日本最大級のEV充電スポット「Decarbo. Station」誕生の謎〜現地探訪レポート【後編】

広島県福山市郊外、田んぼの真ん中に出現した最大90kWのEV用急速充電器が3基(6口)並んだ充電スポット「Decarbo. Station」。すごい! でもなぜここに? という謎を解き明かすために現地を探訪。開設の動機や電気自動車普及への思いを伺いました。

日本最大級のEV充電スポット「Decarbo. Station」誕生の謎〜現地探訪レポート【後編】

広島ではなく東京でインタビュー

福山市内のステーションを取材しようと思い立ち、Xの「Decarbo.」アカウントにDMでオファーしたところ、「インタビューは東京で」と返信をいただき、6月上旬、品川駅近くのカフェで待ち合わせ。そこでインタビューできたのが、Decarbo. 株式会社代表取締役の村上慶伍さんでした。村上さんは、なんと薬学博士。普段東京の製薬会社で新薬の研究をしながら、Decarbo. 株式会社を経営しています。

EV充電ステーションを作った思い

なぜ薬学博士が会社を立ち上げ、こんなに規模の大きなEV充電ステーションを作ったのか。ますます謎は深まるばかりです。

そもそも、薬学とEV、全く関係のないミッションがなぜ結びつくのか。その理由は、村上さんの父の仕事が電気工事であることが発端でした。

「私が創薬研究の仕事を志したのも、社会に貢献したい思いが原点でした。とはいえ、研究の成果が社会に反映されるまでには10年単位の長い時間が掛かります。一代で電気工事の会社を興し、再エネ普及にも尽力する父の仕事と関わりつつ、日本社会全体の生活を変えるような何かを作りたいと考えて、EV普及に繋がる充電ステーションのアイデアに結びつきました」

EV普及に貢献したいという発案の理由は、再エネ普及や地球環境保全だけではありません。

「地球温暖化抑止はもちろんですが、EVと相性の良い自動運転の技術が発展すれば、人口が減少傾向にある地方でも交通インフラを維持することができます。EV×自動運転で、お年寄りの方が地方でも不自由なく病院に通える未来、薬を被災地や僻地に簡単に届けられる未来が来るかもしれません。
ところが、現実は想像する未来とはほど遠い。調べてみると、自分の出身地である広島県福山市は充電インフラが整っておらず、23万世帯が暮らす福山市に急速充電器は17基しかありませんでした。
また、現状の充電サービスにおけるビジネスモデルには収益性の点で課題がありました。そもそも、電力会社から買った電気で充電サービスを提供しても利益を出していくのは難しいんです。これでは、いつまで経っても充電インフラは整わないと感じました。それに加えて、火力発電の電気を使っている限りEVの二酸化炭素排出抑制にも限界があります。
こういった課題の解決策が、再生可能エネルギー×EV充電でした。電力会社から電気を購入するのではなく、太陽光を使って自社で発電した電力を使えば利益率を向上させることができます。太陽光なので勿論、発電時に二酸化炭素は排出されません。
現状の充電サービスを持続可能なビジネスモデルへと変革させて、充電インフラの整備が加速すれば、思い描いた理想的な未来もそんなに遠くはないはずです」

初期コストはいったいいくら掛かったのか?

そもそも、高出力(90kW超)のEV用急速充電器は本体だけでも1000万円級。受電設備などを合わせるとさらなる初期投資が必要です。それを3基、さらには60台分の月極駐車場を含めたソーラーカーポートや洗車機などを整備。このステーション建設に、いったいどのくらいのコストが必要なのか、うまく想像できません。

周辺では数年前に浸水(水位は数10センチほどだったとのこと)被害が発生したことがあり、災害時の避難拠点としても機能するように、ステーションの敷地は周囲より1mほど高く設計されています。

投資額は「単純に元を取るのは難しい」ほど大きかったものの、無謀な赤字覚悟だけで建設を進めたわけではありません。まず、Decarbo.株式会社ではこうした充電ステーションのネットワーク構築を事業展開することを構想しており、このDecarbo. Stationはショールーム的な役割をもっています。

また、国の補助金を有効活用。充電器設置に充電インフラ補助金を活用するのと併せ、経済産業省の事業再構築補助金に採択されて、数千万円という規模の補助金を得ることができたそうです。

eMP提携のままでは事業として成立しない

まだEV普及率が伸び悩む日本、まして地方都市にあるステーションで、稼働率を上げるのは簡単ではないでしょう。

なにより、「最初は充電器メーカーなどに勧められたこともありe-Mobility Power(eMP) と提携した認証課金方式を導入」したものの、「eMP提携で急速充電のサービスを提供しても、絶対に事業としては成立しない」ことを痛感したそうです。

eMPと提携すると、EVユーザーは自動車メーカーなどが発行するeMP連携の充電カードで認証課金が行えるので便利です。でも、充電器の設置事業者にeMPから支払われる提携料(一般提携)は、会員カードでの充電利用時間に応じて、急速充電器の場合は出力に関係なく15.4円/分、普通充電では2.2円/分(ともに税込)です。

Decarbo. Stationの充電器は最大出力90kWですから、仮に充電性能の高いEVが30分で35kWh充電できたとすると、収入として得られる充電料金=提携料は15.4円×30分=462円。つまり、13.2円/kWhにしかなりません。これでは、いかに太陽光発電を活用して電気代の原価を抑えても、利益を出して持続可能なビジネスにするのは困難です。

そもそも、eMPの一般提携の仕組みは、急速充電器の出力が25〜50kW程度(しかも25kW器が少なくなかった)で、バッテリー容量も小さな初期型日産リーフや三菱i-MiEVくらいしか市販EVがない頃に作られたもの。

今、eMPでは高出力器複数口設置を進め、従量課金(時間課金併用になる可能性が大きい)導入に向けて前進中であることは認識していますが、今のところ、充電器の設置事業者がeMPと提携して急速充電サービスをやろうとしてもビジネスにならないのは、致命的な課題というしかありません。

私の経験上、日本で一番広々とした急速充電スポットです。

Eneliverとの協業で独自課金を開始

こうした背景があったため、前編で紹介したようにEneliverというスタートアップ企業との協業に踏み切ったそうです。急速充電が99円/分、普通充電が77円/kWhという充電料金は、EVユーザーとして「ちょっと高いかな」とは感じますが、Eneliverのサービスも始まったばかりなので、まだ試行錯誤があるのだと思います。

Decarbo.株式会社では、Eneliverと協業して、このアプリを使ったEV充電器の導入&運用サービスを提供していく計画とのこと。充電料金などはさらなる進化を重ね、EVユーザー本位の仕組みになっていくことを期待したいと思います。

EVを知ってもらうための場所に

周辺の道路は「田んぼのあぜ道」って感じで、道幅も狭いのでご注意を。

Decarbo. Stationには、最新のドライブスルー洗車器が設置され、エンジン車のユーザーも使える場所になっています。その点について、充電だけではない収益を確保するため? と村上さんに質問してみました。

すると「それもありますが、今はまだEVを選択しない方もいるはずで、そういう方にも洗車しながら充電するEVを見ることで、まずはEVを知ってほしいんです。そして、5年後、10年後にその人たちがEVに買い換えてくれるといいな、と」という熱い思いを語ってくださいました。

お話を伺うほどに、Decarbo. Station、そして村上さんの思いを応援したい気持ちになります。

高速道路一時退出の無料化が全国に展開するにはまだ時間が掛かりそうですが……。EVsmartブログ読者のEVユーザーのみなさんも、山陽自動車道の福山サービスエリア(スマートインターチェンジがあります)を通りかかるチャンスがあれば、ぜひ一度、Decarbo. Stationで充電してみてくださいまし。

スマートICはすぐ近く。ただし、利用可能時間が6時〜22時なので要注意です。

料金設定のアップデートなど、続報あれば改めてお伝えしたいと思います。日本のEV普及を進めるために、がんばれ、Decarbo. Station! です。

【関連記事】
福山市の田んぼの真ん中に日本最大級のEV充電スポット出現〜現地探訪レポート【前編】(2027年7月16日)

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)3件

  1. テスラのように全額自費であればどこに充電器を設置しようが事業者の勝手ですが、大きな需要があると思えない辺境地に数千万円の補助金を得て建設した事に問題があるのではないでしょうか。

    設置事業者側に取材させてもらっている関係上難しいのは分かりますが、補助金の審査側にも何故これがまかり通るのか取材して欲しかったです。

    補助金をいくらばら撒いても一向に日本の充電環境は経路や目的地に設置されず使い物にならないわけです。

    急速充電が99円/分、普通充電が77円/kWhという料金も一体誰が使うのか理解できません。

    1. X さま、軽貨物 さま、コメントありがとうございます。

      まず「補助金で使われない充電器を増やすことへの懸念」はさまざまな記事でかねてお伝えしていて、私自身の思いでもあります。

      その上で、このデカルボステーションが採択された「数千万」の補助金は経産省の事業再構築補助金という制度のものであり、再生可能エネルギー×EV充電、さらには大容量定置型蓄電池という事業モデルへの期待が示されたものだと感じました。

      記事中にも書いたように、Decarbo.株式会社ではこのステーションをショールーム的に活用し、同様のスキームとサービスを拡げようというプランを進めていて、そこを応援したいと思っています。

      充電料金や、利用頻度への可能性などについても、お二方のご指摘の通りだと思いますし、取材時から村上さん父子にも忌憚なく意見をお伝えしています。

      地元の自動車販売店や諸団体との連携も模索されているようですが、日本社会で根強い「EVなんてダメ」という思い込みが壁となり、なかなか進展しないとも伺いました。

      なにはともあれ、国内自動車メーカーがEVシフトへの本気を発揮して、新車販売のシェアが20%くらいになってこないと、どんな充電インフラもなかなか採算が取れるようにはならないでしょう、ね。

      ひとつの記事であまりいろんなことをお伝えしようとしてもかえってわかりにくくなるので、今回記事では「eMP連携でも充電インフラの設置事業者がビジネスになるような仕組みができるといいな」という期待を主題としました。

      これからもご愛読いただき、ご意見いただけますようお願いします!

  2. eMPでは利益が出ない
    ということに関しては我々利用者としては心苦しい点もありますが、
    現状においては、複数の認証方式を契約することの方が非現実的です。
    そのうえであえて言わせてもらうのならば、この立地です。
    主要道から外れた所で田んぼの中。
    街灯もなく、舗装されてはいるものの道は細くてガードレールも無い。
    しかも気軽に使えるeMPの認証方式ではない。

    いくら儲けが出ないからといってこれでは利用しようとはなかなか思えません。
    経営する側として正しい判断なんでしょうか。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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