車両の日程が余ったので能登半島遠征を決断
まず、私自身のYouTubeチャンネルで、アリアはB6 Limited、B9 e-4ORCE Limited、そして今回と、3台の長距離テストを行っています。2回目は1月の冬に検証を行なっているので、今回は夏場における長距離テストとなりました。
恒例の航続距離テスト、充電スピードテスト、1000kmチャレンジを無事に完了。ところがたまたま車両の借用日程が余ってしまい、それなら、通常の検証ではあまり確認対象としていない、高速道路上以外の充電インフラの実態を把握するために、北陸へ弾丸遠征しようと思った次第です。北陸をチョイスしたのは、EVオーナーであるチャンネル視聴者さんからの希望が多かったこと、そして被災した能登の状況をこの目で確かめたかったからです。
急速充電や休憩などを行った場所で区間ごとに分けながら、走行&充電をレポートします。
① さいたま市街→長野日産自動車本社
・走行距離:207.8km
・消費電力量:80%→9%
・平均電費:270Wh/km(3.7km/kWh)
・外気温平均:27℃~22℃
1回目の充電スポットは長野市街の日産ディーラーです。ここは長野市内を縦断する国道117号線沿いに位置しており、何と言っても、信越地方では数少ない公共の150kW級超急速充電器が設置されています。
石川能登方面に向かうだけであれば、わざわざ長野で降りる必要はないと感じるかもしれませんが……、
●東部湯の丸SA以降、高速道路SAPAには90kW以上の充電器が存在しない。
●アリアB9の150kW級での充電セッションを記録しなければならない。
●長野から白馬経由で糸魚川に抜けるルートも悪くない。
といった点から、長野→白馬→糸魚川→石川能登ルートをチョイスしました。
電費が大きく悪化している理由は、150kW器でSOC10-80%の充電セッションを記録するためにあえて巡航速度を上げて走行したことと、長野までは全体として上り勾配のルートであったという2点が要因と考えられます。
前述のように、すでに高速道路を時速100kmで巡航する「航続距離テスト」を行って、実質的な一充電航続距離は「434km」という結果(関連動画)が出たことはお伝えしておきます。
そして注目の充電セッションですが、最大115kWまで徐々に出力アップしたものの、結果としては130kWは出ませんでした。
理由は全くの謎であり、アリア側の電池温度に問題はなく、さらに電池冷却補助機能はONにしていました。電流値をみる限り310A程度で制限されていた模様。通常の充電セッションと比較しても大きな差はないと言われればその通りなのですが、1000kmチャレンジの最中に行った検証では最大130kW出ていたことから、モヤモヤが残る結果になりました。
しかしながら、SOC10-80%に要した時間は34分と、私が検証した際のベストタイムである32分と比較してもわずかに遅い程度。30分間の充電時間で高速巡航の航続距離268km分を回復可能と考えると、やはり150kW級超急速充電器&日産最高峰EVのスペックの高さを感じます。
ちなみに、今回使用した150kW級はABB製であり、15分間のみ350Aが発揮されるブーストモードであるものの、15分経過後に充電をストップして再度充電をスタートすると、350Aのブーストモードを再度発動させることが可能という裏技を使っています。
② 長野市街→道の駅KOKOくろべ
・走行距離:142.5km
・消費電力量:90%→57%
・平均電費:149Wh/km(6.7km/kWh)
・外気温平均:22℃~21℃
2回目の充電スポットは道の駅KOKOくろべ(富山県黒部市)です。長野市街からは白馬を経由して下道をショートカットするルートを選択しました。ここには2台の急速充電器が設置されており、休憩がてら充電を行おうとあらかじめピックアップしていましたが、2つのサプライズがありました。
まずは、設置されていたのがJFE製の100kW級で、1台の蓄電池式急速充電器で2口のケーブルが使えるタイプであったという点です。この機種の存在は知っていましたが、実際に充電するのは初めてでした。
到着時は1台充電器が使用されており、50kW弱という出力に留まっていたものの、先客が充電を終了すると充電出力が80kW程度にアップ。50kWでは力不足感が否めなかったものの、80kWオーバーであれば最低限のスピードを担保できると感じます。アリアB9についてはSOC80%を超えても70kW以上という充電出力に対応可能なため、道の駅で買い物したり散策している間に効率良く充電できます。
2つ目のサプライズが、充電料金が無料であったという点です。ありがたいですが、公共の超急速充電器を無料とするのは、少々問題があります。実際に未明から早朝にかけて、私を含めて複数のEV、しかも富山ナンバーのEVがひっきりなしに充電しに来ていました。本来、道の駅の急速充電器は経路充電として長距離を走行するEVユーザーが継ぎ足し充電するためのインフラです。おそらくは「電気代を浮かせるため」に地元民が充電スポットを埋めてしまうと、経路充電したいEVユーザーの満足度が大きく低下してしまいます。
特に50kW以上の高出力な充電器については、しっかりと課金するようにしないと、経路充電として使いたいEVユーザーと、そのような旅行者による物品購入などを期待する道の駅の事業者の両方にとってマイナスにつながりかねないでしょう。
③ 道の駅KOKOくろべ→氷見漁港
・走行距離:61.9km
・消費電力量:100%→84%
・平均電費:192Wh/km(5.2km/kWh)
・外気温平均:21℃~21℃
朝一番で氷見漁港に到着。魚市場食堂で漁師汁付きの海鮮丼を食べました。平日早朝にも関わらず、それなりの数の人たちの来店が続きます。氷見市街は能登半島の付け根に位置する場所。ここで夜通しの運転による疲れを癒します。
④ 氷見漁港→輪島市街
・走行距離:128.1km
・消費電力量:83%→58%
・平均電費:154Wh/km(6.5km/kWh)
・外気温平均:22℃~26℃
この写真は、震災発生直後にメディアなどでも大きな話題となったビル倒壊現場の様子です、この場所は倒壊したビルに民家が押しつぶされ住民の方が亡くなってしまい、事故現場保存のために解体工事を中止している現状とのことですが、現地全体を見るにつけ「ほぼ手つかず」といった状況でした。全壊・半壊家屋も至る所に散見され、震災復興が遅れている現実を思い知らされます。
他方で、輪島市街、および能登半島全体のEV充電インフラについては驚くほど充実しています。
復路は奥飛騨越えのルートをチョイス
ここからは復路編。金沢市街から岐阜県の高山市、奥飛騨温泉郷(残念ながら今回はどこもほぼ素通りです)を経由して、安房トンネルを越える国道158号線で松本市街へ。そこから国道254号線経由で三才山峠を突っ切って佐久市街。そこからは上信越自動車道を使用して埼玉方面までひた走るルートです。
⑤ 金沢市街→(高山経由)→松本日産自動車松本店
・走行距離:190.9km
・消費電力量:85%→33%
・平均電費:200Wh/km(5.0km/kWh)
・外気温平均:25℃~15℃(雨)
松本日産自動車松本店に到着です。ここは新電元製の90kW級1本出しと90kW級2本出しがそれぞれ設置されているので、合計3台のEVが同時充電可能です。150kW級と比較すると経路充電としては力不足感を感じますが、やはり3台同時充電が可能なので、充電待ちのリスクを気にする必要がないのはEVの長距離移動においては心強いです。
また、自宅に充電器があれば充電残量ギリギリで埼玉の家に到着すればいいので、ここでの充電は20分で切り上げています。SOC26%(33%→59%)のみを回復することで、経路充電の時間を最短化しています。
⑥ 松本日産自動車松本店→埼玉市街
※途中、横川SAで仮眠1.1時間=2%消費。
・走行距離;210.7km
・消費電力量:59%→0%
・平均電費:208Wh/km(4.8km/kWh)
・外気温平均:15℃~19℃(雨)
関越自動車道横川SAで1時間ほど仮眠して、午前5時過ぎ、埼玉まで戻ってくることができました。充電残量は完全に0%での到着です。アリアに関しては充電残量表示が0%になっても少しバッファーを備えているので、まだわずかに走行することは可能ではあります。
今回の能登遠征における全行程走行距離は1103.1km。平均電費は4.8km/kWhでした。復路は一貫して雨が降っていたこと。外気温が最低12℃まで低下したこと。アップダウンの激しい行程だったこと。そして高速走行中は追い越し車線の流れに乗って走行したことなどを考慮に入れると、まずまずの電費だったのではないかという印象です。
総括としては、公共の急速充電インフラの進化を体感できたというのが第一印象です。結局1100kmの行程で使用した急速充電器はすべて90kW級以上であり、特に長野、金沢、松本市街では90kW級以上の急速充電器が複数設置されていたことで、充電待ちはおろか、アリアB9では力不足感の否めない50kW級を使う必要すらありませんでした。
他方で、普段はマイカーであるテスラモデルYパフォーマンスで長距離遠征を行う立場から見た、公共の急速充電インフラの課題についても見えてきました。
【今回の遠征で改めて感じた公共急速充電インフラの課題】
●高速道路外の主要都市部(今回でいえば長野、金沢、松本)では1ヶ所に1つの急速充電器が配備されているため、実際に充電スポットに行かないと空いているかどうか(故障も含めて)わからない。
まず1つ目に関して、確かに主要都市部には複数の90kW級以上の急速充電器が配備されているものの、問題は1ヶ所に1つの充電器しかないという点です。目当てにして訪れた充電器が先客で埋まっていたら、近隣の別の充電器に迂回する必要が出てくるわけです。この問題を一定程度解決させるためには、車両のナビなどであらゆる充電器の満空情報をリアルタイムでチェックできる仕組みが必要だと思います。
●自動車ディーラーの急速充電器を利用する場合、夜間はアメニティなどを利用することができない。
2つ目に関して、ある程度しょうがない部分もあるでしょうが、やはり自動車ディーラーと(経路充電インフラとしての)急速充電器というのは、本質的には相性が良くないことが見えてくるわけです。
今後eMP、Power Xをはじめとする急速充電サービスプロバイダーたちが道の駅やコンビニなどとパートナーシップを構築しながら、使い勝手のいい充電ネットワークを構築していくことに期待したいです。
●1回30分の充電時間制限があるため、アリアの折角のフラットな充電カーブの恩恵を活かし切ることができない。
3つ目に関して、これが最大の課題です。確かに各充電スポットに1台しか充電器が存在していなければ一定の時間制限を設けざるを得ないのは間違いないでしょう。ところが、高速道路上についてはeMPが4〜8台同時充電可能な充電ステーションを普及させてきています。
やはり日本最大の急速充電サービスプロバイダーのeMPについては、高速道路を中心として、複数EVの同時充電が可能な充電ステーションについては、1回30分の充電時間制限を撤廃するべきと考えます。もちろん時間課金と従量課金の併用課金制度を導入することで、SOC90%以降の充電セッションをユーザーに切り上げさせるシステムも必須です。
いずれにしても、大容量バッテリーを搭載するEVのユーザーとしては、立ち寄った経路充電スポットでたとえば45分間しっかりと充電して、一気に目的地まで走破したいという需要は大きいはず。また、30分という充電時間は、サービスエリアでご飯を食べるには短く、車内で過ごすには長いという、非常に微妙な時間です。EVユーザーの充電体験を向上させるためにも、この1回30分の充電時間制限を撤廃する時がきているのではないかという考えが改めて確固となった遠征でした。
アリアについては、シートベンティレーション付きのナッパレザーシートということもあり、非常に快適に長距離を移動できました。ただし個人的に、サスペンションが柔らかめの設定であるにも関わらず段差の突き上げが想像以上に角が立っており、この点は高速走行中のマイナスポイントと感じました。
また、冬場における急速充電性能が低いと語るオーナーが多く、全く同じ北陸遠征を冬場に行って、どれほど充電性能や電費性能が変化するのかを検証するのも面白いかもしれません。今後も最新のEVを使用して、長距離走行における実用性はさまざまな観点からレポートしていきます。
取材・文/髙橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)