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9分で満充電!? BYDが次世代ブレードバッテリーとフラッシュ充電を発表

9分で満充電!? BYDが次世代ブレードバッテリーとフラッシュ充電を発表

EVの充電時間を短くするにはどうすればいいのでしょうか。2025年の世界における電気自動車(EV&PHEV)販売台数ナンバー1のBYDが、先進のバッテリー技術によるひとつの回答を示しました。アメリカのメディア「CleanTechnica」の記事を全文翻訳で紹介します。
※冒頭写真はBYDのプレスリリースから引用。

【元記事】BYD Launches Next-Generation Blade Battery & Flash Charging by Larry Evans

※この記事はAIによるポッドキャストでもお楽しみいただけます!

目次

「充電器が先か、車が先か」の議論を過去のものに

本日、BYDは第2世代のブレードバッテリーとフラッシュ充電システムを発表しました。

バッテリーや充電設備のスペックだけを見てもかなり強力ですが、今回の本当の強みは、それらを別々ではなく一体のシステムとして打ち出したことにあります。高性能な充電器と、それを最大限に生かせる車両を同時に展開することで、「充電器が先か、車が先か」という普及段階での悩みをうまく乗り越えようとしているのです。

第2世代ブレードバッテリー搭載車とフラッシュ充電器(BYD公式ライブ配信より引用)。

導入のしやすさや日常での使い勝手にも、かなり気を配っていることが伝わってきます。BYDによると、このプロジェクトには12万人以上のエンジニアが関わっており、太陽光発電や蓄電、電子機器、半導体、バッテリー、パワートレインなど、幅広い分野の専門家が連携して、システム全体で最適化された仕組みを作り上げたとのことです。

卓越した充電性能と低温特性

第2世代のフラッシュ充電器(BYD公式Xより引用)。

第2世代のフラッシュ充電器は、1MW超の出力に対応するBYD独自の超急速充電器で、T字型の充電設備に2本の吊り下げ式充電ガンを備えています。1本あたりの最大出力は1,500kW(1.5MW)です。対応する車種であれば、通常の気温条件ではバッテリー残量を10%から70%まで5分、10%から97%まで9分で充電できるとしています。

BYDは、あえて最後の3%分を残しているのは、回生ブレーキに使う余裕を確保するためだと説明しています。ただ、LFPバッテリーは満充電に近い最後の数%でセルバランス調整に時間がかかりやすいため、これも理由の一つかもしれません。

さらに、マイナス30℃の極寒環境に24時間置いた状態で、事前のバッテリー温度調節を行わなくても、97%まで12分未満で充電できるとされています。寒さに弱いことはこれまでLFPバッテリーの弱点のひとつだったので、これはかなり大きな前進だと言えます。

マイナス30℃での充電試験(BYD公式ライブ配信より引用)。

利便性でガソリン車と真っ向勝負

BYDによると、中国の一般的なガソリン車は、満タンで走れる距離がだいたい500~600kmにとどまるそうです。一方で、BYDの最新BEVは航続距離が大きく伸びていて、車種によってはその2倍近くまで届くとしています。

ただしBYD自身も、そこまで航続距離を伸ばそうとすると、より大きなバッテリーが必要になり、そのぶん車重が増え、コストも上がり、資源も多く使うことになると認めています。だからこそ充電がもっと速くなれば、「長距離を走るには大容量バッテリーが必要だ」という不安が和らぎ、そこまで大きな電池を求める流れも変わってくる可能性があります。

第2世代ブレードバッテリー(BYD公式ライブ配信より引用)。

より速い急速充電に対応させようとすると、どうしてもバッテリーは重くなりがちです。それにも関わらず、BYDの新型バッテリーは従来よりエネルギー密度が5%向上したとしています。この数字だけを見ると、BYD自身を含む一部の全固体電池が掲げている目標ほど突出したものではありません。

ただ、新しいブレードバッテリーは、少なくとも充電速度という点では、多くの全固体電池の想定を上回っています。充電がここまで速くなれば、「そこまで大きなバッテリーはいらない」と考える人も増えるはずで、結果として重量面の不利もある程度は埋められるかもしれません。

そのうえBYDは、フラッシュ充電を繰り返してもバッテリー寿命への影響は大きくないと説明しています。さらに、容量低下を2.5%分抑えられたことで、保証条件も改善したとしています。

保証条件の改善(BYD公式ライブ配信より引用)。

中国ではいま、公共の急速充電ステーションの数がガソリンスタンドを大きく上回っています。新車販売ではすでにEVが主流になっていますが、実際に道路を走っている車全体で見ると、EVはまだ一部です。

それでも、とくに連休中や寒い地域では、充電待ちの列ができる場面がすでに起きています。こうした待ち時間は、そのまま利用者の不安につながります。充電がもっと速くなれば、充電設備の数を大きく増やさなくても、こうした混雑をかなり和らげられる可能性があります。

さらに、決済の仕組みも簡単になっていて、充電器につなぐだけで支払いまで済ませられるようになっています。テスラのスーパーチャージャーのように、プラグ&チャージの「挿せばそのまま充電できる」使い勝手に近づけることで、充電時の手間も時間も減らそうとしているのです。

充電ステーション設置も「超急速」で拡大予定

フラッシュ充電ステーションの展開(BYD公式ライブ配信より引用)。

BYDは今年、中国で2万基のフラッシュ充電ステーションを展開する計画です。1基の充電設備に2本の充電ガンが備わっており、たとえ1基のみの設置でも、2台の車両を同時に充電できます。

このうち1万8,000基は都市部に設置される予定で、第1級都市と第2級都市では、充電器までの距離が平均で3km未満になる見込みです。都市部のドライバーの90%が、5km以内に充電ステーションがある環境を目指しているということです。

残る2,000基は高速道路向けで、年末までに全国の高速道路サービスエリアの3分の1をカバーし、おおむね100kmごとにステーションが配置される計画です。さらに、そのうち1,000基は5月1日の大型連休前までに設置する予定とされています。

加えて、BYDはすでに4,239基の充電ステーションを設置済みで、その多くはディーラーに併設されています。これらの充電器はすべて一般開放される予定で、一部は既存の公共充電拠点を活用する形になります。BYDは年末までに、中国で最も多く充電設備を設置する自動車メーカーになる見通しだとしています。

得意とする「バッテリー」で電力網の負担を軽減

従来型の充電器でここまでの充電速度を実現しようとすると、瞬間的に必要な電力が大きいため、電力網側にもかなり大がかりな増強が必要になります。しかしBYDは、大型の蓄電池を組み合わせて負荷をならす方式を採用しています。現時点では詳しい仕様は明らかになっていないものの、BYDによると、同社はすでに定置用蓄電システム向けバッテリーの出荷量でトップに立っており、その強みを今回の仕組みにも生かす考えです。

バッテリーを内蔵し電力網への負担を緩和(BYD公式ライブ配信より引用)。

BYDは、自社の充電器が電力網に与える最大負荷は、一般的な150kW級の急速充電器と変わらないと説明しています。つまり、受電側のピーク容量を増やさなくても導入できるということです。

中国にはすでに480万基を超える公共のDC充電器がありますが、これらをフラッシュ充電対応に切り替える場合は、既存の電力接続をそのまま使いながら、古い充電設備を新しい充電設備と蓄電池に置き換える形になります。BYDは、このシステムをエアコン並みに手軽に設置できるよう設計したとしています。

実際、フラッシュ充電対応車のオーナー4人から設置希望があり、設置場所の条件も整っていれば、1週間以内にフラッシュ充電ステーションを設置できるとBYDは述べています。

超急速充電でも低コストを実現

BYDは購入者向けに、フラッシュ充電を1年間無料で提供する予定です。さらにSong Ultraでは、この無料期間を18か月まで延ばすキャンペーンも用意されています。

無料期間が終わった後も、BYDは充電料金を周辺の一般的なDC急速充電器より高くしないとしています。つまり、充電速度は大幅に上がっても、利用料金まで高くするつもりはないということです。

中国は原油輸入への依存度が高く、原油価格の変動を受けやすい国です。そうした中で、フラッシュ充電はすでにガソリンより安く使える見込みで、今後はその差がさらに広がる可能性もあります。

充電ネットワーク利用率が10倍に向上(BYD公式ライブ配信より引用)。

BYDの試算では、新しい充電器を使えば、いま最も普及している急速充電器と比べて、1日あたりに充電できる車の台数は10倍になるとしています。

もちろん、蓄電池を組み合わせるためのコストは増えるはずです。ただBYDは、1つの受電設備や充電スペースをより効率よく使えるようになり、全体で見ればむしろコスト削減につながると見ています。結果として、充電設備に必要なスペースを抑えられるだけでなく、銅の使用量も減らせるとしています。

安全性も業界最高水準を追求

バッテリーの安全性についても、BYDは従来よりさらに高めたとしています。試験内容は、中国で求められている基準を大きく上回るもので、中国の基準自体が世界でも最も厳しい部類だとBYDは説明しています。

釘刺し試験そのものはこれまでも知られていましたが、今回はフラッシュ充電を500回フルに繰り返した後のバッテリーに対して、しかも充電中に釘刺し試験を行い、それでも温度の大きな上昇は見られなかったとしています。航続距離1,000km級の車両で考えれば、50万km以上走ったのに相当するバッテリーで試験したことになります。

充電中の釘刺し試験(BYD公式ライブ配信より引用)。

さらに衝突試験では、求められる基準の10倍の力を加えたとしています。短絡試験でも、短絡させるセルの数を増やし、ピーク温度が700℃を超える条件まで試したものの、それでも発火や構造破壊は起きなかったとBYDは述べています。

新技術を搭載した複数の車種を予告

個別の車種については今後さらに詳しく見ていく必要がありますが、BYDのラインアップは全体としてかなり魅力を増してきています。たとえばDenza Z9GT EVは26万9800元(約620万円)からとなり、ほかにも航続距離1,000km超や、0-100km/h加速2.7秒をうたうモデルが出てきています。

新型Denza Z9GT(Denza欧州公式サイトより引用)。

超高級ブランドのYangwang U7も、65万8000元(約1,520万円)で1,000km超の航続距離を実現し、さらに多くの先進技術を盛り込んだモデルとして登場しました。

またBYDは、フラッシュ充電をBEVだけのものにするつもりはなさそうで、U8やU8LといったPHEVにも展開しています。Fang Cheng Baoは、Ti3の改良版に加え、人気の高いTi7の新しいEV版も披露しましたが、詳細はまだあまり明らかになっていません。

新しいGreat Tang/Datangは航続距離950km、Seal 08は1,000km超とうたわれていますが、このあたりは価格も含めて今後の詳細待ちです。

一方で、新型Song Ultraは15万5000元(約360万円)からとなっていて、価格がかなり高い後輪駆動のModel Yと比べても、より大きく、よりパワフルな車に仕上がっています。あわせて刷新されたSealion 06は15万9900元(約370万円)、新型Seal 07は航続距離705kmで16万9900元(約390万円)からとなっています。

新型Song Ultra(BYD中国公式サイトより引用)。

LiDARを使った先進運転支援システムも急速に広がってきていますし、ここで触れきれていない車種や、これから登場するモデルもまだまだあるでしょう。

全体として見ると、BYDはこの技術を中国向けラインアップ全体に広げていこうとしているようです。しかも、装備が近いモデル同士で比べると、価格はやや安めに抑えられている傾向があります。

今回の進化は、充電速度だけにとどまりません。全体的に出力や走行性能も大きく引き上げられています。

車両の軽量化についても、単純にバッテリーのエネルギー密度が5%向上しただけでは説明しきれない部分がありそうです。航続距離が伸びているのも、バッテリーだけでなく、車全体の効率が上がっているからだと考えられます。

モーターが可変磁束型(※訳注)なのかどうかも含めて、どんな効率向上策が使われているのかは、今後さらに詳しい情報を待つ必要があります。
※訳注:BYDは2025年12月に効率を大幅に向上可能な可変磁束モーターの特許を公開しています。

より多くの車種や海外市場への拡大は?

第2世代ブレードバッテリー搭載車(BYD公式ライブ配信より引用)。

この技術が、より手頃な価格帯のモデルまでいつ広がっていくのかも気になるところです。規制当局への申請情報を見るかぎり、Qin MaxやSeal 06 Maxにはすでに採用されているようですが、今後は1,000Vのフラッシュ充電に対応した後輪駆動のYuan、Dolphin、Seagullといったモデルも出てくるのでしょうか。

また、どのモデルが海外市場に投入されるのかも、今後の注目点です。個人的には、BYDは少なくともここ数年、第2世代ブレードバッテリーについては、各国で現地生産する際に求められがちな技術共有からかなり慎重な守りの姿勢になるのではないかと思っています。それだけ今のBYDにとって、この技術の価値が大きいということです。

とはいえ、関税の負担が増えたとしても、中国から完成車として輸出されるモデルは出てくるかもしれません。さらに、BYDから技術や部品の供給を受けている自動車メーカーが、どの技術を取り入れていくのかも興味深いところです。もちろん、競合各社がこれにどう対抗してくるのかも見どころになりそうです。

何時間も発表動画を見ても、まだ出てきていない情報がかなり残っているようです。今回の発表は、次の世代のEVと充電が始まったことを感じさせるものでした。

同時にこれは、内燃機関車を選ぶ理由として挙げられてきた多くの言い分が、いよいよ通用しなくなってきたことも意味しているのかもしれません。いまのEVは、利便性が高く、エネルギー補給も速く、コストも安く、パワーもあり、航続距離も長く、走りの安定感にも優れ、乗り味もより滑らかです。

そうした不安や言い訳がひと通り薄れていけば、人々はEVを色物として扱うこともなくなり、もっと自然に、自分に合った車を選ぶようになっていくはずです。

もっとも、すでに中国より1世代遅れている国々が、いま中国で形になりつつあるような、車両・充電・インフラが一体で進化するEVエコシステムに追いつくには、さらにもう1世代かかるかもしれません。それでも、EVの体験がここまで良くなっていくなら、あえて化石燃料を燃やし続ける理由はますます薄れていくでしょう。

訳者あとがき/『買わない理由』から『買うメリット』へ

訳者(八重さくら)は6年以上にわたりSNSやメディアでEVに関する情報を発信すると同時に、多くの「EVを買わない理由」を見てきました。

充電に時間がかかる。
充電器が少ない。
電池の寿命が短い。
発火が怖い。
初期費用が高い。
車種の選択肢が少ない。

今回のBYDの発表は、これらの不安に対して、一つずつ丁寧に答えているように見えました。

5分で70%、9分で97%を充電可能、マイナス30℃でも3分の追加。
2026年内に2万基を整備。
長寿命のLFP電池、さらに保証条件を改善。
500サイクル後の充電中の釘刺し試験、基準を大きく上回る衝撃試験。
大衆車の価格帯で発売。
迅速な多車種への展開。

もちろん上記に限らず、もっとたくさんの「買わない理由」を探すこともできるでしょう。一方で、EVには多くの「買うメリット」があることも確かです。

楽でかんたんな自宅充電。
戸建てなら太陽光で自給自足可能。
走る蓄電池として日常や災害時に給電可能。
メンテナンスが楽で維持費が安い。
騒音・振動が少なく疲れにくい。
運転しやすい。
低重心で滑らかな走り。

これからも「買わない理由」を探し続けることもできますし、これらの「買うメリット」を享受することもできます。ここは消費者が自由に選択できる部分であり、確かに選択肢は存在すべきでしょう。

ところで、奇しくもBYDの発表と時を同じくして、米国がイランに攻撃。化石燃料の供給が不安定となり、世界でガソリン価格が大きく上昇しています。Bloombergの3月29日付けの記事「石油危機が自動車市場を変える、かつての勝ち組日本車劣勢」では、これを機に新興国でもEVへの移行が進むこと、そしてEVへの取り組みが遅れている日系メーカーが苦境に立たされる可能性を指摘しています。

今回の発表をお伝えしたうえで、改めてお尋ねします。いま日本において、はたしてBYDのコストや性能に勝てるEVを作れるメーカーはあるのでしょうか。新興国で勢いを増す、中国勢のEVに対抗できるメーカーはあるのでしょうか。

いま、多くの新興国では「買わない理由」ではなく「買うメリット」を選択する消費者が増えています。そして今回、そのメリットに「世界情勢に左右され、国富の流出を伴う化石燃料の依存から脱却する」という大きなメリットが加わりました。

もし日本の基幹産業、そして輸出産業である自動車産業が衰退すれば、経済的なダメージは免れないでしょう。いまこそ、国内の自動車オーナーには「買わない理由」を探すよりも、「安価で実用性が高いEVを開発してほしい」という声を、国内メーカーに届けてほしいと思います。

また、以下の翻訳記事では化石燃料への依存の危うさを解説しています。よろしければ併せてご一読ください。

【関連記事】
「エネルギー安全保障」が不安定を招く/解決の鍵は再生可能エネルギー(2026年3月31日)

翻訳・文/八重さくら

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この記事を書いた人

現在は主にTwitterや自身のブログ(エコレボ)でEVや環境に関する情報を発信。事務所の社用車として2018年にテスラ モデルX、2020年に三菱アイ・ミーブを購入し、2台体制でEVを運用中。事務所には太陽光発電とテスラの蓄電池「パワーウォール」を設置し、車と事務所のほぼすべての電力を太陽光で賄うことを目指しています。

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