BMW7シリーズに加わった電気自動車『i7』に試乗〜走るリビングルームときどき執務室

2014年に電気自動車『i3』をリリースし、現在では7車種ものEVモデルを揃えるBMW。そのラインナップに2022年7月に加わったのが7代目に生まれ変わった新型7シリーズのBEVモデルである『i7』だ。BMW最上位モデルのEVと過ごした数日のオーナー気分体験を報告する。

BMW7シリーズに加わった電気自動車『i7』に試乗〜走るリビングルームときどき執務室

ブランドトップモデルの電気自動車

輸入車ブランドの中で一足早く2014年に電気自動車『i3』をリリースしたBMW。現在そのEVラインナップは7車種(iX1、iX2、iX3、iX 、i4、i5、i7 ※iX2はプレオーダー受付中)にまで拡がっている。現在、8シリーズにEVモデルはない(以前はi8というプラグインハイブリッドがラインナップされていたが)ので、i7はBMWブランド電気自動車の最上位モデルといえる。

BMW 7シリーズは、メルセデス・ベンツ Sクラス、アウディ A8、レクサス LSなどと並ぶ最高級セダンの一台だ。その歴史は1977年から始まった。

7代目のラインナップは、ICEモデルが直6ターボエンジン搭載のガソリン「740i」(RWD)とディーゼル「740d xDrive」(AWD)で価格はどちらも1598万円。BEVモデルは、今回の試乗車である「i7 eDrive50」(RWD)が1598万円、「i7 xDrive60」(AWD)が1758万円、M社のテクノロジーが投入された「i7 M70 xDrive」(AWD)は2208万円で、全モデル右ハンドル仕様だ。

7代目のG70型は、6代目まであった標準ホイールベース仕様を無くし、3215mmのロングホイールベース仕様のみになった。V12エンジン搭載モデルの「M760Li xDrive」も姿を消したが、全く同じ加速性能(0-100km/h加速3.7秒)を「i7 M70 xDrive」が実現している。しかもi7 M70 xDriveの方が362万円安い。

ICEモデルはV12エンジンが無くなったどころか、V8エンジンさえもラインナップされていない。ICEとBEVのスタートプライスが同じなのが興味深く、105.7kWhもの大容量バッテリーを搭載してもこの価格を実現しているBMWに、BEV作りの「一日の長」を感じる。

プラットフォーム戦略の違い

新型7シリーズはICEやBEV、グレードに関係なくボディサイズは全長5390mm、全幅1950mm、全高1545mm、ホイールベース3215mmで共通だ。先代のロングホイールベース仕様は全長5265mm、全幅1900mm、全高1485mm、ホイールベース3210mmだったので、新型は、全長は125mm、全幅は50mm、全高は60mm、ホイールベースは5mm拡大している。

全長全幅全高ホイールベース
新型5390195015453215
先代5265190014853210
12550605

サイドビューを比較すると全高の60mmアップ分を、全長の125mm増加、前後ライトをつなぐキャラクターラインの明確化、先代ではリヤドアパネルにおさまっていたシルバーやブラックのモールをリヤクオーターパネルに配置するデザイン、で吸収して新型の「背高感」を最小限にしているように見える。

上が新型、下が先代のロングホイールベース仕様。

全高の60mmアップはバッテリーを床下に搭載するからだろう。7シリーズはICEと同じプラットフォームを使っているから仕方ない。なお、ICEとBEVで別々のプラットフォームを使用する戦略をとったメルセデス・ベンツの『Sクラス(ロングホイールベース仕様)』と『EQSセダン』のサイズを比較すると下記表になる。

全長全幅全高ホイールベース
S500 4MATIC ロング5290192015053215
EQS 450+5225192515203210
-65515-5

全高はEQSの方が15mmだけ高いが、全長はS500の方が65mm長くなっており、7シリーズの変化とは異なっている。メルセデスはEQSセダンに、ボディの先端からルーフ、そして後端までがひと筆書きの弓のようなラインの「ワンボウ・デザイン」を取り入れている。ドイツを代表するこの2ブランドがBEV化において異なる戦略をとっていることが興味深い。

常識的には共通プラットフォームを使った方がコスト低減につながるのではとも考えてしまう。「(市場が許せば)2030年にBEVブランドへ」との方針をメルセデスは撤回した。つまり2030年以降もエンジンを生産しICEモデルを販売する可能性を残したということだ。メルセデスが今後も別プラットフォーム戦略を継続するのかに注目したい。

i7のデザインに話を戻すと、フロントでは上下に分かれたヘッドライトユニットとその間の先代よりもさらに大型化されたキドニーグリルが目をひく。このキドニーグリルは、縁取り部分が光るので、夜間の存在感は抜群だ。BMWは2024年3月21日に『ノイエクラッセX』を発表、同車は小さめのキドニーグリルを採用した。今後のBMW各モデルがどのような「顔」のデザインになっていくのか楽しみだ。

アウターハンドルはグリップ式からiXと同じ開口部内のスイッチを操作するタイプに変わった。さらに7シリーズは、開口部の横にあるボタンを押すと自動でドアが開く「オートマチック・ドア」を採用している。このシステムの賢いところは、クルマの隣に壁や他車がある場合、ドアが壁に当たる手前できちんと停止することだ。その隙間は、運転席ドアは3cm、リヤドアは6cmほどだった。

左は運転席のアウターハンドル、開口部右側の菱形ボタンの上部を押すとドアが開く。右の写真は右リヤドアのもの。このAが付いたボタンを押すと自動でドアが開く。このボタンとは別にドアを開ける(ロックを解除するだけ)ボタンもある。

このオートマチック・ドアは、車内に乗り込んだらAのマークがあるドアスイッチを押すと閉める動作も行なってくれる。リヤドアは特に長いので車外に腕をいっぱいに伸ばすことなく、ドアをスマートに閉められるので良い。なおドライバーはブレーキペダルを踏むと自動でドアが閉まる設定にすることも可能だ。

この試乗車のボディカラーであるオキサイド・グレー/トワイライト・パープルは、上部がオキサイド・グレーになる「BMW individual 2トーン・ペイント」(164.3万円)を選択し、さらに下部に「BMW Individualトワイライト・パープル」(84万円)を組み合わせたもの。合計248.3万円のオプションだ。

リヤは先代同様に横長のテールランプデザイン、下部にカメラが組み込まれたBMWのバッジ、バンパー下部のメッキパーツが特徴的だ。トランクを開けるにはBMWバッジの下に位置する台形のボタンを押すかキーを持っていればバンパー下に足を入れる動作でも可能だ。

快適さだけでなくエンタメ性もレベルアップ

コスト低減も兼ねてなのかドライバー用のディスプレイを設けないブランドも増えてきたが、BMWはBEVラインナップの「末っ子」にあたるiX1でも、もちろんこのi7でもドライバー用(12.3インチ)とセンター(14.9インチ)に2枚のディスプレイを並べる「BMWカーブドディスプレイ」を採用している。文字通りディスプレイがカーブしているのはドライバーの視認性を上げるためで、ドライバーが運転に集中する環境をつくるというBMWの「ドライバーオリエンテッド」思想が表れている。

この車両には「BMW Individualフル・レザー・メリノ/カシミヤ・ウール・コンビネーション」のオプション(136.2万円)が選択されていたので、シートの大部分とドアパネルの下半分ほどがカシミヤで覆われていた。時代的にも高級車のインテリアはオールレザーという考えは過去のものとなりそうだ。

ディスプレイの下にはアンビエントライトも兼ねた「インタラクション・バー」がある。フロントドアにまでつながるこのバーは、ハザードスイッチを押すと赤く点滅したり、ドライブモード(MY MODES)を変更すると設定されたモードに合わせて色を変えたりと、室内の雰囲気を一気に変えてくれる。

MY MODESでSPORTを選択した時のインタラクション・バー。赤と青のグラデーション具合もきれいだ。

運転席に乗り込んだら、左手をセンターコンソールに置いた位置にあるスイッチで、システムのオン・オフ、シフトセレクト、ドライブモードの変更(MY MODES)、車高などをコントロールできる。音楽やナビの操作もできるが、タッチ式のセンターディスプレイでの直感的な操作も可能だし、ナビの設定は音声入力がさらに楽だ。音声認識の精度も高かった。

インタラクション・バーにあるハザードスイッチがこのセンターコンソールスイッチ群の中にあれば、さらに「手元で全てをコントロールできる感」が高まって良いと思った。

そして何といってもこのクルマの特等席はリヤシートだ。エグゼクティブ・ラウンジ・シートのオプションを選べば、左リヤシートはさらに快適性が向上する。ドアに内蔵されたスマートフォンのような「タッチ・コマンド」を操作すれば、背もたれは最大にリクライニングし、レッグレストも持ち上がり、助手席シートを自動で最も前方に移動させることができる。

エグゼクティブ・ラウンジ・シート(30.1万円)は、リヤ・コンフォート・パッケージ(61.9万円)と組み合わせる必要がある。筆者がドライビングポジションをとった運転席頭上は16cmの空間があった。そのまま後席に移動すると頭上は6cm、膝前には33cmもの空間が確保されていた。リヤドアのクオーターガラスは三角形のグラデーションの模様により後席のVIPのプライバシー性を高めている。

今回の試乗車には31.3インチのBMWシアター・スクリーンも装備されていた。Amazon fire tvなどの視聴もできるし、ビデオ会議システムとしての使用も可能だ。SAPAでの充電時間が短く感じられるかもしれない。

BMWシアター・スクリーンは、リヤ・シート・エンターテイメント・エクスペリエンスという75万円のオプション装備だ。

Bレンジはショーファードライブに最適

i7はシフトスイッチを手前に引くことで、DレンジとBレンジを簡単に切り替えることができる。Dレンジはクリープがあり回生の強さはセンターディスプレイで変更できる。Bレンジはクリープがなく、強めの回生という差があった。Bレンジではワンペダルドライブで停止まで可能だ。その停車の動作はほとんど減速Gを出さずにきれいに停まるのがいい。

赤信号で先行車が強めのブレーキで止まった時もBレンジならアクセルを戻すだけで、強めのブレーキをかけつつも滑らかに停車する。挙動に対する信頼感も高い。

アクセルの動きにリニアなDレンジと違い、Bレンジの発進はアクセル開度20%くらいまでは穏やかな加速になる。つまり停車の動きとあわせて、後席にVIPを乗せている時は、Bレンジが最適だと感じた。i7は京都のMKでハイヤーとして活躍しているが、ドライバーさんも運転しやすいだろうと思う。一度、機会があれば利用して後席の乗り心地を堪能してみたい。

通常は快適な移動空間を提供してくれるi7だが、SPORTモードを選ぶとコーナリング時のロールがその他のモードの半分ほどになり、俊敏性を増すことも確認できた。オーナードライバーであれば「駆け抜ける歓び」を楽しむために適したモードだ。

i7の全モデルに標準装備のインテグレイテッド・アクティブ・ステアリング(前後輪統合制御ステアリング・システム、後輪を最大4°操舵する)は、低速では後輪を前輪と逆に操舵することで最小回転半径が6.2mから5.8mになる。そのため全長5390mm、全幅1950mmの大型ボディだが、クランクの動線で後退駐車が必須な筆者の自宅マンションでも、問題なく駐車が可能だった。さらに「パーキング・アシスト・プロフェッショナル」に含まれている「パーキング・マニューバー・アシスト/駐車経路自動誘導機能」を使用すれば、動線が複雑で難しい駐車でも車両がルートを記憶し、次回以降は自動で駐車してくれるので、とても便利だ。

i7以上に静かなクルマは『スペクター』だけ?

高速道路では2つの驚きがあった。ひとつ目は乗り心地について。首都高速では他のクルマであれだけ気になる目地段差がほとんど気にならないレベルになる。具体的には確かに段差を通過したはずなのに前軸からの振動がボディとステアリングにほとんど伝わってこない。通過の際に「タタン」と音はなるので、余計に不思議な感覚になった。

そして後軸については、まるでホイールベースがもう2m伸びたかのように、遠くの方からコツっと振動を感じる程度だった。今回の試乗では走行中の後席を試せなかったので断言はできないが、きっと前席と同等かさらに良い乗り心地を確保しているのだろう。もちろん大きめの段差やうねりではボディも揺らされるが、前後のエアサスペンションのおかげでその衝撃は緩和されたものになる。

ふたつ目の驚きは静粛性だ。東名高速道路を走行中に路面がきれいな所では車内が静かすぎて、高層マンションなどの無音の室内にいるかのように感じるほどだった。なお、その時の車内は80km/hで54dB、100km/hで58dBだった。これ以上に静かなクルマがあるのだろうか。

静粛性の高さにはタイヤも一役買っている。試乗車が装着していたのはピレリP ZERO★でサイズは前が255/45、後が285/40の20インチ、★はBMW承認タイヤの証だ。サイドウォールには「PNCS」とあり、調べてみるとピレリノイズキャンセリングシステムだった。

「静粛性の高い電気自動車」で思い出したのは、昨年6月に行われたロールス・ロイス『スペクター』の発表会で、グッドウッドから来日した担当者が言った「スペクターは開発段階でスタッフからあまりにも静かすぎるという意見が出たため、あえてドライバーの加減速操作による音を聞かせるようにしている」という言葉だ。ロールス・ロイスの伝統に沿って「幽霊」と名付けられた同車は、7シリーズ以上に静粛性向上のため様々な方策が講じられて、その名前通りの静けさを実現しているのだろう。機会があれば、一度試乗してみたいものだ。

ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)とLKA(レーン・キープ・アシスト)の制御も高レベルだった。LKAは走行車線と車両の中央を完璧に捉え続けて、旋回中に内側、外側に寄りすぎて気になることはほぼ無かった。ステアリングを切りすぎて戻すという動きも最小限で、ステアリングを持っているドライバー以外は、この戻している動きすら気づかないレベルだと思う。

車速制御は、通常走行時は完璧だった。渋滞時には3段階で設定できる先行車との車間距離設定によって「味付け」が異なるように感じた。「短い」だと先行車の発進に合わせてすぐに自車も発進させる。その分、先行車が減速すると少し強めのブレーキで止まる。

「長い」にすると、先行車の発進からひと呼吸おいて発進し、車間も長めにとるので先行車の減速にも余裕を持って手前から緩やかに減速するという感じだ。ただ車間がそこそこ空くため、隣車線から入ってくる車両もあった。万が一の接触リスクを減らす意味でも車間距離設定は「普通」がベストではないかと思った。

高速道路で渋滞中は「ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援」機能がとても便利だ。作動中はステアリングホイールのスポーク上部が黄緑に光る。

電動化時代の社長車として

今回のi7 eDrive50 M SPORTは、後日別記事で詳しく報告する予定の電費検証結果でも優れた値を記録した。100km/h巡航時の電費(単位はkm/kWh)を代表して紹介すると、i7は4.98。コンパクトSUVのボルボ『EX30』は5.26。車重が1.9〜2トン程度となるミドルサイズSUVのヒョンデ『コナ ラウンジ 』は5.48、日産『アリア B6』(FWD)は5.18、トヨタ『bZ4X』(Zグレード、20インチホイール)は4.38だった。

同じ冬季に外気温も同じくらいの条件で、車重で600kgから800kgものハンデを背負うi7がさほど変わらない(むしろbZ4Xより優れた)数値を記録したことは驚くべき結果ではないだろうか。電気自動車の7シリーズとしてはi7が初代だが、搭載するパワートレインは「第5世代」目のBMW eDriveテクノロジーだ。卓越したBMWの電動化技術の実力を見せつけられた気がした。

i7は105.7kWhのバッテリーを搭載しているので、電費4.98であれば、冬季でも東京から大阪間に匹敵する526kmを充電せずに走り切れる計算になる。高い静粛性と快適性を備えた高速クルーザーたるi7 eDrive50の車両本体価格は1598万円だが、お金に余裕があれば上記車種の3倍の支出でこの性能を手にできるのはむしろお得な気がしてきた。

なお、今回の試乗車は文中でも紹介したように数々のオプションを装備しており、その合計は626.7万円、総額としては2224.7万円にも達している。ちなみにi7は全グレードで52万円のCEV補助金の対象だ。

7シリーズのトップモデルはV12エンジンからBEVモデルに変わった。ある種の衝撃を感じざるを得ないが、「100年に一度の変革期」とはこういうことなのだろう。RE100を掲げる会社のトップの皆さん、ぜひ社有車にいかがですか。

BMW
i7 eDrive50 M SPORT
全長(mm)5390
全幅(mm)1950
全高(mm)1545
ホイールベース(mm)3215
トレッド(前、mm)1665
トレッド(後、mm)1650
最低地上高(mm)136
車両重量(kg)2600
前軸重(kg)1190
後軸重(kg)1410
前後重量配分46:54
乗車定員(人)5
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)185
一充電走行距離(km)652
EPA換算推計値(km)522
最高出力(kW/ps)335/455
最大トルク(Nm/kgm)650/66.3
バッテリー総電力量(kWh)105.7
急速充電性能(kW)205
モーター数1
モーター型式HA0004N0
駆動方式RWD(後輪駆動)
フロントサスペンションダブルウィッシュボーン・エアスプリング
リアサスペンションマルチリンク・エアスプリング
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前)255/45R20 105Y
タイヤサイズ(後)285/40R20 108Y
最小回転半径(m)6.2
荷室容量(L)500
車両本体価格1598万円
※車両重量は車検証に記載の値

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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