BYD『ドルフィン』試乗記/Long RangeモデルはATTO 3のホットハッチモデルでは?

もうすぐ国内での正式価格が発表されるBYDの電気自動車『DOLPHIN』について、高速道路を含む2時間ほど一般道で試乗することができた。限られた走行体験だが、その感想を報告したい。コンパクトなEVとして、ATTO3のホットハッチモデルとも評したい可能性を感じた。

BYD『ドルフィン』試乗記/Rong LangeモデルはATTO 3のホットハッチモデルでは?

主要諸元のおさらい

試乗したのは「BYD DOLPHIN(ドルフィン) Long Range」モデルだ。サイズはノーマルモデルと同じだが、バッテリーやパワートレインはATTO 3のシステムを流用しているので、出力や航続距離が向上している。

たとえば、モーターは同じ交流同期式だが、定格出力がそれぞれ65kW(Long Range)、35kW(ノーマル)とLong Rangeのほうが高出力だ。最高出力もLong Range 150kWに対しノーマルモデルは70kWだ。最大トルクは310Nmと180Nm(同前)と、ほぼ上位クラスの動力性能といっていい。

航続距離はWLTCモード(国交省審査値)で470km、400kmという。簡易的にEPA換算するならそれぞれ350km、320km程度となるだろう。搭載バッテリーはともにLFPで総電力量は58.58kWhと44.9kWh。車両重量は1680kgと1530kgと150kgほどLong Rangeのほうが重くなっている。

内装はATTO 3よりおとなしいがチープ感はない

そんなスペックを確認したのち、車に乗り込む。外観は海外のモーターショーや国内イベントで見ていたものと大きく変わることはない。すでに中国他で市販されている車両なので当然といえば当然。ただし、内装を本格的に確認するのは今回が初めてとなる。過去に国内で展示されていたときは窓からのぞき込むことはできたがドアを開けての撮影はできなかったからだ。

試乗車の内装はブルーと黒を基調としたもの。センターコンソールやインパネのスイッチ類にことさら目立った装飾はないが安っぽさはないので、むしろ「スポーツジムをイメージした」というATTO 3より落ち着いた感じを受ける。イルカのひれ(フィン)を模したドアの取っ手や波をモチーフとしたベンチレーターなどBYDの「海」シリーズのアイコンは健在だ。

運転席正面やセンターコンソールのディスプレイはATTO 3のものと大きく変わらない。センターディスプレイの縦横回転も同様だ。唯一の違いといえばドライブモードのセレクターだ。センターディスプレイ下にあるエアコンやハザードスイッチが並ぶところにあるダイヤルでD-N-Rを切り替える。EVを筆頭に最近の車は走行中にドライバーがギアチェンジをする必要はなくなっている。

DOLPHINのようなダイヤル式、他にもスイッチ式、ボタン式、レバー式など各車の方式があるが、どれも慣れればあまり不便は感じない。ただし、車庫入れなど前進・後進を繰り返すときは、DとRレンジの切り替えは楽な方がいい。

DOLPHINのダイヤルは、中立が文字通りニュートラル(Nレンジ)で、その位置に出っ張りがある。これを下に押せばDレンジ(前進)。上に持ち上げればRレンジ(後進)。トグル方式ではなく跳ね返り式なので、ダイヤルはすぐに中立位置に戻る。バックや切り返しで使いにくいとは感じなかった。

なお、コックピット中央のディスプレイはATTO 3と同じ、ということは、表示内容などもほぼ同じということだ。若い人は気にならないだろうが、老眼の症状がでている筆者には細かいオートクルーズの表示や警告表示その他が読みにくかった。個人的には、ドライバーの目の前のディスプレイには速度やナビの案内矢印、セレクターの位置、バッテリー残量など主要表示のみに割り切るか、いっそHUDのみにしてもいいと感じた。オートクルーズやADASモードの設定、その他の表示はセンターコンソールに任せればいい。

ボイスコントロール機能もまずまずの出来

あるいは音声ガイドで設定確認や設定変更ができればなおよい。ただし現状では、ボイスコントロールで走行にかかわる機能やADAS設定を制御していないのは、誤認識したときの安全性へのリスクを考慮しているのだろう。

DOLPHINには、ATTO 3と同様なボイスコントロール機能が備わっていた。エアコン調整、ラジオや音楽再生、ドアウィンドウやサンシェードの制御が音声によって可能だ。「ハイBYD」でボイスコントロールがアクティベートされ、「窓を開けて」などと発話すればよい。

なお、DOLPHIN Long Rangeはパノラミックルーフになっておりシェードを開けるとルーフのほぼ全面がガラスになっている。ボイスコントロールでは「サンルーフ」とは言わず「サンシェード」「シェード」ということだ。通じるだろうと思って「サンルーフ」と言ってみたが反応してくれなかった。

エアコンの設定も「〇度あげて(さげて)」「さむい(あつい)」「涼しくして(暖かくして)」「〇度に設定して」といった会話的な発話でOKだった。ただし、「温度を1°Cあげて」と指示したときに発話が明確でなかったせいか温度を下げられてしまったことがあった。担当者によれば、そういうときはむしろ「暑い」「寒い」とシンプルに言えば、少しずつ温度調整をしてくれるとのことだ。

EVの尖った部分を排除するのはBYD風

2時間の試乗では、横浜みなとみらい周辺の一般道と首都高速を走行した。以下、感想や走行フィーリングを述べていくが、試乗車両がLong Rangeモデルであることを改めて断っておく。ノーマルモデルの試乗をしていないので比較はできない。前述したように、ノーマルモデルとLong Rangeは航続距離だけでなく動力性能が別車種といっていいからだ。

BYDのEVは、ガソリン車からの乗り換えユーザーを強く意識しており、モーターの制御はマイルドだ。市街地での信号発進や車線移動もモータートルクを生かした制御ながら、踏み込み初期のアクセル操作にヒステリックに反応することはない。ただし、加速感は十分で、アクセルを軽く踏み込んでいけばすぐにリニアな反応を見せる。高速道路の合流レーンではあっという間に80km/hになっていた。

思うに、内燃機関の場合アクセル操作と実際の加速(G)にどうしてもタイムラグが発生する。十分な加速を得たいとき、その遅れを見越して「ラフに」(強く多めに)アクセルを踏み込む必要がある。アクセルのつきがいい(レスポンス性に優れた)EVは、じつはそのようなラフな操作を許さず、繊細なアクセル操作が必要なのではと考えるときがある。

EVは前提として、ガソリン車でもバイワイヤー制御のアクセル制御、ECU介入は珍しくないので、あまり考えなくてラフな操作をしても車がよしなに加減速を制御してくれる。だが、回生ブレーキを効かせたEVでは減速(G)もアクセルで制御できるので、筆者にとってはアクセルワークの楽しさ(難しさ)があるのはEVだと思っている。

その回生ブレーキはBYDのポリシーとしてDOLPHINも介入感を極力抑えている。アクセルオフで回生ブレーキが効いている感覚は軽微(強めに設定していても)で、減速・停止にブレーキの操作領域を広くとっている。回生ブレーキのフィーリングに馴染めない人も安心してEVの運転が可能な設定になっている。

なお、アクセルオフでの減速感をよりしっかりと得たい人は、ドライブモードを「SPORT」にするとよい。テスラや日産車ほどではないが回生ブレーキ効果を感じることができる。1

ADASの制御は介入が強め

ADAS制御は主に高速道路でテストした。みなとみらいから羽田線、K6、大黒PAを経由してベイブリッジから本牧までのルートで可能な範囲で追従型のオートクルーズとレーン逸脱防止機能を利用した。

オートクルーズの速度制御はマイルドな味付けだ。高速道路に乗り、走行車線に合流してから設定速度を50km/h、60km/hと引き上げていくとき、設定を変えてからすぐに加速を開始するのではなくゆるやかに加速していく。本線の流れが速い場合は人間がアクセルを踏み込んでやる必要があるかもしれない。

ハンドル操作への介入は比較的大きい部類と感じた。速度に応じた白線検知によって、車線逸脱が予測されるとハンドルが力強く動く。国産車に多いのは、介入は最小限でなるべく警報や注意喚起を与えてドライバーに操舵させる制御だろう。この場合、自分でハンドル操作を加えないと車線逸脱コースにのってしまうくらいの舵角しかとらない(警報やブレーキを優先させるため)とすれば、DOLPHINの介入はしっかり車線を戻すくらいの力と舵角だ。

アクセルレスポンス、ブレーキフィーリング、ADASの味付けは、言ってしまえば慣れの問題だ。車の特性やクセにあわせるのと同じである。車が自分に合わせる部分と、自分が車に合わせる部分の比率とバランスなので、評価基準はドライバーによって変わる。DOLPHIN Long Rangeモデルは、筆者にとって十分に合わせることができる範囲の特性だった。

急速充電はチャデモで給電機能にも対応。市販モデルではキャップ形状などが改良される予定。

DOLPHIN=ATTO 3のコンパクトハッチ説?

逆に感じたのはこれまでのBYD車(といってもATTO 3くらいしかまともに運転したことはないが)にはない、運動性能の可能性だ。誤解を恐れず、わかりやすく言えば「ちょっとしたじゃじゃ馬感」とでも言えばいいだろうか。おそらくノーマルモデルはそのモーター出力やBYDの制御ポリシーから非常に運転しやすい車であることが容易に想像できる。

ATTO 3はSUVで安定感や居住性などもワンランク上である。ATTO 3と同じパワートレインを持ちながらコンパクトサイズなDOLPHIN Long Rangeは、その中間に位置しており、加速フィーリングやコーナリングの横G、ロール感はファミリーカーよりも少し硬め(硬派)だ。スポーツカーと表現していいのかは今回試乗の範囲では判断できないが、機会があればミニサーキットなどで試してみたいと思った。車として安定感がありながら、メリハリのある操作に対してキビキビ動いてくれそうな気配を感じた。

DOLPHINノーマルモデルのリアサスはトーションビーム(コンパクトカーのスタンダード)だ。Long Rangeモデルマルチリンクを採用している。ファミリーコンパクトカーとしてはおごったリアサスと言える。筆者はコンパクトカーサイズならトーションビームのフィーリングもきらいじゃない。だがボディサイズのわりに高性能なパワートレインを積んでいるので、マルチリンクの追従性が必要だったのだろう。

ちなみにDOLPHINの0-100km/h加速は、海外の評価記事などではおおむね7秒とされている。海外仕様は微妙にバッテリー容量が変わっていたりするので、日本仕様が何秒かは不明だ。基本的なスペックはほぼ同じなので7秒台とみればいいだろう。EVとしては凡庸な数字かもしれないが、BRZやアルファロメオミト(ターボ)と同等だ。「DOLPHIN Long Range」と長距離ツーリングを意識したモデル名だが、筆者としては、じつはATTO 3のホットモデルなのではないかと感じた次第である。

取材・文/中尾 真二

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中尾 真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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