東京都が設置した公道上のEV用急速充電器を使ってみた〜工夫はいいけど方法には疑問

東京都が都内の公道上に電気自動車用急速充電器を設置する社会実験を始めています。6月22日、3カ所目となる信濃町駅近くの充電器が運用開始されたので、3月から稼働している芝公園、代官山とともに使い勝手などを現地で確認。東京都のご担当者にも話を伺いました。はたして、公道上の急速充電器設置を拡大するべきなのか。充電しながら考えてみました。

東京都が設置した公道上のEV用急速充電器を使ってみた〜工夫はいいけど方法には疑問

3カ所目の信濃町はEV充電専用区画を設置

2023年6月22日、東京都が設置する3カ所目の「公道上の急速充電器」が運用開始されました。場所は外苑東通り(南向き)の信濃町駅の少し先です。公道へのEV用急速充電器設置は、国土交通省の「令和4年度 道路に関する新たな取り組みの現地実証実験(社会実験)」として東京都が行っているもので、すでに3月24日から、芝公園近くの都道301号線(祝田橋方面向き)と、代官山の旧山手通り(神泉町方面向き)のパーキングチケット駐車区画に設置された2基の急速充電器運用が始まっています。

3月に始まった先行2カ所もまだ使ったことがなかったので、6月23日の金曜日、今回運用が開始された信濃町とともに、3カ所の「公道急速充電器」の使い勝手などを確認するため現地へ行ってみました。まずは、3カ所の様子を紹介します。

信濃町駅近くの急速充電器。

設置されている急速充電器は3カ所ともe-mobility Power(eMP)が設置した東光高岳製の最大50kW器です。

充電器本体に認証器が付いているタイプで、eMP連携の充電カード(私は今月末で解約する日産ZESP2を使いました)で認証してケーブルを接続。液晶に表示されるスタートボタンをプッシュすれば充電が開始されます。充電中の電圧や電流値(出力)は表示されません。

充電カードがない場合、充電器本体に貼られたステッカーのQRコードをスマートフォンでスキャンして、ビジター利用することも可能です。

今年12月までのZESP2を解約してZESP3の3年契約に乗り替えました。3年後、充電カードの制度はどうなっているのでしょうか。

芝公園付近

まず、3月24日に運用が開始された2カ所から。1カ所目は「芝公園付近」です。赤羽橋の五叉路を祝田橋方面へ。イワタニの水素ステーションを左手に見ながら北上してすぐの場所に設置されています。

近くにコンビニなどのお店はありません。東京タワーから下りてくる一方通行の少し先にある「もみじ谷」という公園に公衆トイレがあります。

この芝公園付近と、次に紹介する代官山付近はパーキングチケット駐車区画のひとつに急速充電器が設置されていますから、充電器を利用する際はパーキングチケットを購入して「駐車のついでに充電する」ことになります。充電器の設定は「1回最大30分」ですが、パーキングチケットは1時間。道路使用の建前からすると駐車区画のルールが優先されるので、お替わり充電OKということですね。

代官山付近

代官山は、代官山交番前から神泉町方面へ向かう旧山手通りに設置されています。デンマーク大使館のすぐ前です。訪れる前はもっと西郷山公園側の静かめな場所にあるのかと思ったら、テスラのスーパーチャージャーが設置された蔦屋書店や代官山のランドマークとして知られるヒルサイドテラスのすぐ近く。まさに、代官山のど真ん中に位置しています。

蔦屋書店にはコンビニもありますし、とても便利な場所だけに、週末などはエンジン車が駐車してしまうケースが多くなりそうです。パーキングチケット駐車区画には「EV対応」と表記されていますが、EV専用ではありません。空いていればエンジン車のドライバーも配慮して別の区画を利用してくれるかも知れないですが、ここしか空いてなかったら遠慮なく停める(もちろん無問題)ことでしょう。

信濃町駅付近

3カ所目が、今回新たに設置された信濃町駅付近。外苑東通りを四谷三丁目から青山一丁目に向かう途中、信濃町駅を過ぎてすぐのバス停の先に、ここだけは「EV充電専用区画」として設置されました。

信濃町駅までは100mほど。駅あたりにはカフェやコンビニもある便利な立地です。ただし、ここはEV充電専用区画なので利用時間は充電器利用の原則である「1回最大30分」です。充電終了後もクルマに戻らず長時間放置する、なんてことがないように留意しましょう。

公共用の急速充電器1000基設置に向けた社会実験

現地取材に先駆けて、今回の社会実験を所管する東京都産業労働局のZEV推進担当課長である坂井彰洋さんにお話しを伺いました。

まず、公道上に急速充電器を設置する社会実験を始めた理由は「東京都が掲げている2050年にCO2排出を実質ゼロにする『ゼロエミッション東京』の目標を達成する」ための具体的なアクションであるということです。ゼロエミッション実現にとって電気自動車をはじめとするZEVの普及は重要であり、東京都ではEV普及に向けて「公共用の急速充電器1000基設置(民間設置のものを含めて)」という具体的な目標を設定しています。

「ことに都心部では充電器を設置する場所の制約が多く、公道上にも設置できるのではないかというご意見をいただいていました。横浜市が実施した青葉区などの公道上の急速充電器や、海外での事例などを参考に検討を進めてきて、今年度から実施したという経緯です」(坂井課長)

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公道での急速充電器設置については、交通管理者である警視庁や道路管理者(今回事例は都道なので東京都建設局)などと調整を進め、スムーズかつ安全に利用できるよう、さまざまな工夫を試みているということでした。

具体的には、まず、パーキングチケット駐車区画を利用する芝公園と代官山では、路面に「EV対応」という文字が表記されています。エンジン車も利用可能な駐車区画なので「専用」といった表記はできず、「対応」という言葉選びに知恵を絞ったそうです。

さらに、車道や歩道に充電器のケーブルがはみ出してしまうことがないように、充電器本体に付いていた充電コネクタのホルダーを取り外し、ケーブルが伸び切る位置にポールを立ててホルダーを設置しています。ちなみに、ケーブルは高速道路SAPAなどに比べてやや短め。EQS SUVなど車体右側に充電口がある大型の車種では「届かない!」ケースがあるかも知れません(計測や検証はしてませんが)。

また、急速給電口が車道側(右)にある場合などに備えて、注意喚起のための枠を通常のパーキングチケット駐車区画よりも少し広めに取ってあります。

これなら、SUVタイプの車幅が広いEVでも安心、などと車道側にはみ出すようなことはせず、安全のためには駐車区画のできるだけ左に寄せて停めるように注意してください。

今回の社会実験は、国土交通省の「令和4年度 道路に関する新たな取り組みの現地実証実験」として実施するものなので、期間は今年度いっぱい(2024年3月末)で終了します。とはいえ、せっかく設置した急速充電器は東京都が目標として掲げている「公共用急速充電器1000基」の一部でもあると考えられており、延長を視野に入れた検討を進めていきたいということでした。

また、すでに3カ所が稼働を始めたわけですが、当面はさらなる公道上の急速充電器設置を具体的に検討している場所はないそうです。

お台場などに「EV充電パラダイス」を希望します!

この日、マイカーリーフのバッテリー残量が30%を切っていたので、3カ所の公道充電器を巡って5〜10分程度ずつ充電しながら「はたして、公道の急速充電器は本当に必要だろうか」という点について考えてみました。

結論としては「いろいろ工夫して設置していただいたのはうれしいけれど、東京の急速充電インフラとしてこれ以上拡充すべきスタイルではない」と思います。

理由は「経路充電スポットとしてあてにならない」ということに集約できます。各スポットに設置されている充電器は1基1口のみ。しかも、芝公園と代官山の駐車区画にはエンジン車が駐車することもできます。急速充電器は基本的にバッテリー残量が減った時の注ぎ足し充電を行うためのオーナーにとって緊急避難的な設備です。減っていく航続可能距離やSOCを睨みつつ充電器に辿り着いても「充電できない!」時のストレスは大きく、経路充電スポットとして積極的に選びたいとは思えません。

都心なので周辺には集合住宅も多く、基礎充電代替施設として利用するEVユーザーがいるかも知れないですが、それはこうした公共用急速充電器を拡げるよりも、集合住宅駐車場や月極駐車場への普通充電器設置を促進したほうがより便利であることは言うまでもありません。

今年2月に訪れたベルリンでも、路上の駐車区画に停めて充電しているEVをたくさん目にしました。とはいえ、設置されているのは普通充電器でした。駐車時間の制限など詳しいことはきちんと調べてないですが、路上駐車がある程度容認されているからこその「基礎充電設備」になっているのだと思います。

公道以外でも、1口だけで「使えない可能性が高い」急速充電器をぱらぱらと設置していくのは、あまり賢明な方法ではないということです。以前、東京ビッグサイト駐車場の急速充電器で、駐車場の係員に場所を聞きながらなんとか辿り着いたものの、元電源が切られていて使えなかったことがありました。稼働率が低いことも要因となって、きちんと運用されていないのでしょう。もったいないことだと思います。

愚痴を並べていても先に進めません。では、東京都が掲げる「急速充電器1000基」に向けて、どのような充電スポットを増やして欲しいのか、具体的に考えておきたいと思います。

そもそも、東京は他府県からクルマで訪れる人が多い場所でもあります。経路充電スポットとして、公共用の急速充電器が増えること自体はとても素晴らしいこと。ただし、EV普及が本格化するであろうこれからの時代、急速充電スポットは「複数台設置」であることが絶対条件になっていくべきです。そして、できれば最大90kW以上の高出力が望ましい。

たとえば、東京ビッグサイトの一画に、90kW器が4〜6基ほど並んだ「東京版CHAdeMOスーパーチャージャー」を設置するのはどうでしょう。お台場海浜公園とかでもいいと思います。

つまり、他府県からの来訪者を含めて、多くの人が訪れる場所で、東京都(もしくは区や国)が設置場所を案分できるスポットを選んで高出力器複数台設置を進めていくということですね。

浜松SA(上り線)のマルチプラグ器。これからはこういう景色が増えて欲しいと願います。

Googleマップを眺めつつ、たとえば代々木公園や神宮外苑、駒沢公園、上野公園などに公営の「EV充電パラダイス」が設置されたらいいのになぁ、と夢想してしまいました。6基づつ30カ所に設置したとしても合計で180基。1000基よりはかなり少ないですが、ぱらぱらと1基ずつ1000基あるより、便利で利用価値の高い充電ネットワークになると思います。

追記(2023年6月28日):代々木公園や駒沢オリンピック公園の駐車場には東京都による急速充電器設置がすでに進んでいます。

今回の公道急速充電器のように、東京都(場合によっては国や区と連携して)が場所を用意して、急速充電器の設置や運営はeMPをはじめとする民間に任せてもいいでしょう。急速充電器設置についても、エネオスやパワーX、プラゴなど、多彩なプレイヤーが増えてきています。より広い場所が確保できるなら、テスラスーパーチャージャーが併設されても素敵です。

そもそも、いかに大都市東京とはいえ、経路充電施設である急速充電器が1000基も必要なんだろうかという点は、ぜひ市販EVのバッテリー容量などの現状を改めて確認しつつ検討いただければと感じます。

というのは、私の個人的な意見ですが。

東京都が設置した公道上の急速充電スポットでは、利用者がQRコードを読み込んで回答するアンケートがありました。利用する機会があれば、より多くのEVユーザーさんのいろんな意見を届けていただければと思います。

日本の充電インフラが、便利に進化することを願います!

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)6件

  1. 素晴らしい試みですが。
    なぜこの時代の東京で、初代リーフがテストに使われているのでしょうか?田舎ならたまに走っていますが、東京では見たことがありませんよね? どうして最新の大きなバッテリーを積んだEVを使わない?頭の中が初代リーフで止まっている訳ではないでしょう?アンチのように。

  2. 見るからに、自転車の実質的な走行ラインにかぶさっており、自転車乗りからすると公道上にこんなものを設置するのは危険なのでやめてほしいですね。
    邪魔と書くと語弊がありますが、後ろから猛スピードで何トンもある金属の塊に追い越される身にもなって欲しいですね。
    〜こうやって車道に車を駐車するから、自転車は歩道を走るんです。〜
    そもそも2t近い金属の塊である巷のEVを増やしたところで、ゼロエミッションが(道路上はともかく)地球上で達成可能なわけはなく、自動車の小型化を促す方向に行政は舵を切った方がよいでしょう。
    23区は2車線ある箇所は1車線を電動自転車・電動バイク・電動軽自動車の専用レーンにすればいいですね。充電施設は、道路上につくるのはやめてください。危ないですから。
    子供や孫に言えますか? 走る自動車とこの充電施設の間を走れと。
    なんか、クルマのことしか考えてないね。

    そもそも持続可能な地球のことを考えている顔で2t近い車に乗るのはやめましょうよ。

  3. 都心のパーキングメーターは60分制限のものが多いので、併設される充電器は急速ということになるのでしょうね。
    「60分の間にほぼ満タンになればいい」と考えれば出力も小さめでいいし、そのぶん数を増やしてもらって「たいていの路Pエリアには充電器がある」ということになれば街へ出かけるのが楽しくなると思います。EV天国ですね・・
    25kW器あたりも見直されるかも知れません。

    1. hatusetudenn さま、いつもコメントありがとうございます。

      ご指摘の点。記事中でも少し触れていますが。

      >たいていの路Pエリアには充電器がある
      道路管理者などとの調整の課題もあり、あらゆるパーキングメーター区画に、というのは実現困難かと思われます。

      >60分の間にほぼ満タンになればいい
      今回の3カ所に設置されているQC器は、eMPの通常規定通り1回最大30分の設定になっています。道義上、おかわりして1時間はOKと解釈できますが、一度戻って再認証が必要です。

      いろいろと、前進してくれるといいですね。

  4. chademoスーパーチャージャー素晴らしいですね。
    ただしテスラのように戻ってこなくても課金されないシステムはまずいですよね。
    100%超えても課金され続けるとか、なにか対策してもらえると良いですね。

  5. 公営スーパーチャージャーステーションのアイデアは面白いですね。200kw機を2機、12口くらい並べてくれたらEVの世界感が変わりそうですね。もちろんガソリン車が停車できないようにするのが大前提。
    ただ、30分の利用制限は短すぎるので、60分か、無制限(充電終了後も課金継続)で謎の30分縛りはそろそろやめてもらいたいところです。
     

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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