【集合住宅EV用充電設備事例】新築マンション共用部に6kW普通充電器 & 契約3区画にコンセントを設置

新型電気自動車の登場が相次いでいますが、日本でのEV普及には集合住宅駐車場への充電設備設置が重要で、全国各地で設置されるケースが増えています。課金機能を備えた充電設備設置サービスを進めるユアスタンドが手がけた最新事例シリーズ。今回は愛知県一宮市の新築分譲マンションをご紹介します。

【集合住宅EV用充電設備事例】新築マンション共用部に6kW普通充電器 & 契約3区画にコンセントを設置

ユアスタンドへの問い合わせも急増中

電気自動車に対して、相変わらず充電時間への不安や疑問の声が聞こえてきます。でも、日常的な電気自動車の充電は拠点ガレージで行うのが基本であり、スマホと同様、寝ている間に充電できれば所要時間はそれほど気にする必要はありません。

世界では新築住宅や集合住宅へのEV用充電設備設置がスタンダードになりつつありますが、日本では発展途上、というか、集合住宅や賃貸駐車場に充電設備を設置することへの理解はまだあまり広がっていないのが現状です。

ユアスタンド株式会社では充電設備(駐車スペース)を予約したり利用時間に応じて課金できるシステムを開発、自社開発のスマホアプリでのサービスを提供するとともに、理事会への説明や補助金の申請、充電機器の選択アドバイスなどを行い、集合住宅などへのEV用充電設備導入をスムーズに進めるサービスを提供しています。

EVsmartブログでは今までにもユアスタンドが手がけたケースをはじめとする設置事例をいくつもご紹介してきました。2022年、今年はいよいよトヨタやスバル、日産、三菱などをはじめ、世界の自動車メーカーから多くの新型電気自動車が登場することが発表されています。EV用充電設備の必要を感じているデベロッパーや管理組合、EV所有に興味をもつ住民の方などから、ユアスタンドへの問い合わせも急増しているとのこと。本格的なEV普及を前に、集合住宅への充電設備設置は急務ということでユアスタンドに情報提供などの協力を依頼。最新の設置事例を、改めてシリーズで紹介することにしました。

今回はまず、愛知県一宮市で竣工したばかりの新築マンションのケースをご紹介します。

集合住宅などの充電設備設置事例などについては「自宅充電・マンション充電」でサイト内検索すると、アーカイブ記事を参照いただけます。

オール電化マンション『グランクレア一宮』の外観パース。右端の駐車区画が充電器が設置された来客用駐車場。

共用部に出力6kWの日東工業『Pit-2G』を設置

訪ねたのは愛知県一宮市に完成したばかりの『グランクレア一宮』というマンションです。デベロッパーは中電不動産と日本エスコン。地上9階建て、総戸数41戸で、全戸分の駐車場(月額4000円~1万5000円)に加えて、共用の来客用駐車場を備えています。

最大6kWの出力で普通充電が可能。

ユアスタンドが設置したのは、来客用駐車場の普通充電器、日東工業の新型普通充電器『Pit-2G(ピット・ツージー)シリーズ』1台です。Pit-2Gには3~6kWの出力と、4G通信機能有無のバリエーションがあり、今回設置された充電器の出力は6kW。一般的なEV用200Vコンセントの倍の速度で充電することができます。また、通信機能を備えたモデルを採用し、スマホアプリ『Yourstand』と連携し、利用希望者が充電器の予約をしたり、管理者が設定した利用料を課金することが可能です。

Pit-2G 発売を伝える記事で「ユアスタンドと連携も」とお伝えしましたが、実際にユアスタンドの予約&課金システムと連携してPit-2Gが設置されるのは、全国でもここが初めてのケースとなりました。

アプリでの予約は30分単位。EVなどで充電する場合の「充電料金」と、充電せずに利用する「駐車料金」は別々に設定することができるので、共用の来客用駐車場の予約システムとして活用することも可能です。

専用アプリ予約画面の例。充電料金と駐車料金が別々に設定されています。

マンションの入居開始は2月からの予定。充電料金などは設置する管理者が設定できる仕組みになっており、3kW出力の場合で1時間100円前後が一般的。今回のケースでは倍の6kW出力なので、1時間180円となります。

設置コストとしては、Pit-2Gの6kW、通信機能付きモデルの標準価格が24万2000円(税込)。あとは、配線や機器設置の工事費用です。集合住宅へのEV用充電設備設置には経産省所管のCEV補助金がありますが、Pit-2Gはまだ補助金対象機種となるための認証を得る手続き中で補助金は使えません。とはいえ、大規模なマンション新築工事の中での設置なので、さほど問題にはなりませんでした。

運用については、ユアスタンドのシステム利用料として月額2500円を管理者(設置主体者)が負担することになります。課金した利用料金は、ユアスタンドが10%の保守管理費用を収受した上で、管理者に支払われます。

来客用駐車場はエントランス横のわかりやすい場所にありました。

契約駐車場3区画にも200Vコンセントを設置

敷地内には機械式を含めて戸数分以上の駐車区画が用意されています。

ユアスタンドが手がけたのは来客用駐車場の1台だけですが、グランクレア一宮では居住者用の契約駐車場3区画にもEV充電用の200Vコンセントを設置しています。駐車場そのものの利用料金は月額4000円~1万5000円で、EV用コンセントの利用料金は月額5000円の定額とのこと。

契約区画に設置されていたのはパナソニックのロック機構を備えたカバー付きコンセント。

普通のコンセントなので保守やメンテナンス費用はほとんど掛からないでしょうから、管理者としては月5000円の中から電気代を払うだけ。利用者としては毎月5000円分も充電しないとしても、コンセントを設置するための費用を負担せずに済み、EVやPHEVを拠点となる駐車場で自由に便利に充電できるメリットを得られます。

先日別記事で紹介した東京都目黒区内のマンションでも、駐車場全区画にEV用充電器を設置して月額利用料を5000円に設定していました。この記事でも試算したように、電気代が25円/kWh、電費6kmのEVで月間1000km走行分(約167kWh)を充電するとして、電気代は約4200円程度となります。ちなみに、この目黒のマンションに設置される充電器もPit-2Gということでした。

来客用を除いて41区画の駐車場で3区画ということは約7%。1〜2%程度を推移する現在の日本の電動プラグイン車普及率を考えると納得できる割合です。数年後、プラグイン車がもっと増えてくる将来のために、コンセント増設のための配線などは備えてあるのかを中電不動産に確認したところ「3区画分の配管を設置してある」とのこと。

合計で6台分=約14%なので、日本政府が掲げる「2030年にEV・PHEVを20~30%」という目標や、直近の自動車メーカーの動向をみると、10年後くらいにはちょっと足りなくなってくる懸念はあるものの、共用部来客用駐車場の充電器は入居者も使うことができます。

契約駐車場にコンセントを設置した場合、利用できる区画の契約者がエンジン車ユーザーでは意味がないといった不都合が生じます。普通に考えて、たとえばEVは毎日充電しなくても便利に活用できるので、予約可能な来客用駐車場の普通充電器が使えれば、コンセントがない区画を契約している入居者も自宅マンションで充電できる利便を提供できるのです。現状を鑑みると賢明で堅実な設定といえるでしょう。

事例が増えれば知見も広がる

現地に置かれていたグランクレア一宮のチラシを見ると、駐車場について「敷地内駐車場100%以上+共用駐車場1台」「全区画ハイルーフ車対応」とともに、「EV・PHV対応の充電設備を設置」とアピールされていました。EV用充電設備設置がマンションなど集合住宅の付加価値になりつつあることを実感します。

EVが充電できる駐車場付きの新築マンション誕生を大事な一歩として祝福しつつ、少し気になることもありました。まず充電料金ですが、最近の新型EVには6kW以上の普通充電に対応した車種が増えているものの、たとえば私の30kWリーフは最大3kWの性能しかありません。ユアスタンドアプリで駐車料金と充電料金を別に設定できるのであれば、もうひとつついでに「6kW充電」と「3kW充電」を別料金で設定(&充電器を制御)してもらえるとうれしいところです。

また、来客用駐車場の入口に電柱が立っていることもあり、日東工業のご担当者が現地に乗ってきたリーフ(40kWh)を前から入れるのがなかなか難しそうでした。さらに、充電器に付いているケーブルの長さは標準の5mだったので、フロントに充電口があるリーフをバックで入れると「ギリギリ届いてよかったぁ」という感じでした。

今までの共用駐車場であれば「バックで入れれば問題ない」範疇であっても、EV充電スペースであることも考えると、充電器の配置とケーブルの長さや、車庫入れのしやすさなどを考慮するのがベターです。

こうしたディテイルは、実際にEVに乗る人が増え、充電設備付きのマンションなどが増えていくことで知見や工夫が広がって、次第に改善されていくのだと思います。

リーフでも前から入れればケーブルは余裕。車種によって充電口の位置が違うことを考慮する必要があります。

最後に、充電設備導入を決めた経緯など、中電不動産のご担当者にいくつか質問して回答をいただきました。

Q. EV充電器を導入した理由は?
地球温暖化防止に基づく脱炭素化の流れからEV化が進むことが予想されます。当社分譲マンションへ入居される皆様方が、将来においても利便性を欠くことなく生活するためにも必要な設備であると考えました。また、デベロッパーとしてEVそのものの普及に少しでも貢献できるのではないかと考えました。

Q. 導入の課題は?
全区画にEV充電設備を設置するには、建築コストや維持管理の高騰につながり、本来あるべき顧客サービスに繋がらないことから、必要な台数の選定や運用面などを検討する必要があります。

Q. 課題をどのように解決したか?
ユアスタンド様の知見から数年先のEV市場の動向が分かり、おおまかな必要台数を選定できました。また、共用駐車場に、今回のユアスタンド様と日東工業様による充電設備を導入することで、EV充電設備が装備されていない機械式駐車場区画の入居者さまも利用でき、課金方式についても公平性が保たれ、運用面において課題が解決できたと考えています。

Q. EV充電器の設置に期待すること
まずは当社分譲マンションへの入居者さまが、将来においても利便性を欠くことなく生活できることを望んでいます。また、EVそのものの普及に貢献することで持続可能な社会の発展への一助となる事を目指しています。

Q. 今後EV充電器付きの新築マンションは増えると思いますか?
他社は分かりませんが、当社は社会情勢を見ながら、設置台数や仕組み、運用方法を検討していきます。
(Q&A ここまで)

まだ日本のEV普及率は低いものの、脱炭素社会実現やEVシフトを見据え、マンションのEV充電設備は重要、ということですね。

おそらく新築マンションへの入居者にもEVユーザーは少ないと思います。とはいえ、ニワトリが先か卵が先か? EV購入が先か駐車場の充電設備が先か? ってことなので、きっとグランクレア一宮に入居したことを契機として「駐車場で充電できるならEVにしよう」という方が出現してくるでしょう。より多くの方が自分でもEVを活用する時代になるほどに、充電設備も使いやすくなり、どんどんEVが便利な世の中になっていくのだと思います。

全国のマンションデベロッパーや管理会社のみなさま、ぜひますますのEV充電設備普及をお願いします。そしてユアスタンドのみなさん、ますますのご活躍を期待しています。さらに全国の自動車ユーザーのみなさん、日本でももっともっとEVを活用していきましょう!

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 全駐車枠に
    多台数対応デマンドコントロール機能搭載の機種選定という選択肢もあるでしょう。
    ただ、デマンドコントロールの場合契約容量は小さくできる(全枠に定格配置よりは小さくできる)
    エレベーターの動力電源の隙間活用が出来ればかなり追加の契約減らせる可能性も
    最大充電量が少なくなりすぎるリスクがあり、最大充電量は6kw対応が欲しい所。

    https://www.tepco.co.jp/press/release/2022/pdf1/220301j0101.pdf

    1. 七海(コテハン) さま、コメントありがとうございます。

      全区画設置でデマンドコントロールを採り入れた事例もいくつかご紹介しています。ご参照ください。

      https://blog.evsmart.net/charging-infrastructure/home-charging/case-study-12-retrofitting-all-condo-parking-spaces-with-electric-vehicle-charging-part-1/

      https://blog.evsmart.net/charging-infrastructure/home-charging/wecharge-installs-ev-chargers-in-saitama-city/

  2. 同じ中部電力管轄内在住の電気管理技術者として参考になりました。全部フル活用したとしても15kVA程度ですかね?だとしたら低圧別引込でも行けそうです。
    駐車場のEV充電器も容量の都合で15台以上はなかなか導入しづらいですが、ひとまず全区画の1割程度で進めて今後のことも考え3割まで増やせる余裕を見込んでおくのがポイントと感じました。
    今後共用部高圧受電式の集合住宅物件管理組合やデベロッパーからのオファーも考えてますんで該当担当物件の負荷測定を前向きに検討します。電灯変圧器だけでも測定できれば十分ですかね…さすがに中速充電器設置はないかもしれませんが。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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