BYD 『海鴎(シーガル)』試乗レポート〜堅実なパッケージングで完成度の高さが印象的

日本で発売への期待も高まるBYDのコンパクトEV『シーガル』に現役大学生にして中国車研究家の加藤ヒロト氏が中国で試乗。完成度の高さを実感したレポートです。中国での販売が好調な中、はたして日本への導入はあるのでしょうか。

BYD 『海鴎(シーガル)』試乗レポート〜堅実なパッケージングで完成度の高さが印象的

クローズドなコースで最新中国EVを試乗三昧

BYDが2023年4月に中国で発売した純電動コンパクト『海鴎(英名:シーガル)』に試乗できる機会をいただきました。試乗場所は北京市郊外の通州区にある巨大な森林公園内の閉鎖された道路です。ご存じの方も多いと思いますが、中国はジュネーブ条約の締約国ではないため日本の免許証で中国国内の公道を運転することはできません。逆もまた同様で、中国の免許証(中国国内で発行された国際免許証)だけでは、日本の公道で運転することができないのです。

したがって、中国での試乗は難しいと考えていましたが、今回は中国の自動車メディア『咪车mewcars』編集部の全面協力のもと、トヨタbZ3やホンダe:NS1/e:NP1を含む合計25車種の最新中国車を、用意された試乗コースで運転する機会に恵まれました。連日気温40度という猛暑の中、4日間にわたって試乗を行いました。

25車種のうちNEV(新エネルギー車→中国におけるPHEV・BEV・FCEVの総称)は17台。そのうちの1台が今回、レポートするBYDシーガルです。2023年4月に開催された上海モーターショーにてお披露目された話題のコンパクトBEVです。発表時には筆者も会場で取材をしていましたが、シーガルの周囲には撮影待ちの報道関係者が長い列を作っており、たくさんの人で溢れていました。

BYDの躍進〜2023年NEV300万台の目標も達成か

さて、シーガルのレポートをする前にまずはBYDがどのような会社なのかをおさらいしておきたいと思います。

1995年にバッテリーメーカーとして広東省深圳市で誕生したBYDは、2003年に元・国営自動車メーカーの完成車工場を買収。これを機に、BYDの主要部門のひとつ「BYD汽車」が誕生することとなります。当時は買収したメーカーの車種の継続生産や、欧州や日本メーカーの車種にそっくりな車種の生産などを行っており、ラインナップも純ガソリン車が中心となっていました。そして2008年には世界初の量産型プラグインハイブリッド車(PHEV)である「F3」を発表したことで、徐々に注目を集めることとなります。

この15年の間に世界は電動化の流れを速め、BYDもそれにつれて急成長を遂げました。2022年には185万7379台の新エネルギー車を販売し、ついに販売台数において「テスラ超え」を達成しました。内訳はBEV 91万1141台、PHEV 94万6238台となっており、PHEVがBEVの台数をわずかに上回る結果となっています。

2023年10月2日にリリースされた最新のデータでは、2023年9月単体で28万7454台の新エネルギー車が販売されたとのこと。2023年1-9月の販売台数は207万9638台を記録(前年比76.23%増)しており、すでに9か月で200万台の大台を突破したことも明らかになりました。なお、BYDは2023年の販売目標として300万台を掲げているため、目標達成までは残り3ヶ月で約90万台を販売しなければなりませんが、この勢いでいけば300万台の目標達成も現実的になってきました。

なお、BYDは乗用車だけでなく、バスやトラックといった商用車も手掛けています。日本では2015年、京都府のバス事業者「プリンセスライン」へ電気バス5台を納入し、電気バスの販売を開始しました。2020年には日本の道路事情に合わせて設計された日本独自モデル「J6」の販売を開始し、BYD製電気バスを採用する事業者はここから急激に増えていきます。BYDは販売開始以来、2023年7月末時点で全国に141台の電気バスを納入しており、2030年までに累計4000台の電気バスを日本で販売する計画です。

9月に発表された『DOLPHIN』の価格は補助金を使って298万円〜。

2023年1月には純電動SUV『ATTO 3』の販売を日本で開始したことで、日本の乗用車市場に本格参入を果たしました。現在はこれに加え、2023年9月に発売された純電動コンパクト『DOLPHIN』の2車種が展開されています。

日本自動車輸入組合(JAIA)のデータによると、BYDの乗用車は2023年1-9月で886台が登録されたとしており、比較的順調な販売台数を記録している印象です。また、2023年中には純電動セダン『SEAL』の日本販売開始も予定(2024年発売になりそうですが)しており、日本での今後の展開にも要注目のメーカーです。

日本の道にも相性がいいコンパクトカー

今回、北京での試乗が実現した『シーガル』は、次なる日本上陸モデルの予想としてたびたび名前が挙がる車種です。真実はまだ不明ながらも2023年4月には「BYD SEAGULL」の商標出願がなされたことが明らかになり、ついに日本導入か!? と話題を集めました。

シーガルは全長3780 mm x 全幅1715 mm x 全高1540 mm、ホイールベース2500 mmのコンパクトカーです。小柄ながらもシャープなラインを持つ可愛らしいルックスはその名の通り「カモメ」を意識したエクステリアデザインに仕上がっています。

現在、中国で販売されているモデルでは容量30.08 kWhと38.88 kWhのバッテリー2種類が用意されており、それぞれ中国独自のCLTC方式での航続距離は305 kmと405 kmとなっています。パワートレインは出力73 hp(55 kW)のモータをフロントに配置した前輪駆動のみとなります。

保守的ながら完成度が高いパッケージング

実際にドアを開けて乗り込んでみると、その内装の完成度に驚かされました。もちろん「プラスチッキー」で価格相応な質感を感じる点はありましたが、それでも内装デザインは他のBYD車種と同じように凝って設計されています。BYD車種の特徴である回転式センターディスプレイ(シーガルでは10.1インチ)も健在で、廉価モデルでも装備面は抜かりがない印象を受けました。

セレクターの役割を果たすダイヤルや走行モードの選択、ハザードスイッチ、エアコン操作、音量ボタンはセンターディスプレイ直下に一直線で配置されているといったレイアウトは、BYD製EVの特徴ともなっています。

インストルメントパネルは7インチディスプレイがその役割を担っています。走行中は若干の見づらさも感じましたが、この辺りは価格相応の要素であるという印象です。一方で、他に中国で販売されている最新車も20台以上試乗したのですが、「ジーカー(ジーリーのブランド)」や「ディーパル(長安汽車のブランド)」、「タンク(長城汽車のブランド)」などの車種と比較すると、先進性に欠けるという印象も受けました。

中国市場の消費者、とくに若い世代はクルマを選ぶ際に「先進性」「智能化」を最も重視していると言われています(関連記事)。そのため最新の中国車ではエンタテイメント性を重視した助手席用ディスプレイの搭載や、先進運転支援技術の拡充がマストとなっています。

それに対してBYDはシーガルに限らず、最新モデルでも助手席用ディスプレイを搭載していません。いつかその理由を聞いてみたいと思っていますが、他メーカーと比較してそこまで先進性で勝負していない中でも販売実績を伸ばしているので、BYDの良さは「コストパフォーマンス」や「優れたバッテリー」、「堅実で比較的保守的な作り」にあるのではないかと感じました。

大人4人が乗車しても十分に快適

走行性能に関してはそれなりに上手くまとめられている印象を受けました。フロントはマクファーソンストラット、リアはトーションビームとなります。サスペンションはドアを強く閉めただけで車体が揺れるほど柔らかく、また走行中は路面の細かい凹凸を拾い上げる突き上げ感も否めませんでした。

とはいえ、大人4人が乗車してももっさりとした動きはなく、電動モータのおかげで加速は終始スムーズでした。大人4人が乗った際の室内は広々としているわけではありませんが、それでも十分な広さは確保されていました。中国ではまだまだ舗装がなされていない地方が多く、全体的な路面状況は日本ほど良いものではありません。そういった点も鑑みて、個人的には社外品のショックアブソーバや車高調を入れることで、未舗装路でも酔わない乗り心地になるのではないかと感じました。

最上位グレードでも9万元(邦貨換算:約182.9万円)いかないほどの安さですが、装備は充実しています。安全装備では全グレード共通で運転席/助手席エアバッグ、電動パーキングブレーキ、タイヤ空気圧センサー(TPMS)、前席シートベルトリマインダー、アンチロックブレーキシステム(ABS)、ISOFIXなどを備えています。また、最上位グレードではこれに加えて車線逸脱警報(LDW)、衝突被害軽減ブレーキ、前方衝突警告(FCW)、フロントサイドエアバッグを標準で装備しています。

クルーズコントロールは全グレードで対応し、最上位グレードではアダプティブクルーズコントロールもオプションで選択可能です。これ以外にも、運転席パワーシートやチルト・テレスコピックステアリングなどが最上位グレード限定の快適装備となります。今回試乗したモデルは最上位グレードだったのですが、運転席がパワーシートになっていることに驚かされました。

シーガルは中国で3グレード展開となっており、価格帯は7.38万元(約150.3万円)から8.98万元(約182.9万円)となります。ここからさらにディーラー独自の値引き施策などもあるため、乗り出し価格はこれよりも安くなるでしょう。大人4人が乗ってもストレス感のない純電動コンパクトがこの価格で販売されるとあって、宏光 MINIEVに代表される「超小型BEV」よりも1つ2つクラスが上のBEVを求める層にとってはとても良い選択肢なのではないかと感じました。

肝心の、日本でも販売されるかの見込みですが、正直なんとも言い難いと思います。日本で販売されるとなれば中国本国の価格のままでは絶対にあり得ないわけで最低でも100万円ほどは加算されるでしょう。しかしながら日本で販売されるモデルが最上位グレードと仮定し、補助金適用後の実質価格が250万円以下で販売されれば、選択肢のひとつとして考える人は少なからずいることでしょう。

総じて、シーガルは価格以上に良いクルマであると感じました。日本ではセカンドカー需要のほか、レンタカーやカーシェア需要などが見込めるかもしれません。

ちなみに、中国では2023年4月26日の販売開始以来、9月末までの約6か月間の販売台数は以下のように推移しています。

4月/1,500台
5月/14,300台
6月/23,005台
7月/28,001台
8月/34,841台
9月/40,092台

6カ月間の合計で14万1739台が販売されています。月間販売台数も毎月上昇傾向にあり、9月単体の販売台数は4万92台と、BYDの中で3番目に人気の車種となっています。

取材・文/加藤 ヒロト

この記事のコメント(新着順)1件

  1. まだまだ中国製evの評価が出来るほどの台数が入ってきていないし、
    充電インフラが整備されてからになると思うけど、ものが良ければ、偏見は無い。
    ただ、僕らが買うまでにEVが地上から消える可能性もあるのではと思っている。
    選択肢としては生き残って欲しいね。

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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