アプリで認証課金可能な普通充電器~ジゴワッツ『Ella』が本格的に発売開始

集合住宅や宿泊施設で合理的な課金が可能な電気自動車用普通充電器が着々と登場しています。今回は、設置工事が簡単&比較的手頃な本体価格で有料充電サービスを提供できるジゴワッツの『Ella』をご紹介します。

アプリで認証課金可能な普通充電器~ジゴワッツ『Ella』が本格的に発売開始

お手頃価格で認証課金を実現

株式会社ジゴワッツが発売している『Ella(エラ)』は、最大出力3.2kW(200V16A ※国内仕様)の電気自動車用ケーブル付き普通充電器。『PIYO CHARGE(ピヨチャージ)』と名付けられた独自アプリを通じて利用者がクレジットカード情報を登録し、認証&課金を行いうことが可能です。ジゴワッツ自ら「世界最小クラス」と評する本体は、実際に現物を見ると驚くほどコンパクト。この小さな本体に、通信機能や通電制御などの機能を内蔵しています。

比較のスマホはiPhone11。現物は想像以上にコンパクト。質感もGOODです。

一般的なコンセント取付枠で設置可能

一般的なコンセント取り付け枠と同じ83.5mmピッチの取り付け穴で設置できるのが特長で、すでに電気自動車用200Vコンセントを設置していた場所であれば「取り替える」だけの簡単な工事で設置できます。市販の給電ポールや、既存の外壁コンセント取付スペースへの設置も容易です。

ジゴワッツ『Ella』主要諸元
規格SAE J1772 OCT2017, JARI A 0101:2014規格準拠
最大出力(日本仕様)3.2kW(AC200V 50/60Hz )
本体サイズ128 x 80 x 85mm
通信方式Wi-Fi 802.11 b/g/n, Bluetooth Low Energy
動作温度-20℃〜40℃
防水性能IP44
付属ケーブル長4m

本体価格は13万3100円(税込)。従来市販されているeMPネットワークの認証課金機能付きの普通充電器の価格はざっくり「80万円程度~」と高価であることを考えれば、驚きのコストパフォーマンスといえるでしょう。

また、Ellaの場合は公共充電インフラ向けの仕組みであるeMPネットワークとは繋がらないので、集合住宅の入居者や宿泊施設の利用者などその施設専用のクローズドな充電設備として運用するのに最適。利用料金も設置者それぞれが独自に設定することができます。まさに「そうそう、こういう充電&課金システムが欲しかった!」を叶えてくれるプロダクトです。

もちろん、誰でも使える充電器として開放することも可能ですから、EVユーザーの集客などを見込んだビジネスモデルとしても運用できます。

Androidにも、もうすぐ対応予定

2021年8月現在、専用アプリのPIYO CHARGEはiOSでリリース済み。Android版はもうすぐローンチ予定です。

商業施設や宿泊施設、集合住宅や事業所などへの電気自動車用充電設備設置には次世代自動車振興センターのCEV補助金がありますが、補助対象の設備とするには検査を受けて「1台ごとに1枚1000円のシールを貼らなきゃいけない」ということで、Ellaは商品価格を抑えるためにあえて補助対象機種とはしておらず、CEV補助金を受けることはできません。

EVユーザーのITベンチャー社長が「志」を実現

Ellaを発売する株式会社ジゴワッツは、2014年設立のITベンチャー企業です。電気自動車用普通充電器であるEllaのほか、すでにさまざまなカーシェアリングサービスなどで採用されている『VirtualKey(バーチャルキー)』というシステムなどを提供しています。

東京で納車第1号だったという愛車の『e-208』と柴田さん。

創業者で代表取締役の柴田知輝(ともき)さんは、自らも現在はプジョー『e-208』などを所有するEVユーザーです。

電気自動車や充電に関心を抱いたのは2008年ごろ、慶應義塾大学総合政策学部に在学中のことでした。三菱自動車が発表した完全電気自動車の『i-MiEV』に試乗する機会を得て、加速感などの面白さに魅了される一方で、航続距離の短さを実感。電気自動車が普及するのは「手軽に認証&課金ができる充電インフラが不可欠」と思い立ち、学内のビジネスコンテストに『電気自動車充電器共有コミュニティ』と題したプランを提出。Ellaにも繋がる「手軽な認証課金が可能な普通充電器」のアイデアが誕生しました。

2009年、i-MiEVが一般向けに市販されるよりも前、日本充電サービス(NCS)が誕生する以前のこと。若い頭脳の慧眼です。

当時の発表資料の表紙。

この時のビジネスコンテストでは最終選考まで進んだものの、「プレゼン前夜に明け方までデモ用資料を作っていて」うっかり寝坊してしまったという、いかにも学生らしい失敗をやらかしてしまいましたが、その悔しさをバネに、慶應大学卒業後には京都大学の大学院へ進んで情報工学を研究。Ellaの構想を成熟させていきました。

京大大学院修了後は石川県かほく市の『PFU』というIT企業に就職。3年間の勤務で「高品質なプロダクトやサービス構築」のキャリアを積んで、2014年、27歳の時、「スマホを活用して手軽にEVを充電する」プロダクトを実現するために、ジゴワッツを起業したのです。

2019年8月には、三井物産と連携し愛知県豊田市でEllaを利用した電気自動車充電サービスの実証実験を開始。事実上、Ellaの実用化が始まりました。この実証実験はすでに終了していますが、設置した約100台のEllaはそのまま活用されています。

また、2013年ごろ数年間で各地の宿泊施設などに広く設置された普通充電器が機器交換の時期を迎えていることで、ジゴワッツにはEllaに関する問い合わせや、今まで設置していた課金式普通充電器との置換の依頼がたくさん寄せられているそうです。

集合住宅への充電器設置のニーズも高まっている中、手頃なイニシャルコストで認証課金システムと独自の料金設定を実現できるEllaは、ますます注目すべき普通充電器となっています。

「にわとりかたまごか」

Ellaを紹介するジゴワッツの公式サイトには「にわとりかたまごか」というキャッチフレーズとともに、次のような言葉が紹介されています。

充電ステーションが無いからEVが普及しないのか、EVが普及しないから充電ステーションが無いのか。これはまさに「にわとりかたまごか」問題。私たちにはその答えがどちらかはわかりませんが、超小型のEV充電器でこの問題を解決します。

もちろん、Ellaはすでに発売中。電気工事士にお願いして取り付けることができますし、ジゴワッツでも取付の相談に応じています。

カフェ風の本社オフィスで、とても楽しくEllaについて語ってくださいました。

実は、アプリを『PIYO CHARGE』と名付けたのも、この「にわとりかたまごか」が元になっていて「どっちかわからないからまずはヒヨコで」と決めたそうです。さらに、社名の「ジゴワッツ」は映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でデロリアンの次元転移装置を起動させるために必要な電力の「1.21 jigowatts」という架空の単位に由来。なんと、Ellaの税別価格を「12万1000円」としたのも、この「1.21」にちなんでのこと、だそうです。ちなみに「jigowatts」は当時の脚本家が「gigawatts」をタイポしたのがそのまま日本で翻訳された結果生まれてしまった架空の単位といわれています。

また、購入するにはまずは「メールで問い合わせを」となっている点や、本体が発売されたあとで専用アプリのローンチが追いかけていくあたりなど、ベンチャーらしい「ゆるさ」を残したプロダクト&サービス、でもあります。EVsmartブログでは、そんなこんなも電気自動車本格普及前夜の「心意気プロジェクト」ならではのことと捉えて、応援していきたいと思います。

とはいえ、ケーブルとプラグはデザイン&質感重視でドイツの『HARTING(ハーティング)』を採用しており質感は上々。「100台くらいまでなら即納も可能」な態勢を整えています。

電気自動車同様に、Ellaが日本で普及するかどうかも「にわとりかたまごか」、つまり、多くの集合住宅や宿泊施設がEllaの設置を実践しつつ、実際の使ってみて感じた要望などを送っていくことで、Ellaとジゴワッツのプロジェクトがどんどん進み、成長していくのだと思います。

なにはともあれ、約13万円@1基で合理的かつニーズに合わせた認証課金を実現できるEllaが、コストパフォーマンス抜群の選択肢であることは間違いありません。Ellaとともに、集合住宅や目的地の普通充電インフラが広がっていくことを願っています。

『Ella』公式サイト

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)7件

  1. ピヨチャージで2023/12/30充電開始しても開始時間、経過時間が表示されなかったので2度やりなおした1分くらい繋がっていたらしく55円が二回請求された、40分充電相当ですよ。三度目は隣の充電器に移って上手くいきましたが釈然としない!

  2. 現況の充電器って、30分の急速充電か自宅を含めた長時間の普通充電しかありません。その間が欲しいですね。30分の急速充電に含まれる中速充電器がそれに当たると思いますが、1〜2時間程度でまあまあ充電できる充電器があるといいですね。時間貸し駐車場で、2時間ほど駐車して40kWhくらい充電できるなら便利だと思います。商業施設に行って充電すると言っても、イオンの普通充電は3時間制限だしたいした量にはなりません。それに買い物で3時間も滞在することはあまりないです。急速充電は30分なので、戻るのが面倒。
    従量電気料金が安い低圧電力に対応した認証・課金可能な格安中速充電器が開発できれば、充電インフラも拡充するかもしれません。設置者が充電料金も設定できるので、料金を工夫すれば儲かるかもしれません。なにより、eMPネットワークに依存しないのがいいですね。課金にも競争原理を生み出してほしい。

  3. 素晴らしいですね!(^-^)

    起業?やはり、一度でも他社に入社して経験を積んだのが、良いかな?

    特別に他人よりも、頭が良くて事業を始めるのも良いですが。
    他人との関わりを知らない・経験無いと、後でトラブルに見舞われるか?(汗)

  4. いつも情報ありがとうございます
    課金が出来るとありますが、課金は時間制?従量制?なのでしょうか?
    WEBページを見ましたがよくわかりませんでしたので、、
    従量制なら電気量を正確に測定する必要がありますし、接続している時間なら、例えば充電が終わってもつないでいるだけで課金されてしまうのでは?との懸念があります。

    1. しげ さま、コメントありがとうございます。

      取材で伺った限りでは、時間課金だと思います。
      また、アプリと充電器が通信して、開始や終了をハンドリングしている、はずなので、終わってるのに課金、はないかと思います。

      ご質問コメントがあった旨、ジゴワッツに確認してみますね。

    2. しげさん、
      コメントありがとうございます。
      ジゴワッツの柴田です。

      現在は充電開始ボタンがアプリで押されてから、コネクターが抜かれるまでの時間の従量制課金になっています。

      今後出力が異なるモデルが出てきた時に出力レベルに応じた価格分けなども検討しております。

      引き続きどうぞ宜しくお願い致します。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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