あることがわかりました。大容量バッテリーのEVで50kW器というのは使い勝手が良くありません。

まず探し当てたのは、白金の日産ディーラーでした。90kWが2基の表示がありました。ところが到着してみると、筆者が着く直前にリーフが入っていて、ディーラーの方に「2基あるが1基での運用しかしていない」と謝られてしまいました。

ディーラーの営業時間中は駐車場確保のために1基のみの運用になっているそうです。仕方がないので別の場所を探し、今度は外苑の100kW器(メルセデスEQ青山)へ行って見ることに。

ところがところが、着いてみると100kW器ではBMW『iX』が充電していました。

諦めて隣の50kW器で充電しようと思ったら、故障中です。でも、Uターンさせるために一度駐車スペースに入ったところ、『iX』のドライバーさんから「もう終わりますので」と声をかけていただき、安堵したのでした。

そうして充電していると、20分も経たないうちに、メルセデスベンツの『EQE』がやってきました。こちらも、10分ちょっとで充電が終わることを伝え、待ってもらうことに。

急速充電器が少し繁盛している現場が垣間見えました。大容量バッテリーのEVの増え方に、対応できる充電器が追いついていないのは間違いないようです。この状況が続くとEVの使い勝手が悪いという悪評が先に立ってしまう可能性があり、よろしくないなあと思いました。

一方で、いくつかの充電サービス事業者がそれぞれ独自の課金システムを備えた高出力急速充電器の設置を進めつつあります。充電スポットの選択肢が増えるのは歓迎ですが、eMPネットワークの充電カードを使うよりも割高な充電器を積極的に利用するかと考えると、個人的には微妙ではあります。予約ができれば料金にも納得できるのかも知れませんが、今回はそうした充電器の利用は避けてしまいました。いずれ、時間に余裕があるときに試してみようと思います。

また最近は各自動車メーカー、とくに輸入車メーカーは自社ディーラーを利用した充電網の拡充を進めています。駐車場に充電器がないEVユーザーは東京では少なくないと思われるので、メーカーの努力には期待大です。

BMW i5 M60 xDrive
全長×全幅×全高(mm)5060×1900×1505
ホイールベース(mm)2995
車両重量(kg)2360
駆動方式AWD
ブレーキ 前/後ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク
最小回転半径5.8m
定員5
最高出力(前/後)192kW/250kW
最大トルク(前/後)365Nm/430Nm
バッテリーリチウムイオン
総電圧399V
容量70.2Ah
総電力量83.9kWh
セル数324
一充電走行可能距離(WLTP)※315mile(504km)
急速充電対応出力150kW
価格(税込み)1548万円〜
※一充電走行可能距離は英国仕様

取材・文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 乗ってみたいし、運転してみたいとは思いますが…EVの方向性として私自身の方向性と違う方に行ってしまっているなと思います。
    以前にも書いたことがあるのですが、普段の生活に特に問題がなく、時々の遠出でも1時間から2時間ごとのちょい足し充電で不安がない40Kwhから50Kwh程度の電池を搭載していてくれれば十分という考え方の私ですので、こんなクルマ要らないっていうのが正直なところです。
    こんなに大きな電池を希少鉱物をたくさん使って作る意味。また、大きければそれだけ重く、電費も悪い車って価値有りますか。内燃機関を忘れられず内燃機関と同じような能力をEVにも求める方はたくさん居るとは思います。しかし、カーボンニュートラル実現を目指す現代の社会で、そこに配慮する必要があるのでしょうか。
    充電インフラの整備、自宅充電での再生可能エネルギーとの組み合わせ(走る蓄電池としての可能性)等を考慮し、日本がどういうEV社会を目指すのか多くの議論が必要に思うのですが…少なくとも、内燃機関の代わりと言うようなEVは要らなし、そこを目指して欲しくないと考えます。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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