河口湖畔の「旅の駅」が出力50kWのEV用急速充電器を2基設置した理由とは?

2022年6月にオープンした山梨県河口湖町の『旅の駅 kawaguchiko base』では、最大出力50kWの電気自動車用急速充電器を2基設置して、7月から利用が開始されています。認証課金は「エコQ電」のみ。はたして、民間施設に50kW器を複数台設置、エコQ電認証での運用を決めた理由は何なのか。お話しを伺いました。

河口湖畔の「旅の駅」が出力50kWのEV用急速充電器を2基設置した理由とは?

平日なのに大盛況! 魅力的な複合施設でした

旅の駅 kawaguchiko base』(以下、旅の駅)は、富士山麓&河口湖畔の山梨県河口湖町にオープンした立ち寄りスポットです。地域の特産などを集めたショップのほか、レストランやカフェ、山梨県下のワイナリーご自慢のワインを集めたワインコーナーが充実しているだけでなく、隣接した敷地には自前のワイナリーまで併設されています。

ことに、EVsmartブログとして注目したのが、この施設には最大出力50kWの急速充電器が2基設置されたことです。さらに、認証課金は日本の公共充電インフラでおなじみのe-Mobility Power(eMP)ネットワークのソリューションではなく、eMPネットワークの課金ベンダーのひとつでもある「エコQ電」(株式会社エネゲート)のシステムを採用していることでした。

EVユーザーの方であればご存じのように、道の駅やコンビニといった一般道沿線の施設に設置されている急速充電器は、最大出力が20〜30kWと非力な、いわゆる「中速充電器」が多いのが現状です。高出力の機器そのものが高価であり、50kW以上の高圧受電には受電設備の設置が必要になるなど初期コストが増大すること。また、50kW器2基が同時に稼働するとおおむね100kWの電力消費が発生し、最大消費電力によって決まる1年間の基本料金が高額になる、といったあたりが、中速充電器が多く設置されたおもな理由です。

また、eMPネットワークと提携すると、充電器の利用時間に応じた提携料が設置者に支払われますが、提携料の額に出力は関係ありません。つまり、高出力の急速充電器を設置すると、電気代などは増えるにもかかわらず入ってくる提携料は同じなので、設置者の負担が増大するという一面もあるのです。

はたして、旅の駅がこのような急速充電器を設置した理由は何か。8月末、せっかくなので富士スバルラインでの回生ブレーキ検証取材を併せて、河口湖へ行ってきました。ちなみに、訪問したのは8月29日の月曜日。平日にも関わらず、旅の駅は大盛況で驚きました。スバルラインを走った後、同行した安川さんと旅の駅のレストランでランチを食べたのですが、「Grill USHIOKU」のハンバーグ、抜群に美味しかったです。後で調べてみたら、甲府市内の老舗精肉店「うし奥」が手掛けたレストランとのこと。なるほど、美味しさにも納得です。

山梨県産ワインの品揃えが充実!

最近は「道の駅」でも地場特産の野菜などを集めたショップが人気だったりします。ご承知のように、道の駅は国交省に登録された施設で自治体なども絡んだ第3セクター的な運営がされていることが多いです。地産地消に軸を置くコンセプトは似ていますが、ここは完全な民営施設。施設そのもののデザインや品揃えなど、より洗練されてスタイリッシュな印象でした。

EVで東京あたりから遊びに行くにもちょうどいい距離だし、またチャンスを見つけて遊びに行ってみたいと思います。

これぞ!という地場産品にオリジナルパッケージを施した限定商品もいろいろ並んでいました。

アートディレクターの勧めで急速充電器を設置

さて、50kW器を2基も設置したのはなぜなのか。また、eMPネットワークではなくエコQ電を選んだのはなぜなんでしょうか。お話しを伺ったのは、旅の駅 kawaguchiko base を実現させた株式会社大伴リゾート代表取締役の伴一訓さんです。

伴一訓社長と奥さまの公子さん。

なにはともあれ「社長もEVに乗ってらっしゃる?」と尋ねると、意外にも答えはNOでした。急速充電器を設置したのは、旅の駅のコンセプト作りから関わったアートディレクターの川上シュンさんの勧めがあったから、ということでした。私はまだ面識はありませんが、川上さんはメルセデス・ベンツEQCのオーナーで、MBJが展開している「Mercedes-Benz LIVE!」というウェブマガジンにインタビュー記事が紹介されていました。旅の駅の駐車場が全面アスファルト舗装ではなく、芝生やアンツーカーが敷かれ随所に植栽がされているのも「5年後、10年後には森のような(植栽が成長して)施設に」という川上さんのアイデアを実現したということでした。

さらに「道の駅には中速充電器が1基だけというケースが多いのに、なぜ50kW器を2基も?」と尋ねてみると、とくに社長ご自身のこだわりがあったわけではなく、「建築をお願いした早野組というゼネコンの設計担当者である新田昭彦さんの提案を採り入れた」とのこと。認証課金システムをエコQ電にしたのも、同様に新田さんの提案でした。

とすれば、この新田さんがEV充電事情に明るく、熱い思いがあったのか。後日、新田さんに電話で確認してみました。

すると、新田さんもEVユーザーではなく、とくにEVに詳しいわけではないというお返事。伴社長から「急速充電器を設置したい」という要望を受けた新田さん。50kW器を2基と提案したのは「いろいろとネットで調べて、利用するユーザーのためには高出力のほうがいい、そして充電待ちなどのトラブルが起きにくいよう、複数台設置するほうがいいとわかったから」とのこと。

また、エコQ電認証としたのは、「いろいろ調べて東光高岳の急速充電器を設置することに決め、課金システムは必要と判断し、東光高岳のご担当者から紹介されたいくつかの課金システムの中から選んだのがエコQ電だった」という経緯でした。

さらに、東光高岳のEVインフラ推進室に電話で確認してみると、東光高岳の急速充電器が対応している課金システムである、eMPネットワークとエコQ電、smart oasis(BIPROGY ※旧日本ユニシス)を紹介し、今回はお客様(設置者である旅の駅)がエコQ電を選択した、ことになるようです。

単独課金ベンダー対応の急速充電器

実は、取材をオファーしつつ「EVに詳しい誰かが思いを込めて2基&エコQ電を選択」というストーリーを想像していたのですが、実際はそうではありませんでした。むしろ、EVや充電インフラにさほど詳しくはない、つまり先入観のない設計の新田さんが急速充電器設置(初めてだったそうです)のオーダーを受けて念入りに調べた結果、東光高岳の、50kW(高出力)器を、複数台設置、そして、課金システムには利用料金を設置者が決められるエコQ電を選択したのです。

ちなみに、充電器設置には経産省の補助金も使っていないとのこと。民間施設が、EVユーザーの利便と、設置者としての運用を考えると「高出力器複数台設置で単独課金ベンダー」という選択になったというのが、これはこれで興味深い事例だと感じます。

ただし、単独課金ベンダー対応(今回ケースではエコQ電)とした場合、自動車メーカーなどが発行するeMPネットワーク提携の充電カードでは認証できない、つまり利用することができません。充電スポット検索アプリ『EVsmart』の施設紹介ページにも「いつもの充電カードで使えなかった」という口コミ投稿が寄せられています。

エコQ電認証の充電器を利用するには、専用の会員カードを発行してもらうこともできますが、公式のスマホアプリをダウンロードして、あらかじめ会員登録しておくのが便利です。

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旅の駅の急速充電器利用料金は、5分以内150円、以降1分ごとに30円(税込)となっています。私はすでにエコQ電アプリをインストールして会員登録もしていたので、サクッと使おうと思ったら……。以前使用したのが数年前で、登録したクレジットカードの有効期限が切れており、更新する数分間を浪費してしまいましたけど。

さすが50kW器。セグ欠け30kWhリーフは、SOC19%から30分間の充電でかっちり100%まで充電することができました。私の場合、まだZESP2カードが使えているので、eMPネットワーク認証であれば急速充電は無料なのですが、900円で81%(推定電力量約20kWh)もしっかり急速充電できればことさら不満はありません。それよりも、ちゃんと50kW出力の急速充電器が複数台設置されている利便性をありがたく思います。

先日、ベルエナジーのクレジットカード決済方式の充電設備を紹介したように、今後、普通充電を含めたEV充電インフラの課金認証方式はさらに多様化していく可能性が高いと思われます。もちろん、eMPネットワークの充電インフラの理想的な拡充が進めばそれはそれで良いことですが、旅の駅のエコQ電認証採用で高出力複数台設置は、あっぱれ! と評価したいユニークな事例です。

とはいえ、新設されたばかりの旅の駅の急速充電器に利用方法の案内がされていないことは気になりました。少なくとも、エコQ電認証でeMPネットワークの充電カードでは利用できないこと。そして、エコQ電アプリをダウンロードするためのQRコードの案内くらいはわかりやすく掲示したほうがベターである、ということは、伴社長にも進言させていただきました。

あ、あと、旅の駅の充電器は補助金なども使っていない独自設置の設備であり、おなじみの「EV QUICK」の青い標識などはありません。急速充電器は駐車場を入って左、ショップ入口の正面に設置されています。敷地に入ってすぐの店舗脇に充電ステーション案内の看板がありますが、川上さん監修のデザインされた矢印(←)が、初見では矢印なのかな? って感じで、私は少し戸惑いました。ご注意ください。でも、青い標識出してよ、ってことではなく、店舗全体で統一されたデザインはとても良いと思います。

伴社長に伺うと、7月10日ごろから利用開始となった2基の充電器、取材時までの約50日間で利用回数は70回、28時間とのことでした。9時〜17時の施設営業時間のみ利用可能とはいえ、ショップなどの大盛況ぶりを思うと、もっとたくさんのEVユーザーが訪れて、充電しててもいいように感じます。きっと「使えない!」と諦めた方が多いのではないでしょうか。

そういえば、河口湖町内に設置されている公設の急速充電器4カ所が、機器更新のために使用停止になっています。EVユーザー読者のみなさん、「ZESPが使えないんじゃ利用しない」なんてこと言わず、サステナブルを実践する施設の趣旨、そして複数台の50kW器を設置してくれた伴社長の思いを応援するためにも、旅の駅 kawaguchiko base の急速充電器をどしどし利用しようじゃないですか! と思うのでした。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)8件

  1. 会費無しで30分900円ならzesp3より良いかもしれませんね。
    しかし、なぜクレジットカードで直接決済できないのか謎です。
    GSで「給油の前にアプリを入れてください」などと言われたら他へ行ってしまうのではないでしょうか?ユーザー目線が足りない気がします。

  2. 出先で充電を殆どしないのZESPを持たないリーフ乗りです。
    保険の為に基本料の掛からないエコQ電カードは持っているので、これは良い情報でした。
    日産ディーラなどでは30分1500円掛かる事を考えると、料金設定もお得です。
    それにしても19%から30分で100%まで充電出来る30リーフ恐るべし。
    私の24リーフだと50%超えたあたりから速度低下著しいので無理です。
    と言うか、速度低下してからの充電は料金の無駄なので30分は利用せず15分くらいで止めます。

    1. 24と40は充電遅いですね 30と62は充電速度早いのですが夏場はバッテリー温度が結構上がります アリヤやサクラの水冷のレポートが欲しいとこですね

  3. 出先での充電については、CHAdeMOは、たまにしか使わないので、ゲスト充電が簡単な、エコQ電の方が有りがたいです。
    旧象さんマークの方は、カード番号を入力する必要が有るなど、ゲスト充電に不親切と感じてます。

  4. 最近のEVの高性能化(150kW急速充電対応)や大容量化(60〜80kWh)を考えると、
    50kWという急速充電器では少々物足りないです。せめて90kW、欲をいえば150kWの急速充電器が普及しないと、ガソリン車からEVへの乗り換えは一気に進まないと思います。EVでの長距離移動(500〜1000km)を考えている方は、独自の高出力急速充電インフラ(最大250kW)を整備しているテスラ車しか現状では選択肢は無い様に思います。私は年数回の往復2000km程度の国内旅行にはガソリン車を用いています。しかし普段は自宅充電の軽EV(10.5kWh)を愛用しています。ガソリン車は長距離移動以外は極力利用しない事で、EVライフを楽しむ様にしています。

  5. 近くのセブンイレブンに、ABB のEV急速充電器『Terra DC』と思われるeMPネットワークの充電器が設置されました。
    50kW器2台設置より、こちらのほうが設置費用安いのではないだろうか?
    因みに、出力表示は1、2とも56kwでした。

  6. 良い施設の紹介を有難うございました。
    日産の充電カードが使えないのは残念ですが,優れた充電設備があるのは有難いです。
    今後はきちんとした課金システムの充電器が 全国に普及して,設置者にとってもペイする形になるといいですね。
    その場合は通常のクレジットカードでサクッと認証できて充電できると有難いです。
    リーフ乗り始めた頃,まだ日産カードが届く前で,出先で色々とスマホでクレジットカードを登録したものの,結局うまくいかなくて諦めたことがありました。
    その時は,三菱のカードを持っていたので,やむを得ずそれで認証して帰宅したことがありました。(もう時効かな?)
    あまり色々な課金システムが乱立すると混乱するような気がしますので,その点が改善されると有難いです。

  7. 電気技術者として電気料金を推測すると高圧1kWあたり17.5円とすれば20kWhで350円。900円の約4割だから設備費や基本料金の回収に充てるのなら分からなくもないです。逆にeMPに加盟せず補助金も使わなかったところに意義があるのかもしれませんね。投資金額や維持費を回収できなきゃ長期存続は無理、SDGs視点で見ればやむなし。
    ただ補助金なしで自発的にEV充電器を設置する事業主が現れたことがこのトピックの肝だと思います。普通充電器もこの方式で設置する事業主が出てくると踏んでますが。
    駐車場などもコインタイマー式EV充電コンセントが出てきてもおかしくはないです。自身電気技師としてその提案も怠らぬよう研鑽します。ただコインタイマーだと硬貨回収の手間がかかるんでエコQ電など従来の課金システムも存在意義があるはずですが!

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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