世界のEV普及に貢献するBYDが日本市場へのPHEV投入を発表/EVバス&トラックも

BYDは2025年の事業方針発表会で、年内にプラグインハイブリッド車(PHEV)を日本に導入することを発表しました。あわせて日本向けの電気バス『J7』を初披露し、年内に納車を開始すると明らかにしました。今年もBYDから目が離せません。

世界のEV普及に貢献するBYDが日本試乗へのPHEV投入を発表/EVバス&トラックも

PHEVと電気バス、電気トラックを日本に

写真左から、BYDオートジャパン東福寺社長、BYDジャパン劉社長、BYDジャパン石井副社長。

ビーワイディージャパン(以下、BYDジャパン)は2025年1月24日、シティサーキット東京ベイ(江東区)で「BYD事業方針発表会2025」を開催。日本市場にプラグインハイブリッド車(PHEV)を導入することを発表しました。日本へのPHEV導入はないとしていた従来の方針を変更したことになります。
※冒頭写真はPHEV導入を発表するBYDオートジャパンの東福寺社長。

また、日本向けに設計した全長9mクラスの中型電気バス『J7』の実車をお披露目し、2025年中に納車を始めることを明らかにしました(関連記事)。J7の価格は税別で3650万円です。中型バスの価格はディーゼル車で3000万円前後なので、未定ですが補助金を考えると価格差があまり出ない可能性があります。

さらにBYDジャパンは、2026年以降にEVトラックを日本で販売することも発表しました。発売時期や車種などの詳細は、今年の秋をめどに明らかにする予定です。

一方で、東京オートサロンで発表したSUVタイプのEV、『SEALION 7(シーライオン7)』については、最高出力などスペックの詳細がわかったものの、価格の発表はありませんでした。発売時期は4月の予定です。楽しみが先に伸びました。

SEALION 7 主要スペック

BYD SEALION 7BYD SEALION 7 AWD
全長×全幅×全高4830×1925×1620mm
ホイールベース2930mm
車両重量2230kg2340kg
最小回転半径5.9m
定員5人
タイヤ(前・後)F: 235/50R19 
R: 255/45R19
245/45R20
駆動RWDAWD
最高出力230kWF: 160kW/R: 230kW
最大トルク380NmF: 310Nm/R: 380Nm
一充電航続距離(※)590km(予定)540km(予定)
交流電力量消費率(WLTC)未定
駆動バッテリー
種類リン酸鉄(LFP)リチウムイオンバッテリー
総電圧--
容量--
総電力量82.5kWh
V2L対応
充電可能電力未定未定
車両価格(税込み)未定未定
※航続距離などは型式認証の認可申請中のため未確定

欧州ではPHEVがBYDの主流に

BYDは、日本市場ではこれまでEVだけを販売していましたが、日本以外を見ると、『SEAL(シール)』のPHEV版『SEAL U DM-i』のほか、SUVの『SONG PLUS DM-i』、セダンの『QIN PLUS DM-i』などのPHEVを、欧州や中東などに投入しています。

このほかPHEVのピックアップトラック『SHARK 6』をオーストラリアやニュージーランド、メキシコなどで販売していて、米CNBCは2025年1月25日に、米国市場にも投入する可能性を報じました。

2024年12月9日付のロイターによれば、フィアット・クライスラーの元欧州担当重役で、今はBYDの欧州担当特別顧問に就いているアルフレッド・アルタビラ氏は、欧州市場ではハイブリッド車が経営戦略の中核になるという見方を示しています。

その上で、「市場に逆行するのは愚かなことだ。欧州市場がどこに向かっているのかは明らかで、特に南欧で顕著だ。当社はもちろん欧州でEV数車種を販売しているが、ハイブリッド車が中心になるだろう」と述べています。

ロイターはまた、BYDの欧州での販売台数の7割はPHEVが占めていると伝えています。

日本市場でもPHEV投入へ

BYDについては、2024年通期の販売台数が400万台を超えたことが注目されています。内訳を見るとPHEVが58.5%、EVが41.5%で、現状ではPHEVの販売台数が多くなっています。

BYDジャパンの乗用車部門子会社、BYDオートジャパンの東福寺厚樹社長は事業方針発表会で、2024年にグローバルの販売台数でPHEVがEVの台数を超えたと説明。「世界の潮流に従った次なる成長期に向けた大きな両輪となる、ピュアEVとプラグインハイブリッドの2つを軸とした経営を進めていく」という方針を示しました。明確に、欧州市場と方向性を揃えていることがわかります。

また、従来は否定していたPHEVの導入に舵を切った理由について、BYDジャパンの劉学亮社長は「BYDのディーラーの皆さまから現場のこと、車の性能、今後のラインナップについて日々、意見をいただいた。それらを総合的に考慮した結果」だと説明しました。EV後退国の日本では欧州以上に、PHEVへの要望は強いのかもしれません。

日本に導入するPHEVが何になるかは未定です。売れ筋の車種を考えるとSUVが妥当な線に思えるので、すでに中国以外での販売実績があるSONG PLUS DM-iとかなのかなあと思いますが、どうでしょうか。

2027年頃までに7〜8車種に拡充

では、BYDジャパンは今後、どんな車種を導入していくのでしょうか。今回の事業方針発表会では東福寺社長から、2027年頃までに7〜8車種をラインナップすることが明示されました。

2024年9月にEVsmartブログで東福寺社長のインタビューをお伝えした時に、日本市場で「7~8車種揃えば台数はもっと伸びるのではないかと期待している」という発言がありましたが、これを事業方針として明確化したことになります。

【関連記事】
日本でもEVで存在感急上昇中のBYD〜躍進のポイントを東福寺社長に聞いてみた(2024年9月5日)

なお7〜8車種には、すでに発売、発表済みの『ATTO3』、『DOLPHIN』、『SEAL』、『SEALION 7』を含んでいるので、最大であと4車種を約3年かけて出すイメージです。

ということは、今年の年末までに1車種のPHEV投入が決まっているので、残り2〜3車種です。このうち1〜2車種、つまり半数がPHEVになる可能性がありそうです。

BYDジャパンは販売&サービス拠点の拡充に力を入れていて、現在までに59か所、今年末までに100か所を整備する計画です。これらの拠点は従来のエンジン車のサービス工場をベースにしていることが多いため、「特に整備に必要な追加設備は限られていると考えており、当面は既存のサービス工場で十分対応できる」と東福寺社長は述べています。

対応に問題がないのならPHEVがあった方が販売店の理解を得やすく、サービス拠点の拡充にもプラスになりそうです。

日本向け設計の小型バスをラインアップに追加

事業方針発表会では乗用車だけでなく、商用車についても新車の発表がありました。BYDジャパンが乗用車と商用車の新車発表を同時に行うのは初めてです。

BYDジャパンの商用車部門責任者、石井澄人副社長は、2015年に日本でバス事業をスタートしてから10年で累計約350台の電気バスを販売し、日本の電気バス市場の販売シェアは7割になるという実績を紹介。今後については、2030年までに累計で4000台の電気バスを販売することを目指すと述べました。あと6年でこれまでの10倍を売るという超野心的な目標です。

そのためのラインナップ拡充として導入するのが、中型電気バスの『J7』です。

『J7』は全長9mで、車幅も日本の中型路線バスに合わせて2.3mにしています。これでBYDは、路線バス用として小型の『J6』、中型のJ7、大型の『K8』が揃ったことになります。

J7に搭載しているLFPリチウムイオンバッテリーの容量は192.5kWh。天井と後席の後ろに設置することで、床をフルフラットにしています。バスは乗降性を向上する低床化とともに、車内事故防止に床の段差がないタイプが求められているためです。

モーターは、大型バスの『K8』と同様に、後輪のインホイールモーターです。

本体価格は税別で3650万円(架装費用別)と発表されました。かなり安い印象です。冒頭で述べたように、日本の自動車メーカーの中型バスは、ディーゼル車で3000万円前後です。

電気バス導入に対する2025年度の補助額はまだ決まっていませんが、従来通りなら「標準的燃費水準車両との差額の3分の2」なので、仮に差額が600万円とすると400万円が補助されます。

こうなると、ほとんどディーゼルバスと変わりません。旧態依然とした認識でボンヤリとディーゼルバスを買い続けるか、それとも次代につなげる意味も込めて思い切ってEV化するか、考える価値はとても高いと感じます。

ところで今回の発表では、2階建てで有名なロンドンバス用に、BYDがこれまでに1700台を納入したと説明がありました。ロンドン交通局によればロンドンバスは現在、約9300台が走っているので、2割近くがBYDの電気バスになります。

日本のバスもこのくらい電動化を進めて、排ガスや騒音が少しでも減るといいなあと思うのです。

●路線用中型電気バス『J7』
車長×車幅×車高:9000×2300×3205mm
ホイールベース:4400mm
乗車定員:都市型58人、郊外型54人
バッテリー容量:LFPリチウムイオンバッテリー 216kWh
一充電航続距離:200km
車両本体価格:3650万円(税別/架装費別)

電気トラックを2026年以降に順次導入

商用車に関してはもうひとつ、新しい発表がありました。電気トラックの日本導入です。販売開始の目標は2026年で、以降「順次展開」していくそうです。1モデルではなく、バス同様にいろいろなサイズが出てくるのかもしれません。

今のところ、発売時期、車種、仕様、価格のいずれも決まっていませんが、今年(2025年)秋に詳細を発表する予定です。これは楽しみです。

BYDジャパンの劉社長は事業方針発表会で、今年がBYDジャパン設立から20年、電気バスの販売開始から10年の節目だとし、「今の心境は感無量。感謝の気持ちでいっぱいだ」と述べました。

そんな節目の年に、「日本で新たにもう一歩、踏み出す」とし、それがBYDのトラックだと宣言していました。長澤まさみさんの「ありかも、BYD」は、まだまだ続きそうです。

取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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