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eキャンターとはどんなEVトラックなのか
午前9時に筆者とEVsmartブログの寄本編集長が川崎市の三菱ふそうトラック・バス(MFTBC)の本社に集合した。筆者は『サクラ』、編集長は納車されたばかりの『KONA』での乗り入れだ。来客および従業員向けの駐車場には主だったメーカーの多種多様な車が確認できる。三菱ふそうはダイムラーグループなので、通勤にメルセデスを使っている人も少なくない。一般的な駐車場よりベンツ率が高い。
担当者に車両の操作や注意事項のレクチャーを受け、『eCanter(eキャンター)』に乗り込む。筆者は2015年あたりからeキャンターのプロトタイプや新型の試乗車を何度か運転した経験がある。だが、内装などはディーゼルエンジン車のものを流用していたりして、レバーやインパネの表示などが最終製品とは異なることがほとんどだった。したがって、市場に流通している車両を運転するのはこれが初めてだ。
といっても基本レイアウトは変わらない。大きく戸惑うことはなかったが、2点ほどどうしても慣れない点があった。ひとつはイグニッションスイッチだ。プロトタイプからハンドルコラムのスイッチをひねるタイプなのだが、もう10年くらいプッシュボタンの車を運転しているのでどうしてもダッシュボードやセンターコンソールのスイッチを探してしまう。まだまだ内燃機関が主流のトラックなので、イグニッションキー方式のスイッチのニーズが高いのかもしれない。
次に慣れなかった(というかもう少し運転して慣れる必要があった)のは、排気ブレーキ(補助ブレーキ)の代替となる回生ブレーキの調整レバーだ。かなり初期のプロトタイプでは一般的なトラックと同様にハンドルコラム左側のレバー方式だった(記憶が正しければ)。市販車はドライブセレクターと一体化していた。ATやEVのセレクターとしては一般的だが、自分の運転ポジションのせいかとっさの操作には少し遠いと感じた。
レバー式の回生ブレーキはうまく使えば排気ブレーキのようにフットブレーキなしでスムースな減速が可能だ。新型eキャンターの回生ブレーキは「B0」から「B3」まで4段階の切り替えが可能で、コースティング多用の電費重視運転から回生ブレーキを強く効かせる運転まで思うように制御できるのだが(実際、シフトダウン感覚で車速の制御ができる)、試乗の大半はB3(アクセルオフで最大の回生エネルギーで減速する)でワンペダルドライブに近い状態(eキャンターは完全停止しない)での運転だった。トラックとはいえEVなので、排気ブレーキはないものと思い、アクセルペダル(+回生ブレーキ)によるワンペダル操作とフットブレーキで運転するのが正解のようだ。担当者も、通常はB3での運転を推奨しているとのことだ。
走り出しで感じるのは、月並みだがやはりEVであることによる発進のしやすさ。ディーゼルエンジントラックでは、急こう配での発進以外1速はほとんど使わないが、それでも発進時のもたつき感はぬぐえない。eキャンターは軽いアクセル操作でなめらかに発進してくれる。積載で重いからとラフなアクセル操作をすると思いのほか急発進してしまうほどだ。感覚をつかめば、右折時の発進タイミングをはかるときのストレスを大幅に減らしてくれる。アクセル操作に瞬時に反応し発進がもたつくことはない。イメージ通りのタイミングで右折することができる。
SOCの数値を見やすいところに表示してほしい
最初の経由地(練馬のマルエツ)はナビに設定した。Googleマップでは首都高を使うルートを勧めてきたが、車載ナビは環状8号線を使うルートを示した。ここはルート配送トラックをイメージして下道優先でいくことにした。信号や一時停止が多い道では、回生ブレーキをうまく使うと疲れが少ない運転ができる。
さほど大きな渋滞もなく1時間半ほどで最初の目的地に到着する。ここまでの走行距離は約27km。バッテリーのSOC(バッテリー残量)はおそらく63%くらい。くらいというのは、eキャンターのインパネやコンソールの画面では走行中に走行可能距離は表示されるが、SOCの細かい数値までの表示はされないからだ。これは改善ポイントとして指摘しておきたい。
たしかに同じようなコースを走るだけなら、走行可能距離の表示だけあれば十分かもしれない。しかし、天候や道路状況により迂回する場合もある。EV運用に慣れたドライバーは、SOC表示と搭載バッテリーの容量、前後の電費から次の充電ポイントや走行可能距離、その充電ポイントでどれくらい充電すればいいかを計算することがある。今後、急速充電器に充電電力の従量課金が増えてくることも考えると、SOCで%単位、kWh単位の充電量を調整したいニーズは増えると思われる。SOCの数値表示はぜひ検討してほしい。
各ポイントでのデータを順に整理しておく。
【スタート】三菱ふそう本社駐車場
走行距離:0km
区間電費:–
SOC: 100%
走行可能距離表示:78km
【急速充電スポット①】東京都練馬区/マルエツ田柄店駐車場
走行距離:27.4km
区間電費:約1.86km/kWh(SOCと走行距離から推計)
到着時SOC:64%
走行可能距離表示:58km
充電用駐車マスとケーブルの位置に注意
ここではEV充電スポットの広さ、充電器の位置、操作性などの確認。出力を確認するために2分だけ急速充電を行った(1分でもよかったが撮影などをしていたら2分ほど経ってしまった)。
店舗が住宅街にあり、駐車場はそれほど広くない。したがってEV充電スポットも乗用車向けの普通のマスの一角に設けられている。マスに向かって左側に充電器が設置されており、右側は一般車の駐車マスだ。eキャンターの充電口は運転席側(右側)にあるからバックで駐車する必要がある。助手席側に充電ソケットがついている場合は頭から駐車することになるだろう。
今回借りたトラックは標準ボディー(全幅約2m・全長約5m)なので、となりに駐車車両があった状態で充電区画に収めることができた。セミロングボディ以上、ワイドキャブの場合はおそらく駐車できなかっただろう。バックモニターはとても役立った。ただし、借り物なので寄本編集長に誘導をお願いした。充電口側に充電器が位置していたので、ケーブルの取り回しで苦労することもなかった。
設置されている充電器はデルタ電子の50kW器だった。SOC 64%の状態で接続直後の出力は約47kW(充電器表示)と表示された。電圧が300V~400V(eキャンターのバッテリー総電圧スペックは348V)とすると、充電器スペックの最大電流である125Aは出ていたと推測できる好結果だ。充電時間は2分ほどで、SOCは68%まで回復した。+4%、約2.2kWh(充電器表示)充電されたことになる。走行可能距離は、到着時の58kmから63kmに増えた。
コンビニは停めやすかったがもう少し出力がほしい
コンビニエンスストアの急速充電器は20~30kW機が多いが、設置店舗が増えつつありマイカーのサクラで利用する機会も多い。次の経由地は日野市内のコンビニエンスストアだ。都内のスーパーよりはEV充電区画は広く、誘導なしでも停めやすかった。
郊外のコンビニなら標準ボディのトラックの充電の難易度はそれほど高くないといえる。乗用車向けのスペースから離れたところにあれば、ワイド・ロングボディ(全幅約2.2m全長約6m)でも駐車は不可能ではないはずだ。
【急速充電スポット②】東京都日野市/セブンイレブン日野市日野台2丁目店駐車場
走行距離:62.4km(前スポットから約35km)
区間電費:約2.51km/kWh(SOCと走行距離から推計)
到着時SOC:34%
走行可能距離表示:33km
練馬から約35km移動してSOCは34%となった。次に予定しているスポットまでは20kmほどしかないので、ここでも充電は出力確認程度とした。バッテリー残量としてはここで充電をしてもよかったのだが、残量がより減った状態からの急速充電性能も見たかったので、最後の経由地で30分充電をすることを選択した。
セブンイレブンでは3分少々の接続(少し買い物をしてお手洗いを借りたら時間が経ってしまった)で、0.9kWh(充電器表示)を充電。SOCは36%走行可能距離表示は37kmまで回復した。
充電器の最大出力は20kWで開始直後の充電出力は360V×47A(=16.9kW)だった。充電器の出力を考えれば妥当だが、eキャンターの場合、充電器出力が50kW以上あるスポットで充電すると効率がよいことが実感できた。最近はコンビニでも90kWなど高出力な充電器への更新や設置が進んでいる。トラック充電に限らず、最低でも50kW以上、できれば90kW以上の急速充電インフラがさらに拡充されることを期待したい。
SSは充電スポットとしても有効
最後の中継地は神奈川県相模原市内のコスモ石油SS(サービスステーション)だ。多種多様、多くのクルマが出入りするSSということもあって、小型トラックでも入りやすく、充電器周辺のスペースにも余裕がある。ただし、計量機や洗車機などSSによって広さや配置は一定ではないので、バックの切り返し、進入方法などには注意が必要だ。SSでの充電は、思ったより便利で使いやすいことがわかった。
日本でもエネオスやコスモ石油などのSSにEV用急速充電器が設置され始めている。コンビニやカフェなどが併設のSSも増えており、休憩や軽食、簡単な整備などを考えるとSSと充電スタンドの併設は商用EVユーザーにとっては朗報といえる。
【急速充電スポット③】神奈川県相模原市/コスモ石油セルフステーション田名SS
走行距離:80.1km(前スポットから約17.7km)
区間電費:約2.40km/kWh(SOCと走行距離から推計)
到着時SOC:18%
走行可能距離表示:17km
最後の中継地点では30分のフル充電を行った。充電器の最大出力は50kWで開始時の出力は45kWだった。SOCは73%まで回復した。充電電力量は表示されない充電器だったがSOCから推計すると約22.6kWhの充電量となる。走行可能距離は76km。残りの行程は約40kmなので、十分な残量といえるだろう。
ここと最初に充電したマルエツは50kW器。マルエツではSOCが60%台からの充電スタートで45~46kWが出ていた。コスモ石油SSの50kW器は東光高岳製の国内に多く普及している機種で、eキャンターはここでも最大出力45kWと、安定した受け入れ性能を見せてくれた。欲を言えば、残量が10%台からならもう少しもっと高出力で充電できると効率がいいとも感じるが、車両の耐用年数やバッテリーのライフサイクルコストを優先させるためと思えば納得がいく。
ゴールまでは流れに乗った運転で電費アップ
川崎市内のMFTBC本社へゴール時のデータは以下の通り。
【ゴール】三菱ふそう本社駐車場
走行距離:126.2km(前スポットから約46.1km)
区間電費:約2.96km/kWh(SOCと走行距離から推計)
到着時SOC:約35%(充電量推移グラフから推定)
走行可能距離:37km
全行程は126kmほど。その間、空調は22~23度設定で常時オンとしていた(外気温は15〜20度くらいで暖かい日だった)。スタートから最初のスーパーマーケットまではAUTO設定ではなく手動設定だった。途中から空調(ヒーター)は温度設定のみのAUTOで運用した。電費の違いを細かく調べていないが、運転した感覚ではAUTO設定のほうが電費が良い。
回生ブレーキの切り替えも高速やバイパスなどを利用するときはB0(コースティング可能)をうまく使えば電費を伸ばす工夫はできそうだったが、一般道ではB3の設定でむしろ流れに乗る走りを心掛けたほうがよい。今回の行程の前半は川崎から練馬(環状八号線)という比較的アベレージ速度が出にくい道路だ。この区間では区間電費が出発時の値より悪くなった。その後、郊外では40~60km/hで流れに乗る走りになったところ、メーターに表示される区間電費が2.5km/kWhから2.8km/kWh近くにあがり、最後の区間電費では3km/kWh台に達した(各スポットのデータで示したSOCからの推計値とは微妙に異なる)。
では、EVトラックの経路充電はどうだっただろうか。結論として幅2m程度、全長5m以内ならば、コンビニやガソリンスタンドの充電スポットの利用は可能だ。満充電からの航続距離が70〜80kmくらいでも、途中に1か所経路充電をするところがあれば、1日100~120kmくらいの移動は可能ということも見えてきた。だが、前編で紹介したように、乗用車並みに自由に急速充電スポットを使えるわけではない点に注意は必要だ。
小型EVトラックはディーゼルエンジン車に比べて格段に運転が楽だった。一度EVトラックを体験したドライバーは、エンジンに戻るのが苦になることだろう。課題は充電環境だ。トラックに限らずEV運用の基本は基礎充電ではあるが、EVトラック(バスも含めた大型車)の経路充電についての環境整備を関係各機関がきちんと考えるべき時期にきていることが実感できた。
取材・文/中尾 真二
この車を借りるにはどうすればよいですか?
eCANTERを乗ることは流石に無いと思いますが興味深いテーマでした。
キャンピングカーのベースになる可能性が高いだけに充電環境を知っておく必要はあるでしょうから。
それにしても
SOC値に対する各メーカーの感覚が「わかってないなぁ」と思っています。
ekクロスEVを何度か借りて乗りました。
表示されるバッテリー容量値はSOC値では無いのですが、無いよりははるかに役立ちました。
走行可能距離表示は相変わらずですが。