東京ガスが電気自動車充電サービス『EVrest(イーブイレスト)』を開始〜集合住宅の充電設備普及を目指す

東京ガスが集合住宅や商業施設、宿泊施設などへの電気自動車用充電設備設置をサポートし、専用アプリによる課金も可能な『EVrest』と名付けたサービスを開始しました。まずは関東エリアから、3年間で1000台程度の設備導入を目指します。

東京ガスが電気自動車充電サービス『EVrest』を開始〜集合住宅での基礎充電設備普及を目指す

※冒頭写真は200V普通充電のイメージです。『EVrest』の充電スポットにこの看板の掲示はとくに必要ありません。

専用アプリで利用者個別の充電実績を管理

2021年11月8日、東京ガス株式会社が電気自動車(EV)充電サービス『EVrest(イーブイレスト)』のサービスを開始することを発表しました。

複数の充電設備(コンセント)への通電などを遠隔制御するユニットや、コンセントごとに割り当てられたQRコード、そして専用のスマホアプリを活用して、ユーザー個別の充電実績を管理。用意された料金メニューに応じた利用料金をユーザーに課金して、集合住宅の管理組合やオーナー、商業&宿泊施設などの設置者には、電気代相当分を払い戻す仕組みです。

充電を利用するEVユーザーが支払う料金は、月額無料の「Basic」から、月額8800円で320kWh相当まで定額で充電できる「Super Long」まで5段階が設定されています。

※価格はすべて税込。
※「kWh相当」は、充電時間と充電器の定格出⼒等から算出したものであり、実際にコンセントや充電器において計量器を使⽤して電⼒量を測定した「kWh」とは異なります。
※『EVrest』公式サイトから引用。クリックすると拡大します。

東京ガスのウェブサイトには『EVrest』のページもすでに公開されていました。サービスの対象としては「EVを所有している方・サービス利用を検討したい方」という個人から、「管理会社や管理組合の方、マンションに導入したい方」、そして「宿泊施設・商業施設等マンション以外の施設へ導入したい方」という3タイプ向けの説明が紹介されています。

ユビ電『WeCharge』のサービス基盤を活用

仕組みのイメージ。※『EVrest』公式サイトから引用。

いったい、どんな充電設備を設置して、どんなアプリで充電を管理するのか。東京ガスのプレスリリースには「ユビ電株式会社の電気自動車充電サービス『WeCharge(ウィーチャージ)』のシステム基盤を活用」することが紹介されていました。東京ガスとユビ電は、今年6月、「資本業務提携契約を締結し、電気自動車充電サービス事業を共同で推進していく」ことを発表していました。今回の『EVrest』は、その具体化の第一歩です。

ユビ電の『WeCharge』については、電気自動車の充電遠隔管理や認証課金を可能にするコントローラ『WeCharge HUB』を東光高岳と協業で開発したことを以前の記事で紹介しています。改めて確認してみると、サブスク方式の料金設定はまったく同じ。『EVrest』は、東京ガス版の『WeCharge』、とも理解できます。

電気自動車充電の利便性拡大を目指すスタートアップ企業であるユビ電だけでは、急速&大規模な普及拡大にはリソースが足りない、なんてこともあるのでしょうが、東京ガスが大企業のパワーで一気に普及拡大を目指す、ことになります。東京ガス広報部に電話で確認したところ「まずは関東エリアからサービスを開始して、3年で1000台程度の設備導入を目指す」とのこと。首都圏のマンション戸数は380万戸以上らしいので、集合住宅居住者の潜在的なEVニーズはもっと大規模でしょうから、日本国内でも大衆的なEVやPHEVの選択肢が増えれば、3年で1000台程度というのは少なすぎる目標になるかも知れません。

初期コストは1台あたり10〜20万円程度か

『EVrest』で設置するのは、基本的にEV用の200Vコンセントです。配電盤とコンセントとの間に充電の管理やアプリと通信して課金などを行う『WeCharge HUB』を設置する仕組みも、『WeCharge』と同様です。つまり、そうした機能がない普通のコンセントを設置するのに比べ、初期コストは当然高くなります。認証課金機能を備えた普通充電器は1台で数十万円はしますから、複数台設置することを思えばコストパフォーマンスがいいとはいえ、『WeCharge HUB』は、それなりになかなかの値段(ユビ電も東光高岳も公表していないようなので明言は避けますが)です。

設置場所の条件や設置台数によって初期費用は大きく変わるのであくまでも目安ではありますが、東京ガス広報部のご担当者のお話しでは「2〜4台程度の充電設備を設置する初期コストの総額は100〜200万円程度。補助金を活用できるので、1台当たりの初期コストは10〜20数万円程度と想定している」ということでした。

『EVrest』のサービスを利用するメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

【設置するまで】
●知識豊富なスタッフが最適な充電設備を提案してくれる。
●管理組合やオーナーとの交渉、調整をしてくれる。
●面倒な補助金の申請などもサポートしてくれる。

【利用開始後】
●利用者はアプリで手軽に認証&課金の充電サービスを利用できる。
●設置施設やマンションの管理者には『EVrest』から電気代が支払われる。

利用料は「電気代」よりは高くなる

サービスモデル。※『EVrest』公式サイトから引用。

戸建てなど、自分専用のコンセントに自分で契約した電気を流して充電すれば、日々の充電に掛かるのは電気代だけ。でも、『EVrest』の場合は、システムの利用料分を上乗せした料金をユーザーが支払って、設置者(集合住宅の管理組合や施設オーナーなど)は電気代が『EVrest』から支払われるのが大切なポイントです。

電気代よりもちょい高い「システム利用料」と言うべき料金は、いわゆる受益者負担として充電設備利用者が支払うことになります。言葉で説明するとややこしくなりそうなので、簡単な表にしておきます。

月額定額内支払い額超過料金
Basic0円
都度課金プラン
55円/kWh相当55円/kWh相当
Short1100円
30kWh相当まで定額
約37円/kWh相当49.5円/kWh相当
Middle2200円
70kWh相当まで定額
約31.4円/kWh相当44円/kWh相当
Long4400円
150kWh相当まで定額
約29.3円/kWh相当38.5円/kWh相当
Super Long8800円
310kWh相当まで定額
約28.4円/kWh相当33円/kWh相当

電気代は電力会社との契約によって異なりますが、一般的には「27円/kWh」程度が平均的な目安とされています。つまり、都度課金プランの場合で「55ー27=28円」、定額プランの場合、それぞれのkWh相当の料金から27円を引いた額が、システム利用料ということになります。

ちなみに、プランに加入した利用者は、『EVrest』の充電スポットとして登録されている充電設備であればどこでも利用可能とのこと。ということは、『WeCharge』のスポットでも利用できる? かと確認してみたら、一度は「今のところそれはできない」という回答だったのですが、記事公開後に電話をいただいて「利用できます!」とのことでした。商業施設や宿泊施設には『EVrest』ではない『WeCharge』のスポットが増えることも想定できます。幅広い事業者が設置する同じ『WeCharge』のシステムによる利便性の高い普通充電設備ネットワークが広がるのであれば、意義あることだと思います。
(※公開後に修正&追記しました)

EVsmartブログでは、集合住宅や宿泊施設などへの普通充電設備拡充が電気自動車普及に向けて重要な課題と捉え、積極的にいろんな情報を発信してきています。まず、東京ガスが『EVrest』のサービスを開始いたことには拍手を送り、設置拡大を応援したいと思います。

設置する集合住宅管理者や施設オーナーの立場で考えてみると、『EVrest』や『WeCharge』以外にも、認証課金や予約システムを備えた普通充電設備の販売や、設置、サポートなどにチャレンジするプレイヤーが日本でも着々と増えてきています。「目的地充電」や「自宅充電・マンション充電」のカテゴリーで、集合住宅のEV充電環境整備促進にチャレンジしているユアスタンドや、アプリで認証課金可能な普通充電器『Ella(エラ)』を発売したジゴワッツなど、さまざまな「選択肢」の情報を紹介していますから、検討の参考にしてください。

なにはともあれ、集合住宅の自宅充電や宿泊施設の目的地充電設備=普通充電器が、ますます拡充していくことを願っています。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. システム利用料が発生するのはわかりますが、集合住宅の場合料金設定の主導権はサービス提供側でなく管理組合側にあったほうがいいと思います。実際、そういう設定になっている競合他社もあります。管理組合では、住民ができるだけ安く利用できるように夜間料金・深夜料金にしたり、太陽光発電を活用したりする場合もあると思います。そういった場面にフレキシブルに対応したほうが普及は進むと思います。

  2. QRコードを読ませて充電開始するとの事ですが、終了はどうなるのでしょうか?満充電で終了するのか?ガンを外したりアプリ等で終了のアクションを行うのか?アイ・ミーブMのようにバッテリー容量が少ないと、充電しておかないと次の日使えない場合、3~4時間程度の充電だと夜遅く充電開始したら、満充電で課金終了でないと辛いかな。

    料金について、
    私はアイ・ミーブで10月は100kW弱を自宅充電して1,100kmほど走行しました。
    新電力の基本料0円、使うほど安くなるプランなので、kW単価が高めですがガソリンに比べればかなり安く済んでいます。
    200V普通充電時の効率は80%程度で、消費電力は120kW程度になると思われます。
    120kWをEVrestで充電するとMiddleとLongで料金は変わらず4,400円。自宅充電の場合25円/kWと考えると3,000円、深夜電力(中部電力)16円としても2,000円弱で、自宅充電用のコンセントなどの工事費を考えるとそんなに高くないですね。
    (表のMiddle 2,200円が 30kWまで定額となっていますが 70kWの間違いですね。)
    しかも、集合住宅や目的地充電をターゲットにして、使用率が高い場所への設置をすることで、東京ガス、利用者ともに価値のあるものになりそうですね。問題は、集合住宅に設置されて利用することを前提にEV購入したら、思いのほか利用者が多くて使えない、なんてことがあるかもという事でしょうか。

    1. 直之介さま、コメント&表内数値間違いのご指摘ありがとうございます。

      実際にアプリを使ったことがないので、類似アプリからの想像ですが。プラグを抜いても、アプリ操作でも終了できるかと思います。おそらく、そのあたりの利便はクリアしてローンチされている、だろうな、と。

      表内数値の間違い、コピペのしっぽ、でした。修正しました。

  3. 東京ガスでEVrestの事業に取り組んでいる多久と申します。この度は記事にして頂きありがとうございました。
    いつも拝見させて頂いているEVsmartさんの記事にして頂き大変光栄です。
    またもし疑問点等出てきましたら直接でも構いませんのでご連絡下さい。
    今後ともよろしくお願い致します。

    1. 多久俊平 さま、コメントありがとうございます。

      また、愛読いただいているとのこと、励みます!
      今後とも、導入事例などぜひ取材させていただければと思います。よろしくお願いいたします!

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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