三原則に盛り込まれた「充電事業の自立化・高度化」
2030年に向けて電気自動車(EV)の充電インフラを進展させるために経済産業省が策定した「充電インフラ整備促進に向けた指針」では、「ユーザーの利便性向上」「充電事業の自立化・高度化」「社会全体の負担の軽減」という三原則が示されました。このうち、今回は「充電事業の自立化・高度化」のためのポイントを考えます。
私たちの会社で展開している「EV充電エネチェンジ」をはじめ、EV用の充電サービスは数年後以降のEV普及率拡大を見据えた事業です。充電器の設置に必要な機器代金や工事費は先行投資。充電料金から一定の利益を得るビジネスモデルではありますが、先行投資を回収するには相応の稼働率で充電器を使っていただくことが必要です。
2023年、充電可能なプラグイン車(BEVとPHEV)の新車販売における月次シェアは3~4%程度で推移してきました。2020年ごろは1%に満たない月も多かったので増加傾向にはありますが、まだまだ、本格的なEV普及のプロローグといった段階です。したがって、充電設備に先行投資する充電サービス事業は、国の充電インフラ補助金がなければ成立させるのは困難であるのが現状でもあります。
とはいえ、EV普及に向けて充電インフラの拡充は必須であり、そのために充電サービス事業者は大きな役割を担っています。国は指針の原則に「充電事業の自立化・高度化」を挙げ、補助金による支援を行ってくれています。だからこそ、補助金を活用して事業を推進する充電サービス事業者は、自らの責任を明確化して果たしていくことが重要だと考えています。
どのような責任を果たすべきなのか。端的に挙げていきましょう。
充電サービス事業者が果たすべき責任とは
①充電時間を増やすための取り組み
「EV充電エネチェンジ」でおもに設置している出力6kWの普通充電器の場合、採算ラインとなる充電利用時間は1日2時間程度、月に50~60時間程度と見積もっています。稼働率では8~10%程度、たとえば宿泊施設に設置して一晩で10時間充電されるとしたら、月間5~6泊分は利用していただくことが必要ということになります。
充電事業が自立し進展していくために、充電サービス事業者には設置した充電器の利用時間を増やす責任を自覚しておかなければいけません。どのような場所に充電器を設置するとより多くのEVユーザーに利用してもらえるのか。適切に運用されているか。メンテナンスは十分か。アプリなどの認証課金システムは使いやすいか。充電スポット検索などの情報提供ができているか。などなど、常に留意して不断のアップデートを行っていくことが大切です。
ちなみに「EV充電エネチェンジ」の場合、充電スポット検索サービスも提供している専用アプリにユーザーがコメントを投稿できる機能を設け、日々寄せられる利用者のコメントをEV充電に関わるスタッフが共有し、改善すべき点があれば迅速に対応するよう徹底しています。また、「エネチェンジEVサポーターズ」というキャンペーンを実施して、EVユーザーとのパートナーシップを深めつつ、充電スポット情報の充実を目指しているのは、先日発表した通り(関連記事)です。
②利用可能時間の下限設定とその遵守
次に、利用可能時間の下限を設定して、それを遵守する責任です。つまり、故障などで充電器が使えない時間を減らすため、迅速な修理を行ったり、十分なメンテナンスを施すことが重要であるということです。
かつての補助制度で設置され、老朽化した充電器が放置されたり撤去されている課題は前回記事でも指摘しました。また、今後の補助金で新たに設置する充電器でも、採算が合わないからと十分なメンテナンスや修理が行われなくなってしまう可能性があります。せっかく補助金を使って設置した充電器が、行ってみると使えないのでは、指針の三原則である「ユーザーの利便性向上」を損ねることでもあります。
EV用充電器の国際通信規格であるOCPP(Open Charge Point Protocol)に対応した充電器であれば、稼働状況などを遠隔で監視したり制御することが可能です。「EV充電エネチェンジ」ではすべてOCPP対応の充電器を設置して、利用可能率(1日24時間に対して)を99.9%以上とするよう社内に徹底しています。
補助金を活用して充電サービスを行う事業者には、自社設備の利用可能率を公表するように求め、一定の利用可能率下限を下回るような場合には改善を義務付ける制度を検討するべきと考えます。
③完成工事率の基準を下回らない補助事業の履行
一般のEVユーザーにはあまり知られていないことですが、充電インフラ補助金には「完成工事率」という課題があります。現在の補助金の制度では、申請をして交付決定の承認を得て工事に着手、設置工事完了後の「実績報告」(1月末が期限)に基づいて最終的な金額が決定し補助金が交付される流れになっています。ところが、交付が決定していても、工事完了が実績報告の期限に間に合わず補助金が使われないケースがあるのです。つまり、せっかく確保されていた充電インフラ整備のための補助金が、実際には使われないまま、充電インフラの拡充に結びつかないことになります。
交付決定していながら使われなかった金額は公表されていませんが、65億円の予算が組まれた令和3年度(補正予算)のケースでもかなりの額に上ったという話を伝え聞いたこともあります。ENECHANGEをはじめとする多くの充電サービス事業者が参入した令和5年度(4年度補正を含む)の充電インフラ補助金は175億円の予算が組まれ交付件数も増大しているので(次年度は予算額がさらに倍増)、さらに多くの「使われない補助金」が生じる懸念があります。
期限までに工事が完了しないことには、さまざまな要因があります。1月末という期限に向けて設置工事が集中することによるリソース不足、雪国など気候条件による工事の遅延など、企業努力だけでは解決や対策が困難なケースもあって、ENECHANGEとしても今年度の完成工事率を高めるべく、一丸となり力を尽くしました。
とはいえ、血税である補助金を有効に活用し、適切なEV充電インフラ拡充を実現していくためには、一定の完成工事率の基準を設け、充電サービス事業者にはその基準を下回ることがない設置事業の履行を果たす責任があると考えています。あまりにも完成工事率が低い事業者には、次年度の補助金申請件数などに制限を課すような制度を検討する必要があるかも知れません。
今回は、EVユーザーとしての視点ではなく、充電サービス事業者のトップとして自ら警醒すべきポイントを挙げました。とはいえ、充電サービス事業者が適切にその責任を果たすのは、指針の大原則でもある「ユーザーの利便性向上」を実現していくことに繋がります。これからも、常にEVユーザーの利便向上を目指し、充電サービス事業の発展に取り組んでいく覚悟です。
連載/EV充電へのビジョン
【01】2030年の日本に必要なEV充電インフラの口数と出力は?(2023年10月30日)
【02】急速充電器は「必要な場所」を優先して設置を進めるべき(2023年11月14日)
【03】普通充電設備のリプレイスを合理的に進めるために(2023年12月7日)
提言者/城口 洋平(ENECHANGE株式会社代表取締役CEO)
近くの充電施設が、急速充電器(20kwクラス)からエネチェンジ3台に変わってしまいました。おそらく20kw程度の充電器では利用率が低かったのだと思います。しかも動力の基本料金は高く、普通充電器であれば電灯契約で対応できるので、基本料金も安く済むこともあると思います。日本では50kwを超える電力を受電するにはキュービクルが必要だったりで、出力の大きい充電器は設置コストや維持コストが高額になり、なかなか大変かと思います。EVの普及には充電器の設置台数が要ではありますが、グリッド側にもなんらかの対応が必要な気が致します。
電気管理技術者として、仰せの事は察しがつきます。
道の駅に多い新電元30kW機が電灯200V受電であり普通急速連系タイプもあるなど、同社の体制が如何に優れていたかの裏返しにもなる訳で。
急速充電器の普及が遅れる理由に、50kW以上だと高圧受電キュービクルが必要になり電気主任技術者の定期点検義務があるほか、電気ケーブルの不足欠乏も理由になります。万一今の状態でパンクしたら急速充電器ばかりかビル工場も稼働ができなくなり社会問題にもなりますよ!?
原因は大阪万博・半導体工場・ソーラー発電所などの建設による需要ひっ迫、能登半島の停電がなかなか解決しない問題も含めて結局は政府自民の怠慢でしょ…周囲の電気技師が口々に言うから間違いあるまい!!(爆)
「EV充電エネチェンジ」は努力されていると思うのですが、専用アプリに未登録の充電器を登録してもらうため、昨年末から2箇所を申請したのですが、いまだに登録されません。「迅速に対応するよう徹底」されていながらも登録数が増えているからか人員が不足しているからか、処理が追いつかないのかもしれません。