テスラ モデルXの雪上性能と現地オーナーの声【EVで走る冬の北海道 Part2】

EVはモーターによる緻密なトルク制御が可能で、一般的に「雪道や凍結した道など、滑りやすい路面における走破性が高い」と言われています。「EVで走る冬の北海道」シリーズレポート。Part2では実際に冬の北海道で走行し、雪上性能を検証。現地オーナーの声も紹介します。

テスラ モデルXの雪上性能と現地オーナーの声【EVで走る冬の北海道 Part2】

【シリーズ記事】
Part1/寒冷地や雪道での電費の低下を検証し、理想的な充電インフラを考える(2023年3月22日)
Part2/テスラ モデルXの雪上性能と現地オーナーの声(本記事)
Part3/立ち往生を想定した消費電力テスト(予定)

<編集部注>テスラオーナーである八重さくら氏によるマイカーでの冬の北海道遠征レポート連続企画。3月にPart1を公開後、本業の合間を縫いつつ現地オーナーへの追加取材を行ったため、公開の間隔が空きました。季節は夏が近づいていますが、数カ月後には次の冬がやってきます。EVsmartブログならではのリアルなレポートをお役立てください。

滑りやすい路面におけるEVの特徴とは?

実際の検証結果を確認する前に、滑りやすい路面におけるEVの特徴をおさらいしておきましょう。

一般的に、内燃機関やトランスミッションを用いないEVはトルク制御が容易で、雪道なのでの走破性やスタック脱出性能を高めやすいと言われています。内燃機関で動力を得るには燃料の噴射や燃焼の工程が必要で、車輪に伝わるトルクを大きく変えるには機械的な変速が必要な場合もあり、タイムラグが発生しやすくなります。さらにトランスミッションを経てタイヤに伝達するために可動部の重量が増加、慣性力が大きくなることで、EVよりも制御の難易度が上がることが大きな理由です。

一方でEVのモーターはインバーターによる電圧や電流、周波数の制御でトルクを瞬時にコントロール可能です。機械ではなく電気的に制御されるため、タイムラグを容易にミリ秒単位まで縮めることが可能になります。また、EVの場合はほとんどの車種において変速機が1段固定なので機械的な変速作業がなく、さらに軽量化が可能となり、慣性力を減らしやすくなります。このような違いによりEVは内燃機関よりもトルクの制御が容易となり、空転を検出した際に瞬時にトルクを調整、空転を抑えながら効率よく路面に伝えることが可能になるのです。

もう一つ重要な点は、重量のある電池が前輪と後輪の内側のほぼ中央、かつ床下に配置されていることです。重い部品が車両の中心部、かつ低い位置にあるため、より自然に安定性が生まれやすい構造となっているのです。

一方で、EVにもデメリットが無いわけではありません。多くのEVにおいて同クラスの内燃機関車よりも車両重量が重くなる傾向がありますが、走行中の車両が持つ運動エネルギーは重さ(質量)に比例して増えることになります。当然ながら車重が増えた場合はそれに見合った性能のタイヤを装備することになりますが、アイスバーンなどの滑りやすい路面では摩擦力が不足する可能性があり、急カーブでは手前でしっかり減速する必要があります。

いざ、雪道を走行!

今回はフェリーで苫小牧に上陸しましたが、残念ながら(?)高速道路を含めて札幌市内に到着するまでは積雪や凍結のある道路は通過しませんでした。しかし、ここは冬の北海道。札幌市内の一部区間や石狩市、小樽市、千歳市など、少し足を延ばすだけで10cm~20cm程度の積雪路、および圧雪路に遭遇することができました。

まず、積雪路については「ほぼ意識することなく、通常通りの運転が可能なレベル」と感じました。いつもの感覚でアクセルを踏み込むと雪の重さ(抵抗)による加速力の低下を多少感じつつも、滑る様子は一切なく安定して加速。さらにアクセルを踏み込むと空転制御が入り、大きく滑ることはなく、一定の加速力を維持しながら安定して加速していきます。

減速時も、通常の運転で使う範囲のブレーキ操作であれば過走することなく、安定して減速してくれます。もちろん電池の温度が極端に低い場合や満充電に近い場合を除き、回生ブレーキも通常通り動作します。雪道での運転に慣れている方は回生ブレーキではなく通常の摩擦ブレーキを好む方もいらっしゃいますが、2018年製のモデルXでは設定から回生ブレーキの強さを弱めることもできます。曲がる際も急ハンドルさえ切らなければ、特に違和感を感じることはありませんでした。

ところでクロスオーバーSUVに分類されるモデルXは、エアサスの高さを中間に設定した場合の最低地上高は166mmとなり、これよりも積雪が深くなるとタイヤが浮いてしまう可能性があります。いくら雪道に強いEVといえど、タイヤが接地していなければ走行は不可能なので、車種ごとの最低地上高と積雪の深さには注意する必要があります。筆者の場合、万が一スタックした場合にもなるべく自力で脱出できるよう、雪道を走る場合は以下のようなスタック脱出道具を装備していました。

このような脱出道具は通販サイトや自動車用品店などで数千円程度で購入できるので、雪道を走る際には保険として装備しても良いでしょう(もちろん装備していても油断は禁物です!)。

次に、圧雪路での性能です。札幌市内の一部などの交通量が多く、かつ除雪されていない場所では、車両の通行などにより路面が磨き上げられることで、アイスバーンに近い状態となっている場所もあります。歩く際も細心の注意が必要で、普通の歩き方では簡単に転んでしまうことも。この様な場所では、当然ながらEVでも運転操作への影響が大きくなります。いつもの感覚でアクセルを踏むと空転制御が入り、加速力が抑えられていることをハッキリと実感できます。ブレーキについても同様で、アクセルを離した際の回生ブレーキは滑らない範囲に抑えられ、摩擦ブレーキを踏んでもタイヤがロックしないようにABSが作動し、それ以上の制動力は得られません。

とはいえ、今回の検証においてはブレーキの性能低下さえ理解できていれば恐怖を感じたり、車両が制御できなくなるようなことはありませんでした。もちろん十分に速度を落とさずに急なハンドル操作をすればアンダーステアが出るものの、スピンしたり不安定な状態に陥る素振りはなく、高い安心感を得ることができました。

雪国のEVオーナーの声

今回の遠征では検証とともに、数名の現地のテスラオーナーから、EVやテスラ車特有のお話を聞くことができました。

まず共通認識として存在するのは、北海道のような雪国でも、充電インフラが整備されている地域であれば、通常の使用において大きな問題は発生しないということです。

例えばテスラ車の場合、現時点で最大出力250kWのスーパーチャージャーが設置されている「札幌や函館の周辺」であればあまり苦労することはないものの、道東や道北を中心とした都市間の移動では充電計画に気を使う必要があるといいます。

Part1での検証を振り返ると、(車種によって多少の差はあれど)低温や積雪により航続距離が短くなることは確かで、目的地によってはドライブ中の経路充電の回数が増える場合もあるでしょう。

一方で、Part1では「日本を超える豪雪地帯」であるノルウェーのトロムソでは、150kW以上の超急速充電インフラが不足していたためにBEVの普及が遅れていたものの、インフラの整備に伴い、他の地域と同等までシェアが増えていることも示しました。このシェアの変化は「EVは普段の使い方や行動範囲によって利便性が大きく変わるものの、たとえ現時点で不便を感じるような使い方でも、充電インフラの整備が進むことで改善される」ことを意味します。現時点ではEVを万人におすすめできないことは確かですが、今後の充電インフラの普及に伴い、少しずつ改善されるでしょう。

もう一つ充電関連で気になる点は、EVの車種や充電器の種類が増えたことで、CHAdeMOの相性問題が顕著になったことです。例えば日産ディーラーで旧型充電器から入れ替え設置が進んでいるニチコン製の一部の新型充電器において、テスラ車ではエラーが発生して充電できない現象に遭遇したという声がありました。

相性問題が発生する「車種」や「充電器の設置場所」は充電網を管理するe-Mobility Power社のWEBサイトで公開されていますが、2023年5月の時点では本件は記載されておらず、全て網羅できている訳ではありません。北海道では現在同型の充電器が増えているとのことで、相性問題の解消に向けたe-Mobility Power社の今後の取り組みに期待したいところです。

【参考】
一部の車種と急速充電器の組合せにより発生する不具合について【2023年6月1日追記】(e-Mobility Power 公式サイト)

このほかEV特有の注意点として、内燃機関のような熱源がないため、タイヤハウスや底面に付着した氷が溶けにくいことが挙げられます。北海道では首都圏などと比べて多くの住宅に屋根付きのガレージが設置されていますが、屋外駐車場も少なからず存在します。氷が成長すると運転に支障が出たり故障の原因にもなるため、冬季は内燃機関車よりも注意して定期的に点検し、氷雪用ゴムハンマーなどで落とす必要がありそうです。

また、テスラ特有の課題として、北海道にはサービスセンターが存在せず、モバイルサービスや提携工場に頼る必要があるという点があります。取材した時点では東北・北海道を担当するモバイルサービスは仙台を拠点とする1名のみとのことで、対応まで時間がかかる事例も。さらに修理内容によっては札幌市内に対応できる提携工場がない場合もあり、小樽市内(小樽の市街地と札幌市の中間付近)まで移動が必要になった事例もあったそうです。

例えばテスラと同じくEVの老舗である日産は多くの主要都市にディーラーが存在し、テスラと比べて安心感があります。この点は販売数の増加と合わせて、サービスセンターや提携工場、モバイルサービスの拡充に期待したいところです。

さらにモデルX特有の問題として、写真のように天井への積雪時に後部のファルコンウィングドアを開けると、雪が車内に落ちるという声も。

このように雪が積もった状態でドアを開ける場合、以下のような除雪ブラシを用いて、事前に一部の雪を取り除く必要があるといいます。雪国であれば多くのオーナーが除雪ブラシを常備していると思いますが、他の車種と比べると、ひと手間かかると言えそうです。

EVはこのように現時点ではまだ課題や注意点もあるものの、前述の通り高い走破性を備えるだけでなく、暖機運転無しですぐに暖房が作動するほか、ガレージ内でも排ガスを気にせず事前に暖房が使えるなど、多くのメリットを併せ持ちます。YoutubeやSNSでも多くの雪国のEVオーナーが参考になる情報を発信しており、それらの声に耳を傾けてみると新たな発見が得られるかもしれません。

また、既設器の交換時期を迎えて一時期減少傾向にあった国内のEV充電器の設置数についても、EVの販売増加とともに再度増加に転じています。長時間滞在する観光施設や宿泊施設での普通充電、SAPAなどでの超急速充電、テスラ車の場合はスーパーチャージャーやサービス網の整備が進むことで、「雪道での航続距離が不安」といった課題も徐々に改善されるでしょう。

次回は立ち往生を想定した消費電力テストの様子をお届けする予定ですので、どうぞご期待ください!

取材・文/八重さくら

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 雪道

    EVでは無いですが。
    同じ回生ブレーキが、使える!
    シリーズハイブリッド車で雪道を、軽快に走ります( ᴖ ·̫ ᴖ )

    まあ、常にレンタカーを借りる身で。
    普段はタダのガソリン車で、良いですが。

    怖い東北の雪道は、回生ブレーキが効く車は安心して乗れます!

    他に、四駆に乗った事有り!

    四駆のアクセルを緩めると、ブレーキが掛かる挙動が、まんま回生ブレーキと同じです!

    四駆では無いが、EVは安心出来るかと?

  2. そうか,こういう相性問題に日産が巻き込まれるのを防ぐために、ZESP3は日産オーナー限定ってことにした可能性があるりますね。

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この記事の著者


					八重 さくら

八重 さくら

現在は主にTwitterや自身のブログ(エコレボ)でEVや環境に関する情報を発信。事務所の社用車として2018年にテスラ モデルX、2020年に三菱アイ・ミーブを購入し、2台体制でEVを運用中。事務所には太陽光発電とテスラの蓄電池「パワーウォール」を設置し、車と事務所のほぼすべての電力を太陽光で賄うことを目指しています。

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