テスラモデル3でフラッシュのNACS充電を使ってみた〜実際の出力や料金は?

テスラモデル3の最新モデル、通称「ハイランド」のロングレンジで、NACS対応したテンフィールズファクトリーの急速充電器「FLASH」を使用するために埼玉から名古屋方面に往復約900kmの弾丸遠征。ハイランドのEV性能、そしてチャデモアダプターなしで超急速充電ができたのかなどをレポートします。

テスラモデル3ハイランドでフラッシュのNACS充電を使ってみた〜実際の出力や料金は?

NACS対応の超急速充電器が日本初登場

まず、今回の弾丸遠征はNACS対応したテンフィールズファクトリーの急速充電器「FLASH」での充電とともに、モデル3の最新モデル「ハイランド」のEV性能を確認することも大きな目的でした。私自身のYouTubeチャンネルで、モデル3はアメリカ製の2019年パフォーマンス、21年スタンダードレンジプラスとロングレンジ、2022年RWDとロングレンジという、5台の長距離テストを行っています。中でも私自身、2021年スタンダードレンジプラスを所有していたため、そのモデル3の進化という観点でも注目していました。

恒例の航続距離テスト、充電スピードテスト、1000kmチャレンジを無事に完了。ちなみに高速道路を時速100kmで巡航する航続距離テストでは560km、時速120kmで巡航するハイスピードテストでは453kmを達成。また1000kmチャレンジでは史上最速となる9時間39分を記録しました。

そして今回、テスラスーパーチャージャーでしか超急速充電を行えないというテスラ車の弱点を克服できるかもしれない、NACS(North American Charging Standard)規格の充電プラグが搭載されている急速充電器「FLASH(フラッシュ)」が設置されたことを受けて、その充電性能や使い勝手、充電料金をレポートするために、NACS対応のFLASHが設置されている岐阜県中津川市へ遠征することにしたのです。

改めて説明しておくと、FLASHはテンフィールズファクトリー株式会社のEV用急速充電器で、最大出力(定格)は180kW。当初はチャデモ規格のケーブル1口のみの仕様でしたが、NACSに対応したケーブル搭載モデルを追加して、導入を始めています。

NACS対応のケーブルを備えた公共の超急速充電器が設置されるのは日本で初めてのケース。同社公式サイトの設置場所マップで確認すると、現在のところ全国で約50カ所、そのうち次の5カ所にNACSケーブル搭載のFLASHが設置されています。

●スーパーセンターオークワ 中津川店
岐阜県中津川市茄子川1701-1
●オークワ春日井店
愛知県春日井市熊野町1564番地
●名古屋マルタマフーズ横
愛知県名古屋市中川区下之一色町波花
●新車市場 蒲郡形原店
愛知県岡崎市日名西町4番14
●オークワ三雲店
三重県松坂市小舟江町95-1

もちろん、モデル3の市街地走行も含めたリアルワールドの走行性能を確認することも重要なミッションなので、急速充電や休憩などを行なった場所で、区間ごとに分けながら、走行&充電セッションもレポートします。

①さいたま市街→八王子IC経由→双葉SA
・走行距離:137km
・消費電力量:70%→40%
・平均電費:163Wh/km(6.14km/kWh)
・外気温平均:26℃~25℃

双葉SAにはeMPの6台同時充電可能な青いマルチが設置されています。

②双葉SA→中津川市街「FLASH」
・走行距離:174km
・消費電力量:51%→10%
・平均電費:173Wh/km(5.78km/kWh)
・外気温平均:26℃~30℃

ディスプレイが機能せず中津川FLASHでの充電は断念

双葉SAで仮眠と10分程度の充電を挟んだのち、中央道経由でFLASHが設置されている中津川市街に到着しました。

まず、さいたま市街から八王子ICまで下道42kmを走行したのですが、その区間の電費が135Wh/km(7.41km/kWh)と、電費走行を全く気にしない私の運転としては、極めて優れた数値を記録。航続距離テストでの高速巡航だけではなく、ストップアンドゴーを繰り返す市街地走行でもハイランドの高い効率性が見て取れます。

また、双葉SAでは仮眠を取っただけではなく、青いマルチで10分程度の急速充電を行っています。これは中津川のFLASHでの急速充電の開始SOCをその他の充電セッションと合わせるため(10%程度からの充電スタート)に調整したためです。

ところが、今回の遠征における主目的であった中津川のFLASHで充電を開始しようとしたところ、ディスプレイ表示が異常になっていて(充電開始のボタンなどが表示されていなかった)充電できないという事態に遭遇してしまったのです。

ディスプレイにはタイマーのような数字が表示されているだけで操作はできませんでした。

カスタマーサポートに電話して車内で待機、担当者から折り返しの連絡があったのは約45分後のこと。残念ながら遠隔で充電器を使用可能にすることはできないと判明し、中津川でのFLASHを使用は断念することになりました。

FLASHでは予期せぬトラブルで充電できなかったものの、SOCはすでに10%を切っているので充電は必要です。幸い、中津川市街には複数の急速充電器が存在。数キロ離れたファミリーマート内には新電元製90kW級急速充電器もありました(チャデモアダプターを使ったテスラでは最大50kWですけど)。ここは中津川ICと目と鼻の先であり、経路充電としても利便性が高いです。やはり急速充電器とコンビニは相性が良いことを実感させられます。

さて、どうしたものかと思案しつつ、中津川から40kmほど北上した飯田市街を散策。信州そばや馬刺し、蕎麦がき揚げ、いとうやの和菓子などを堪能。土日にも関わらず街全体の客足が鈍いように見えたのは40℃越えの猛暑が理由でしょうか。

愛知県春日井市のFLASHまで足を伸ばしてみた

美味しいそばでひと息ついて。流石に、はるばる中津川まで来てFLASHを使用せずに帰るのはもったいないので、最も近隣、かつNACSプラグを設置している愛知県春日井市のFLASH充電器まで足を伸ばしました。標高が下がるので電費性能は非常に優れており、特に外気温が最高で40℃という灼熱の環境下であったことを考慮すると、モデル3のエネルギーマネージメント全体の効率性の高さも見て取れます。

③飯田市街→春日井市街「FLASH」
・走行距離:119km
・平均電費:128Wh/km(7.81km/kWh)
・外気温平均:40℃~36℃

春日井市街、オークワ春日井店のFLASHは無事に使うことができました。簡潔に使い勝手などを紹介しておきましょう。まず、充電レディ状態となっているとこのような画面が表示されます。

すっかり夜になって(充電したのは20時前後)しまいましたが、充電器は24時間利用可能なので大丈夫。チャデモ規格のプラグとともにNACS規格のプラグも装備するデュアルガンシステム。ただし、2台同時充電はできません。

充電プラグ全体の形状はスーパーチャージャーよりも明らかに太く、充電ケーブルも空冷式のため重く取り回しは悪いです。特にケーブルマネージメントも採用していないため、eMPが設置するABB製の150kW急速充電器と同等の取り回しというイメージです。

充電残量50%の段階で充電器側の表示で103.7kWを記録。250Aの上限の電流値を発揮できている様子を確認できました。FLASHは最大出力180kWとされていますが、定格の最大電流は250Aで、電圧720Vで180kWを想定。現在は450V制限があるため、最大出力は理論値でも112.5kWとなっています。

また、30分ルールなどはないもののSOC90%までの充電に制限しています。90%を越えた急速充電は速度が遅くなり効率が落ちるので、従量課金を導入する充電器では一定の合理性があると思います。さらに、充電セッション終了後3分経過しても充電料金が決済されないと、自動的に100円/分の超過料金が発生。充電放置問題にも対応。利用における会員制度なども存在せず、クレジットカードやQRコード決済で利用することが可能です。

中津川と同じく24時間365日開放。スーパーマーケットの駐車場内に立地しており、営業時間中であればアメニティも利用可能。

FLASHのNACSで充電してみた感想は

FLASHの充電テストを終えて、さいたま市街に戻ってきました。1000kmチャレンジにおいて新東名における電費性能は把握済みのため、今回はあえて国道1号線経由で下道走行することに。とくに電費走行はせず、流れの早い深夜の国道1号線を走行し、電費は123Wh/kmと、WLTC Class 2におけるカタログスペック級の効率性を叩き出しました。

④春日井市街→さいたま市街(国道1号線経由、全ルート下道)
・走行距離:399km
・平均電費:123Wh/km(8.13km/kWh)
・外気温平均:36℃~30℃

また、今回の飯田・愛知遠征885kmトータルの平均電費も143Wh/km(6.99km/kWh)と、猛暑を考慮すると、市販EVとして最高レベルで効率性の高いEVであることが、カタログスペックだけではなく、リアルワールドにおける検証結果からも見て取れるでしょう。

そして、今回の遠征の主目的でもあったFLASH急速充電器について、特に気になる充電性能と充電料金についてを改めてまとめます。

この表は、今まで私が行った充電検証の結果一覧です。モデル3ハイランドは左端の欄。少しわかりづらいですが、FLASHのNACSプラグを使用した今回、SOC10〜80%の所要時間は41分、出力はSOC52%の段階で101kWを記録しました。他方、最大250kWを発揮可能なV3スーパーチャージャーでは、SOC10〜80%の充電時間は33.5分、最大223kWを記録しています。

FLASHのNACSでは、スーパーチャージャーV3に比べて確かに7.5分充電時間が長くなるものの、次のような利点を確認することができました。

●1回30分の充電時間制限がない
●24時間365日利用可能
●スーパーマーケットの敷地内に位置しており、アメニティ利用や買い物が可能。
●従量課金なので、充電料金に対する納得度が高い。
●モデル3(ハイランド)との相性問題は確認されず、充電性能も規定通り発揮されていた。

これらの点で、充電性能自体に大きな不満は生まれないのではないかと感じました。ただし、NACSはテスラ車の規格をベースにしていますが、2020年10月以前に生産されたモデルS、X、3ではFLASHのNACSプラグは使用不可。アダプターを使ってチャデモ規格で充電(最大50kW)する必要があることには要注意。テンフィールズファクトリーでも公式サイトで注意喚起しています。

一方で、気になった点もあります。

●中津川の立地は悪くないものの、春日井をはじめとして、立地が国道やインターからやや離れていたり、住宅街のスーパーに設置しているなど、経路充電としての利便性が低い充電ステーションが存在する。
●充電コネクター、プラグの取り回しが悪い。
●今回でいえば、中津川において充電できず、遠隔での復旧もできなかった。

この3点については、ユーザーとしてもマイナス評価せざるを得ません。その上、急速充電器設置に対しては補助金が入っていることから、これらの懸念点によって充電器の稼働率が低く留まってしまう場合、使われない充電器に補助金が使われるという意味で、納税者という観点からも懸念するべき点になり得るでしょう。

ただし、テンフィールズファクトリー社によれば、「今後設置する際の立地」「充電ケーブルの液冷化など、取り回しの改善」という2点の問題解決に、すでに着手しているとのことで、今後の最新動向にも期待したいとは感じました。

また、ユーザーとしては気になる充電料金について、このグラフはSOC 8-90%における充電料金を比較したものです。このグラフを見ての通り、SOCのどの段階でも、テスラV3スーパーチャージャーと同じような料金設定であることが見て取れます。ただし、現在FLASHの料金単価66円/kWhは期間限定の単価であり、通常の88円/kWhに戻ると、SOC90%の段階で約6160円となり、V3スーパーチャージャーよりもかなりの割高になる点にも留意したいところです。

いずれにしても、今回のFLASH急速充電器のNACS充電検証では、チャデモアダプターを使用せずに100kW級の急速充電が可能となり、課金システムの合理性なども含めて、テスラユーザーとしても非常に期待できる充電器であると確認できました。

今回の検証によって判明した問題点である、充電ケーブルの取り回し、充電器の使用不可問題などについて、今後テンフィールズファクトリー社がどれほど改善してくるのかに期待したいのと同時に、やはり超急速充電器の立地問題については、改めて考える必要があります。設置に補助金も使われていることから、今後はより厳しい制約を課すこと、実際の充電器の利用実態の公表、その利用実態も含めた補助金返還の制度策定までも視野に入れるべきだとも感じます。

そしてモデル3ハイランドについて、やはりリアルワールドにおけるEV性能が極めて高いことも明らかになったと思います。確かに、一部で言われている乗り心地の改善については、個人的に2022年モデル以前のレガシーと大差はないと感じます。

とはいえ、静粛性については大幅に改善されており、音響システムについても17スピーカーシステムにブラッシュアップされたことで、ドイツプレミアムEVを凌ぐ完成度を実現。さらにインテリアの質感についても、手に触れる部分はほぼ全てソフトマテリアルを採用しており、ここもドイツプレミアムEVを超えているとさえ感じます。

この完成度を誇るEVが531.3万円、補助金を含めると400万円台で買えると考えると、プレミアムEVとしても、コスパEVとしてもベンチマークであることは間違いありません。

取材・文/髙橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル

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