BYD Auto 深圳本社訪問記【前編】EVで世界の頂点へ〜アジア各国での躍進を実感

電気自動車で世界進出を進めるBYDが、アジア太平洋地域のメディアや関係者を集めたプライベートイベントを開催した。その訪問記を前後編の2回に分けてお伝えする。今回は前編。イベントの概要やSEALのサーキットランの様子を紹介する。

BYD Auto深圳本社訪問記【前編】EVで世界の頂点へ〜アジア各国での躍進を実感

アジア9か国から300名以上が参加

2023年10月、BYDがアジア太平洋地域のメディアや有力ディーラーを集めたプログラムを実施した。ASEANからはミャンマーを除く9か国に、ネパール、バングラデシュ、日本、オーストラリア、ニュージーランド、マカオ、香港、中国などから300人以上が集まった一大イベントだ。

参加国のうちオーストラリア、ニュージーランド、香港、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム、そして日本は、すでになんらかのBYD車両(乗用車)が売られている。ネパールやバングラデシュ、ラオス、カンボジア、ブルネイなどはこれからの市場として呼ばれた形だ。このようなメディアツアー、プロモーションは20年以上前なら日本でもあった。

プログラムの目玉は日本でも年内には市販される予定とされていた(ジャパンモビリティショーで2024年春と発表があった)「BYD SEAL」のテストドライブと深圳の本社訪問だ。BYDの本社(に限らず深圳のビックテック企業全般にいえることだが)を取材するのは意外とハードルが高い。企業側のお膳立てで取材範囲は限定されるとはいえ貴重な機会だ。可能であればBYDの強さ(弱さ?)の要因を垣間見ることができるのではないか。そんな期待を持ちつつ参加することにした。

タイやオーストラリアでのセールス状況は?

ツアーの初日はほぼ移動に費やされた。羽田の早朝便で香港に飛び、そこからレセプション会場のある珠海(Zhuhai)のホテルに直行する。本来であれば香港と珠海をつなぐ港珠澳大橋(Hong Kong-Zhuhai-Macao Bridge:全長約50キロ)を使って2時間程度の移動だが、台風(コイヌ)の影響で橋が通行止めとなり深圳経由の陸路でおよそ4時間かけて珠海(マカオの近く)まで南下するルートとなった。

レセプションには開始15分前に到着したため我々はバスから会場に直行となった。すでに各国のゲストは集まっており、ちょうどBYD Asia Pacific Auto Sales Division General ManagerであるLiu Xueliang(劉 学亮)氏の挨拶が始まるところだった。

Liu氏は「1995年に最初の2次電池を生産してから28年間、技術革新の哲学とたゆまぬ努力、そして65万人の従業員によって自動車業界のキャリアを積んできた。目的は新エネルギーの普及と電動化にある。そしてこの9月には累計で540万台の新エネルギー車の販売を記録した」とこれまでの実績を振り返った。

続いて「2年前に海外進出を決め、ここに各国メディアを招待することができた。みなさんは新エネルギー車がまだ移動手段として浸透していないと思っているかもしれないが、新しいブランド、新しいライフスタイルのプラットフォームになっていることは感じているはずだ。今回のプログラムでBYDの技術や製品に触れ、各国メディアどうしでコミュニケーションをとってそれを確かめてほしい」と語り挨拶を終えた。

このあと、タイとオーストラリアの主要ディーラー・代理店の代表による祝辞とそれぞれの国における販売状況などが発表された。タイディーラの代表は、この8か月で20,000台のBYD車両を販売したという。オーストラリアの代理店ではATTO 3などBYD車両を25,000台売り、SEALはすでに3,300台の予約を得ているという。オーストラリアでのSEALの発売は2024年とされている。価格はこのイベントのあと10月17日に発表(AUD49,888)されたばかりだ。

なお、タイとオーストラリアがスピーチで述べた数字については、どれも非公式のものであることに注意してほしい。いずれにせよ各国メディアの報道のとおり、BYDの車両はオーストラリアやタイでも注目を浴びていることは、このスピーチの各国の反応でも頷けるものだった。

メインイベントはSEALのサーキットラン

各国メディアや招待客に用意され次のプログラムは、BYD SEALのサーキット体験走行とプレゼンテーションだ。場所は郊外にある珠海国際サーキット。ヘアピンと直角コーナーに特徴があるサーキットだ。高速コーナーは少なく、直線のあとは必ず直角以上のターンになる。EVのような立ち上がりトルクが高い車の特性を試すにはもってこいのコースかもしれない。

本来のプログラムでは、ブレーキテストやムーステストのようなレーンチェンジテストなども予定されていたのだが、前日までの台風と雨の影響でサーキットランのみの試乗となってしまった。個人的には腰高のSUVでないスポーツセダンでの回頭性や安定性、レーンチェンジでのトルク制御などを試してみたかったので残念だった。

SEALの主要緒元は、リアモーター出力230kW。駆動方式はRWDとAWDの2種類が設定され、AWDの場合、出力160kWのフロントモーターが搭載される。バッテリー容量は82.56kWh。航続距離はWLTPで555kmとだけ公表されている。

全長4,800mm。全幅1,875mm。全高1,460mm。ホイールベースは2,920mm。サイズはテスラ モデル3とほぼ同じと思ってよい。

バッテリーはBYD得意のLFPブレードバッテリーを搭載する。8in1のe-Platform 3.0をベースにCell to Body(CTB)構造を採用したものだ。SEALは日本では2024年春の発売予定となっている。この直前のIAA MOBILITY 2023(ミュンヘン)でも、SEALのEU投入は年内と発表された。

ちなみにこのとき、SEALのEUでの価格、€44,900(AWDは€50,900)およびSUVタイプの「SEAL U」(中国での車両名はBYD SONG PLUS)も2024年中に販売がスタートすることが発表されている。正式発表から数か月で各国の市場投入ができるのも、中国本土ですでに製造販売が開始されている車両ならではだろう。

土屋選手と塚本選手がサプライズでSEALをドリフト

サーキットランに使用したのはAWDモデル。走行モードなどの設定は助手席に同乗するBYDスタッフのお任せとなるため、詳細の確認はできなかったが、SPORTモードでESP(横滑り防止)はONの設定だと説明された。ただし、自分の試乗車両はESPがOFFになっていたようで、鋭角コーナーではカウンターがあたるくらいリアがスライドした。それでもトラクションのコントロールは効いているようで、滑り出しはマイルドでカウンターステアも自然に当たる感じだった。そしてAWDの特性でスライドしてもアクセルを踏んでいればトラクションは前方向にしっかりかかっていた。

ひょっとすると試乗車両にRWDも混ざっていたのかもしれないが、2回目の試走では運転を変えたつもりはなくてもリアが滑りだすようなことはなかったので、ESPの設定ミスだと理解している。なお私事で恐縮だが、筆者はラリーやダートトライアルなどの競技経験がある。もちろん素人レベルで車も最小限の予算での改造(もちろんレギュレーション内)しかできなかったが、そのためコーナーの立ち上がりなどのアクセル操作がラフになるクセがある(踏んでも加速しないのでトルクがほしいときはベタ踏みになりがち)。ESPなしでリアがスライドしたのはおそらくそのためだ。2回目の試乗でそれを意識させなかったのは、ひとえにSEALの制御のおかげだと思う。

1回目と2回目の試乗の間には、じつは土屋圭市選手と塚本ナナミ選手によるSEALのドリフトデモランが行われた。このデモランはサプライズで行われ、事前のプログラムには記載がなかったものだ。サーキット内側の駐車スペースに設けられたパイロンコースで2台のSEALのデモランが行われた。ひさしぶりにタイヤのカスが顔にあたる経験をしたが、迫力のある走りが堪能できた。しかし、タイヤは純正装着かそれに相当するブランドだったようで、2台ともみごとにバーストしていた。ちなみに、純正装着はコンチネンタルのエココンタクト(235/50R18)だ。

塚本選手に聞いたところ「エコタイヤなので圧を少し高めに設定していたがトラクションが大きすぎた。EVは何台も乗っているがSUVが多く、SEALのような低重心な車はリアが出てもおさまりがよく安定している。制御もよくできていると思う」とコメントしてくれた。

土屋選手のコメントを直接とる時間がなかったが、間接的に得た情報ではトラクションの切り替えが(手動で)できるとよかったとのコメントがあったそうだ。土屋選手は、ヒョンデのIONIQ 5Nのサーキットドライブを行っている。コメントはおそらくそれとの比較と思われる。IONIQ 5Nはニュルブルクリンクのタイムアタックや本格的なスポーツ走行を前提としたスペシャルモデルだ。ドライブモードもローンチコントロールやドリフトモード、電子制御LSDなどを備えたモデルで単純な比較はできない。

次回は深圳に移動し、本社ビルを訪問する。
(続く)

取材・文/中尾 真二

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					中尾 真二

中尾 真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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