高出力複数口に加えて予約可能な利便性
2024年10月12日、株式会社パワーエックス(PowerX)が東京都江東区の「livedoor URBAN SPORTS PARK(正式名称:有明アーバンスポーツパーク)」の有料駐車場内に、最大150kW×2口(2台同時充電時は最大120kW×2口)の超急速充電器「Hypercharger(ハイパーチャージャー)」を2基4口設置して運用を開始。10月15日にプレス向けの内覧会が開催されたので現地を訪問してきました。
パワーエックスのハイパーチャージャーについては、EVsmartブログで何度も紹介(関連記事アーカイブ)しています。358kWhの大容量蓄電池と2口の充電器がセットで1基。1口のみの充電では最大150kW(10分間のブーストモード)、2台のEVが2口同時充電する場合でも各120kW、合計240kWで充電することができる超高出力&複数口の急速充電器です。
大容量バッテリーに蓄えた電気で充電するため、系統電力からは50kW未満の低圧受電で運用できます。受電設備の初期コストや、一定期間内の最大利用電力量で決まる「デマンド基本料金」を抑えられる特長があり、太陽光発電など再生可能エネルギーによる発電と組み合わせることも可能。最新モデルの「Hypercharger Pro」にはバッテリーからの給電機能があり、非常時の電源や再エネ電力活用ツールとしての付加価値を備えています。
EVユーザーにとっての魅力は、なんといってもまずは高出力であること。システム電圧が400V基準のEVの場合、150kWのブースト時には最大350A、2台同時充電などで120kWとなっても最大300A程度での高出力充電が可能なので、受電能力が高いEV車種であれば30分で40kWh以上を充電できるはず。日産サクラのように急速充電の受電性能が低い(サクラは最大30kW)場合でも、従量課金制を導入しているため納得感高く利用することができます。
また、複数口設置がデフォルトであることに加えて、専用アプリを通じた完全予約制となっており、余計な充電待ちに遭遇してしまうリスクを排除。ハイパーチャージャーの充電ステーションは、最近では最大250kWかつ4基以上の設置が標準で圧倒的な利便性を誇るテスラ「スーパーチャージャー」にも匹敵する、日本版の超便利な急速充電ステーションのネットワークを構築しつつあります。
15日に訪問した現地では、パワーエックスが用意したEVへの充電デモを見る(撮影する)だけでしたが、私自身、別のステーションのハイパーチャージャーは何度も使い、その便利さは先刻承知。今までのステーションでは1基2口設置のところがほとんどだったので、2基4口、ことにシルバーに輝く電源部ユニット(蓄電池)が2つ立ち並んでいる様子は壮観でした。
現在、パワーエックスでは日本国内で同社がパブリックに設置して稼働中のステーションで、当面の間、充電料金を無料とする「Try! PowerX」キャンペーンを実施中。このキャンペーンは「年内にも終了する」とアナウンスされていますが、今のところ新たに設置された有明アーバンスポーツパークのステーションでの充電も無料で提供されています。周辺にはタワマンもいっぱいでした。居住者の方で「EV買ったけど基礎充電場所で放浪中」という方には、格好の基礎充電代替ステーションとなるでしょう。ぜひ一度体感してみることをオススメします。
パワーエックスアプリ(充電器)の使い方
公式サイト
電池メーカーであるパワーエックスの強みとは?
内覧会に先駆けて、パワーエックスCEOである伊藤正裕氏から「日本の現状と蓄電池の可能性」と題したプレゼンテーションがありました。日本でのEV普及促進を願うひとりとしてポンと膝を打ちたくなる内容でした。なかでも、とくに多くの読者にお伝えしておきたいと感じたポイントを紹介します。
脱炭素社会実現には再エネ電力活用とEVが大事
まず強調されたのが、日本の脱炭素社会実現のために「電力」と「運輸=自動車」のCO2削減が必須であることです。電力の脱炭素化、すなわち再生可能エネルギー発電のさらなる活用を進めるためにも、調整力としての蓄電能力が不可欠であり、2040年に向けておよそ358GWh、2050年には841GWh規模の蓄電池が必要になるという試算を紹介。2050年カーボンゼロへの目標である2030年度に-46%(2013年度比)を達成するためにも、大容量蓄電池を活用して再生可能エネルギー発電を増やす必要があることが説明されました。
パワーエックスがEV充電に挑む理由
パワーエックスは大容量蓄電池の国産メーカーです。なぜ、電池メーカーがEV急速充電事業をやるのか。その理由も、蓄電池の有効活用であることが説明されました。たとえば、出力150kWの急速充電器4口を運用するために、普通の急速充電器であれば「150kW×4口=600kW」の電源を用意しなければなりません。でも、50kW未満の電源で1基2口を運用できるハイパーチャージャーであれば、100kW程度の電源で4口の超急速充電器を使うことができます。
伊藤CEOは、600kWの電力というのが岡山県玉野市にあるパワーエックスの工場並み(仮に8口で1.2MWだと高層ビル並み!)であることを例示。蓄電池を有効活用したハイパーチャージャーが、日本国内に高出力EV充電インフラ整備を進めるために有効であることが強調されました。
電池やEVの価格はまだまだ下がるはず
パワーエックスはリチウムイオン電池のセルを調達して国内工場で蓄電池や充電器を組み立てて販売しています。セルの調達価格は事業が本格スタートした2023年1月と比較しても「3分の1程度まで安くなっている」とのこと。伊藤CEOは、安くなった電池セルを使ったバッテリーがEV用の認証を取得して開発が進むので、数年後には同車格の「EVとPHEVの価格は同等になる」という見込みを紹介。
「今後、EVは日本でも必ず普及し、充電ネットワークが必要となる。そのときのために、パワーエックスはユーザー本位の、使われる充電ネットワークの構築を進めていく」という決意を改めて強調したのでした。
以前から、「超急速充電へのニーズを見極めながら、予約可能であるなど高付加価値の充電サービスを確立したい」や「設置場所を選ぶポイントは、一等地であることです」といった伊藤CEOのビジョンや言葉には共感して賛辞を贈ってきました。今回の「使われる充電ネットワークの構築を進めていく」という決意の言葉にも100%賛同して応援したいと思います。
日本のEV充電インフラが、ますます便利&健全に進化することを願っています!
取材・文/寄本 好則